166 マーダー2と獣人
うお! 寝こけてしまった。
急いで落とす。
ごめん。
「こちらファウストだ、全軍に告げる」
無線からパトの声が響いた。
「パト?」
動き出したルノーft軽戦車の中のオリジナル・ヴィーゼ。
「全軍って……私達もかな?」
「アルロン大佐が道を見付けた! 西の竜の背を目指せ」
パトの通信はそれだけだったが、それは私達も含まれるって事ね。
最初に聞いていたのも、竜の背を越えて逃げるって事だったし。
「ヴィーゼ……行くわよ」
「了解」
ルノーftは進路を変えた。
少し離れたのか、エルフのシャーマンはあれ一両きりだった。
それでも北の方では撃ち合いの砲撃音は聞こえてくる。
味方が出すのはマーダー2とファウスト・パトローネの音だ。
3号と4号と3突はダンジョンに引き込む為の陽動だったのか……にしても最初の接敵は厳しすぎると思うけど。
今はダンジョンの中で獣人の方が厳しい状況だ。
一応はエルフの奴隷兵士も、単なる捨てゴマでは無いのかな。
そんな事を考えていると……ルノーft軽戦車を掠める様に砲弾が飛んできた。
そこは交差点の中。
撃たれた方を見ればt-34中戦車……エルフの戦車だ。
「ヴィーゼ! 不用意に交差点に入るな」
思わず怒鳴ってしまった。
私達は西へ横に流れている。
敵は南に真っ直ぐだ。
移動の仕方を考えれば、決して離れて行っているわけではない。
場所に依っては近付いて居る事もあり得る。
「ごめーん」
素早く加速させて交差点の西の通りに隠れる。
「見付かったから、返り討ちにしないと……放っておくと挟まれる危険が出てくる」
「って事は……私達の出番?」
ペトラがゲルリッヒ砲を指差した。
「まあ……そうかな」
それは認めるしかない。
ルノーft軽戦車のプトー砲では、無力過ぎる。
「って事は……止まった方が良いって事ね」
オリジナル・ヴィーゼがペトラの声真似で返事。
ルノーft軽戦車が停止すれば、ペトラとコンクリート・ゴーレム兵が飛び降りて、交差点の角に走る。
角の壁に張り付いて……ソッと覗いた。
「駐車車両が邪魔で……狙えない感じだね」
「もう少し前に出ますか?」
砲を抱えたゴーレムがペトラの下に顔を出す。
「いえ、どうせこっちに来てくれるんだし……狙える隙間を通るまで待とうよ」
「了解です」
そのまま片足と半身を出して、砲を構えた。
「今度は先に砲塔を潰してよ」
ペトラの注文。
「そうですね……ダンジョンの乗用車よりも背が高いから、その方が狙いやすいですね」
「いや……そういう積もりで言ったんじゃ無いのだけど」
ルノーft軽戦車の砲塔の後ろから顔を出して居るバルタには、そんなやり取りが丸聞こえだった。
ペトラは砲を残すと撃たれるからだと、言いたいようだ。
ゴーレムとの話が食い違うのは、撃たれる恐怖の度合いが違うのだろう。
ドンと砲撃音。
交差点にヘチャゲた車が飛ばされて来た。
方向から考えて今のはt-34が撃ったのだろう。
進路を邪魔している車をどける為か?
「今のうちに撃って」
ペトラが騒いでいる。
「たしかt-34は5秒に一発よ」
「いや……白煙で狙いが」
モタモタとしていたコンクリート・ゴーレム兵を押し出すペトラ。
「だったら、真ん中に行って撃てば良いじゃない」
さっきと言っている事が違う。
それでもコンクリート・ゴーレム兵は文句も言わずに、交差点の真ん中に転がる様に走り込んで。
片ヒザを付けて砲を構え……撃った。
ガインと音が響く。
「弾いた?」
「当たったでしょう?」
補助のコンクリート・ゴーレム兵は慌てている。
ドン!
今度はゴーレム兵が狙われた様だ。
頭を低く下げて避けている風。
後方の弾けるアスファルトを見ると、t-34とは相当に近付いている様だ。
あの戦車はデカイ砲を積んだ弊害で、砲が下を向かないのだ。
だから、しゃがんだゴーレム兵の頭の上を掠めた?
そのコンクリート・ゴーレム兵が、撃った。
2撃目。
ほぼ同時の時間差で別の砲撃音が重なる。
こっちはマーダー2の様だ、後ろから撃った?
「よし! 撤収」
ペトラが叫んで手招きをしていた。
どちらが仕止めたかは知らないけれど、t-34は無事に無力か出来たようだった。
しかし……あの砲は羨ましい。
ゲルリッヒ砲? だっけ?
あの火力がルノーft軽戦車にも有れば、そう考えてしまうバルタ。
サイズも小さいから……プトー砲と交換できないモノかな。
t-34にもシャーマンにも対抗出来る貫通力なら、大体の戦車は殺れるのに。
チラチラと交差点に居るペトラ達を見ていると、その交差点からマーダー2が現れた。
それには別段、驚きはしない。
居るのはわかっていたし。
乗っているのが獣人だともわかっていた。
「おい! 早く移動しろ」
マーダー2の装填手だろうか? 砲弾を抱えたカピパラのオッサンだ。
背は小さく小太りだった。
「ああ……ペトラ早く戻れ」
バルタが手を貸そうと差し伸べて居ると。
その横をマーダー2が追い越して行く。
「着いて来い……こっちだ」
カピパラのオッサンの向こうには、砲にしがみついているレッサーパンダのオバサン。
こっちは砲手か。
「仲間を助けてくれてありがとう」
すれ違い様にお礼の一言を投げる。
「ああ……問題ない」
頷いたカピパラ。
「お前達も私達の仲間だ」
レッサーパンダも声は小さいが答えてくれた。
二人とも私達と同じで、ほとんど人間の姿だが……耳と尻尾と、あとカピパラは口元とレッサーパンダは目元が特徴的だ。
もう二人ほど気配を感じるのだが、操縦手と通信士……獣人とエルフの奴隷だと思われる。
そして、その後ろを着いていった。
ダンジョンの西側の端に到達する頃には戦車隊も獣人の歩兵部隊も集団に成っていた。
散発的におこる戦闘も、撃ち漏らしか溢れて押し出された奴等だ……数の優位でも問題無く対処は出来た。
エルフを完全に殲滅しないのは、放棄するダンジョンに誘い込んで時間を潰させる為でも有るのだろう。
まあ、向こうがここの占領か獣人の殲滅なら……存分にダンジョンを探索してもらえば良いのだ。
価値と目的にズレが有るなら利用しない手は無い。
ダンジョンを出て山脈の斜面を登り始めると……もう1つのダンジョンに居た後方部隊と合流した。
乗り物はトラックとバスとその他の非戦闘車両。
道では無いガレ場の斜面を斜めに成って進んでいる。
こちらにもゴーレムが雑用として配置されて居たので、補助として車両を支えていたりした。
このゴーレム達はコンクリート・ゴーレムでは無いようだが、そのデザイン的にペトラが作ったモノの様だ。
いったい……幾つ作ったのだろうか?
至る所に大量に居る。
そして……続々と集まってくる獣人も大量だ。
途中で合流したのだろう3号や4号や3突の上に無理矢理によじ登ってしがみ着いて居る者やアマルティアのロバ車にも、明らかに定員オーバーな状態で乗り込んでいた。
そのロバ車もまた大量だ。
作戦前の一晩掛けた準備の大半はこのゴーレムとロバ車を作る為だったのだろうと思われるほどだった。
実際にそうなのだろう。
これだけの獣人を移動となれば、やはり運ぶ手段も必然と多くなる。
ちなみにロバ車が引っ張っているのは、ダンジョン産のアルミ製のリヤカー……つまりはミスリルだ。
なんだかとても贅沢に見える。
ラクダの様なロバなのに。
もちろん、ダンジョン産だけでは数が間に合わないので、木製や金属の物も有る。
こちらも大量で……たぶんマンセルやローザが作らされたと思われた。
そんなロバ車が増えた理由は……今回のダンジョンにはトラックが少なかったからだ。
何時もなら軽トラが結構有るのに、ここではあまり見掛けない感じだ。
ダンジョンの時代ってのが関係しているのだろう。
どの車も大小はるけど、みんな屋根が着いていて快適そうな感じだが……それは大量に人が運べないから、あまり役には立たない。
そう言えば……バイクも少ない気がする。
建物や景色はそんなに変わらないと思うけど……やはり物は微妙に変わるのだと思うとダンジョンも面白いと思ってしまった。
まあ私的にはチョッと古いとか言われるダンジョン?
1990年代とかとパトや元国王が言うヤツの方が、面白い物が沢山有って良いとは思うけど。
ヴィーゼあたりは新しいダンジョンの方が食べ物が美味しいとか言っていた……冷凍食品? とかレトルトとかだけど。
あと服も微妙に違ったけど……私達は制服のように何時も同じ感じのヤツを探すから……これは何処も一緒か?
ランドセルは何処にでも有るからね。




