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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
15/233

014 子供達は暇なようだ


 さてそんな元国王達の話を無線越しで聞いていたタヌキ耳姉妹。

 二人して首を捻った。

 

 そしてエルに尋ねる。

 「今の話って……どういう事?」

 「なに言ってるのかわからない……」


 聞かれたエルはフム……と鼻を鳴らして。

 「私にもわかんない」

 ドヤっと胸を張る。


 「え? さっきワザワザ無線まで使って会話に入っていったじゃないの」

 イナの言葉に横でエノも頷いている。


 「前半は何と無くわかった……要はあの村で悪い事をしてるって話」

 エルも合わせる様に頷いて。

 「でも後半? 理由の理由? それと対処? ……そんなのわかるわけないじゃない」

 下唇を突き出して。

 「そんなのは偉い人とか、大人だけで勝手にやって……って話よ」


 「なにそれ」

 「熱心に聞いてたから、わかってると思ってた」

 呆れた二人。


 「熱心には聞いてないわよ……暇だから聞いてただけ」

 少し肩を竦めて前に向き直り。

 「退屈しのぎよ」


 「もう……誰か教えてよ」

 「気になるじゃない……わかる人居ないの?」


 「わかるわけないじゃん」

 返事は無線からのエレン。

 「だいたい興味ないし」

 続けてアンナ。

 「モゴモゴ……モゴ」

 ネーヴの口には、まだパンが刺さっている様だ。

 

 「一応はわかるけど……」

 これは無線では無くて、前の方からの声。

 運転席のローザだった。

 「要は、人生の終わりが見え始めた老人の戯言って事。今更どうにも出来ない事を自分だったらどうするって話よ」

 肩を少しすぼめて。

 「年寄りはそんな話をしたがるのよ」


 「マンセルもするの?」

 実感……みたいなモノを感じたエルが聞く。


 「たまにね……ってか、酔うとわりとしょっちゅうかな?」


 「成る程……って事は、ムーズもわかってないわね」

 エルは何度も頷く。


 「そうなの? わりと話が噛み合っていた様な気もするけど」

 イナ。


 「あれは……多分適当に合わせていただけね」

 笑ったローザ。

 「ムーズはお爺ちゃんっ子だから……そういうのが得意なんじゃないの?」


 「後で聞こうと思ったのに……」

 エノ。


 「あんな話に興味有るの?」

 驚いた様子のローザ。


 「無いけど……」

 「暇だしね……」

 タヌキ耳姉妹は二人して顔を見合わせた。


 「確かに……暇ね」

 その部分はエルも同意する。

 

 「退屈だね……何にもないし、ただ草原が続くだけ」

 ローザも同じようだ。


 「ねえ……バルタ」

 「何か居ないの?」

 「モゴ?」

 犬耳三姉妹もヤッパリそれは同じらしい。


 「へ?」

 突然に振られたバルタはスットンキョな声を出す。

 何も考えていない時に不意討ちを食らった時の声だった。


 「魔物とか……探してよ」

 エノがバイクを戦車に寄せて、直接と無線を同時に使って訴えた。


 「ウーン……」

 唸るだけのバルタ。


 「ヴィーゼは? 何か見えない?」

 イナも戦車に近付いた。

 バルタは動いて音を立てているモノは感知出来るけど……動かないモノは全く無理。

 その点、ヴィーゼは意識を飛ばして遠くを見通せるから、動かない人工的なナニかでもわかる筈。

 退屈さえ凌げれば、どっちだって良いのだ。


 「アッチに道路が見えるけど?」

 ヴィーゼからは皆が全く期待していない答えが返って来た。

 道路が期待しないモノでは無くて、まさかナニかの答えが返ってくるとは思ってもいなかったのだ。


 「じゃあ……そっちに行ってみよう」

 言う依りも早くに三姉妹は走り出していた。


 「何にも無いよ……ただの道路だし」

 ヴィーゼはどちらかといえば……今の草原の方が良いと思っていた。

 戦車の操縦に変化の有るのは草原の方だし、それの方が練習に成る。

 マンセルを越えられるってのに少し燃えていたのだ。

 戦車を極力揺らさない様に……ルートを自分で判断する。

 音は無闇に大きくしないように効率良く動く。

 そして敵を発見しやすいルートと敵に発見されにくいルート……相反するその二つを、ここならこうで……あそこならこうだと脳内シュミレーションをしていた。

 まあ……それも暇潰しの遊びなのだけど。

 

 しかし……皆がそちらの方に向けて動き出したのでヴィーゼも仕方無くルノーを向かわせる。

 もう、オイテケボリは嫌だ。

 

 




 道路の上。

 街道を進む一行。

 石畳と煉瓦畳とを二で足して割った様なモノが延々と敷き詰められている。

 前にも延々と……。

 後ろにも延々と……。

 幅は少し広目で、大きめの戦車がスレ違うには無理が有るが……ルノーやヴェスペぐらいの小さいクラスなら余裕が残る。

 本来は幌馬車や荷馬車を通す為の道として造られたそれだから、サイズ的にはそんな感じか。

 そして道の端は適当に何もなく草や土と段差無くに交じっていた。


 「快適じゃのう」

 幌車の中でくつろぐ元国王の何度目かの発言。

 

 「さっきからおんなじ事しか言わない」

 エルはボソリとそれに答えた。


 「自慢だから仕方無いのよ……自分が国王の時に造った道だから」

 イナもボソリと。


 「綺麗じゃろう? 雑草や土の汚れも無い」


 「ハイハイ……そんな魔法のナニかが掛けられているんでしょう?」

 エノもやっぱりボソリと。

 

 「魔物も寄ってこんし」


 「それが問題よ……余計に暇じゃないの」

 エルも少しイライラしている。

 「これだから年寄りは嫌なのよ……昔の自慢を延々と続けて」


 「まあ……でも」

 ムーズがそのジジイの相手をしている様だ。

 「凄い事は凄いですよね」

 ニコニコと笑いながら……そして小首を少し傾げた。

 「ただ……街道を整備したのは……確か……もっとズッと前の国王の筈」

 これは、とても小さな声での事。

 

 「それをワシが改良して……もっと増やしたのじゃ」

 しかしそれを聞き逃さない元国王。

 少し憮然と言葉を被せる様にして大きく胸を張る。

 

 「どっちだっていいよ」

 「暇な事には変わり無いし」

 「モゴ……」

 三姉妹は完全に退屈していた。

 街道に出ようが出まいがそれは解消されなかったらしい。


 「誰か……前に居るみたい」

 バルタがポツリ。


 「え?」

 「ホント?」

 「モゴ?」

 バイクで加速する三姉妹。


 今までは平均時速で40km程。

 三姉妹の乗るモンキーでの最高速度は55km。

 15kmの差だが、それでも速いものは速い。

 ツツツーと先頭に躍り出て、そのまま一行を置いて先に進んでいった。


 整地された道路での40kmはエルの戦車のヴェスペがそれが限界だからだ。

 次に遅いのが魔物が引っ張る幌車……それでも本気で走ればもっと速い様だし、ゾンビだからか疲れ知らずでもある。

 一番に遅いのがヴェスペだから、車列はそれに合わせている。

 エルが少しイライラしていたのはそのせいもあった。


 ……。


 「居た居た……」

 「荷馬車だ」

 「モグ」

 無線からの声。


 「ネーヴはいい加減に口からパンを出しなさいよ」

 エルの愚痴。

 「いつまで食べてるのよ」


 「それだけ暇だったのでしょう?」

 「あまりにも何もやること無いと……ついつい口に何か運んじゃうもんね」

 イナとエノ。


 そんな事を話している三人だが、その顔はニコニコとしている。

 進んだ先に居る荷馬車が、少しでも暇を解消してくれるとそんな期待でだった。

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