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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
148/233

147 パトの居場所


 無線が繋がった。

 その第一声はハンナの声だった。

 「あんた達なんでこんな所に居るの!」

 怒って聞こえる勢いだ。


 「いや……それはコッチが聞きたいよ」

 オリジナル・バルタも言い返す。


 「元国王はどうしたの? ムーズは?」

 

 「元国王とは王都で別れたよ……ムーズは居るけど」


 「ムーズを出して……いや、いいわそっちへ行くからまってて」

 ハンナはそれで無線を切った。




 待つ事、暫く。

 水の上を小さな引き波を左右に残して近付くシュビムワーゲン。

 フロントガラスは立てて、幌は畳まれた状態。

 成る程、フロントガラスに月の光が反射していたのかと納得、それならいくらタヌキ耳姉妹でも見えないわけだ。

 

 小さな騒ぎは、寝ている者も全員起こしてしまったようだ。

 車両から降りて湖面を皆で見詰めていた。


 岸にぶつかり、前輪を浅い湖底に掛けてよじ登る。

 陸に上がり道路にまで進み、ローラは後ろの水面移動用のスクリューをシュビムワーゲンの背中に引っ張り上げた。


 「で……どういう事?」

 ハンナはムーズを見付けて問い詰める。


 「私は……喋って無いわよ」

 ムーズは小さく呟いてペトラを見る。

 「ドラゴンがしゃべっちゃったのよ」


 「ねえ……ムーズは知っていたの?」

 オリジナル・バルタが聞いた。


 小さく頷くムーズ。

 

 やっぱりそうか……とは思うけど誰も驚かない。

 予想は出来ていた。


 「で……ハンナ達は何故ここに?」

 今度はオリジナル・バルタの聞く番だ。

 「だいたいの予想は着くけど……私達を除け者にしてパトの所に行ったって感じ?」


 「別に……除け者には」

 ハンナは口ごもる。


 「でも、元国王と結託して私達を王都にまで行かせたんでしょう?」


 「それは……あなた達が危険だからよ」


 「危険? 私達はそんなに弱くないわよ」

 

 「わかってるわよ、でも下手に暴れてしまえば……国に喧嘩を売る事にも為るからって……」


 「それは誰が言ったの?」

 目を細めたバルタ。


 「お爺さん」

 ハンナはムーズを指差した。


 「そう……お爺さんの計画なのね」


 「計画と言うなら……元国王とだけど」

 大きく溜め息をはいたハンナは諦める様に喋る。

 「パトの指名手配を知って……それからすぐに町を襲う計画も知ったのよ」

 首を小さく振って。

 「そちらは国の軍隊……パトの町の捜査を名目に占領するって話」


 「町の占領?」

 バルタはユックリと振り返り……アンを見た。


 「その作戦には警察軍は排除されたよ……パトを庇ったからね」

 肩を竦めて。

 「でも、町の住人の大半は転生者で残りの大半も獣人……純粋な人族も居たけど少数だからね。国はその住人を逮捕して、エルフに差し出す積もりだったらしい」


 「なぜ、そんな事を?」


 「国が1つに為ったけど、民族はバラバラでそれは変わらない。だからエルフの怒りをそれで許してもらう積もりだったんだ……前の戦争は引き分けだけど、でも殆ど人族が負けていたからね、そうなれば国の政治もエルフに片寄らずにはいられない。だから人族もすり寄る者が出てきてもおかしくはない」


 「それはドラゴンも承知?」


 「知っていてもドラゴンは気にもしていないらしい、種族間の争いには関知しないとそんな姿勢だ。たぶん、自分の姿と違い過ぎるから実感が無いのかも知れないけど」


 「私達が……豚や牛の喧嘩を見ている感じ?」

 オリジナル・エルがポツリと答えた。

 

 「たぶんそうなんでしょうね」


 「それと、ドラゴンは不死だからでしょう? たぶんパトもペトラの死も気にしてないと思うわよ……どうせまた転生して来るのだからと、ってね」

 マリーも答えた。

 「それに政治の話は……まあドラゴンにわかる筈も無いわよ。ズッとボッチだったんだから」


 「そうなの?」

 オリジナル・ヴィーゼはペトラを見た。


 見られたペトラはわからないと肩を竦めるだけ。


 「この世界の管理人でしょう? 神の様な存在。神っての引きこもりでボッチなのは仕方無い事よ、自分と並ぶ強さを持った者が居ないんだから」

 薄らく笑う。

 「だから暇潰しでロクな事をしないのよ」

 吐き捨てた。


 「まあ……力を持った者はロクな事をしないってのは事実だろうね」

 オリジナル・エルも頷いた。

 「まあ、でも……ドラゴンはロクな事の以前に何にもしてない気もするけど」

 

 「それはそうだけど……強い力を持って、何にもしないってのはそれはそれでどうなの? って話ね」

 マリーは鼻で笑う。

 「食っちゃ寝で、適当にスキル弄ってって……ロクなもんじゃあ無いわね」


 「でも、王様ってそんなもんじゃあ無いの?」

 オリジナル・ヴィーゼは首を傾げた。

 「ドラゴンって王様よりも上の存在なんでしょう?」


 「いや……そんな事はどうでもいいのよ」

 オリジナル・エルが遮って。

 「ハンナ達はパトに会ったんでしょう? なら私達にも会わせてよ」


 「そうだね」

 ハッとした顔でヴィーゼ。

 「連れてってよ!」


 

 

 シュビムワーゲンを先頭に湖畔を進む。

 日も昇りはじめて、朝に成っていた。

 明るく成って改めて気付く。

 大きな湖だ。

 私達の町の側にも大きな湖が3つ有るけど、もっと綺麗な水で透明度も高い。

 こんな泥水の様な感じじゃ無い。


 「そう言えば……水軍は?」

 オリジナル・バルタは気になったので聞いてみた。


 「今は居ないわよ……遡上して産卵しているらしいよ、今の時期は」

 ローラが答えてくれた。


 「そんなのが有るんだ」

 産卵って、魚? やっぱり両生類なのかな?

 

 「それと……聞いていい?」

 

 「なに?」


 「町が襲われるって話だけど……大丈夫なの?」


 「一応はムーズのお爺さんが指揮を取って撃退するって言ってたけど」


 「出来るの?」


 「若い頃は貴族軍でブイブイ言わせてたらしい」


 「信じられない……ってか貴族軍でしょう? それじゃあ駄目じゃないの?」


 「軍曹さんやヤニスさん達が居るから」

 

 「あああ……そうね大丈夫ね」

 お爺さんは只の御輿だ。

 実際に戦うのがパトの元兵士達改め今は冒険者だ。

 戦争の経験値が全然違う国の軍隊に負ける筈がない。

 大多数の物量で来られても、拠点防御なら相当の時間は耐えられるだろう。


 あれ? でも待てよ……町を出てすぐに戦っている戦車を見た。

 あれって、もう国の軍隊が来てたって事なのかな?

 そう言えば、元国王がどっちの見方をするのかと聞いて、有耶無耶のうちに離れた気がする。

 もしかして元国王はわかっていてそう言ったのだろうか?

 あの片方は町の皆?

 ハッキリと見えたのは制服を着ていた方の部隊。

 黒っぽい制服は国の新しい軍服?


 近くにはエルフの村も在った。

 あれもそうだったのだろうか?

 私達の町の監視の為にソコに村を作った?

 たぶん元の普通の村を国がエルフに売ったんだ……私達を売るための準備として。

 うわ……そう考えると、結構ギリギリだったのかも。

 あと1日出発が遅れれば、私達もあの町で戦争をしていたのか。

 それでもいいけど……でもパトに会えるなら上手く逃げられて良かったのか。

 結果論だけどね。


 


 湖を越えて林に進み。

 大きな橋を越えた。

 川幅は大きく底も深いわりには、水量はチョロチョロの緩やかな流れの川。

 そこを越えて進めば草原。

 起伏の激しい丘や谷の連続。

 昼過ぎにはダンジョンが見えてきた。

 ハンナの運転するシュビムワーゲンはそのダンジョンを目指しているらしい。


 そこにパトが居るのかと心がはやる。

 久し振りに会える。

 二年ぶりだ。

 

 ダンジョンに入ると助手席のローラが左右の建物に手を振っている。

 その先には数人の人間らしき者の気配が感じられた。

 皆が普通に銃を所持している様だ。

 ローラの手振りでこちらが敵では無いとわかったのだろう、その銃を床に下ろす音も聞こえた。

 

 「成る程……やっぱり戦争をしているのね」

 オリジナル・バルタはポツリと呟いた。

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