148 パトの背中
ダンジョンには段差も無くてすんなりと入れた。
元が高低差の激しい丘陵地帯なので、何処かの高さと偶然に合ったのだろう。
左右の建物も何時もの感じのビルだ……少し低い印象を受けるがそんな場所も在るのだろう、なだけで代わり映えしない。
ダンジョンなんてみんなそんなものだ。
「ねえここって……気付いてる?」
オリジナル・エルが無線から連絡してきた。
「ダンジョンがなにか?」
オリジナル・バルタはそれに返した。
「大した事じゃあ無いんだけどさ……左のコンビニを見て」
ん? と、ビルの一階のコンビニ。
「看板が茶色いよ……それと真っ直ぐ向かってる先の建物はホームセンターじゃない?」
「ほんとだ……」
「ここって、ペンギンのダンジョンとまったく同じじゃないかな?」
「たしかに……見に覚えの有る感じね」
フムと頷いたバルタ。
「まったく同じってのは珍しいね……たしか京都とか言ってたっけ?」
それでも驚く程では無い。
カワズの転生能力はカワズの居た世界の記憶だかナニかを便りに広い範囲をコピーする能力だ、同じ場所を何度でも可能だ。
その場合は、同じ人間が何人も転生される事にも成るのだけれど。
2回のコピーなら、同一人物が同一の年齢で同一の服、格好の人物が二人存在する事に為るだけ。
カワズならダンジョンの殆どの人間を殺してしまうので……運良く偶然に生き残った同一人物が居てもおかしくもない……ただし、相当な運だとは思うけど。
ただダンジョンのペンギンは鬱陶しかったけど……でも、魔物はダンジョンのコピーの後に発生する自然な転生で出てくるモノ……だから同一のダンジョンだからって魔物も同じとは限らない。
コッチのここはどんな魔物だったのだろうか……武装した人の気配をアチコチに
感じるここではもう既に討伐は終わっているのだろうけど。
その興味も無くはない。
ハンナの乗ったシュビムワーゲンが右折して建物の敷地に入った。
件のホームセンターだ。
それに続くバイクの犬耳三姉妹やタヌキ耳姉妹も中へと進ませる。
次に曲がったのはルノーft軽戦車だった。
「うわ! 戦車」
オリジナル・ヴィーゼが大きな声を出す。
バルタも目を剥いた。
ホームセンターの正面のガレージは戦車で埋め尽くされていたのだ。
一番に目立ったのはタイガー1戦車。
左右には4号戦車に3号戦車に3号突撃戦車。
エルと同じヴェスペ自走砲も居た。
似た様な形のマルダー2も有る。
そのドイツ式戦車の間を縫って進むと……t-34中戦車にbt-7快速戦車。
この間戦ったM4シャーマン中戦車にM24チャーフィーとM5スチュアートも見える。
こちらの戦車達は側面や正面に適当にペンキが塗られている。
たぶん鹵獲戦車なのだろう。
そして、銀色の車体のエアストリーム牽引車に赤い車体に龍の絵のキッチンカー……馴染みの有るヤツだ。
成る程……それがここに有るって事は、ハンナ達だけで無くクロエやアリカ達もいるのだろう。
探せば小さな牽引車付きのスクーターのビーノも有る筈だ。
そして、38t軽戦車も有った。
背中のエンジン部分に取り付いて居る見覚えの有る背中、マンセルだ。
そのマンセル、こちらに気付いてスパナを持った手を振っている。
その後ろから顔を覗かせたのは……獣人の子供。
見た事も無い顔だ。
私達の町に居た子では無い。
そもそも町には獣人の子供は私たちだけだから、それは間違いない。
「誰だろうね?」
ヴィーゼも気に為ったのだろうバルタに尋ねる様に呟いた。
「さあ……」
聞かれても困るとバルタは返す。
マンセルの側に居るって事は……パトが拾ってきたんだろう、としかわからない。
さて、そのマンセルの行動が引き金に為ったのか、それまで気配だけで隠れて居た者達がゾロゾロと姿を現した。
皆が獣人だった。
男も女も種もバラバラだが……皆が武装していた。
そして、少ないが子供の獣人も見える。
ハンナが車を停めた。
ホームセンターの入り口の正面だ。
そして、建物の中に入っていく。
私達も慌てて、各々の車両から降りてそれに続く。
中は商品棚が端っコに追いやられて、真ん中にスペースを作りテーブルを中心に数人が集まっていた。
バルタはその一人の男の背中に目が釘付けに成った。
その横に居た女性、コリンが男の肩を叩いてこちらを指で指し示す。
振り向いた男。
ニコリと笑って。
「お前達も来たのか」
同時に走り出したヴィーゼが抱き付いた。
「パトだ!」
次に続いたのは犬耳三姉妹。
そしてエルにタヌキ耳姉妹も。
団子に成って抱き付いた。
パトは各々の頭を撫でて……こちらを向いた。
「バルタも久し振りだな」
手招きして。
「少し大人に成ったか?」
最後にソッと近付いたバルタの頭にも手を置いたパト。
暫くの間、そうして居ると。
アンやローザにクリスティナにペトラとアマルティアも側に来た。
ただ普通に挨拶を交わしている。
そして、また目線を奥に送って。
「変わったゴーレムも居るんだ」
笑顔で呟く。
「見た目がバルタに似ている気がする」
「ハイ……私もバルタです」
ゴーレム・バルタが遠慮がちに答えた。
「私はヴィーゼ」
次はゴーレム・ヴィーゼ。
そして、後ろを指差して。
「こっちはエルだよ」
ん?
混乱したパトはオリジナルの方の三人を交互に見る。
「はい、そっちのゴーレムも私です」
オリジナル・バルタは答えた。
「どういう事だ?」
笑顔が氷り付いているパト。
皆の説明を受けて、ミルミルうちに顔色を変えた。
そして、絞り出したのは。
「あのジジイ……ロクな事をせんな」
そして、ゴーレム達の後ろに隠れる様にしていたマリーを見付けた。
キッと睨み。
「なぜそう為った」
ゴニョゴニョと言い訳を始めるマリー。
「子の始末はどうする積もりだ」
それには答えられないマリーは黙り込んでしまった。
「まあ……やってしまった事は仕方無いにしても、解決策は考えて置けよ」
許す気は無いぞと脅す。
「ジジイにも言っとけ……どうにかしろと」
「どうにかって……」
マリーは口ごもる。
「それは自分で考えろ……解決できる迄一生でもだ」
パトは怒鳴っていた。
そして、ゴーレムの三人も手招きで呼び寄せて、やさしくハグをした。
ゴーレムの三人もそれに答える。
ひとしきり子供達と触れ合い。
アンの顔を覗くパト。
「その罪はわからん」
頭を掻いて肩を竦めるアン。
「人をコピーする事は殺人でも誘拐でもないしな」
「オリジナルが獣人では……どうにも出来ないってところか?」
「まあ……そうだな。貴族や人間なら新しく方を作るか、それとも適当なヤツをでっち上げるかだが」
アンは困った顔に成る。
「でっち上げるのか……」
それはそれでとパトも困った顔だ。
苦笑いのアン。
「でだ……今ここで逮捕されるわけにはいかないのだが」
話を変えた。
今度は自分の話だ。
それにも苦笑いで答えたアン。
その側に男が一人、近付いた。
「クレイブ兄さん……なぜここに?」
驚いていたアン。
「詳しい説明は後だ……それよりもここでパトの逮捕は無しだ」
クレイブはアンの手首を掴む。
アンはクレイブとパトの顔を両方を交互に見て溜め息。
「二人して……何を企んでいるの?」
クレイブは先の戦争迄は国のスパイだった。
それはアンも知らなかった事。
知ったのは戦争後のその後だ。
今、アンの家が変わらずに警察軍の家業を引き継げたのももう一人の兄とこのクレイブとが暗躍したお陰だ。
たぶん誰かの偉いさんか、それに影響力を持ちそうな誰かを脅したんだと思う。
それともエルフになにか手見上げか美味しい餌さでも蒔いたのだろうか?
その中身は教えてはくれなかったが……たぶん非合法には違いない。
「今度のこれは……説明してくれるのか?」
アンはクレイブに聞いた。
それにはニコリと笑ったクレイブだった。




