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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
155/233

154 作戦開始


 「みんな……配置に着いたな」

 パトはシュビムワーゲンの後席のシートの上に、無線機を片手に立っていた。

 

 場所はダンジョンの中のビルとビルの隙間の路地で砲撃される範囲のギリギリ外。

 時間は早朝の日が上ってすぐ。

 最近の何時もの様に、朝日は雲に隠れて見えないけど……明るくは成った。


 「クリスティナ、最終確認だあれから大きな変化は無いな?」

 無線機のハンドマイクを顔から遠ざけて聞いた。


 「変わってない」

 助手席の後ろに座って居たクリスティナが頷いた。

 

 パトも頷いて。

 「開始だ」


 同時に砲撃が始まった。

 味方の15cm.sfh.18野砲がダンジョンの中の幾つもの道路に作られたバリケードの後ろで火を吹いた。

 同時に五門だ。

 

 「エルフが慌ててる」

 クリスティナが見ているのは敵のM2.105mm野砲が有る場所。

 丘陵の草原を挟んだ森の中だ。

 

 「撃ち返して来ないな」

 パトは手元で地図を広げて。

 視線は草原の向こうを見た。

 

 M2.105mm野砲の有ったのは草原から3キロほど進んだ森の中。

 パト達をダンジョンに閉じ込めるだけの為の砲撃部隊で規模はそれなり。

 それが一切の反撃もせずに森の中に四散して逃げた。


 「野砲はまだ残っているか?」

 砲は設置するにも動かすにもそれなりの時間が掛かる。

 だからそのタイムロスが無い自走砲が重宝されるのだ。

 野砲は逃げる時は砲を捨てないといけないけど、自走砲ならそれごと移動できる。


 「一番手前の陣地は……崩壊したと思う」

 完全に全てが潰れたわけでは無いのだけれど……見た感じ半分は壊したと思う。

 敵の損耗率50%は、もう崩壊だ。

 

 「よし……10.5cm野砲を前に出せ」

 15cm.sfh.18野砲はそのままに、バリケードの隙間を縫ってロバゴーレムに引かれた野砲が次々と前に出る。

 ダンジョンから出て草原を走った。

 砲兵も弾薬運搬車もロバ車だ。

 ダンジョンで車やトラックは幾らでも手に入るのに、なぜかロバ車だ。


 「丘の上には出るなよ……見られない谷の底を進め」

 パトは無線機とは関係無くに呟いた。


 その10.5cm野砲が草原を3キロほど進んだ地点で停まって砲撃の準備を始めた。

 もう、そこは撃ち返される敵の射程範囲内だ。

 1つの野砲にロバゴーレムは3体。

 その野砲が3つで1つの部隊。

 そんな部隊が十ヶ所で合計30門。

 次々と準備完了の報告が来る。

 

 「よし、一斉に撃ち始めろ……同時に戦車を前に出せ」

 一呼吸置いて。

 「進軍開始だ」

 唸るエンジン音。

 同時に誰かが叫ぶ声も聞こえる。

 「前進! 前進!」

 それぞれの部隊長か? 戦車長だろうか?

 

 続けざまに火を吹く10.5cm野砲の横をすり抜けて戦車が追い越していく。

 3号や4号……それに敵からの鹵獲戦車。

 回転砲塔を持つ戦車の後ろを進む3号突撃砲戦車。

 そして、少し間を開けて着いて行く自走砲のグリーレが15両だ。

 グリーレの射程は、38kgの榴弾を飛ばして5キロを切る。

 エルのヴェスペ自走砲の半分以下の射程だ。

 威力は有るのだが距離が近い分、反撃も受けやすい。

 そして、ヴェスペ自走砲はエルのを含めても3両でこちらは草原のど真ん中付近を陣取った。

 まずは森の境から5キロ地点までを範囲としたのだ。


 その頃にやっとエルフも反撃してきた。

 森の何処かに隠れて居た砲からの爆撃。

 狙いもソコソコに撃って来るだけ。


 「気にする必要は無いわ! あんなの当たりゃあしないから」

 オリジナル・エルがヴェスペを前に叫んでいた。

 「それよりもコッチも撃つわよ! エルフの砲兵になんかに撃ち負けたら承知しないから」


 それに呼応して返したのは。

 もう2両のヴェスペ自走砲の砲兵達だった。

 元もからの大佐の部下達で、戦争中は一緒に戦った事も有る兵士達。

 流石にエルはその一人一人の顔や名前は覚えては居なかったのだが……向こうはハッキリと覚えていた様だ。

 まあ、当たり前と言えばそうだろう。

 獣人の小さな女の子がヴェスペ自走砲の砲手兼車長なのだから。

 しかも狙って当てまくる。

 目立たない筈がない。

 もちろんそれは他の子供達も同じだ。


 今、3両のヴェスペ自走砲で作った陣地を子供達とゴーレム兵だけで守っていた。

 犬耳三姉妹はバイクに跨がり何時でも飛び出せる準備は出来ている。

 そして三姉妹が見ている先は、左右の丘の上。

 右の丘にはイナ、左にはエノが腹這いで顔だけを出して森を見詰めている。

 敵が飛び出して来ればそれを伝えて、敵の上げる砲撃の狼煙を見付けてはそれをエル達に伝えるためだ。

 クリスティナの空からの偵察では見落としが多いとわかっている。

 木や葉っぱに隠れてしまえば見えないし、故意的に草を被れば簡単に隠れられるからだ。

 自分達がそれをやるのだから……敵のエルフだってやるだろう。

 当たり前の事だと思う。


 もう一つ前の谷の底にはバルタ達のルノーft軽戦車とクモゴーレムに跨がった三人のゴーレム達。

 前線を押し上げる戦車部隊には参加していない。

 所詮は軽戦車。

 最前線に立てる代物では無いのだから、それは仕方の無い事。


 指揮をするオリジナル・エルの後ろにはペトラからの砲弾の転送を受ける為の魔方陣が描かれたシートが敷かれて居て、コンクリートゴーレムが砲弾の木箱を元から着いて来ていた弾薬運搬用のロバ車の横に積み上げていた。


 ペトラの造ったコンクリートゴーレムは中々に優秀で、チョッと頭の悪い子供並みの知能を持っていた。

 エルの持つミスリルゴーレム依りも優秀かも知れない。

 簡単な指示で、後は自分で考えて動ける様だ。

 もちろん銃だって撃てる……敵味方の認識も出来ているからだ。


 「撃って撃って撃ちまくれ!」

 激を飛ばすエルの無線に連絡が来た。

 それはイナだった。

 「Mの18……Kの13」

 

 エルは素早く自分のヴェスペに飛び乗って地図を確認する。

 森が始まるのは縦軸の数字の20以下だ。

 アルファベットは横軸。

 イナの言った座標は、ほぼ真ん前の森の中って事。

 

 「変わって」

 エルは代わりに撃って貰っていた大佐の砲兵に声を掛けて、砲のハンドルに飛び付いた。

 横を合わせて縦を合わせる。


 「薬量は?」

 後ろに退いた砲兵がエルに聞いた。

 装填手をしてくれるらしい。

 

 「6で……流弾」

 飛ばす為の炸薬の事だ。

 最小は1袋からで、6袋で最大。

 丸く平らなチーズの様な形のソレを薄い鉄の缶に詰めて、流線型の砲弾を込めた後ろに押し込み最後に砲栓を閉める。

 カンっと金属音を聞いたエルは引き金を引いた。


 ドンっと跳ねる様に後退りする砲芯。

 

 「もう1発!」

 エルはまたハンドルに取り付いた。

 着弾の確認はしない。

 そんなの当たってるに決まってる。


 ドン!

 

 「敵戦車が出てきた」

 次に無線からの声はエノだった。


 「私の対処は?」

 エルは確認を返した。

 座標を言わないのだから、ヴェスペの出番は無いのだろうけど……一応は聞いてみる。


 「戦車部隊で対処は可能みたい……それよりもモット森を燃やして欲しい感じ」

 ドンドン撃ち込んで炙り出せって事だろう。

 出てきた敵戦車も我慢が出来なく為ったのだろうし。


 「そろそろグリーレが撃ち始めるだろうから、それもすぐだと思うけど?」

 射程が5キロは流石に確りと森に近付かないといけないが、撃たれ弱い自走砲なのでその速度も遅い。

 安全に確実にだ。

 だが、いざ撃ち始めれば無差別な砲爆撃に成る。

 38kg流弾の絨毯爆撃。

 そうなればもう森に隠れて居る事も不可能だろう。

 エルフは選択を迫られる。

 前に出るか、後ろに逃げるかだ。


 一部の戦車は前に出る事を選択したのだから、残りのまだ隠れて居る者も前に出る選択をすると思われる。

 だって、エルフは全部が繋がっているのだから、同じに選択に成るのは仕方の無い事だ。


 ただ……1つ不安に思う事が有る。

 どうにも簡単過ぎると思うのだ。

 ここまで敵の反撃は大して有効でも無いし。

 こちらの戦車隊も進み過ぎている気もしなくは無い。


 「大丈夫なのかな?」

 ポツリと呟いたエル。


 「大丈夫みたいよ……エルフの戦車はM4シャーマン中戦車だし、3号と4号でも対処

出来るわよ」

 イナの返事はそれだった。


 まあ、そうじゃない……とは言わないで曖昧に返事を返したエルだった。

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