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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
17/233

016 寄り道の為の有益な情報

おおお!

やっとポイントが付いた。


嬉しい

もっと頑張ろう


 次の日は、少しだけ遅い出発に成った。

 朝御飯がちゃんと調理されたらからだ。

 子供達だけの時は昨晩の残り物の冷めた肉を噛るくらいだったのが、今朝はその残り物がスープに変わった。

 温かい。


 今の気温は……まだ夏本番には少しある感じで、朝晩はそんなに暑くは成らない。

 それでも冷え込んで寒いという時期はとっくに過ぎ去ってはいるのだから……つまりは快適。

 ただし……湿度しだいではある。

 朝日が昇れば戦車は結露でびしょ濡れに成る程。

 ハッチで閉じられるルノーはまだ良い、中まで結露は起こらない……てか、起こさない様に魔石の暖房を砲塔内の天井から吊るしている。

 問題はヴェスペの方だ。

 一応は天幕を掛けて、同じ様に魔石は吊るすのだが……いかんせん隙間が多い。

 どこからか湿気た空気が入り込み、そして冷えた鉄が結露を造る……それも内側に。

 なのでエル達ヴェスペ組の朝一番の仕事はその水を拭き取る事だった。

 運転席の座る場所や操作や砲に支障の無い感じに。

 

 「これ……面倒臭いよね」

 エルは雑巾を絞り、やはり運転席を拭いていたローザに愚痴る。

 「どうにか方法は無いの?」


 「オープントップだしね」

 肩を少しすくませる。

 「まさか砲弾の火薬がある中で火を焚く訳にはいかないでしょ? 別段、濡れて困るのはその火薬くらいだけど……それも対処は出来ているし」

 

 チラリと発射薬の火薬の缶詰を見るエル。

 金属筒に上蓋は分厚目の油紙が張り付けられていて密閉はされている。

 砲弾の方は完全に鉄の塊……火薬はその中の湿気る事はない。

 後……湿気て困るのは距離観測用のレンズくらいだが……エルはそれには頼る必要も無いので、どうでも良い。

 わかってはいるのだが……しかしブー垂れるエル。

 下唇を突き出して。

 「それでもやっぱり面倒臭い!」

 

 「ははは……今度、何か良い方法を探しておくよ」

 適当に返したローザ。

 そんな方法は無いとでも言いたげだ。


 ローザは話をそこで終わらせたがった様だが……エルは尚も続ける。

 「だいたいが昼間は暑いのよクーラーの魔石も効かないし、せっかく快適な温度の朝晩もコレなら……常にダメ駄目じゃないのよ」


 「だから……それはオープントップなら仕方無い事よ」

 少しだけウンザリし始めたローザ。

 「なら……天井でも造る?」


 「そんな事をしたら上に向かって撃てないじゃない」

 何を馬鹿な事をと口を尖らせる。

 「距離を稼げない榴弾砲なんて何の意味が有るのよ……存在意義よ」


 「そうだね……無意味だね」

 ローザはエルの相手の方が面倒臭いと思うのだった。


 と、そこに顔を出したペトラ。

 「ねえ、今聞いたんだけど……」

 話し掛けている相手は、エル達と同じにヴェスペで雑巾掛けをしていたイナとエノ。

 「この先にダンジョンが在るらしいよ」


 「ホント?」

 食い付いたのはローザとエル。

 二人しての愚痴り合いは……単に暇だったからのようだ。

 手を動かす時は口も動かしたい……ただそれだけの事。

 しかしダンジョンとなれば話は別だ。

 ローザにすればソコは宝の山。

 もしかすればの元国王のスキル……物の時間凍結の解除、ただしゴーレム化も漏れ無く着いてくるソレ。

 ソレがどの様に結果をもたらすのかも興味が有る……もちろんあわよくばの思惑もだ。

 エルはといえば、今の状態には少しだけ不満が有った。

 何事も無い平和な移動だけだと……エルのヴェスペはただ後ろを着いて行くだけだ。

 もっと派手に撃ちたい。

 10.5cm榴弾をドッカンドッカンと遣りたい。

 自身とヴェスペの存在意義を示せる場はダンジョンだとそう決め込んだのだ。

 実際の所のヴェスペの本領は戦場でしか活かせないのだが……その戦場は無い。

 有っても他人の戦場に割り込むわけにはいかないのだから、選択肢はヤッパリそれしかないのだ。

 「何処よ!」

 「どんな魔物が居るの?」

 二人しての合唱。


 そんな二人の圧に少しだけ引き気味に成るペトラ。

 「この先の街道を少しだけそれた所らしいよ……で、魔物は可愛らしい感じの奴だって」


 「可愛くても良いわ! ダンジョン産の魔物だもの其なりの歯応えは有る筈」

 エルは胸元で搾りきれていない雑巾を握り締めた。

 水がボタボタと床に落ちても気にもしない。

 それに歯応えは無いと困る……どんなに楽しいアトラクションでも多少のドキドキは無いと物足りないじゃない。

 ダンジョンなのだからハラハラドキドキのスリルは必須よ。

  

 「わかったから」

 両手でエルを宥めるような仕草でペトラ。

 「行くって皆に話してくるわ」




 ダンジョンへの寄り道が決まった子供達は張り切っていた。

 テントの片付けや出発の準備は速攻で終えて動き出す。


 サラちゃん達家族は、その道中は同行するようだ。

 ダンジョンには入らないが外では待って居てくれるらしい。

 別段に急ぐわけでもないし、何かのお見上げを少しばかり期待しておくよ、との事だった。

 子供や妊婦を抱えて居てはそれがベストな選択だとも思える。

 子供達一行にもそれはとても都合が良かった。

 不必要な荷物を持ってダンジョンに入らなくても良くなる。

 戦闘に関係の無い物、要らない物は幌車に適当に積めて有るので、それを外に置いておいての荷物番を御願い出来るからだ。




 程無くにダンジョンが見えてきた。

 太陽は真上……もちろん薄曇り。

 雨さえ降らなければそれは問題ない。

 いや……ザアザア降りでもカッパを着込んで突撃だ。

 子供用のポンチョは既に用意している。

 三姉妹は背中のランドセルの中。

 戦車組はバックに積めて其処らに転がしてある。

 幌車組は……適当。

 戦う積もりの無い者も居たからだ。

 元国王は傘で誤魔化すらしい、少し大きめの黒いコウモリを側に転がしていた。

 降らなければ杖代わりか?


 「先に見てくる」

 叫んで飛び出したのは何時ものバイク組。

 もう距離も直ぐソコなのだけど、我慢が切れたらしい。

 それとも何時もの自分達の仕事を思い出したのか?

 偵察と斥候。

 敵が居なければただの偵察だけだが……魔物も敵だ。

 なら見掛ければそれは斥候に為る。

 

 そして程無くに全員が到着。

 車両から幌車から降りて……縁に立って見下ろす子供達。

 丸く削られた地面から、ビルや建物の頭が覗いていた。

 サイズも丁度良い……現代の少しばかり小さめな町が一つというところか。

 深さはそれなりに有る。

 建物をメジャー代わりに使って……2階建ての屋根を少し越したくらい。

 飛び降りるには無理がある? そんな高さ。

 獣人の子供達なら多分大丈夫だ。

 マリーはゾンビだから、ヤッパリ大丈夫か?

 元国王とムーズは人間で年寄に御嬢様……この二人は無理。

 エルフのクリスティナにドワーフのローザはわからない。

 クリスティナは小さく軽そうだけど……どうだろう?

 ローザはガッチリと頑丈そうに見えるけど……どうだろう?

 そんな事を考えながらに下りられる所をキョロキョロと探す子供達だった。


 「あれかの?」

 最初に見付けたのは元国王。

 切られた壁に大きめな建物が張り付いている。

 

 「ホームセンターか何か?」

 マリーも頷いていた。


 「屋上がガレージの様じゃからスロープがあるじゃろう……ダンジョンの外で切られてはいなければじゃが」

 

 「大丈夫じゃない? 見た感じ大きく残っているから」

 マリーも目を凝らす。

 「ただ……段差ね……床面がピッタリなんて偶然は中々無いだろうし、戦車が入れるかどうか」


 「えええ駄目だよ」

 ヴィーゼが抗議。

 「戦車は絶対に必要だよ」

 エルも頷いている。

 ここからでもドッカンドッカンは出来るけど……その場に居ないと臨場感が得られない。

 それは譲れないところだ。


 「まあ……行って確認してみましょう?」

 イナが肩を竦めて。

 「駄目だったら他の方法を探せば良いだけじゃない?」

 エノも同じ様に肩を竦めてだった。

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