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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
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157 ルノーft軽戦車vsbt-7快速戦車


 ヴィーゼはルノーftを丘の上から谷の底に下ってbt-7に近付こうとした。

 ソ連の戦車は小さい砲塔に無理矢理に近い形で大きな砲を乗っけている……だから砲が下を向く事が難しいのだ。

 それはルノーftも同じだが、こちらは一応の対処はしている……エアサスを使って車体事を上下させる改造だ。

 本来は無い機能を数十年後の未来のダンジョンで手に入れた部品で出来るようにした。

 もちろん、だからと言って完璧だとは為らないのだけれど。

 車体を上下させるにはソレなりの時間が掛かる。

 走りながらだとそのタイムラグが鬱陶しい。


 でも出来ると出来ないでは、話は全然変わってくる。

 今の敵のbt-7は出来ないのだから……低い位置は安全地帯だ。


 そのbt-7も谷に降りてくる。

 そして快速戦車と有るだけ合って……その速度も速かった。

 エンジンを載せ変えたパトの38t軽戦車なみの速さか? いやもう少し遅い様だから三姉妹が乗るモンキー50zと同等か、それ依りも少し遅いくらいか?

 なら時速55kmには届いて居ないと思われる。


 こちらのルノーft軽戦車もエンジンを載せ変えている。

 排気量は同じくらいでも馬力は10倍程に成っている……そのエンジンはやはりダンジョン産だった、たった50年程の時間差で、驚くほどの進化を遂げたのだ。

 しかもこの戦車には亜酸化窒素、俗に言う笑気ガスだ。

 それをエンジンの中に吸い込ませれば酸素分圧を高く出来て冷却効果も有る。

 それはノーマルエンジンに過給器を付けたと同様の効果を産む。

 亜酸化窒素、組成式はN2 Oで……日本という国では何故かニトロと呼ばれる物。

 第二次世界大戦中の戦闘機にも使われたシステムだ。

 ただしルノーftはそれを使っても最高速度は変わらない……どう弄ろうとも、だいたい時速90kmがこの戦車の履帯の限界だ。


 ヴィーゼはその亜酸化窒素の入ったガスタンク、シート下に有るバルブを開けた。

 ルノーftの最高速度は変わらないが、その加速は圧倒的だった。

 車体を素早く回して、谷を下って来るbt-7の右側の横をスリ抜ける。

 そして、そのまま丘の頂点でジャンプした。


 「バルタ! 撃ってよ」

 飛んでいる最中にヴィーゼの愚痴。


 「方向が逆よ! 砲塔の回転が間に合わないじゃないの」

 照準器からは目を外さずに忙しく両手でハンドルを回すバルタ。


 「ええ……」

 逆に怒られた。


 「今度も右側を抜けてよね」

 もう、砲は進行方向の左に固定する積もりだった。


 ルノーftの速度と砲塔の回転速度が釣り合わない。

 もう少し離れて居ればそれも調整が効くのだが、今のは近過ぎる。


 「ほら! もう一回」

 

 「わかったよ」

 ヴィーゼは着地に備えて体を縮込ませた。

 「着地!」


 ドンドンドンと跳ねる様に地面の上で暴れるルノーft軽戦車。

 一応はエアサスのお陰でか多少のショックは吸収してくれる……だけど履帯はそもそもそんな事を想定しては作られては居ないので、目一杯の衝撃がほぼダイレクトに体に伝わった。

 ヴィーゼも備えては居たけど意識が飛びそうだ。

 空飛ぶ戦車なんて有り得ないのだ。


 「ヴィーゼ!」

 バルタの声が背後から飛んでくる。

 グラングランする意識を無理矢理戻して左右のレバーを交差させた。

 ルノーftは左右の履帯の速度差で急激に方向を変える。


 「いくよ!」

 叫びながらに思うヴィーゼ。

 バルタは砲塔で中腰なのに、良くこの衝撃に耐えられるなと。

 上下の落ちた時の衝撃と、無理矢理に曲がった時の横に振られる衝撃の事だ。

 

 ルノーftが丘の斜面に履帯を掛けた時に、ヴィーゼはもう一度バルブを開けた。

 急加速で前を浮かせて加速する。

 ルノーftの後ろに着いている尾橇が地面を擦る音がした。

 それのお陰で後ろにひっくり返る事は無い。

 本来の尾橇の使い方とはまるで違うが今は役に立っていた。

 

 戦車の尾橇は塹壕を越える時に溝に後方が填まり込むのを防ぐ為の物だ。

 塹壕を横に通過する時、まず前が穴に落ちるのだがそれは履帯で掻き上げられる。次に後方は落ちて終えば流石に車体事を垂直な壁を登る事は不可能だ、それを後ろの橇で後ろ壁に滑る様につっかえる様にして落ち切る事を防ぐのだ。

 

 再び丘の頂点に達した。

 地面が無くなる。

 中を舞ったルノーftのその下をbt-7が丘を掛け上がって居た。


 「飛んだら撃てないじゃないの!」

 

 「だから! 着地してから!」

 

 ルノーftは前を上げた状態で地面に触れるのは、やはり尾橇が先だった。

 地面にぶつかり、引っ掛かる様に尾橇が跳ねる。

 と、必然的に前が地面に叩き付けられた。

 履帯はフル回転をしてはいるが、ソレよりも放り出された速度の方が勝っていた……なら、どうなるか。

 ルノーftは跳ね上げられた後方が真上に向くほどに直立した。


 「ひっくり返る!」

 驚いたヴィーゼ。


 「アクセルは踏みっぱなしよ!」

 バルタは叫んだ。


 そのルノーft、どうにか接地してる履帯が地面を掻いてお尻を下ろす事に成功した。

 「危なかった!」

 大きく息を吐いたヴィーゼ。

 

 ドンと近くで音がする。

 bt-7の放った砲弾が近くの地面を破裂させていた。


 「安心するのは早いわよ」


 「わかってる」

 また操舵レバーを交差させた。


 急激に向きを変えるルノーft。

 その間に上下の微調整を済ませたバルタは丘の斜面に張り付いて居たbt-7の後方、エンジン部分を撃ち抜いた。


 白煙を上げて急激に速度を落としたbt-7。

 しかし砲はまだ生きている。

 こちらを狙おうと、走るルノーftを追い掛けて居た。


 「左に曲がって!」

 bt-7を軸に横に流れるルノーftの方向を変えさせるバルタは砲塔の回転ハンドルを目一杯の速度で回していた。


 車体が向きを変える。

 砲塔も同じ向きに回っている。

 双方の動きで敵のbt-7よりも早くに砲を合わせられた。

 微調整は無しの適当な照準。

 それでも当たると……もう一度、引き金を引いたバルタ。


 ドンとbt-7の砲塔が弾けて中を舞う。

 中からは溢れた搭乗員が一人、体をバラバラにして四散した。


 「次は?」

 バルタはヴィーゼに聞いた。

 同じbt-7のエンジン音が幾つか耳に聞こえて居たのだ。

 さあ、どれを狙うの? と、そう聞いたのだ。


 ヴィーゼは返事をせずにルノーftを再び丘の上に上げた。

 見えたのは四両のbt-7が走り回っている。

 三号や四号では追い切るには速度が足らないらしい。

 それでもbt-7の砲弾では300m程に近付かないと撃ち抜けない。

 戦車の300mはすぐ隣の距離だ。

 流石にそこまで近付くのは難しいのだろうbt-7も走りながらに機会を伺っている様子。


 「助けに行くわよ」

 

 「わかってる」

 バルタに言われるまでも無くにアクセルを踏んでいたヴィーゼ。


 その距離をグングンと縮めて行った。

 

 もちろんバルタもボケッとはしていない。

 相対距離1kmを切った時点で撃てる様に準備をしている。


 と、間に38t軽戦車が割り込んできた。

 真っ直ぐ突っ込むルノーftの進路の左から横に流れる様に走っている。

 その距離はルノーftとbt-7の丁度中間だ。

 

 それは今まさに撃とうとした瞬間の出来事だ。

 慌てたバルタは引き金に掛けた指を緩める。

 と、同時にバルタの狙って居たbt-7に穴が空いた。

 38t軽戦車の3.7cm砲は、同じ3.7cm砲のルノーftの高速鉄甲弾よりも威力が有る。

 太さは同じでも火薬を摘める薬莢の長さが全然違うのだ。

 

 「邪魔された!」

 それでも1kmの距離ならルノーftの3.7cm砲でも撃ち抜けたのだ。

 「ヴィーゼ! 次!」


 「邪魔って……同じ仲間じゃん」

 バルタには聞こえない様に小さく呟くヴィーゼだが。

 バルタの耳がそれを聞き逃す筈は無かった。

 

 「仲間だって人の獲物を横取りはぜったいダメ!」

 バルタは次を狙って撃った。


 bt-7に当たった砲弾は大きく凹ませはしたが撃ち抜くまではいかない。

 距離が遠過ぎたのだ。


 「焦り過ぎじゃないの?」


 「違うわよ、敵は私だって教えてやったのよ」

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