163 ゴーレムには魂は有るのか?
森の中から草原のM4シャーマン中戦車を、ファウスト・パトローネで狙うコンクリート・ゴーレム兵。
「まだ撃つなよ……まだ……」
指示を出しているのはセーラー服を着たアマルティアのゴーレム兵。
「混戦の中で建て直そうと下がって来るヤツは必ず居る……それまで我慢だ」
エルフのM4シャーマン中戦車と味方の戦車……3号と4号の中戦車はぐるぐると回りながらに入り交じった形で打ち合っていた。
そして、少し離れた向こう側の位置では3号突撃砲……3突戦車が待ち構える様に狙っている。
敵戦車……生きているのは30両ほどで、穴を開けられて倒されたヤツも30両程。
損耗率は50パーセントだ。
味方は損耗率で10パーセント……まだ10両しか倒されては居ない。
完全に圧倒的している……今はだが。
「よし……下がって来やがった」
コンクリート・ゴーレム兵が呟いた。
M4シャーマン中戦車が後ろ向きに真っ直ぐ向かって来る。
砲は勿論前を向いたまま。
後ろの森には全く注意を向けていない。
「撃て!」
ゴーレム兵が叫んだ。
3発同時にファウスト・パトローネが飛んでいく。
森から10m程の所でエンジンと砲塔後ろを撃ち抜かれたM4シャーマン中戦車は止まった。
「何が起こったかも気付いて無いだろぜ」
筒だけに成ったファウスト・パトローネの残骸を投げ捨てて、吐き捨てた。
と、少し離れた所でも同じ様な事が起こっている。
また別の所でもだ。
「奴等はバカなのか?」
薄らく笑うコンクリート・ゴーレム兵。
「森に引き込む積もりも有るのだろう」
アマルティアのゴーレム兵も笑っていた。
「見てみろ……止まった敵戦車は殆どが森の際だ」
「それは俺達が殆どを倒したってことだな」
鼻も無いのに鼻を鳴らして。
「ヤッパ、エルフってバカだぜ」
そんな軽口を言っていると……背後で地響きが伝わってきた。
振り向いたゴーレム兵達。
見えるのは森の木々だけだが……その枝は微かに振動している。
「やっと来やがったか」
「とうとう痺れを切らした様だ」
無線機を掴んだセーラー服のゴーレム兵。
指示を仰いだのはパトだった。
動かして居るのはアマルティアだが。
ゴーレム兵を通してパトと連絡を取っている。
作戦の全容は知らないが、その都度都度に指示を貰って動いていた。
「全軍……撤退」
叫んだゴーレム兵。
「待ち伏せしていた敵本隊も引き摺りだすぞ」
待機させていたロバ車に素早く飛び乗ったゴーレム兵達は、次のファウスト・パトローネを構えて準備した。
逃げしなにスレ違った敵戦車に撃ち込んでやるためだ。
森から6両のロバ車が飛び出した。
荷台にはゴーレム兵達だが……6体そのままのロバ車無い。
少ない所では3体だった。
「結構……やられたな」
コンクリート・ゴーレム兵の顔が歪んだ。
「マイナスは11か……良くやった方だろう」
その横のコンクリート・ゴーレム兵も呟く。
「なあ……俺達って死んだらどうなるんだ?」
「死って……そんなのが有るのか?」
「壊れるって事は死だろ?」
「まあ……そうか? でも主に頼めばまた造って貰えるさ」
「それは新しい命だろう?」
「命もか?」
「こうして話をしているんだ……それは命が、魂が有るからじゃあないのか? だったら死も有るだろう?」
「そうなのか?」
首をひねったコンクリート・ゴーレム兵。
「お前は難しい事を考えるなぁ」
「そうさ……魂が有るからな」
「まあ……その答えは」
ファウスト・パトローネを構え直したコンクリート・ゴーレム兵。
「全部が終わってから……もう一度考えるよ」
そして引き金を引いた。
スレ違い様の一発に、目の前のM4シャーマン中戦車が火を吹いた。
「生きていたらか?」
反対側でもファウスト・パトローネを発射していた。
ダンジョンに入ったヴェスペ自走砲部隊。
先頭はタヌキ耳姉妹とアマルティアの乗ったAPトライク。
ヴェスペ3両とロバ車4両を挟んで後方は犬耳三姉妹のバイク部隊だ。
少し離れたルノーftは後方の戦車部隊を気にしていた。
「バルタ! もう良いから早く来て」
オリジナル・エルは無線機でオリジナル・バルタに叫んでいた。
「これもパトの作戦だから」
「エルは……その作戦は聞いていたの?」
返事を返して来たのはオリジナル・ヴィーゼ。
「聞いてないけど……たぶんそうだと思う」
「少しづつ誤算は有った様だけど……上手く建て直せたんじゃ無いの?」
イナもエルを肯定していた。
「大体がさ……1兵士に作戦の全容をイチイチ説明は必要ないでしょう? 指示された通りに動けば良いのよ、私達は」
「そうだろうけどさ……」
ブツブツと愚痴っているヴィーゼ。
「とにかく言われた通りにしないと、また誤算が増えるだけでしょう? パトが困るだけよ」
エノが少しイライラしていた。
「わかった……ヴィーゼ、後退よ」
バルタがヴィーゼに指示を出していた。
パトが困るの一言が効いたみたいだった。
「うー」
ヴィーゼは唸りながらもルノーftを加速させた。
ヴィーゼの気持ちもわかる……と、その無線を聞いていた皆が思った。
まだ最前線で戦って居る者が居る。
戦車部隊にゴーレム兵達だ。
それを置いて逃げるなんて……良いのか? たぶんそう思っているのだろう。
自分達が飛び込めば、もしかしたら一人でもゴーレムの1体でも助かるかも知れないとだ。
でも、作戦は作戦で。
ヴィーゼが気にしているのは別の部隊で別の仕事が有るのだ。
だから自分の仕事をまっとうしないと……回り回って戦死者を増やすだけかも知れないのだ。
それは……絶対にダメだ。
「あ!」
それまで黙って目を瞑っていたアマルティアが小さく叫んだ。
そして後ろを振り返る。
しかし、すぐにAPトライクの後席で座り直して、また目を瞑った。
ヴェスペの後ろを着いて来ていたゴーレム兵だけを運んで居たロバ車の後ろで2体のゴーレム兵が動き出した。
「やられちゃったのね」
それを見咎めたオリジナル・エルは小さく呟いた。
ペトラはダンジョンの真ん中辺りを歩いて居た。
足元はクモが歩いている。
それを囲う様にコンクリート・ゴーレム兵。
そして左右と前にはクモゴーレムに跨がったゴーレム・バルタ達。
後ろにはモグラゴーレム。
ここまでの間ではクモは何も伝えては来ていない。
もう地下にはエルフは居ないのかも知れない……そう重い始めた時。
……。
クモが立ち止まった。
地面を注意深く観察する姿。
そして、ペトラを見て。
後ろのクモゴーレムを見た。
「この下に居るの?」
ペトラが訪ねると、クモは頷いた。
うーんと顎に手を当てるペトラ。
見た感じでは普通のアスファルトだ。
そんなペトラをモグラゴーレムが近付いて、鼻で押して後ろに下げる。
回りに居た皆にも視線で下がらせた。
そして、口を大きく空けて……光を溜めだした。
「ここから下に穴を開ける感じ?」
ゴーレム・ヴィーゼが聞いたのだが。
モグラゴーレムは集中して忙しいのだろう返事は無い。
その代わり、口を地面に向けて……光線を放った。
光の当たった部分がポッカリと穴を開ける。
「モグラゴーレムの出す光線は熱なのかな?」
ゴーレム・ヴィーゼは開いた穴の角を見て。
「なんか、溶けた感じだね」
「いや……ソレよりもエルフでしょう?」
ゴーレム・エルがヴィーゼに注意。
「出てくるかもよ?」
全員で穴を覗いた。
穴の大きさは直径10m程で深さは500m程……そのうち太くは300mだ、残りは少しづつ細くなって最後はほぼ点。
そして地面から30m程の所に横穴が上下に二つ……エルフが掘った穴なのだろう。
その北側の穴からエルフが顔を覗かせていた。
「居た!」
叫んだゴーレム・ヴィーゼはその穴にM24柄付き手榴弾を投げ込んだ。




