156 地面の下の敵
「地下トンネルか」
報告を受けたパトは唸った。
「奴等……こちらの弾切れを狙っているだけでは無かったのか」
「発煙弾を放り込んだら、至る所から煙が吹き出して来た……もう森中」
アマルティアの報告は続いた。
「森を要塞化したのか」
ブツブツと呟きながらに、考え始めたパト。
「そう言えばエルフは穴堀が得意だったな……たしかエルフの町も地下都市だし。穴を掘る為にモグラの魔物も飼っていた筈。地中生活が長いからかソレとも元からか薄い酸素にも適応出来ているとも聞いた」
最後は吐き捨てて。
「厄介な奴等だ」
「とにかく炙り出す為にも、このまま発煙弾を放り込むのを続ける」
「ああ……穴と言う穴を見付けたらドンドン放り込んでやれ」
苦い顔に為っている。
それしか対処法が見付からないと、そんな顔だった。
「でもさ……森の中のトンネルで待ち伏せならさ」
ペトラも聞いていた様だ。
「はじめから入んなきゃ良いじゃん」
「まあ……そうだな」
それには微妙な顔に成るパト。
「ただ……森とココと竜の背の脱出路の距離がな」
「ならさ……私がモグラのゴーレムを造ろうか? 戦車も通れる様なトンネルを掘れるような大きいヤツ」
「クモバモスみたいなヤツか」
「そう! こっちもトンネルを掘って攻撃してやればいいんじゃない」
「そんなにスグに掘れるのか? 土を掘るのは大概に難儀だぞ」
「どうだろう? でも、ゴーレムなら疲れ知らずで堀り続けるよ」
「……」
少し考えたパト。
「出来るかどうかは別にして……準備だけはしていても損は無いか」
「わたしもそう思います」
アマルティアも頷いて居るようだ。
「トンネルじゃあ無くても、簡単な溝……塹壕なら手間も掛からないかもですし」
「成るほど……使い道か」
パトも頷いた様だ。
「ペトラ! 頼んだ」
力強く指示を出す。
さて……森の中。
地中から湧き出す煙が、霞の様に視界の邪魔をしはじめた。
「塞げる穴は埋めてしまえ」
コンクリート・ゴーレム兵が叫んでいた。
「飛び出して来るエルフ兵の的を絞るんだ」
自身は側の大木を根っこ事、引っこ抜き。
土の着いたその根っこを穴に突き刺していた。
土木工事の様に土を掘って埋める依りも手っ取り早いとそういう事らしい。
強引な方法だが理には叶っている。
埋め直した柔らかい土依りも木の方が固いし掘りにくい。
ついで飛び出したエルフ兵を、その大木で叩き潰す事も忘れずにだ。
「どうせなら……もっと一遍に出てきてくれればいいのに」
アマルティアのゴーレム兵がぼやく。
「小出し小出しは面倒臭い」
「エルフもまさか燻されるとは思ってなかんだろう?」
答えたコンクリート・ゴーレム。
少し離れた位置で飛び出したエルフ兵をmp40で撃ち抜いた。
「まあそうか……ブービートラップで罠に嵌めて、トドメを刺す為に隠れて居るんだろうし」
どうにも緊張感が無くなってきた様だ。
また別のコンクリート・ゴーレム。
「俺達を倒したいなら戦車砲でも持ってこいってんだ」
最初のコンクリート・ゴーレムが高笑い。
その話を聞いていたアマルティアのゴーレム兵は思う。
ペトラの造るゴーレムは自由過ぎると。
実際にはゴーレム兵の目を通して見たアマルティアの思いなのだが……ゴーレム兵は自分の心の事だと勘違いをしていた。
自己の意識の有るゴーレムと使役している方のアマルティアの意識が混ざり合っての混乱だ。
だけどペトラのゴーレムは違う。
完全に一個人の意識を有している。
それも……たぶんペトラのイメージでだろうけど。
完全にどっかのオッサンの様だった。
見た目がズングリムックリだからだろうか?
と、そのオッサンみたいなコンクリート・ゴーレムの上半身が弾けた。
いきなり地面の下から現れた戦車に撃ち抜かれたのだ。
そこからは煙は上がっては居なかった。
トンネルとしては繋がって居なかったのだろう。
普通に戦車を埋めて隠していただけの様だ。
それらがゾロゾロと這い出してきた。
「我慢が切れたか?」
コンクリート・ゴーレムはファウスト・パトローネを槍の様に構えて走り出した。
「戦車が大量に出てきた!」
アマルティアは無線機に叫ぶ。
「ゴーレム兵だけでは対処しきれない数だ」
「グリーレは下がれ!」
パトはほぼ同時に指示を叫んだ。
「パト!」
割り込む様にペトラの声。
「マンホールから煙が出てる!」
「煙だ?」
忙しい時に意味のわからん事を言うな……と、叫ぼうとしたパトをクリスティナが服の裾を引っ張って止めた。
そして、路地の奥を指差している。
「道路に穴が空いた」
クリスティナの声は驚きに震えている。
その穴から出てきたのはエルフ兵だった。
「ハンナ! 逃げろ!」
慌てたのはパト。
そして、無線機はそのままで。
「裏をかかれた! ダンジョンの中に敵兵だ!」
「こっちにも出てきた!」
北のボコボコされた方のダンジョンのホームセンターのガレージで作業をしていたペトラの叫び。
それ以外にもアチコチで叫びと銃声が響きだした。
「歩兵は全員で対応しろ!」
無線機のパトの声は怒りに震えていた。
ペトラは目の前に突然に現れたエルフ兵を指差して。
「やっつけて!」
その場に居た手伝いをしていたコンクリート・ゴーレム達はペトラを庇う様に囲み。
造ってホヤホヤのモグラ・ゴーレムがエルフ兵に突進して蹴散らした。
「早く穴を埋めて!」
ジタバタとオロオロとするペトラ。
「任せろ」
一人のコンクリート・ゴーレムは返事を返して。
皆と連携を取る。
そこいらに落ちている瓦礫を担いで次々と穴に放り込んだ。
「戦車が森から出てきた!」
イナとエノも慌てて居た。
先頭に立つ3号戦車と4号戦車も右往左往としている。
右に砲を向けると左から撃たれるとそんな感じだ。
「いったん後退して」
「逃げて」
イナとエノは丘の上に立ち上がり、後ろを向いて叫ぶ。
ヴェスペ自走砲部隊は、上を向いた砲を下げながらに後ろ向きに後退を始めた。
その横を先に後退を始めたグリーレが通り過ぎる。
「敵戦車の動きが速いよ」
無線からオリジナル・バルタの声も聞こえてきた。
「私達が時間を稼ぐから急いで」
目の前の丘の上に飛び出したルノーft軽戦車。
そこに絡む様にして相対したのはエルフのBT-7快速戦車だ。
「フェイク・エルフも居たのか」
逃げながらに呻く様に呟いたオリジナル・エル。
「そうねエルフ軍ならフェイク・エルフも混ざっててもおかしくは無いか」
エルフ軍は主にアメリカの装備を好む。
そしてフェイク・エルフはソ連の装備だ。
その二つの種族は元は同じで、繋がる能力を得られなかったエルフが集まり1つの国を作った。
見た目がエルフなのに能力が無いので、エルフの国でも人族の国でも上手く馴染めなかったのだ。
なので一応は親戚関係みたいなモノなのだが……実際はエルフに支配されて居るのがフェイク・エルフだった。
今は戦争も終わり国も1つに成ったのだけれど……その関係性は終わらなかった。
各々の州では別れても、未だにエルフには逆らえないのがフェイク・エルフなのだ。
「BT-7なら撃ち抜ける」
オリジナル・バルタは照準器を覗きながらに砲塔の回転ハンドルを回した。
BT-7の装甲はだいたい15mm。
ルノーft軽戦車の砲……プトー砲の高速鉄甲弾なら距離400mで21mmの貫通力、1000mでも15mmだ。
詰まりは1km以内に近付けられれば良いのだ。
ただし……敵に撃たれればコチラも簡単に撃ち抜かれる。
「ヴィーゼ……敵の砲の向きを気にして、あんまり離れ過ぎないでよ」
「わかってる」
アクセルを踏み込んだヴィーゼ。
「あんなのサッサと倒しちゃってよね」
姿勢を低く加速を始めたルノーft軽戦車だ。




