162 作戦? 第2フェーズの始まり
「ふー」
ペトラは修繕の終えたモグラゴーレムを見ながらに額の汗を拭った。
材料は崩れた建物の瓦礫。
なので一部の色が変わっている。
「なんか……片腕だけパンダみたいね」
微妙に可愛くなったと思っている様だ。
「どうせなら、全身パンだ模様にしちゃう?」
右手の人差し指と親指で顎を支えてウインク。
その問いには困った声を出すモグラゴーレム。
苦笑いのコンクリート・ゴーレム兵達は、話を変えてやることにした。
「それよりも、これからどうします?」
「?」
右手はそのままで……何が? とコンクリート・ゴーレム兵を見た。
「いや……このままここに居てもでしょう?」
巨大モグラは倒した。
その巨大モグラが出てきた穴からは、エルフ達が出てくる気配はない。
つまり、このモグラはコントロールしていたエルフが死んで暴走したから地表に出てきたと考えると……他にも居るのでは?
まだコントロールされて、地下トンネルを掘っているヤツが……と言うことらしい。
「フムフム……」
「いや……だから、巨大モグラと戦えるのは、コイツだけでしょう?」
コンクリート・ゴーレム兵はモグラゴーレムを指差した。
「いや……戦車でも倒せるじゃん」
ペトラはコントロール兵が抱えるゲルリッヒ砲を指差した。
「だから……地表に出てくればでしょう?」
地面をツツくような仕草で。
「どんな強力な大砲でも地面の下に居られちゃあ攻撃出来ない」
ああ!
左手の平を右手の拳で叩いたペトラ。
「地面を掘れるのはコイツだけなんだから」
大きく首を振ったコンクリート・ゴーレム兵だった。
「ついでにその子」
ペトラの足元に居たクモも指差す。
「地下の様子が探れるんでしょう?」
「確かに」
ペトラは足元を見る。
そこに居たクモも首を目一杯に上に曲げてペトラを見ていた。
「かわいい」
ニヘラと笑ったペトラ。
それには呆れたコンクリート・ゴーレム兵。
左手で顔を押さえて項垂れた。
と、クモが北を指差す。
「どうしたの?」
ペトラはクモに聞いた。
すぐにイメージが送り込まれて来る。
「振動? 北から? 地表?」
「そっちは激戦区に成っているので……それですか?」
コンクリート・ゴーレム兵も気になったようだ、そちらを向いた。
「違うみたい……もっと軽い振動?」
「じゃあ……エルフ兵?」
そのコンクリート・ゴーレム兵の一言で、全体の緊張が上がった。
その他のコンクリート・ゴーレム兵が素早く移動する。
崩れた建物の影に。
大きな瓦礫の影に。
隠れられない巨体のモグラゴーレムの影に隠れてmp40を構える。
ペトラも引っ張られて、モグラゴーレムの後ろに連れて行かれた。
緊張感を少しづつ取り戻し始めたペトラ。
近くに居たゲルリッヒ砲を抱えてコンクリート・ゴーレムの側に依る。
「弾は込めとく?」
手には砲弾。
「予備も含めて……お願いします」
「わかった」
うなずいたペトラ。
砲の尾栓を開いて鉄甲弾を放り込んだ。
そして、その足元に鉄甲弾を4っつ並べる。
「今は合計で5発よ」
「了解です」
砲を抱えたコンクリート・ゴーレム兵の補助に着いた別のコンクリート・ゴーレム兵が頷いた。
「歩兵だけなら……じゅうぶんです」
そして、全員が……実際に呼吸しているのはペトラだけだが、息を殺して待った。
……。
カツカツカツ……ゴロゴロゴロ。
リズミカルな音と重いモノが転がる音が聞こえだした。
「なんです?」
コンクリート・ゴーレム兵が聞く。
「さあ……でもエンジン音では無いよね?」
ペトラはソッとそちらを覗いて見た。
崩れた建物と瓦礫で見通せない。
その影に走り込んだコンクリート・ゴーレム兵は見えた。
低い姿勢で小走りに音を立てずに移動。
すぐに壁に張り付いて……通りを覗いた。
……。
その一番前のコンクリート・ゴーレム兵の左手がこちらに突き出される……その手は開いて居た。
「待て? の合図」
すぐにコンクリート・ゴーレム兵の手は横に振られる。
緊張感は無い振り方。
「味方かしら」
「そのようですね」
砲を抱えたコンクリート・ゴーレム兵が無造作に立ち上がった。
出てきたのはロバ車が2台だった。
先頭は15cm.sfh.18重榴弾砲を引いている。
後ろは砲弾とその上に適当に人間の砲兵が3人とセーラー服を着たアマルティアのゴーレム兵が2体が座っていた。
ペトラは後ろのロバ車に走り寄った。
「大丈夫だった?」
「ああ……お嬢ちゃんか」
人間の砲兵が返事を返す。
「エルフには驚かされたけど……大丈夫だ」
「どこに行くの?」
もう攻撃はしないのだろうか?
確かに砲兵には辛いとは思うけど……地下からのいきなりのエルフ兵の出現は。
「撤退?」
「いや……作戦が第2段階に入った」
肩を竦めて。
「もう俺等の出番は終わったよ」
「作戦……?」
首を傾げたペトラ。
「ああ、そうか司令官はお嬢ちゃん達には説明はしていなかったのだな」
司令官とはパトのことか?
「そうだろうな……作戦を知らなければ、もし逮捕されても巻き込まれたで済むかもだろうし……たぶんそれでだな」
横の砲兵も頷いて居た。
「まああれだ……嬢ちゃんも後方の部隊と合流すればいいぞ」
「ここはもう別の戦場に成るからな」
砲兵達は各々が口を開いて、そしてダンジョンを出ていった。
向かうのは後方のダンジョンだろう。
そうこうしていると、別のロバ車もやって来た。
今度は集団だ。
10.5cm.lefh.18軽榴弾砲を引いている。
草原に出た砲兵達だ。
砲のサイズが違うだけで、人員の配置も同じ様な感じ。
砲1門に三人の人間と2体のゴーレム。
ただ、こちらは少し疲れている様だ。
砲兵達は皆が俯いて居る。
ロバも数体が撃たれた後も見えた。
「エルフ兵か」
呟いたペトラ。
ん? と顔を上げた砲兵の一人。
「もうエルフ兵は居ないが……そろそろ敵戦車が来るぞ」
もう一人も続けて。
「逃げた方がいい」
「それも作戦?」
「ああ……」
と、頷いた砲兵だった。
ロバ車の集団が通り過ぎてすぐ。
クモゴーレムに乗ったゴーレム・バルタ達もやって来た。
「まだ居たの?」
ペトラを見咎めたバルタが言った。
「作戦らしいんだけど……良くわかんなくて」
「私達も良くわかってないけど、とにかく撤退だってさ」
後ろを向いたゴーレム・バルタ。
「次はヴェスペの3両が来て……その後は戦車かな」
「戦車戦を市街地でやるって事?」
「たぶんね」
「バルタ達はどうするの?」
「私達は……」
ゴーレム・バルタは考える素振りを見せた。
「みんなが通り過ぎる迄の援護? じゃないの」
ゴーレム・ヴィーゼがそれに対して先に答えた。
「そうね……戦車は相手に出来ないけど、エルフの歩兵は潰せるわ」
ゴーレム・エルも頷いた。
「もう居ないって、さっきの人は言ってたけど?」
ペトラが聞いた。
「たぶん……もう居ないと思う」
ゴーレム・バルタも頷いた。
「ただ……地下はわからない」
悩んで居たのはソレだったらしい。
「地下の全部はわからないけど……近い所、たぶん真下? は、わかるよ」
ペトラは足元のクモを指差す。
「索敵しようか?」
「危ないよ?」
ヴィーゼが心配気に。
「大丈夫……でしょう? 守ってくれるよね?」
にこりと微笑んで見せたペトラ。
「そりゃあ……」
頷いたヴィーゼ。
「もちろん」
「じゃあ、索敵開始ね」
ペトラはクモの指示を出して歩き出した。
「いやいや……何処に向かう積もりよ」
エルがそのペトラを止める。
「え? こっちじゃないの」
北の方角。
皆が来た方向を指差して。
「そうだけど、歩いて全部は無理でしょうに」
唸ったエルだった。
「じゃあ……取り合えずヴェスペが来る方向を教えて。合流するまで歩くから」
肩を竦めてまた歩き出した。
「戦車相手に地下トンネルは意味無いでしょうから……それまでは、ね」




