015 街道での出逢い
先に進んだ犬耳三姉妹のバイクに追い付いた一行。
三姉妹は普通の馬が牽く少し小さめの、一頭引きの幌付き馬車を囲んで並走していた。
馬はもう一頭居る。
馬車の後ろに裸で引かれていた……疲れれば交代させる為なのだろう。
成る程、効率が良い。
馬が潰れてしまっても二頭ならまだ移動が出来る。
代えが無ければそこで立ち往生だ。
ゾンビの魔物には、その疲れるという事も無いので二頭が二台を引いているだけで……本当なこうするのが当たり前なのだった。
死んでいるので更に死ぬ事もない。
そして三姉妹は馬車の御者と何やら話していた。
いきなり近付いて……相手を驚かせて、攻撃でもされたらとは誰も考えていない様だったし、実際にそれもなく互いに友好的に話しているそんな様子だ。
それ以外にも……盗賊や犯罪者の可能性?
道中に見掛けた戦争? モドキの兵士だったかも知れない。
どちらにしても……イキナリ近付くのは危険な行為には違いなかったのだ。
ここにファウスト・パトローネが居れば、三姉妹をこっぴどく叱り付けている事だろう。
銃や戦車がある世界ではそんな不用意な行為は命懸けだ。
もちろんそれらの無い昔の時代……剣や魔法の全盛期でもそれは同じ。
人を殺せる武器を持つ者が……普通に平和主義者なわけがない。
その三姉妹の長女……エレンが追い付いた車列を指差している。
そして、それに合わせて幌付き馬車の御者が体を乗り出してこちらを覗いていた。
「みんな、顔を出して」
エレンからの無線。
言われた通りに全員が揃って会釈。
ルノーft-17軽戦車の二人は頭だけを各々のハッチから覗ける様に出し。
ヴェスペは運転席のローザがハッチから、他の三人は防御板の上から首を出す。
幌車の皆は、そのまま幌を捲っての挨拶だ。
「ね、子供と老人しか居ないでしょ」
無線から聞こえるエレンの声は御者に向けてのモノが漏れ聞こえている様だ。
「イカツイのも混じってるけど……チャンと使役されてるし」
幌車を引いているスピノサウルスを差して。
「本当に子供が戦車を動かしてるんだね」
御者の声も聞こえる。
小さめとはいえ幌付きの馬車……バイクが並走するにも、ある程度の距離は出来る。
なのでおのずと怒鳴り声に近い大声に成る。
その御者はオジサンと言うには若い気がする。
しかし……お兄さんとは呼べない感じだ。
子供達の感覚でそう思うのだから……実際の年齢は20代の半ばか後半?
子供から見れば二十歳を過ぎた男は立派な大人にしか見えないのだから。
「だから……方向が同じなら暫くは一緒に行かない?」
「ほう……」
ニコリ笑った御者は。
「君は中々に商売上手だね……護衛をやってくれるって事だろう? 報酬は幾ら程に為るんだい?」
「そうね……」
小首を傾げたエレン。
「ご飯をご馳走してくれたら、それで良いよ」
反対側にバイクを寄せたアンナも交渉。
「材料は私達で捕ってくるから……美味しいのを造って」
「取ってくるって?」
爽やかに笑った御者はアンナにも丁寧に返事を返している。
そして馬車の前に出たりネーヴは無言で、背中のランドセルにくっ付けられているstg44をパンパンと叩いた。
「成る程、魔物を狩って来るって事か……」
頷いた御者は。
「交渉成立だ」
エレン達に頷いて返して……そして後ろ、幌車の中に何やら話し掛けた。
中に人が居るようだ。
それは距離が近い話し言葉なのだろう、無線では拾えなかったが……もう完全に近付いた後ろの皆にも雰囲気はわかった。
程無く。
幌車の後ろから小さな女の子が顔を出した。
ニコニコと手を振っている。
その後ろには……多分お母さんなのだろう若い女性。
御者がお父さんで、その許可が降りたので出てきた……そんな感じだと理解したみんな。
つまりは、危険な集団では無いと判断されたという事だ。
コレも人懐こい三姉妹のスキルの一つの様だ。
……アホっぽい能天気な見た目もこういう時は役に立つのね、との心の声はエル。
単純にそのスキルが羨ましいと思ったのはクリスティナ。
料理を造らなくて良くなったと喜んだのはタヌキ耳姉妹。
また……速度が落ちるのね。これはローザ。
ムーズは御嬢様なので……どちらでも構わなくてよってなてい。
元国王とマリーはただ了解したと頷いて……。
その他の者はチョッとだけワクワクしていた……休憩に成ったらあの子とお話ししよう。
「さあそうと決まったら、バルタ」
エレンがルノーを見て。
「大急ぎでご飯を探してよ」
残りの犬耳姉妹もバルタに期待した視線を向けた。
その日の夕方。
街道沿いに見付けた小さな林の中に少しだけ入り込み……そこを今晩のキャンプと決めた一行。
木々の間に焚き火を起こす。
傍らには一角ウサギが5匹程転がっていた。
それらを調理するのは、幌付きの馬車に乗っていたお母さん。
名前は……誰かが聞いたらしいが、誰も覚えていない。
娘も父親もがお母さんと呼ぶのだから、名前などは意味は無いと思われる。
もちろんお父さんの方もそれは同じ。
そして娘はサラちゃんと言うらしい……後ろのちゃんの部分までが名前か?
本人がそう自分を呼ぶのだから、きっとそうなのだろう。
4才なだからそれで良いのだ。
そしてお母さんのお腹の中には弟が居るらしい。
産まれても居ないのに何故に弟かといえば、サラちゃんがそうだと決めたからのようだった。
「でねでね、これから王都って所に行くのよ」
サラちゃんがクリスティナにくっ付いて話している。
この中では一番に歳が近いからか、サラちゃんも話しやすいようだ。
「私達も王都に行くのよ」
次に側に居たヴィーゼ。
少しだけお姉さんぶっての声音に成っている。
「おんなじだね」
クリスティナはサラちゃんの頭を撫でながらに微笑んで。
「じゃあサラちゃんと一緒に居られるね」
三人とは少し離れた所。
元国王はお父さんと話していた。
「王都には何用で?」
「実は住んでいた村があまりにも貧しくて、子供二人は辛いのでお母さんの姉の所に厄介に成ろうかと……」
お父さんは少しバツが悪そうに答える。
「それもお姉さんの提案で……有り難く受ける事にしたのです」
「これが私達の全財産」
横からお母さんが、幌付き馬車を指差して笑っている。
「王都に行けば仕事も何かあるでしょうし……無ければこの馬と荷馬車で運送業か……」
少し考えたお父さん。
「馬と荷馬車を売ってお金に変えて……別の仕事を見付けるか」
同じ内容の話をグルグルと回している。
仕事には当ても何も無いのだろう。
その話ぶりに不安しか感じない。
「最悪は……冒険者か警備隊ですかね」
苦笑いに為った。
「どちらも危険な割りに実入りは少ないからのう」
元国王も少し渋い顔をして見せる。
「戦争前の国王制時代なら、きちんと国の事業として成り立ってもいたのじゃが……今は、その金も出し渋る感じだしの」
「共和国に変わって国が平和に成って、それは良い事と思っていたんですけど……まさかここまで貧乏に成るとは思いもしませんでした」
「それは……まあ、だいぶ政治の責任でもあるのじゃろうが……」
元国王も唸りはじめた。
「結局は誰かが割を食うのが資本主義なのだし……以前はその割を食わせる相手が他所の国で、それが無くなれば皺寄せは弱い所にかの」
元国王の頭では、押し付ける相手はエルフにだと決めて掛かっていた。
自分の時代にはそうして国を維持していたからだ。
強い国が弱い国から搾取するのは、それは当然だと理解していた。
「まあ……それも変わらねば駄目なのだろうな」
元国王はムーズに視線を走らせて。
「次の世代に何とかしてもらおうかの」
「子供の世代に残すのが負の遺産というのも……何とも情けない気持ちには成りますが」
溜め息を吐いたお父さん。
「こればかりはどうしようもない」
元国王も同じく溜め息を着く。