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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
162/233

161 オリジナル・エルとゴーレム・エル


 3両のヴェスペ自走砲がダンジョンに向かっていた。

 後方では戦車の動く音と砲撃の音……ついでに聞こえるような連続した大きな爆発音は戦車が燃えて居るのだろう。

 

 「ルノーftは……バルタ達は大丈夫なの?」

 ヴェスペの後ろで後方を確認していたエルが呟く。


 「ルノーft軽戦車なら、あんなに派手な音で燃えないよ……積んでる火薬の量が少ないんだから」

 操縦しいて居たローザが返事を返した。


 砲弾の数は多いけれど、その一個一個が小さいからだろう。

 花火の様に弾ける砲弾が小さければ、確かに音も小さいか。


 「それよりも」

 少し声のトーンを落としたローザ。

 「先にダンジョンに向かった砲兵隊が騒いでいるよ」


 前に回ってそちらに目を向けたエル。

 うーんと唸って無線機を取った。

 「エル! 見てきて貰える?」

 オリジナル・エルがゴーレム・エルに頼んだのだ。


 「私達も行こうか?」

 それは犬耳三姉妹。

 

 「大丈夫よ、バルタとヴィーゼが来てくれるなら……ほとんどの事は対処出来るわ」

 ゴーレム・エルの返事だった。

 「それよりもエル達を守って」

 ややこしそうな顔をして、自分の名前を他人として喋る。

 いい加減、改名でもしようかとも考えている素振りも見せたが、今はそれどころではないと前を睨んでクモゴーレムを走らせた。

 ゴーレム・バルタとゴーレム・ヴィーゼもそれに続く。


 それを見送ったオリジナル・エルは指先でカンカンと砲を叩いた。

 走っている最中は撃ちにくい。

 まっすぐ前でもタイミングに失敗すればヴェスペは転ぶ。

 搭載している砲がデッカクて重いから、頭でっかちでバランスが悪いのだ。

 そんなだから、例え撃ったとしても正確な射撃は不可能だ。

 近いところでデッカイ魔物ならそれでも良いのだろうけど……敵味方が入り交じる所には危なくて撃てない。

 それは詰まり……いまは出来ることが逃げるしかないという事だ。

 「なんか……腹が立つわね」

 

 「イライラしても仕方無いよ」

 ローザが宥めて居た。




 

 ゴーレム・エルは集団に為っているロバ車に引かれる砲兵達を追い越した。

 混乱しているのその先頭の一部だ。

 右に左に別れる様に散り散りに移動していた。


 その理由はすぐにわかった。

 銃声が聞こえる。

 敵が居なければ撃たないし、敵もソコに居なければ撃たない。

 詰まりはそう言うこと。


 と、後ろに着いて来ていたゴーレム・バルタとゴーレム・ヴィーゼがさらに加速して、追い抜いていった。

 ゴーレム・エルも続こうともう一段と加速する。


 三人が乗っているクモゴーレムはどんなに速く走っても八本足の全部を地面から離す事は無い。

 常にどれかの足は地面をつかんでいるのだ。

 それは余分な力が上下に逃げる事は無いということ。

 出された力の全ては走ることに使われる。

 だから安定して早いのだが、しかし燃費は悪くなる。

 タイヤの様に転がる惰性が無いからだ。


 グンっと引っ張られる加速と、ズンと抜かれる体力……この場合は魔力か? クモゴーレムの燃料も乗り手のゴーレムに依存しているから、それは私の魔力だ。

 あんまり派手に走り回るのは控えないといけなさそうだ。

 今は良いけど……この先はどれくらいに時間が必要になるかもわからないし。

 補給の為の魔石がいつ手に入るのかもわからない。

 効率良く素早くなら、高純度の魔石でないとダメだけど、それはここの誰も持ってないと思う。

 後方のマリーに頼むしか無いのだろうし、受けとるには連絡して転送魔方陣でとなる。

 やはり、少し動きをセーブした方が良いのかな?

 

 「大丈夫よ……魔石は送って貰ったから」

 無線の声はオリジナル・エルだった。

 驚いたゴーレム・エル。

 「心を読まれた?」


 「おんなじ人間で同一人物なのだから、考えている事くらいわかるわよ」

 返答はそんな感じ。

 「だから、おもいっ切りでも大丈夫よ」


 その無線をゴーレム・バルタとゴーレム・ヴィーゼも聞いていた様だ。

 「おっけー」

 一切の減速をせずに砲兵隊の先頭を越えた。

 

 「見付けた……エルフだ」

 ゴーレム・ヴィーゼの声。

 しかしそれでも減速はしない。

 「エルは砲兵の間を頼んだよ」


 ゴーレム・エルも集団から飛び出した。

 バラバラと敵の弾が飛んでくる。

 狙うというよりも、一切動じない私達に驚愕してただ反射的に撃っているだけのようだった。

 もちろん撃ってくる敵の数も多いので、結構な割合で当たっている。

 しかし、所詮は銃の弾。

 ゴーレムの体にはただ食い込むだけの事だ。


 そして、人である砲兵達も撃たれては居たが、ロバゴーレムが盾に為って敵の弾を受けていた。

 成る程だから混乱していたのか。

 砲兵達は逃げようとして。

 ロバゴーレム達は盾に為ろうとして。

 それぞれの思惑を考えれば、向きたい方向は真逆になる。

 

 「ロバゴーレムも案外、賢いじゃない」

 ゴーレム・エルはそこではじめて減速した。

 銃を構えてエルフに打ち込む。


 ゴーレム・バルタとゴーレム・ヴィーゼはもうほとんど肉薄していた。

 それでも減速はしないで……エルフ達を蹴散らす様に突っ込んで行って背後に回る。

 その際にM24柄付き手榴弾の御土産を置いて行くのは忘れない。

 慌てふためくエルフ達の側で連続して爆発していた。

 

 背後に回った二人はmp40に切り替えて、仁王立ち宜しく全身を敵にさらしてエルフ達を一掃した。

 

 「あっけなく終わったわね」

 ゴーレム・エルが笑う。


 「私達に人の常識を見せてもダメだよね」

 ゴーレム・ヴィーゼも笑う。

 

 「二人とも、この道の先も確認するわよ」

 ゴーレム・バルタは冷静だった。

 「砲兵達の逃げ道の確保だからね」


 


 「おさまったようね」

 オリジナル・エルは前方の砲兵の動きを確認した。


 「私達も続きましょう」

 ローザも見ていた様だ。


 「しっかし……遅いわね」

 今度は移動速度にイライラし始めたか?


 「仕方無いわよ……これが普通のヴェスペの速度よ」

 時速30kmを下回っていた。

 「これだけ勾配が多いと、比較的シッカリした地面の草原でも……速度は出せないしね」


 「でもさ……ロバ車よりも遅いのはどうなの?」

 見ている感じでは、明らかに早い。


 「あっちは四本足で力の有るゴーレムだから」

 苦笑いのローザ。

 「それに、私達だけなら……もっとスピードを出せるんだけどね」


 「それって……マンセルがサボってた事?」


 「いや……流石にエンジンの載せ変えは時間が掛かるだろうし」

 材料のエンジンは沢山有るのだろうけど。


 と、その時。

 すぐ背後で戦車の音がした。

 振り返ったエルが確認したのはルノーft軽戦車。

 結構な勢いで近付いて来る。


 「ほら、バルタ達にも追い付かれた」


 「バルタ?」

 首を振って後ろを確認したローザは笑う。

 「ああ、オリジナル・バルタね」


 「あ! 敵戦車!」

 ローザの返答は無視して、見たものを答えたエル。

 「M4シャーマン中戦車だ!」

 背後のルノーft軽戦車の更に後ろの丘の上にそれは現れた。

 そして、下り始めると同時に砲をこちらに向ける。

 「撃たれる!」


 ローザは慌てて、ヴェスペを左右に振った。

 「戦車部隊は何してたの?」

 泣き言付きだ。


 敵戦車が撃った砲弾はすぐ側に着弾した。

 

 はじける土を被るヴェスペ。

 

 「回転して!」

 金切り声のエル。

 砲に鉄甲弾を詰め込んでいる。


 ヴェスペは出来るだけ小回りで車体を回した。


 ルノーft軽戦車も同じように回転している。

 

 犬耳三姉妹はモット小回りで、片足で地面を蹴るように後ろに向いて加速を始めた。

 姿勢を低く加速していく。

 そして、最高速で安定したのを見てか、左手にファウスト・パトローネを準備。

 

 次の砲弾が飛んでくる。

 今度はルノーft軽戦車を狙ったようだ。

 回転中の後方に着弾していた。


 「下手くそね」

 エルは砲の上下を合わせる。

 

 前を向いたヴェスペが止まった。

 勢いが着いた状態なので前後に揺れる。


 「はやく!」

 ローザが叫ぶ。

 敵戦車の砲はこっちを向いているからだ。

 正確に誰を狙っているかはわからないけど、M4シャーマン中戦車の砲口が覗けるだけでも恐怖だった。


 「もう少し……」

 急停止したヴェスペの揺れがおさまったと同時に鉄甲弾を発射した。

 自走砲の直射攻撃だ。

 「こうやって撃つのよ!」

 エルの撃った鉄甲弾は、M4シャーマン中戦車の前方下半分のど真ん中に命中した。

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