142 分岐点
ガラガラヘビの子供は全部で7匹いた。
「まだ、尻尾のガラガラは無いんだね」
ふーんと観察しているオリジナル・ヴィーゼ。
ジャングルに入って少し進んだ所で道が二又に別れていたので、いったんソコで休憩と為ったのだ。
右の道か左の道か……コノハちゃんとマガモ兄弟で進んだ先の確認をしてもらって決めようと成ったからだ。
「尻尾のガラガラは脱皮の脱け殻が引っ掛かって出来たモノだから、まだ脱皮をしていないこの子達にはないよ」
ペトラが後ろから声を掛けた。
「小さくて可愛いね」
膝を抱いてしゃがみ込む。
「触っちゃダメだよ」
ヴィーゼの動きを観察しながら。
「使役していないの?」
「一応はしたけど……まだ子供だから、驚いた拍子にカプって有るかもだよ」
「ガラガラヘビの毒って、噛まれると腐っていくんだよね?」
「そうだよ、指とか噛まれると……そこから徐々に腐っていって、腕を切り落とすか、最悪は死んじゃうね」
眉を寄せたヴィーゼ。
「きけんだね」
「イタズラしなければオトナシイよ」
肩を竦めたペトラ。
小さい麻袋を開いて地面に置いた。
「はい、散歩は終わり」
そうガラガラヘビの子供達に声を掛けると、クネクネト体をヨジレさせて袋に次々と収まっていた。
やっぱり可愛いと見ていたヴィーゼ。
そこに大きな声が届く。
「今日はもうここでキャンプにするから……みんな準備して」
オリジナル・エルが皆に告げた。
後ろにはオリジナル・バルタも居て、頷いている。
「まだ……日も高いのに、どうしたの?」
マリーが聞いた。
「クリスマスの鳥達の索敵に時間が掛かっているのよ」
二又のアッチとコッチと指を差す。
「道的に考えれば、左の道なのだろうけど」
ローザがもっと左の上を指す。
竜の背だ。
「この裏に用事だからね」
「それに、もうここはパピルサクの領域に近いから……右は止めといた方がいい」
アンも同調する。
「パピルサクって?」
クリスマスが首を傾げていた。
「パピルサクは蠍の尻尾の竜人……亜人ね、が治めていた国」
マリーが教えていた。
「今は1つの国だけど、州として自治は認められているから……エルフ州と同じかんじね」
アンの註釈つき。
「性格は比較的に穏和な感じだけど……まあ、ひきこもりがちな人種ね」
肩を竦めるマリー。
「でも、以前はエルフと同盟関係だったから……あんまり近付きたく無い感じかな」
「無闇に襲っては来ないだろうけど、嫌な気分にさせる嫌みは言ってくるかもだね」
アンも肩を竦めた。
さて、テントも張り終えたみんなは順番にシャワーだ。
ゴーレム・ヴィーゼが頑丈そうな木に登り、太い枝からジェリカンの水を落とすだけの簡単なもの。
側には、防水のシートに水を溜めた簡易な水桶も作る。
ムーズは裸のクリスティナに、鍋で掬ったその水を頭から掛けた。
「うひゃ……冷たい」
クリスティナは石鹸でゴシゴシと泡を立てて、体を洗いながら小さな悲鳴を上げていた。
水を掛けている方のムーズも裸で、もう泡まみれだった。
そして、順番に木下に移動。
そこで、上から水を掛けて貰う。
「気持ちいいね」
ムーズは顔を上に向けて頭をゴシゴシ。
「ムーズ達が最後だから……服も洗うよ」
シートの簡易桶に服を放り込んでいたタヌキ耳姉妹。
「あれ? バルタは?」
クリスティナが聞いた。
「まだ、体は洗ってないよね?」
「大丈夫だってさ」
エノが笑う。
「一応は濡れタオルでゴシゴシとはやっていたけどね」
イナも苦笑い。
「風呂嫌いも大概ね」
マリーが鼻を摘まむ仕草。
そのマリーは転送魔方陣で、犬耳三姉妹のバイク……モンキー50zを出していた。
一番にシャワーを浴びて、服も着替えた三姉妹久し振りの自分達のバイクに興奮気味だ。
「なんかピカピカに成ってない?」
「傷も無くなってる」
「新車みたいだ」
「預けている間に、ジュリアがメンテしてくれていたみたいよ」
マリーがバイクに着いていたメモをヒラヒラさせていた。
「おおお、これはサッソク試運転だね」
跨がってエンジンを掛けたエレン。
ブオーンブオーンと空ぶかし。
騒がしい三姉妹を横目にAPトライクも出したマリー。
こちらにもメモが着いていた。
「ナニナニ?」
読みはじめてスグに苦い顔。
「請求書?」
結構な金額に成っているようだ。
メモ紙をクシャクシャに丸めてポケットに突っ込んだ。
「これは……流石にマズイかもね」
緊急事態だからと使ったのだけどと後悔している様子も見れる。
酷くヘコンだ顔に成っていた。
日が暮れるめで、各々適当に遊んで……夕食。
食材はヤッパリ始祖鳥。
そのスープだった。
「流石に飽きてきたよね」
チラリとマリーを見たエレン。
アンナもチラチラと見ていた。
ネーヴは関係無いとスプーンを忙しなく動かし続けている。
「なに?」
気になったマリーが三姉妹に目を向けて聞いた。
「いや……」
エレンとアンナはマリーの黄色い錬金術士の鞄をチラチラ。
「もう……暫くは使わないわよ」
マリーがムスっと言った。
「転送魔方陣は魔法だけど、お金が掛かるのよ」
注文すれば、用意するのは相手側。
人が介在するのだからお金が掛かって当然だ。
そして、お金と聞けば黙るしかないエレンとアンナ。
「あんた達も見習えば?」
マリーは黙々と食べているネーヴを指差した。
「美味しいよ」
ネーヴはそれに答えてニッコリだ。
下唇を突き出して肩を竦めたエレンとアンナ。
ちょっと拗ねた態度だけで、もうそれ以上はなにも言わないようだった。
「それよりもクリスティナ」
マリーは最近あまり近くに寄ってこないクリスティナを呼んで。
「道の先はどうだったの?」
「ん……マガモ兄弟の方は」
右の道を指して。
「また崖に当たって……ソコを登る感じ」
「戻るの?」
「うんん……まっすぐ南に延びてるって」
首を振って否定。
「じゃあ、左は?」
「そっちはコノハちゃんなんだけど、道は左に曲がって竜の背に沿ってるって」
「じゃあヤッパリそっちね」
頷いたマリー。
「まっすぐ南じゃあ、パピルサクに行っちゃうし」
「でも……途中に戦車を見付けたって」
少し困った顔を見せた。
「黒っぽい平べったい戦車」
「なにそれ?」
「わかんないけど」
クリスティナはオリジナル・バルタの方を指差した。
数人が集まって話をしている風だ。
マリーはそちらに歩いて行った。
「チャーチルっぽいね」
唸っていたローザ。
「イギリス式の戦車か……ならやっぱりパピルサク人だろうね」
アンが口許を押さえて考えている。
「場所的にもそうだろうけど……でも、本来の境界線ってか昔の国境ならもっと南の筈なんだけどね」
「今は同じ1つの国なのだから、正確に分ける必要も無いのだし……居てもおかしくは無いんでしょう?」
オリジナル・エルが聞いている。
「そうだけど……あんまり出てこない人種だしね」
うーんと唸ったアン。
「ハグレとか、非正規軍とかかな?」
ローザも唸っている。
「それって……盗賊かも? ってこと?」
マリーは会話に入って聞いた。
「かもしれないけど……普通の盗賊なら、ドイツかソ連かアメリカを選ぶとは思う」
ローザはマリーに答えて。
「イギリス式は、人気無いからね」
「盗賊なら……やりやすいんだけどね」
アンも答えてくれた。
「倒してしまえばいいだけだし」
「なかなかに物騒なこと言うのね」
マリーは驚いて目を丸くする。
「この娘達なら、簡単とは言わないけど……敗けはしないだろしね」
アンはバルタを指差して頷く。
「でも、戦車の性能は?」
マリーはルノーft軽戦車を指差して。
「明らかに負けてる気がするんだけど」
ってか、これで勝てる相手がいるのか? と、訝し無。
「この娘達の戦い方に戦車はあんまり関係ないよ」
笑ったローザ。
「目立つ戦車を囮にして、コッソリ近付いてドカンだから」
今度は犬耳三姉妹を指差している。
「じゃあ……取り敢えず接触してみるしか無いんじゃないの?」
マリーは至極当然と答えを決めた。
「どうせぶつかるのだしね」
「まあ……そうなんだけどね」
アンもローザも頷いていた。




