165 エルフの奴隷兵士
「流石の私のゴーレムね」
ペトラは完全に停止したM4シャーマン中戦車を指差して、ゲルリッヒ砲を抱えたコンクリート・ゴーレム兵の頭をパシパシと叩いた。
「あの……まだ撃ってませんけど」
頭を叩かれて居たゴーレムがポツリ。
補助をしていたコンクリート・ゴーレム兵も頷いている。
「4号よ」
ルノーftの砲塔から出てきたオリジナル・バルタが指差していた。
見れば片側の履帯が無い4号中戦車の7.5m砲の先から白い煙の筋が登っていた。
そして、その4号の砲塔から兵士が降りてくる。
見た目、人族で軍服にキッチリとヘルメットまで被っていた、ひょろっとした痩せ型の大人の男。
戦車から降りて、切れた方の履帯を覗いていた。
「ダメそうね」
その男の側に依ってオリジナル・バルタも覗いている。
「駆動転輪の軸が曲がってる……ローザかマンセルでないと直せそう無いね」
戦車兵の男も頷いた。
「こんな所でノンビリもしていられないしな」
男はそこらに転がって居た手頃な瓦礫を拾い上げて、戦車を叩く。
それを合図にゾロゾロと兵士達が戦車から出てきた。
小太りな男。
少し筋肉質な男。
青白く病的にも見える男。
そして、最後には足を引き摺った……見た目がエルフ。
ドキリとした子供達は銃を構えた。
「大丈夫なのよね?」
代表してオリジナル・バルタが聞いた。
「ああ……俺達はエルフだが、アルロン大佐に使役している」
最初の男が自分の胸をはだけさせて、そこに有る奴隷紋を見せた。
「全員がエルフなの?」
もう一度、聞いたオリジナル・バルタ。
男達の全員が頷いた。
「ねえ……アルロン大佐って?」
後ろで小声でペトラがゴーレム・バルタに聞いていた。
「タイガー1重戦車の……ほら、パトが最初に呼ばれた原因の人よ」
ゴーレム・バルタも小声で答えている。
「まあ……いいわ」
男達に頷いて見せたオリジナル・バルタ。
「私達の仲間にもエルフは居るし……でも、大丈夫なの? 同族殺しよ」
「俺達は以前の戦争中にアルロン大佐に奴隷にされた……だから命令されれば逆らえない」
胸をはだけさせて居る男。
「どうせ捕虜だったんだ……その時に殺され無かっただけましだ」
少し眉を寄せたオリジナル・バルタ。
「もう1つ聞いてい?」
「なんだ?」
「大佐の奴隷にエルフは多いの?」
「殆どがそうだ……今、戦車に乗っているのは全部がそうだしな」
「一応は人族も居るのね」
「以前は沢山居たが……戦争が終わってそれでも戦いを辞めなかった大佐に着いていけないと離反した者も多い」
「成る程……大体わかったわ」
「制限は受けては居るが、俺達エルフはまだ繋がれる力は有るからな……戦車兵にはピッタリなのさ」
怪我をしたエルフのナリをした男に手を貸していた別の筋肉質の男は自分のヘルメットをつつく素振りも見せる。
「そうか……だから無線が偏って居たんだ」
フムフムとオリジナル・ヴィーゼ。
「マンセルに言われるまで、無線の周波数がわかんなかったし」
「もしかして、その時にマンセルが私達の為に合わせたのかもね」
オリジナル・バルタも成る程とそんな顔。
無線機代わりにエルフを使っていれば、私達の無線機とは互換性が全く無いからだ。
「でも、パトの側にはエルフは居なかったよ」
ペトラはまだ考えていた。
「それは、制限を受けていてもエルフの通信能力はには指定先が無いからだ」
足を引き摺って居た男。
「全てをオープンにするより、其々の部隊長役に無線で連絡して部隊毎に指示を出したいからね」
オリジナル・バルタが補足してくれた。
「そういう事だ」
足を引き摺って居た男が、もう一度ヘルメットを指して。
「今のこれの制限は戦車部隊の通信担当の兵士のみに繋がる」
そして、左手を出して見せた。
その甲には魔方陣。
「同じ戦車内では触れて通信さ」
「なるほど……それは私達も以前にやってたね」
オリジナル・ヴィーゼが頷いた。
「私達の場合は、奴隷紋が無くなってからそれも難しく成ったから辞めたけど」
「ああ……この方法は奴隷紋は必須だからな」
胸をはだけさせた男はバルタに向き直り。
「俺達は歩くが……その男は乗せてやってくれないか?」
足を怪我した男を指差した。
「わかった」
頷いたオリジナル・バルタはペトラに向かって。
「登るのを手伝ってあげて」
「いいよ」
軽く返事を返したペトラはルノーft軽戦車の背中から手を差し出す。
「助かるよ」
怪我をしたエルフもその手を差し出した。
お互いの手が触れる、その瞬間にバチリと光の火花が飛んだ。
唸り蹲るエルフの奴隷。
「どうした?」
男達が駆け寄ってエルフの奴隷の体を支えてた。
それを振り切ったエルフの奴隷。
目に鋭さが宿り、頭のヘルメットをむしり取って……背中に挿していたルガーp08拳銃を引き抜きペトラに向けた。
「殺してやる!」
驚いた男達は、暴れるエルフのナリをした男を押さえ付けた。
「何をしている」
「邪魔するな! こいつらはエルフの敵だ!」
慌てたペトラは頭を抱えてヘタリ込み。
横に居たコンクリート・ゴーレム兵の2体がその暴れているエルフに飛び付いた。
「どうしたんだ?」
男の内の一人だ。
抑え込み揉み合ううちに……エルフの軍服の胸の部分がはだけた。
そこに有る奴隷紋の一部が焦げた様に潰れて消えていた。
「奴隷紋が壊れたのね」
オリジナル・バルタも飛び付いて、エルフの胸を確認。
同時に銃声が響いた。
奴隷紋が壊れたエルフの男の頭に穴が空いた。
撃ったのは最初に降りてきた男。
手にはルガーp08。
その他の男も手にもルガーp08が握られていた。
「殺しちゃったの?」
ペトラがソッと戦車の上から下を覗き込む。
「エルフは敵だからな」
撃った男は拳銃をしまった。
「でも、味方だったんでしょう?」
「奴隷紋が無くなれば……こいつはただのエルフだ」
別の男も銃をしまい。
「エルフは敵だ……そう命令されている」
また別の男。
「さあ……大佐の所に戻ろう」
今、死んだエルフには興味を示さずに歩き始めた男達。
「死体はこのままでも良いの?」
思わず聞いたオリジナル・ヴィーゼ。
「一緒に戦った仲間でしょう?」
それには鼻を鳴らす男達。
「裏切り者に掛ける情けは無い……もう、それは戦場の石コロと同じだ」
そのまま小走りにかけて行く。
「随分とキツい奴隷紋のようね」
ボソリとオリジナル・バルタ。
「完全に縛られているって事?」
オリジナル・ヴィーゼが聞いた。
「意思が有るようで……自由は無いのでしょうね」
頷いたオリジナル・バルタ。
「しかも……使い捨てにしてる」
ルノーftに戻ってきて、戦車に乗り込みしなに吐き捨てた。
「もしかして……私のせいかな?」
ペトラは尚も下を覗いていた。
「奴隷紋を消しちゃった?」
「たぶんね」
オリジナル・バルタは素っ気なく答える。
「以前にエルフの能力を壊した事が有ったでしょう? あれが作用したんじゃないの?」
「あれって、無理矢理ペトラに繋がろうとしたからでしょう?」
オリジナル・ヴィーゼは首を捻った。
「奴隷紋は関係無くない?」
「その男の差し出した手」
砲塔の後ろから地面の死体を指差して。
「仲間内で繋がる為の魔方陣が有ったでしょう……たぶんそれが作用してペトラと繋がろうしたのよ。そして反撃を受けた」
ペトラを指差して、また地面の死体を指す。
「奴隷紋自体にも制限が掛けられて居たのでしょうね。エルフの能力を潰す前にその奴隷紋が先にショートした感じじゃない?」
「なるほど……一瞬だから奴隷紋だけで終わったのか」
オリジナル・ヴィーゼは唸っていた。
「実際はわからないわよ……エルフの力も潰してたかも知れないし」
肩を竦めるオリジナル・バルタ。
「でも、死ぬ寸前……最後に奴隷から解放されたのは確かだし」
ペトラを見て。
「奴隷のまま死ぬより……そっちの方が救われたかもね」