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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
156/233

155 森の中


 「クリスティナ……戦況はどうだ?」

 パトが聞いた。

 

 「先頭の戦車が最後の谷? 森まであと1キロを切った位置で止まってる」

 クリスティナはパトの持つ地図を指でなぞって線を引く。


 「グリーレは?」


 「ココとココと……」

 順番に指差して叩いた。

 「砲撃をしている」


 「森から3キロ……所定の位置だな」

 

 「でも、そろそろエルフの反撃がキツくなってきた感じ」

 砲撃が集中し始めた様だ。


 「敵の戦車はどうだ?」


 「たまに出てくるけど……」

 首を捻ったクリスティナ。

 

 「奴等は森に入って来るのを待っているんだろうな」

 

 「隠れて待ち伏せ? でも結構な数で爆撃してるのに?」


 「戦車なら榴弾でも直撃しなければ大丈夫だ……近くに落ちてもジッと耐えているんだろう」

 眉を寄せて。

 「森の中なら自分達の方が有利とでも思っているのか……まあ、戦車の速度と行動は確実に制限はされるがな」

 

 「それはエルフも同じじゃないの?」


 「あらかじめ良い場所にでも陣取って居るのか」

 少し考えて。

 「まさか白兵戦でも狙っているのか?」


 「でも、格闘なら獣人の方が全然強いんじゃないの」

 バルタやヴィーゼを見ればそうだけど……でもエルやタヌキ耳姉妹は其ほどでもないのか。

 考え始めたクリスティナ。


 「確かに……」

 パトは米神を指で叩いて。

 「でもブービートラップは……エルフは得意だな」

 

 「前の戦争の時にもやられたね」

 

 「森の中の其処ら中に仕掛けたか?」

 唸ったパト。

 「エルフは古い時代から獣人を虐げて蹂躙してきた歴史が有る、だから獣人への対処も出来て当然……それがブービートラップが得意な事に繋がるのか」

 

 「え……でも」

 クリスティナはパトを見た。

 「どうするの?」


 


 「ペトラ! コンクリートゴーレム兵を森に送り込め」

 ペトラの無線からパトの声。

 「獣人歩兵は全員戻れ……瓦礫のダンジョンまで撤退だ」

 こちらはペトラとは関係の無い命令だ。


 「アマルティア聞こえる?」

 無線で呼び出したペトラ。

 「私のコンクリートゴーレム兵を預けるから、指示を出してくれない?」


 「いいよ……私もゴーレム兵を6体出すから、それぞれに隊長をやらせる」

 

 「6体も? 大丈夫なの?」


 「随分と慣れたから大丈夫……私自身は動けなく為るけどね」


 「フム……わかった」

 ペトラは自分のゴーレム達に念話を送った。

 『聞いてた? 以降はペトラのゴーレム兵にしたがって』

 

 『わかりました』

 コンクリートゴーレム兵も返事を返してくれる。


 さて最前線のスグ後ろで待機していたコンクリートゴーレム兵は30体。

 ソレを6分割なのだから、1部隊はコンクリートゴーレムが5体にアマルティアのゴーレム兵で合計6体だ。

 武器はmp40を主にで、補助にM24柄付き手榴弾がベルトに巻かれて6個とファウスト・パトローネが一本を肩に担ぐ感じで装備した。

 移動は森までは1部隊にロバ車が1体割り当てられた。

 森に入ればロバは単体に成って背中に左右に割れた大きめの鞄をくくりつけられての予備の武器や弾薬の運搬だ。

 森の中を進むのには、丸いタイヤのリアカーは適していないからだ。


 各々の6部隊の準備が整った。

 ロバ車のリアカーに乗り込んだ6体のゴーレム兵達。

 「何時でも命令して」

 遠隔で操るアマルティアがパトに指示を仰ぐ。

 そのアマルティアは草原の真ん中のヴェスペ自走砲の部隊に混じっていた。

 タヌキ耳姉妹が後方に置いたAPトライクの後席で目を瞑って、無線機だけを握った状態で身動ぎせずに固まって居る。

 

 「よし……突撃してくれ」

 その無線機からパトの声。


 「了解」

 アマルティアの返事と同時にロバ車が走り始めた。

 

 先頭で陣取る3号戦車や4号戦車の横をすり抜ける。

 エルフのM4シャーマン中戦車を横目に無視してそれもすり抜ける。

 時折、近い所で爆発する榴弾で跳ね上げられた土は頭から被っても気にしない。

 とにかく前を目指すのだ。

 

 森に近付くと敵兵のバラ弾が飛んできた。

 M1ガーランド銃の30-06スプリングフィールド弾だ。

 コンクリートで固められたゴーレムの体でも体表を削り取っていく。

 でも、ソレだけだ。

 真正面で受けたとしても、小さく弾けるだけで済む。

 動く事にはなんの支障もない。


 ロバゴーレムの方は土塊なので、体内に鉛弾が残るが……それでも多少の俊敏さが削がれる程度だ。

 やはり、問題は無い。

 まあ、後で修繕をするアマルティアかペトラの面倒臭い仕事が少し増えるだけだ。

 でも、ゴーレム兵達に突撃しろと命じたのだからソレくらいは有っても当然と言える。


 問題なのは持っている武器に弾が当たる事くらいだ。

 撃ち抜かれればmp40もM24柄付き手榴弾も流石に壊れる。

 だから、それらは守る様に体を低くして腹の下に抱き抱えた。


 そのままの状態で森に突っ込んだ所でロバは停まった。

 「散会しろ!」

 リーダーのセーラー服を着たアマルティアのゴーレム兵が叫ぶ。

 その声はアマルティアが発して居るのだが、声音は太く独特なモノに変化してる。

 そのリーダーはロバとリアカーを外して居た。

 そしてロバに予め用意していた左右に二つに別れた鞄を背中に投げる様に掛けると、自身も前進を開始した。


 森の中を無造作に進むコンクリートゴーレム兵。

 敵に撃たれれば、撃たれっぱなしで反撃をする。

 隠れる必要も避ける必要も感じない。

 敵が居場所を教えてくれるのだから、そこにmp40の9mm弾を流し込むだけ。

 なので固まらずに横に並んでの行進だ。


 1体のコンクリートゴーレム兵の真横で爆発が起きた。

 右半分を黒く焦がしたゴーレム兵はその爆発した場所を確認した。

 「手榴弾のブービートラップ」

 野太い声で隣のゴーレム兵に伝える。

 「手榴弾のブービートラップ」

 それを聞いたゴーレム兵も同じ言葉を反復して叫ぶ。

 次々にと叫びが横に移動していく。


 別のコンクリートゴーレム兵は上から飛び降りてきたエルフ兵……どうも黒人の奴隷兵士の様だ、に飛び掛かられた。

 カツンと体と金属が触れる音がする。

 その胸ぐらを片手で掴んで押し倒して……頭を踏み潰した。

 音の正体は着剣したM1ガーランドの銃剣が当たったせいらしい。

 そんなモノが驚異に成るとも思えないのだが……木の上に隠れて居る事も有るのだと理解はした。

 「上にも注意」


 また、同じ言葉が横にこだまして順に響く。


 「いや! 下にもだ! 地面の下」

 これは誰かの叫びだが、意味は良くわからない。

 なので復唱はしない。


 暫くして、地面が爆発した。

 「トラップ?」


 「違う、地面の下にトンネルを掘っている様だ」

 別の誰かの声が返事だった。


 それを聞いたゴーレム兵が確認の為にそこに移動する。

 地面の凹みを利用した様な形の穴が有った。

 人が這って移動出来る大きさの穴。

 そこに頭を突っ込んで確認してみる。

 縦に降りて……横に繋がって居た。

 カン……そのくらい横穴の奥から銃で撃たれた音。

 

 「奥に居る」

 一度頭を出して、今度はM24柄付き手榴弾を横穴に投げ込んだ。


 少し離れた場所の土が振動する。

 また別の所では煙が上がっていた。

 「繋がって居た様だ」


 

 「ペトラ」

 アマルティアは無線機で呼び出した。

 「照明弾か発煙弾が欲しいんだけど」


 「カンプピストルで良い?」

 

 「ソレでいい……各々のゴーレム兵部隊に送れる?」


 「ロバの鞄の中に小さな魔方陣の風呂敷が有るから、ソレで送る。各々の部隊でその風呂敷を拡げさせて」


 「わかった」


 

 アマルティアのゴーレム兵はロバの横の風呂敷に現れたカンプピストルと弾を受け取った。

 数はカンプピストルが人数分と照明弾と発煙弾と爆弾が多数。

 後は黒い皮のランドセルがこれも人数分、その中にそれらが詰められて送られてきた。

 

 ランドセルはダンジョン産の物。

 歩兵の補給を簡単にする為に目一杯の数をかき集めて居たソレだ。

 中に必要な弾薬を詰めて送れば、一個の形で済んで……歩兵も受け取って背中に背負うだけのワンアクションで済む。

 犬耳三姉妹が良くやる方法だった。

 バイクで走りながら受けとるにはその方法が早くて楽だからだ。

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