167 逃走経路
「現状……どうだ?」
パトがクリスティナに聞いた。
今、パト達の乗るシュビムワーゲンは竜の背の麓の斜面に居た。
アルロン大佐がタイガー1戦車とゴーレム達を使って作った道だ。
タイガー1戦車が通れるという事は、大型の車両が通れるだけの道幅も有るとそういう事だ。
とはいえ、完全な道路工事でも無い。
ガレ場のデコボコを上から転がってきた落石や地面から飛び出した岩等をゴーレムに潰させたり、斜面の下に落としたりでどうにか平らにした感じ。
これは、相当前からやっていた作業の様だった。
なるほど道理で、普通のゴーレムを見掛けなかったわけだと納得のクリスティナ。
ウインチやジャッキ代わりのゴーレムは少なくても3両か5両に1体は欲しい筈。
ルノーftやヴェスペには各々1両毎に1体は配置しているのは、贅沢なのかも知れないけど……でも、戦車は立ち往生するのがデフォなので、全く居ないのもどうかと思うけどな。
等と考えていたクリスティナ。
パトにポンと肩を叩かれハッとする。
慌てて鳥達に聞いた。
「コノハちゃんの所は……もうダンジョンに入って警戒しながら障害物を排除して、ユックリと進んでるって」
前方のダンジョンはもう殆ど誰も残って居ない……居ても西側に少しだけだ。
だけど、ブービートラップや駐車車両の障害物は目一杯に仕掛けて有る……現に今も何処かで爆発や銃撃の音がしていた。
「そのままこちらに気付かずにダンジョンを占拠して、後ろの無人に成ったダンジョンを睨んでくれて居れば有り難いな」
「そこまでバカなのかな?」
「作戦の立案はズッと後方だから、立場の上の殆どの司令官は現状は見れない。だから上がってくる状況報告とそれ以前の報告を照らし合わせてしか考えられない。昨日迄の俺達は出てくるなら反撃……来ないなら沈黙で通してきた。まあ弾薬の都合でそれしか出来なかったのだからだが」
少し笑い、小さく肩を竦めて。
「なので、今回の飛び出しは……奴等も驚いた筈だ。最後の足掻きか? それに近い作戦かと悩んでいるのも有るだろう。奴等も此方が弾薬の補給は出来ないとは知っているからな。補給路も退路も完全に抑えている積もりの様だし」
「だから……今回も包囲網を縮めるだけに成るって事?」
「一応はエルフにも相当な打撃は与えたからな……それに、奴等はトンネルを掘っていた。たぶんこれからの作戦もトンネルを掘るだろう。新しく占拠したダンジョンから攻撃目標のダンジョンまでだ。それは準備にも時間が掛かるし何より休息も必要だろうから、まずは安全策をとる筈だ」
「その間に逃げ切るって事か」
フムと頷いた。
「ああ、今のこの地点はダンジョンや平原から5キロも無い場所だ。15キロ……出来れば20キロまで距離を離せられれば、逃げ切れる。そこまで行けば完全に敵も俺達を見失い筈だ」
「ふーん」
まだ今は安全ってわけでは無いのか。
「草原の方はどうだ?」
「んんんー……あ! 野砲が出てきた」
今は、マガモ兄弟の兄が担当している場所だ。
「撃つ積りは無いのかな? 砲が後ろを向いてる」
「最前線がダンジョンの中に移ったと考えて、後方部隊も前に押し出したんだろう。悪くてもダンジョンの北側には陣地を構える積もりだろうな」
「ダンジョンの中から撃つの? 建物が邪魔に成らない?」
「成るな……だから出来るならダンジョンの完全掌握を試みるだろう。つまりはヤッパリ時間がかかるって事さ」
「そこから、野砲でドッカンドッカンなのね」
「エルフの得意技だ……奴等に言わせると野砲は戦場の花らしい。一番にデカイ大砲は女神にも成ってる」
「大砲が女神なの?」
「らしいぞ……女神の怒れるイカズチ、らしい」
パトの顔から少しだけ緊張が抜けた気がする。
こちらの作戦も順調なのだろう。
「そう言えばタイガー戦車だけど……一応は目的の場所? 干上がった川底みたいな場所まで到達したみたい……今さっきの事だけど」
マガモ兄弟の弟の方の連絡で知っていた。
「でも……大佐は頭を抱えているっぽいよ」
「渓流の川底だからな……岩や石でガタガタなのだろう」
パトの顔に険しさが戻った。
「予想の範囲だが……そこしか道はない。あとは斜面が急すぎて人の足でも無理だ」
「じゃあ……また道路工事?」
「そうだ、今度は川底を浚いながら進む事になる」
「そうか、水が見えないのがまだましね」
「それも長くは続かないけどな……今の時期は山脈の向こう側で大雨が降る代わりにこちらに雨は全く降らない、だから川も干上がったのだがそれは季節性なものだ。時期が来ればこちらの山肌にも大雨を降らす、そう成る前に頂点を越えなければ行けない」
「それって……結構ギリギリ?」
「焦らず確実に……でも急がないといけないのも事実だ」
「でも、そんな事……パトは良く知ってたね。竜の背は絶対に越えられないって聞いてたけど、出来るんだね」
「獣人だけが知っている事実の様だ……彼等は年に一度のそタイミングで山を越える事が有る様だ、なにか成人の儀式とからしいが。まあ、そんな感じなので例え獣人でも徒歩の山越えは命がけらしい」
「それを……普通の車両で越えるのね」
なんだか相当に無茶に聞こえる。
でも、無茶だからエルフも此方には気を回す事がないのだろうな、とも思った。
「あれ? 川底って岩とかだよね」
マガモ弟の見ている景色を見せて貰ったクリスティナ。
「地面を均すのと、トンネルを掘るのとドッチがシンドイのかな?」
「ん? そりゃ……トンネルよりかは遥かに楽だとは思うが?」
話が変わって面食らう。
「だったら……ペトラがモグラのゴーレムを作ったよ。口から光線も出せるから普通のモグラの魔物と同じ様にトンネルも掘れるって言ってなかったかな? 作るとは言っていたけど、作ったのかな?」
フムフム……フム? と、首を傾げたクリスティナ。
「言っていたな……」
パトも思い出した様だ。
「モグラゴーレムに川底を浚って貰うか? 他のゴーレム達と連携すれば早いかも知れない」
大きく頷いたパト。
「ローラ! ペトラを呼び出してくれ」
ペトラはモグラゴーレムを見ていた。
急造で作られた道から逸れた斜面の下でもがいている。
竜の背の斜面が急過ぎて登れないのだ。
「道に戻るには……大回りよね」
後ろを見たペトラ。
車両が続く道は後方のダンジョンに続いている。
「引っ張り上げるのは良いけど……その後どうする?」
クモゴーレムのヴィーゼが考え中。
「連なった車両を横に退けるとかしないと、先頭には出られないよ?」
「確かに大きさが問題ね」
ゴーレム・エルも唸る。
「いっそ……斜面を引き摺って行く?」
ヴィーゼは右手を縦にして、横にズラす仕草。
左手は道の先を指している。
「私達三人で支えて行けば……行けなくも無いか」
ゴーレム・バルタは斜め上を見ながら、どうかな? と、答える。
「やってみるしか無いんじゃ無いの? ダメならその時にまた考えるって事で……パトはモグラゴーレムが必要だって言ってるし」
ペトラは結論を出す。
最悪は、モグラゴーレムを小さく作り直して先頭に運んで……そこで元の大きさに戻すって感じも考えたのだ。
ただ、出来るならそれはやりたくない。
モグラゴーレムにも意思が感じられるから……その方法で作り直した時、はたして元のモグラゴーレムと同じかと聞かれると自信が無いからだ。
「一応は最後の策は有るから」
それも伝えたペトラ。
「あんまり遣りたくない方法ってわけね」
ゴーレム・バルタはナントナク察した。
ゴーレムだからわかる事でも有る。
自分達が本当は何者か? の、疑問の答えの先に有るものだ。
いや、私を含めた三人は複製だから……有る意味転生者と同じだけど。
ペトラの作る意識の有るゴーレム達はどうなのだろうか? と、そんな話だ。
元は何もない所からウマれている。
人の赤ん坊もそうかも知れないが……はたして同じか? と、聞かれても答えられない。
でも……意識が有るのならば……ゴーレムも人として分類しても良いのかも知れない。
とも思う。
どっちが正解?
どうにもわからない……ゴーレム・バルタだった。




