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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
165/233

164 ゲルリッヒ砲2.8cm.spzb41重対戦車銃


 ダンジョンに入ったルノーft軽戦車。

 砲塔内で耳をピクピクとさせているバルタ。

 

 「アッチにも」

 右を向いて……左を向いた。

 「コッチにも」


 「何が?」

 ヴィーゼが聞いた。


 「建物の中に誰か居る」


 「え? 敵?」


 「違うと思う……私達を見ても慌てて無い」

 バルタは少し考えた。

 「たぶん……待ち伏せ?」


 「でもさ、始めに通った時には誰も居なかったよ?」

 首を捻ったヴィーゼ。

 「後から来たなら、ペトラとかが教えてくれない?」


 「だったら……はじめから隠れて居たんじゃない?」


 「ソレだった、バルタが気が付かないのはオカシイよ」


 「普通の人族ならね」

 

 「あ! 獣人か」


 「そう、獣人なら気配を消せれるのも多いわ……それに、獣人の兵士をあんまり見かけなかったし」


 「確かにね……獣人の為に戦ってるってパトが言ってたから。ソレなのに獣人が少ない筈は無いもんね」


 「最初に森に入ろうとして、先に後退した獣人も含めて隠れて居るんじゃないかな」

 また耳が動く。

 「エンジンを掛けた……ヴェスペ? 違うか」

 首を捻り。

 「マーダー2ね」


 「ヴェスペとマーダー2は元は同じエンジンだもんね……2号戦車」

 頷いたヴィーゼ。

 「だとした確実に待ち伏せね」


 「そうね……ここを通ったら7.5cm砲の鉄甲弾で横からドンね」


 「マーダー2の得意技だ」


 「ん?」

 バルタはヴィーゼの肩を後ろから叩いた。

 「次の角を右に曲がって、その次を左に……後は真っ直ぐ」


 「またなにか見付けた?」


 「ペトラ達を見付けた」

 

 「えええ、そこってダンジョンの真ん中だよね……何してるんだか」

 

 「拾って行ってあげましょう」


 「そうだね……危ないよ」

 戦車は曲がった。

 

 


 「ルノーftが来るね」

 ゴーレム・バルタが皆に教えた。

 「こっちに気付いたみたね……向かってくる」


 「あれ? じゃあエル達は?」

 ペトラは首を捻っている。


 「もう随分と前に裏の道を通り過ぎたよ」

 親指で建物を指差した。

 「一本、向こうの通り」


 「そうなの? じゃあもしかして……私って取り残されてる?」

 

 「もしかしてじゃなくて……そうね」

 頷いたゴーレム・バルタ。


 「うわ! 逃げなきゃ」


 「大丈夫よ、ルノーftに拾って貰いましょう」


 話をしているうちに、そのルノーftが角を曲がってきた。

 手を振るペトラ。

 ルノーftの方でもヴィーゼが運転席の前の両開きのハッチを開いて手を振っていた。


 「さあ、早く乗って」

 バルタがルノーftの砲塔の後ろのハッチから手招き。


 「待って……モグラゴーレムは移動が遅いのよ」

 ペトラは振り返って。

 「モグラゴーレムと何体かは、このまま真っ直ぐに帰って」


 「? なんで?」

 あれ? っと首を捻るヴィーゼ。


 「そこ、大穴が空いているのよ」

 クモゴーレムに乗っているゴーレム・エルが教えてくれた。

 手前には車を横に並べて隠されていた大穴。

 良く見ればわかる。


 「なるほど……それもトラップ?」

 オリジナル・バルタは頷いた。


 「そう、だから戦車は通れないの」

 ゴーレム・ヴィーゼも頷いた。


 「わかった回り道ね」

 オリジナル・ヴィーゼは戦車を前後させて、後ろ向きに半回転させた。


 「急いで……3突も、もう通り過ぎたわよ」

 急がせるオリジナル・バルタ。


 一本隣の通りを走る戦車の音は全員にも聞こえた。

 同時にダンジョンの北の方では砲撃音。

 

 「マーダー2ね」

 オリジナル・バルタは顔をしかめた。


 「ってことは……奴等も入ってきた」

 オリジナル・ヴィーゼはハッチを閉める。

 「急がないと、巻き込まれる」


 モグラゴーレムに指示を終えたペトラがルノーftの背中に昇った。

 小さい砲を担いだコンクリート・ゴーレム兵ともう1体の2体も昇ってきた。

 2体ともランドセルを背負っている。


 クモゴーレムの方にも1体づつのコンクリート・ゴーレム兵。

 そちらもランドセルを背負ってはいるが軽装のmp40だけだ。

 各々がゴーレム・バルタやゴーレム・ヴィーゼの後ろに跨がった。


 クモゴーレムは本来は一人乗りだが、それは背中に乗っての話。

 尻尾と言うか腹と言うかお尻の部分には、それぞれの予備の武器が二つに分けた鞄に詰められて載せられている。

 その間にしがみ着いた格好だ。

 人では無理だけどゴーレムなら大丈夫だ、力でどうとでもなる。


 「行くよ」

 オリジナル・バルタが声を掛けた。


 ルノーftが前進を開始する。

 クモゴーレムの三人はその後ろに着いて進んだ。


 最初の十字路を右折。

 3突が進んだ道に戻るのだ。


 「次は右よ」

 先の交差点を指してオリジナル・バルタが叫ぶ。


 「わかってる!」

 オリジナル・ヴィーゼも大きく返事。


 その時。

 曲がる筈の交差点に横滑りに4号中戦車が現れた。

 履帯を撃たれた様だ。

 もがくように前後に車体を動かしている。

 片側の履帯だけではその場所をグルグルと回転しかできないが、後ろから撃たれたのだからと、どうにか一番に固い前方を後ろに向けようとしていた。

 

 「どうする?」

 オリジナル・ヴィーゼがオリジナル・バルタに指示を仰ぐ。


 「この戦車の砲じゃあM4シャーマン中戦車は無理ね」

 唸るオリジナル・バルタ。


 「見捨てるの?」

   

 「牽制くらいしか出来ない」

 顔をしかめたオリジナル・バルタ。

 「前に立っても撃たれるだけだし」


 「ねえ、交差点を突っ切れない?」

 ペトラが聞いた。

 「真っ直ぐなら速度も速いし、撃たれる隙も無いよね?」


 「それはタイミング次第だとは思うけど」

 砲を前に向けているのは確実だ。

 走り込んだ戦車に驚いて引き金を引くなら後ろに逸れるだろうけど、前もってわかっているなら当てられる。

 「やっぱり運ね……それに、通り過ぎるだけなら意味は無いわ」


 「それが有るのよ」

 ペトラはコンクリート・ゴーレム兵が抱えている砲を指差した。

 「こいつならM4シャーマン中戦車も撃ち抜ける」


 「そんなに小さいのに?」

 疑心暗鬼なバルタ。


 「ゲルリッヒ砲とか言うメチャクチャ強力なヤツなの」

 ルノーftの背中で横に構え直しているコンクリート・ゴーレム兵。

 もう1体が補助で支えている。


 「わかった」

 どうにも信じられないけど……とにかくやってみればわかるとヴィーゼに指示を出す。

 「速度を上げて!」


 「了解!」

 交差点に向かってグンと加速したルノーft。


 振動に備えてルノーftの背中の後ろの方にと移動して、しがみつくペトラ。

 それを何時もの尾橇に座っているゴーレムが支えていた。


 交差点に差し掛かる。

 M4シャーマン中戦車の砲の先が見えた。

 

 「ぶつかる!」

 叫んだバルタ。


 「避ける!」

 叫び返したヴィーゼ。

 

 飛び出して来たM4シャーマン中戦車の前を履帯で擦りながらに横切ったルノーft軽戦車。

 鋭い金属音が辺りにこだまする。


 と、同時に叫んだペトラ。

 「撃って!」


 ゲルリッヒ砲の独特な砲撃音が、軋む履帯の音を掻き消した。

 

 当たったのは車体の前部……トランスミッションの有る辺りだ。


 「だめだ! 砲はまだ生きている」

 オリジナル・バルタが叫んだ。


 M4シャーマン中戦車の砲塔はこちらに向かって回り始めている。 


 ペトラはそれとほぼ同時に叫んだ。

 「次の弾を込めて!」


 補助をしていたコンクリート・ゴーレム兵は砲を持って居るコンクリート・ゴーレム兵のランドセルから砲弾を取り出して、次弾を込める。


 「ヴィーゼ! 止まって」

 そしてもう一度叫ぶペトラ。


 急停止したルノーft。

 ガクンと揺れて、グワングワンと前後に触れる。

 

 「揺れが収まったら撃って」

 ペトラはM4シャーマン中戦車の動いている砲塔を見ながら叫んだ。

 外したらやられる。

 「止まってよ!」

 意味の無い行動だとわかっていても、両手でルノーftの背中を押さえていたペトラ。


 と、急に揺れがピタリと止まった。


 振り返えると、何時もの尾橇のゴーレムが飛び降りて、ルノーftの後ろを軽く持ち上げて居た。


 「撃って!」


 ドンと砲撃音。


 撃ったの?

 撃たれたの?

 頭を抱えたペトラだが……暫くして生きていると頭を上げたら、M4シャーマン中戦車の砲塔から細い煙が上がっていた。

 「助かった……」

 大きな息を吐き出すのだった。

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