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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
152/233

151 反抗作戦の前々夜


 夕方。

 拠点に戻るとカレーの臭いがした。


 外に停めてあるキッチンカーでは無くて、ホームセンターのフロアーの一角に大きな寸胴鍋を幾つも並べて、アリカを中心に四人掛かりだ。

 手伝いのリリーは何時もだが、ハンナにニーナが手伝っている。

 アリカは元は食堂の娘でスキルは料理。

 ハンナはパン屋の娘。

 リリーは宿屋で、ニーナは農家だ。

 

 カレーはもう出来ていて、知らない獣人が列をつくっている。

 人数は沢山で種族も沢山だ。

 皆、肩には銃をさげている。

 kar98kにstg44にmp40……たぶん、各々の特性に合わせての事なのだろう。

 怪我をしている者も居る……腕や足に頭と包帯が巻かれていた。

 それは詰まりは撃ち合いもやったとそう言う事だ。

 

 そして、クロエとコリン……それとオルガも見当たらないのは、結構な重傷者も多いのだろう。

 クロエは医者で。

 コリンは薬士。

 オルガは菌やウイルスを使役出来るから、たぶん手伝いだ。

 怪我人の人数に依っては別のフロアーか、少ないなら外のキャンピングトレーラーのエアストリームだと思う。

 

 そして、少し離れた所にローラがミシンを動かしていた。

 服の直しか修繕なのだろう。

 

 その目に付く知っている者達……同じ町の住人で、前の戦争でも後方部隊を勤めた皆は同じ服を着ていた。

 上下セパレートの夏服のセーラー服。

 パトに言わせると、ダンジョンの世界の学校の制服らしい物。

 それは、今の私達と良く似ている格好。

 背が足りない者はワンピースのセーラー服だけど……でも、これが私達の戦闘服だ。

 そして、ハンナ達もそれを着ているのだから戦争がここに有るという事。

 

 「ぱと……私達に出来る事は有る?」

 オリジナル・バルタが聞いた。

 

 それに、少し驚いた顔をしたパト。

 すぐに真顔を見せて、口許に手を遣り……考え始める。


 と、背後から騒がしい一段が建物に入って来た。

 

 パトは考える事を一時中断して、その集団の先頭の一人に声を掛ける。

 「大佐……どうだった?」

 タイガー1重戦車の持ち主だ。


 「相変わらずだな」

 渋い顔に為る大佐。

 「エルフ共は小出し小出しで牽制してくるだけだ。こちらの無駄撃ちを誘っているんだろう……だけだな」

 

 「なら……もう大丈夫だ」

 パトは外を指差して。

 「見たか? 弾薬はたっぷりと有る」


 「ああ……見た」

 大佐の眼光に光が宿る。

 「あれなら……久し振りに戦車にも乗れる」

 ニヤリと笑った。

 そして、パトの後ろに居た私達を見咎めて。

 「懐かしい顔だが……彼女達が補給物資を運んでくれたのか?」


 少し間を開けたのだが、ハッキリと口にするパト。

 「ああ……そうだ」

 

 「流石にお前の部下だ、優秀な子供達だな」

 頷く大佐。

 「アレだけの量を良く運べたもんだ」


 「あれはほんの一部だ、まだまだ物資は増える」

 パトもニヤリと笑い返して。

 「もう弾の節約なんてみみっちい事を考える必要はない……無駄弾も含めて、幾らでも撃ち放題だぞ」


 驚いた顔をした大佐。

 「何時だ? 何時始める」

 そして、すぐに鋭い顔を見せた。

 「今夜でも、明日の朝でもいいぞ」


 「いや……」

 パトはグルリと周囲を見渡して。

 「一日……間を開けよう。明日は半分が休養日で残りが準備だ」


 「了解」

 頷いた大佐は食料の配給の列に自分も並ぼうと歩き始める。

 「作戦は任した」

 

 「そっちの方が上官だろう?」

 溜め息を吐くパト。

 

 「それは前の戦争の話だ……それに今もそれが有効なら、出来る者に仕事を振るのも上官の務めだ」

 背中越の返事だった。


 「さて……」

 パトは子供達に向き直り。

 「ペトラ、ゴーレムを大量に造れるか?」

 指差したのは弾薬箱をイソイソと運んでいるゴーレム達。

 「あれはお前が造ったのだろう?」


 「いえ……あれはアマルティアのゴーレム兵です」

 ペトラはボソボソと返す。

 「私は、人形のゴーレムが造れなくて」


 「アレをアマルティアが?」

 驚いたパト。

 「えらく優秀そうだぞ?」

 ヘルメットを被り上着だけのセーラー服を着ている。

 そして、自分の判断で動いて居るようにも見える。


 「あれは、私が意識を共有させて動かしているので……5体が限度です」

 アマルティアは苦笑い。


 顎に手を当てたパトに、マリーが聞いた。

 「今、何でペトラだと思ったの?」

 おかしいと首を捻る。


 「いや……」

 うーんと唸ったパトは、胸の内ポケットから手帳を出した。

 「これはペトラの能力が掛かれた物だ」


 「私の能力ですか?」


 「それは何処で手に入れたの?」

 マリーはその手帳を取り、中を見る。

 「魔方陣が沢山……」

 一ページの左側に魔方陣の画、右側に簡単な説明。


 「それを寄越したのはセカンド……カワズだ」

 マリーの手の中の手帳のページを反対側からペラペラと捲って、指差す。

 「ここにゴーレム作りのページが有る」


 「これは……はじめて見る魔方陣?」

 首を捻っている。

 「ゴーレムとは関係が無さそうにも見えるけど?」


 「直接は関係がない」

 頷いたパト。

 「ペトラの記憶の一部を思い出す為の魔方陣……らしい」


 「記憶?」

 マリーはペトラを見た。

 「そうね……本来はドラゴンの娘なのだものね」

 だいたいがこの世界を造ったのだから……出来ない事は無い筈なのだ。


 「しかし……今のペトラには許容量が少ないから、この全部は無理らしいが」


 「どれぐらいは大丈夫なの?」


 「さあ? それはカワズもわからないと言っていた」

 肩を竦めて、今の肉体の限界がわからないのだ。


 「死んで……思念体に戻れば、全部かな?」

 マリーはペトラを見た。

 

 「ええ……殺されるの?」

 ペトラは一歩引いた。


 「殺さないわよ……思念体に戻ってもここに留まれるかもわからないのに」

 

 「ああ……どうも思念体には行き先が有るらしい」

 パトも首を左右に振った。

 「ペトラの部屋?」


 「そこには……生身で行けるの?」

 これは純粋に興味の話。

 

 「どこかの古代ダンジョンを越えれば……らしいが詳しくは知らん」


 「古代ダンジョン……ね」

 マリーには思い当たるモノが有るらしい、考え込み始めた。


 「それよりもだ……ペトラの能力を解放するかどうかだ」

 

 「ああ……そうね」

 マリーはペラペラとページを捲り。

 「この魔方陣は……体の何処かに描き込めば良いのよね」


 「それで解放されるらしい」


 「なら私でも描けるわね」

 頷いて。

 「数が限られるのなら……もう少し吟味する必要が有ると思うわよ」


 「わかった任せる……ただしゴーレムは出来るだけ欲しい」

 パトも頷いて。

 「これは現状での要望だ」


 と、だ。

 今度はクリスティナを見た。

 「その抱いている鳥はなんだ? フクロウの様だが」

 

 「私が使役しているの……エルフの能力? らしいよ」

 足元の二匹のマガモもお辞儀をした。


 「使役か」

 少し首を捻るパト。


 「結構便利だよ」

 犬耳三姉妹のエレンが教えてくれた。

 「空からの偵察が出来るんだよ、凄くない?」


 「ほう……成る程」

 頷いたパト。

 「モグラだけでは無いのか」

 苦い顔を見せた。

 「って事はだ……エルフも鳥を使役してこちらを覗けるって事か」


 「その可能性は有るけど……低いわよ」

 マリーが手帳を読みながらの返事。

 「その子の手の平の魔方陣はコツメが描いたのだけど、エルフの言語と人族の言語に獣人の言語が混ざっているのよ……たぶん、エルフはそれを使うのはプライドが邪魔すると思うけど。本来のエルフの使役獣はモグラだけの筈だし」

 あ! と、パトを見て。

 「コツメってのは、昔の私の仲間の獣人の娘。コツメカワウソのだからコツメらしい」


 「そうか……なら、存分に偵察を任せられるな」

 コツメさんの情報はどうでも良いと流したパト。


 「あと……アマルティアの造るロバも結構役に立つわよ」

 マリーは外を指差した。


 「ロバ? あのラクダ見たいなヤツか?」

 

 「ロバです」

 アマルティアが小さく呟く。


 「それ……力も有るし疲れ知らずだから野砲でも簡単に引っ張るわよ」


 「クモの形のゴーレムも居たな?」

 フムフムと考え始めたパトだった。

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