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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
161/233

160 クリスティナの仕事とパトの作戦


 「次の通りと、その次の通りのはエルフは居ません」

 クリスティナは鳥達からの情報をそのまま告げた。


 「よし、その道に逃げる砲兵達を誘導してくれ」

 パトは助手席のローラに告げる。


 シュビムワーゲンはダンジョンの北端の一本手前の道を東から西へと走っていた。

 ダンジョン外の非装甲部隊を逃がす為のルートの確認をするためだ。

 運転して居るのはハンナで横に座ったローラが無線を握っている。

 後席はクリスティナとパトだが……パトはシートの上に立って目線を高くにしていた。

 突然に現れるエルフを、より早く見付けて反撃するためだが……それらを殲滅する積もりは無い。

 ダンジョンの中に侵入したエルフを全て倒してしまえば、また砲撃されるだけ。

 今の状態なら同士討ちを恐れて遠距離からの攻撃は無いからだ。

 もちろん歩兵同士の白兵戦には成るが……それは見越していた。

 と、言うよりも……これが本来の作戦だ。

 敵をダンジョンの中に引き入れる。

 エルフが有利な森では戦わない。

 遠距離と大量の砲弾に左右される草原もダメだ……エルフの補給路はその背後に幾つも存在しているからだ。

 実際に叩いても叩いても幾らでも涌いて出てくる。

 だから、戦う場所はダンジョンしか無いのだ。


 まあ、本来の予定とは随分と違った格好には成ったが、それは仕方が無い。

 作戦にイレギュラーは付き物だ。

 だが、まさか地下から現れるとは予想はしていなかったのだけど……なので多少の慌てる事態は、それも仕方無い。


 「もっとスマートに森から、そして草原からダンジョンに移動させたかったのだが」

 もちろん地上戦をしながらだ。

 「まあいい……エルフのトンネルを潰しながら、本来の敵戦車を誘導しよう」


 「次の通りにエルフが居ます」

 クリスティナがパトの服の裾を引っ張った。


 「了解」

 M24柄付き手榴弾を準備してその方向を睨む。

 シュビムワーゲンがその道を横切ると同時に投げ付けた。

 エルフの姿の確認はしない。

 クリスティナが居ると言うなら居るのだし。

 まっすぐ横切るだけの短い時間なら反撃も無い。

 そして、エルフをじゅうぶんに驚かす事は出来る筈だ。

 

 道を通り過ぎてすぐに手榴弾は爆発した。


 「次の通りは?」

 

 「居ません」

 クリスティナは首を振って。

 「さっきのエルフ達も無傷です」


 「なら……居ってくるか?」

 止まるなら、適当に相手をする部隊を移動させなければ成らない。


 「来るようです……なんか怒ってる」


 「そうか……」

 パトは地図を広げて上下左右のアルファベットと数字を確認した。

 「では、ハンナ……」

 ダンジョンの細かく区分けされた緯度と経度を指示。

 別段、厳密なモノでは無い。

 南北と東西の道路で区分けされているだけ。

 京都の道路は碁盤の目だ。

 二文字を伝えるだけで正確な位置がわかるし、そこに到達するにも角は90度なのだから迷う事は無い。

 斜めの道やカーブを作るからヤヤコシイのだ。

 だから敢えて京都と指定して、カワズにダンジョンを転生させたのだ。

 直線で構成された道は、入り込んだ敵には隠れる所は少ないが、理解している者なら移動は自由だ。

 理解させる為にもわざわざ全く同じモノを並べて二つなのだし。


 シュビムワーゲンは通りを1つ、中央側に曲がって加速した。

 指示道理に誘導する為に速度を調節していたのだ。

 その通りは片側二車線の普通の道。

 両脇には避難の為に避けて停止させた車が並んでいる。

 道の中央はシッカリと空いているので、緊急車両も通れるとそんな感じだ。

 もちろん今のシュビムワーゲンも緊急車両だ……なにせ交戦中なのだから。

 「しかし、何処のダンジョンも日本人の律儀さをよく現しているな」

 ほぼ絶対といっても良いほどに車が両脇に並ぶのだ。

 しかも鍵もそのままで。

 ダンジョン転生という異常事態に巻き込まれてもそれは変わらないらしい。


 通りの真ん中程の所で後方から銃撃音が聞こえてきた。

 シッカリと追って来ている。

 と、集団で走って来る後方の横の車が動き出した。

 退路を絶つように複数の車だ。

 驚いたエルフ達は振り返ってそちらにも銃撃。

 すると、今度はシュビムワーゲンが通り過ぎた所の車が動き出した。

 通りの前後を蓋をしてエルフ達を囲う形だ。


 車に隠れて居たのは獣人兵達だった。

 素早く囲い、車から脱出している。

 流石にその身のこなしも軽い。

 そのまま、動かして居ない車に走って隠れて応戦を始めた。


 エルフ共も残された車両をバリケード宜しく反撃をする。

 やつらは思っているだろう。

 わざわざ遮蔽物を作って残してくれた事にたいして……バカな奴等だ、とでもだ。

 でも、その遮蔽物の車はワザとそう使えるように並べたのだ。

 バリケードなら張り付いて隠れる事になるからだ。

 敵兵の動きのコントロールだ。

 そして、車の中には大量の爆薬。

 ……。

 本来の目的では、敵戦車に対して使う予定だったもの。

 進路を邪魔しても、戦車なら乗り越えようとするだろうから、そのタイミングで下からドカンの筈だった……対戦車地雷の形だ。

 踏み潰した時点で爆発する細工付きだ。


 だが、今回は歩兵のみ。

 爆薬の量も過剰気味。

 なので、発火の為のカンプピストルを握って居た者も躊躇していた。

 

 「まあいい……建物に隠れて居る兵士に手榴弾を投げ込ませろ」

 通りの両側のビルの上の方を見る。

 ソコにも歩兵を忍ばせていた。

 「それで車の爆薬が誘爆するなら、それも仕方無い。残ればそのままでトラップとして置いて置けば良いしな」

 そのパトの言葉をローラが無線機で伝えていた。


 シュビムワーゲンはまた別の通りを索敵して走る。

 暫く立つと大きな爆発が耳に届いた。

 結局はさっきのが誘爆したらしい。

 トラップを1つ無駄にしたが……まだまだ幾らでも有るので気にしない。

 それよりも流石にあの感じの爆発ならエルフ共は全滅だろう。

 そちらの方が気になる。


 「森と草原のエルフ達の誘導はどうだ?」

 それをしているのは戦車部隊だ。


 「もうそろそろダンジョンに戻ると言っています」

 ローラの返答。


 「了解した」

 まだ少しの時間が掛かる様だ。

 「もう少し、地下から湧いたエルフ共は適当に相手してやろう……ただし自由にはさせないがな」

 イレギュラーでは有っても利用できるなら使うまでだ。

 事前の準備で対処も出来そうなのだから問題も無い。





 草原の真ん中。

 ルノーft軽戦車のバルタは迷っていた。

 もう対処が出来る敵の軽戦車は居なくなったからだ。

 残っているのはM4シャーマン中戦車とt-34中戦車。

 どう足掻いても倒せる相手では無い。

 ルノーft軽戦車のプトー砲では貫通力が無さすぎるのだ。


 しかし、足の速さで敵の注意を惹き付ける事は出来る。

 だが、それに意味が有るのかどうかがわからない。

 こちらの主力の3号や4号はどうにも動きが妙だから。

 敵の殲滅よりも自分達の保身を優先している。

 立ち回りもリスクは取らない感じだ。

 そして、ジリジリと後退もしていた。

 火力で勝っていてもその動きは後退戦。


 と、横に38t軽戦車が並んだ。

 そして、運転席上のハッチからマンセルが叫んで居る。

 掲げた手は7の数字が読み取れた。


 「なんだろう?」

 ヴィーゼが首を傾げている。

 

 「無線の周波数の番号かな? 七番目?」

 ベルタも首を傾げていた。


 「聞こえるか!」

 無線を弄っていたヴィーゼが驚いた。

 声の主はそのままマンセルだ。


 「当たってた見たい」

 呟いたヴィーゼは、次に返答を返した。

 「なに?」


 「作戦が少し変更に成った、このまま敵を惹き付けてダンジョンまで後退だ」

 マンセルが叫んで居る。


 作戦?

 それはヴィーゼもバルタも聞いていない事だ。

 ルノーft軽戦車を含めた子供達は見方の砲撃部隊を守れとだけ指示されていたからだ。

 だから、無線も子供達だけのグループと後はパトと連絡する為の2チャンネルしか使っていない。

 前に立つ戦車部隊は独立して、1つのチャンネルを使っていた様だ。

 それが7番目の周波数。


 「わかった……私達は下がる」

 たぶんここに居ても邪魔なだけらしい。

 作戦の内容は詳しくはわからないけど……パトの作戦なら絶対に上手くいく。

 そして、私達が与えられた使命は砲兵の守備だ。

 なら、下がって居る最中の砲兵の後方を盾として立って着いて行くだけだ。

 「ヴィーゼ……エルのヴェスペの所に行こう」

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