表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
147/233

146 有り得ない遭遇


 もうそろそろ夜も終わろうとしていた時、後ろで寝ていたヴィーゼが起き出した。

 バルタの背後で大アクビと、体を前後に伸ばしてストレッチをしている。

 頭と目はまだまだ半分以上は寝たままのようだ。

 ブツブツと言っている独り言が要領を得ない。


 「どんな夢を見ていたの?」

 独り言の意味を聞いてみたオリジナル・バルタ。


 「空を飛んでたら……魚に食べられちゃった」

 

 食べた夢じゃあ無いんだと、クスリと笑う。


 「ここ……どこ?」

 目を擦り上げていた。


 バルタは右の方を指差して。

 「今は回り道中」


 「回り道?」

 バルタの指を見て……右を向く。

 「あ……シール」

 目を細めていた。


 ヴィーゼが貼った口の無い猫の顔のシール。

 それが見えているなら、そこは戦車の砲塔の中の壁だ。

 「外を見て」

 

 「う……うん……」

 ボケボケの顔で目を瞑る。

 ……グラリと揺れた頭。


 「まだ眠いなら……寝ててもいいよ」

 

 「大丈夫……」

 ハッとして顔を上げて……もう一度、右を向いて目を瞑る。

 「なんにもない……?」


 「大きな湖よ」

 真っ平らな黄茶色の水面が広がっている。

 その水面には満月が映し出されていた。

 今夜は珍しく晴れていて、雲に隠れる事もなくに顔を出した月だ。


 「ほんとだ」

 頷いたヴィーゼはそのまま左に顔を向けた。

 「こっちは相変わらずのジャングルだ」


 「道が湖岸に沿ってる感じ」

 

 チラリと下を覗いたヴィーゼ。

 「何時もの石畳だね」

 もう一度、大きく伸びをして。

 「操縦……代わろうか?」


 「まだ……いいわ」

 バルタは肩を小さく竦めて。

 「うるさくて……寝れないだろうし」


 「ああ……カエルの鳴き声?」

 耳を澄まして。


 「それと……虫と獣の鳴き声」


 「そうなの?」

 ヴィーゼは砲塔の後ろのハッチを押し開けた。

 微かにだが聞こえたのだろう。

 「ほんとだ」


 「太陽が昇れば……少しはマシに為るだろうから、その時に代わって」

 ヴィーゼには微かな音でも、それが気になってしょうが無いのだ。

 特に中途半端に緊張を強いられる場所と状況なら尚更だ。

 今は魔物に水軍に……パピルサク兵だ。

 それこそドンパチやってるど真ん中で休めと言われた方がまだ寝られる。

 だって、その音が当たり前で……休んでもいい状況だからだ。

 ……トラブっても、私の責任じゃあ無いし。


 「あああ……でも」

 ヴィーゼが少し口ごもり。

 「今……代わった方が良さそうだよ」

 

 「ん? なんで?」


 「うん……当分、寝れないんじゃあ無いかな」

 ヴィーゼは湖の方を指した。

 「誰か……浮いてる」

 小首を傾げ。

 「船かな……小さいけど」


 バッとソチラを向いたバルタ。

 耳をそばだてて意識を集中する。

 「なにも聞こえない……いえ、回りが邪魔で聞こえない?」

 苦虫を噛んで。

 無線機を取った。

 「誰か! 湖の方を見れる者は居る?」

 遠くのを目で見るならタヌキ耳姉妹。

 その場に行って確認するならクリスティナの鳥達。

 ペトラは使役している生き物が特殊で……期待出来のかどうかは微妙だ。


 しかし、最初に答えたのはペトラだった。

 「湖の真ん中に熱源が浮いてる」


 「熱?」


 「ガラガラヘビの目にはそう見える」


 「なにかはわかる?」

 

 「たぶん小さな船だけど……」

 少し考えているのか間を開けた。

 「何処かで見たかも知れない……エンジンが後ろに着いててその上に熱の色の濃いモノがくっついてる感じ」


 「船なら……誰か乗って居るの?」


 「二人? 横に並んで座ってる?」


 「銃は?」

 

 「それはわからない……撃てば熱を持つから見えるけど」


 「そう……有り難う」

 誰かが居るのは確認が取れたが……敵かソレ以外かがわからない。

 敵と判断するならパピルサク人?

 それともエルフだろうか? たしかモグラの取引とか言っていたから……その受け取りの相手?

 「うーん……情報が足りないわね」


 「イナかエノは見えない?」

 

 「見えるけど……判別は出来ない感じ」

 答えたのはエノだった。

 

 「暗すぎる?」

 そう聞いて、それは有り得ないと思い直したバルタ。

 タヌキ耳姉妹の夜目と遠目は数キロ先でも見通せる。

 ヴィーゼが斜め上から見えるなら、二人ならすぐソコの郷里の筈。


 「水面ギリギリに浮いてて、波も邪魔はしてないんだけど……月明かりが反射してボヤけてる」


 「月か……」

 確かに明るい。

 タヌキ耳姉妹の目は基本が夜目だ。

 でも、明るい昼間は濃い色のサングラスでその明るさを誤魔化している。

 今は夜で……明るい。

 サングラスを掛けるには暗すぎるのだろうし。

 夜目の裸眼では明る過ぎるのか……。


 「クリスティナは?」

 

 「今……起こしてる」

 返事はペトラ。

 

 「照明弾を打ち上げようか?」

 横からエルの声がした。


 「準備をお願い」

 すぐに頼むとは言えない。

 まだ、相手に気付かれて居るかもわからないのに……こちらからその存在を教える必要は無いからだ。

 「気付かれないうちに逃げられるなら……逃げたからね」

 一応の念押し。


 「わかった……準備だけね」

 

 方向的にも方を向けるなら一旦止まらなければいけない。

 ヴェスペ自走砲の砲は90度横に向けるのは不可能だからだ。

 車体を横に向けるなら、後続は追い越す事が出来なくなる。

 湖の上は走れないし、ジャングルの方は木が邪魔だ。

 音を絞って走れるのならその方が良い。

 

 その時、車体から……カツっと音がした。

 そしてバサバサっと羽ばたく音。

 その後はすぐに無音。

 「コノハちゃんか」

 

 「クリスティナも起きたから……すぐに詳細がわかると思うよ」

 ペトラだった。

 「ちょっと寝ぼけてる見たいだけどね」


 叩き起こされたのだからしょうが無い。

 でも、コノハちゃんは夜でも関係が無いから、使役者が寝ぼけていても普通に動けるから大丈夫だろう。


 ……。


 「おーい……起きろ。寝るな」

 半笑いのペトラの声。

 

 相変わらず緊張感が薄いな……と、呆れるバルタ。

 「ダメそう?」


 「あ……あれ?」

 クリスティナの声だ。

 「ハンナ?」


 「パン屋のハンナの事?」

 聞き返したバルタ。

 「ダメそうね……寝ぼけ過ぎだ」

 こんな所に居る筈が無い。

 ハンナは私達の町に居る筈だし……ここは国の真反対の場所だ。

 「遣り過ごして逃げるか」

 だれも正確にはわからないならヤッパリそれが一番だ。


 「やっぱり……ハンナだ。ローラも居る」

 クリスティナの声音は寝ぼけているにしてはハッキリと言い切っている。

 「乗って居るのは……パトのシュビムワーゲン?」


 完全に言い切ったなと感じたバルタは考えた。

 「確かめよう」 

 有り得ないとは思うが、もしかしてが有るかも知れない。

 「エル……照明弾を打ち上げて」

 例え違ったとしても……女性に見えるならパピルサク人では無い筈だ。

 パピルサク人にはハッキリとした特徴が有る。

 爬虫類の様な鱗と蠍の尻尾。

 流石にそれは見落とさないとは思う。

 名前を出すなら、顔がハッキリと見えている筈だからだ。


 車列が停まった。

 ヴェスペが前進と後退で道幅一杯を使って横を向く。

 

 そして、ドンと音とシュルシュルと白い光の線を引いて空へと昇っていく強烈な明かり。

 

 「エノ! 見える?」

 月明かり足す事の照明弾だ。

 「どう?」


 「見えた! 確かにシュビムワーゲンだ」

 エノも言い切った。


 「わかった」

 バルタは砲塔の方に移り、簡単な私物入れの箱の中をを探る。

 「クリスティナ、コノハちゃんをコッチに寄越して」

 箱から出したのは紙とペン。

 「手紙を書くから届けて頂戴」

 書いたのは無線機の周波数とバルタと署名。

 パトのシュビムワーゲンなら無線機は積んで居る筈。

 周波数は今こちらが使っているのとは違っている可能性も有るからだ。


 程無く……カツカツとコノハちゃんの爪が鉄の車体の上を歩く音が聞こえた。

 バルタは砲塔の後ろから、重しを付けた手紙を差し出した。

 メモ紙の真ん中に9mmの弾丸を3つ包んで端を捻って作ったヤツだ。

 それが上から落ちて来れば……ハンナならその意味がわかる筈。

 必ず開いて読んでくれる。

 そして、後は無線で連絡だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ