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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
171/233

170 マンセルの母親


 竜の背を登りはじめて三日。

 景色は相変わらずのガレ場、草木1つ見付けられない。

 全くの代わり映え無いもの。

 とても退屈なモノだった。


 しかし、それは上を向いても同じだった。

 相変わらずの曇り空。

 こちらも全くの代わり映えしない見た目。

 だが……退屈にはさせない緊張感を空の重さと同等に押し付けてくる。


 そんな中でも明確に変わったモノも有る。

 空気が薄くなった。

 そして、気温が下がった。

 こちらは退屈な方に寄与していた。

 空気の薄さは、少しの動きで体が怠くなる。

 寒さは暖房の効いた密閉された車両から、人を出さなくなった。

 それは、騒がしく遊んでいる子供達を見れなく成ったとそういう事。

 退屈凌ぎの1つが無くなったのだ。


 もう1つ。

 ここまで来ればエルフ軍も追って来ないってのも有る。

 

 退屈凌ぎの魔物さえ居ない。


 「はあ……暇」

 何度目かの口を吐いたオリジナル・バルタ。

 ルノーftの砲塔の中で小さくうずくまる。


 「なら……運転代わる?」

 オリジナル・ヴィーゼは笑っている。

 

 「ルノーftにも飽きた」

 笑いで返したバルタ。


 「まあ……弱いもんね」

 苦笑いに変わり。

 「bt-7を辛うじて倒したくらいだし」


 「そうね……仕方無いかな。それは」

 強い戦車でない事は初めからわかっていた事。

 「魔物の相手が精々よね」

 そう考えると溜め息が出る。

 

 「6トン、クラスの軽戦車だし」


 「そう考えるとさ……ペトラの大砲は強いよね。M4シャーマン中戦車とかt-34中戦車にも穴を空けてたし」


 「そうだよね……サイズも小さいのにね」


 「あれってさ……ルノーftに積めない?」


 「うーん」

 と、唸ったヴィーゼ。

 「聞いてみる?」

 無線機を取り出して。

 「ローザ……お願い聞いて」


 「なに?」

 ローザはまだヴェスペ自走砲の操縦をしている様だ。

 無線の向こうに戦車の音が聞こえる。


 「ペトラの持っている砲だけど、あれってルノーftには積めない?」


 「ああ……あの小さいヤツね」

 少し考えて。

 「あの大きさなら、積めるんじゃないかな」


 「じゃあさ……積んでよ」


 「プトー砲の方が太くない?」


 「あっちの方が強いもん……なんとか砲」


 「ゲルリッヒ砲ね」

 マリーが無線に割り込んできた。

 「2.8cm.spzb41重対戦車銃ってヤツらしいよ」

 カサカサと紙の音がする。

 ジュリアお婆ちゃんに送って貰った時にでも一緒に着いてきた説明書? かな。

 「威力は有るけど……欠点も多いみたいよ」

 カサカサ。

 「有効射程は1キロまでで、砲身寿命は400発?」


 「距離は……詰められるかな」

 頷いたヴィーゼ。

 「でも……寿命はダメか。砲身の交換にも予備が幾つ有っても足りない感じだね」


 「うーん……一応はゴーレムが造れるなら修繕は出来るみたい。ゴーレムを作り直すみたいに砲もやり直す感じ? そんな魔方陣も描いてあるってさ」


 「そうか……なら、一日の限界が400発って事ね」

 考え始めたヴィーゼ。

 「ルノーftの積載総弾数は普通に積んで500発とチョイだから……400発にしといて、撃ち切って終わりか」


 「バルタが撃つなら……そんなに要らないでしょう」

 ローザが笑う。

 「そんなに沢山の戦車と相手しても勝てないよ」


 「それはそうか……いくら速度が有っても囲まれちゃあ終わりだ」

 ウンと頷いて。

 「じゃあ、積み換えで」


 「あ……でも」

 カサカサと。

 「それの弾……やたらに高いらしいよ。弾真がタングステン?」

 

 「おおお……それは……希少金属だ」

 

 「タングステンなら……劣化魔石紘が変わりに使えるぞ」

 マンセルが話に割り込んできた。

 無線は完全にオープンに成っている。

 普通は誰かと誰かが会話をしていれば、割り込まずにスルーするものだが……砲の強化の話ならマンセルも我慢は出来ない。

 「劣化魔石なら安く手に入る……後は自作には成るが、まあ砲弾だそんなに難しくは無いだろう?」


 「そうだね……モデルが有るならコピーするだけだし」


 「砲弾ってそんなに簡単に造れるの?」


 「ドワーフだよ」

 笑うローザ。


 「普通の弾なら……買った方が安いけどな。材料費の方が高く付く」

 マンセルはその答えに注釈を着けた。


 「今の高速鉄甲弾は?」

 ヴィーゼはもう一度聞いた。

 

 「うむ……微妙な所だ。材料費よりも手間を考えれば買った方が良いか?」

 マンセルが唸りだした。

 「劣化魔石弾なら買った方が良いな……面倒くさ過ぎる」


 「高いっちゃ高いけど……買えない高さでもないしね」

 頷いている風のローザ。


 「でも、特殊なタングステン弾なら……造っちまった方が良いんじゃないか?」

 

 「ゲルリッヒ砲用の劣化魔石弾か」

 考え始めたローザ。

 「うーん……面倒臭いな」


 「だったらドワーフの里の誰かに外注に出せ」

 笑ったマンセル。

 「タングステン弾よりかは安く付くだろう」


 「それって……纏まったお金が必要だよね」

 唸るローザ。


 「そりゃあなあ、相手も商売だし……発注にも数は必要に成るだろうな」


 「そんなお金無いよ」


 「稼げば良いだろう? ダンジョンで車でも拾え」


 「パトと会えたから、それも出来るだろうけどさ」

 ウンウンと唸る。


 「聞いた話じゃあ、ペトラも同じ事が出来るらしいぞ。魔方陣で解放しなきゃダメだが」


 「そうなの?」

 驚いた声。

 「だったら……取り敢えずやって見ようかな? 厳しい様なら戻せば良いだけだし」

 支払いが幾らになるかのお金の話だ。


 「でだ……そのゲルリッヒ砲ってのは、もう1つ無いか?」

 マンセルが、少し躊躇いながらに聞いた。

 本題はそっちらしい。


 「ジュリアに聞いてみるけど?」

 マリーはわかったと答える。


 「そのジュリアってのは?」

 マンセルが恐る恐ると聞く。


 「なに呆けてんのよ、あんたの母親でしょう? ローザのヒイお婆ちゃんなんだから」

 

 「やっぱりか……生きていたのか」

 唸るマンセル。

 「葬式までして……墓まで立てたのに」


 「今はゾンビだからね……一応のケジメだったんでしょう?」


 「ゾンビなのか!」


 「イチイチ声が大きい……怒鳴らなくても聞こえてるわよ」


 「なあ……頼みが有るんだが」


 「何よ……母親にでも会いたく成った?」

 マリーの声は少し笑っている。


 「ああ……会いたい」

 だが、マンセルの声は真剣に聞こえた。

 

 「じゃあ、今度ローザにでも連れって貰えば?」


 「ローザ……頼む」


 「わかった、今度みんなで行こう」

 ローザも頷いた。


 「と、返事が来たわよ」

 マリーが話を変えた。

 「ゲルリッヒ砲の4.2cm.lepak41対戦車砲なら有るって」


 「それは……どうなんだ? 大きいそうだが」


 「一応は38t軽戦車にっては書いたから、載っかるんじゃ無いの?」


 「そうなのか? 一度モノがみたいが……どうだろうか?」


 「送ってくれるって」

 マリーがゴソゴソとし始めた。

 「ダメだったら送り返せばいいんじゃないの?」

 ゴンガンと金属音。

 「そこら辺に転がしといて」

 そのマリーの声は少し遠い。

 ゴーレムにでも指示を出して居るのだろう。

 「弾も400発有るって」


 「そんなにか……」

 少し声のトーンが下がるマンセル。

 「で……請求は?」


 「現物でも良いって書いてあるね……後払い?」

 

 「そうなのか?」

 驚いた声のマンセル。

 「母さんが……後払いもオーケーとは。まるで人が変わった様だ」


 「変わったんじゃない? ゾンビだし」


 「人は死ぬ気に成れば性格も変わるって言うし……それか」

 

 「死ぬ気って……もう一度は死んでるから」

 

 「同じゾンビのマリーがそれを言うんだ」

 笑うヴィーゼ。

 「じゃあさ、マリーも性格は変わったの?」


 「さあ?」

 肩を竦めているのが目に浮かぶ様だ。

 「どうかしら」


 「変わったとしたら、前の性格は……よっぽど良い人だったんだろうね」

 ポツリとバルタ。


 「どういう事よ!」

 語気を強めて怒鳴ったマリー。


 「無線だから怒鳴らなくても聞こえてるよ」

 ローザも笑った。

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