140 夕食は始祖鳥
始祖鳥は少々臭いがキツイが、油も少なく味は濃い。
内蔵と少しの切り身を分けて与えたコノハちゃんいわく……野鴨の味だそうだ。
そして、食う前にそれを言われたマガモ兄弟は、目の前に与えられた自分達の分の肉を見下ろして……逡巡して、チラチラと横を見る仕草も見せる。
見ている先にはペトラのカエル。
小さな鉄鍋に水を入れて貰って浮いていた。
餌の量はそんなに必要無いのか、もう既に食べ終えている。
満足気な顔。
「そう言えば……蛇は?」
オリジナル・エルがペトラに聞いた。
ナキウサギは菜食主義なので先に食べて、今はペトラの腕の中でスヤスヤと睡眠中。
ちなみに食べたのは人間様と同じサラダのドレッシング無しだ。
中々に美食家で贅沢なヤツだとエルは思った。
「ヴェスペの何時もの所に居るよ」
軽く答えるペトラ。
「餌は良いの?」
「丸のみだから早いよ……内蔵の固まりをひとくち」
「ああ……成る程」
「じゃあ……クモは?」
「ヴェスペの砲の下の隙間に巣を張ったみたいだから、そこで食べてる」
「イチイチ面倒じゃないの? ここで食べれば良いのに」
フンと鼻を鳴らして。
「ひきこもり?」
「クモってそうじゃないの?」
横に居たローザに尋ねるペトラ。
「罠を張るタイプならそうだけど……」
少し首を捻って。
「あのクモは……走って飛び付いて捕食するヤツだと思ったのだけど? 違ったのかな?」
クモゴーレムを見れば足が速いと、もう一度首を捻った。
「あのクモは徘徊性のクモねタランチュラに近い種かしら」
マリーが少し離れたところから教えてくれた。
「ヒキコモリじゃあ無いけど……巣は造るわよ、トンネル見たいなヤツ」
「くわしいね」
驚いたローザ。
「私の相棒は虫も使役するからね……その中にも居たのよ、クモが」
「ああ……元国王か」
「そう……気持ち悪いゴキも食べてくれるから、私にとっては頼もしい益虫ね」
「ゴキ? あああ……アイツか」
首を竦めて小さく震えたローザ。
同じく苦手らしい。
「それはそうと……」
離れた所に居たマリーが近付いて。
「さっきは悪かったわね……どうもイライラというか、焦る気持ちが抑えられなく成ってた」
ペトラとコノハちゃんの横に座るクリスティナに頭を下げた。
立ち止まり、一息着いて……落ち着けたのだろう。
「仕方無いんじゃない?」
オリジナル・エルが庇う。
「そういうのは……慣れの問題だから」
「いや……こういう事には慣れはいるのだけど、元々は冒険者もやっていたのだし」
少し口ごもるマリー。
「ただ……みんなにも少しイライラしていたのよ」
溜め息を1つ吐いて。
「ファウストが……ああ、パトが指名手配だから王都を飛び出したのに、なんだかノンビリに見えたから」
オリジナル・エルは……う~んと唸る。
「パトが指名手配……確かに急ぐ理由だけど」
指を小さく立てて、アンを指す。
「指名手配犯を捕まえる仕事の人も居るからね」
「それもわからない」
渋い顔に成ったマリー。
「なぜ、アンの同行を許したの?」
「だって……アンも私達の仲間だし」
少し間を空けて。
「アンのお父さんは、パトとアンは結婚しているって思ってるし……もしかしてってのも有るから」
「指名手配を上手く誤魔化してくれる? とか?」
「わかんないけどね……でも、急ぐのと為るべく時間を掛けるのとの優先順位が難しいから」
一番に遠い所に座っているオリジナル・バルタを指差して。
「悩んでいると思うよ」
「あああ、確かに……王都を出てから口数は減ったね」
ローザも納得した顔だ。
「みんなはそれで良いの?」
マリーはエルに聞いた。
「納得しているの?」
「納得もなにも……バルタが決めるならそれに従うわよ」
笑ったエル。
「パトに一番に会いたいのはバルタだから」
「そうなの?」
首を捻ったマリー。
「見えないけどね」
「そのうちにわかるわよ」
エルは肩を小さく竦める。
「まあ、でも……私達も早く会いたいとは思ってる。けどね」
バサバサと音を立てて飛び立ったコノハちゃん。
クリスティナはその場に残された食べ残しを片付けている。
「何処かに行ったの?」
エルがそのクリスティナに聞いた。
「食後の運動だって」
クリスティナは食べ残しをマガモ兄弟の前に追加した。
翌朝、日の出と共に出発。
朝が早いのは……戦車とクモバモスの中での雑魚寝に為ったからだ。
狭い上に暑苦しい。
それともう1つ。
昨晩のコノハちゃんの散歩で……この先に絶対に越えなければいけない吊り橋が有るそうだ。
10トンの戦車が通れるかは……不明。
さすがにコノハちゃんでも、そんなのわからない……だそうだ。
それを聞いた昨晩のみんなはマリーを見た。
絶対に言うに決まってると恐れた言葉。
……使えないわね……。
とは、言わずに黙って肉をつついていたのには、やっぱり全員で驚いた。
本人の言う通り……緊張と焦りの折り合いが着いたのだろう。
そして、昼前には件の吊り橋の前。
こちら側の道が途切れて、反対側に橋を越えて続いていた。
「無理だね」
オリジナル・ヴィーゼが呟いた。
小さくは無い。
それなりの馬車も通れる大きさの橋だ。
ある程度の頑丈さも見える。
だが……どう贔屓目にみても5トンが限界だと思う。
まあ、吊り橋で5トンなら相当に優秀だとは思うけど。
底の見えない谷にかかる橋だ。
「でも……越えないと」
唸ったバルタ。
「先に進めない」
「クモの糸で吊るす?」
無線からはゴーレム・バルタだった。
「土砂の時も、戦車をぶら下げても強度は十分だったし……やれると思うよ」
「こっちと向こうで、二点で吊るしてアッチに移動……かな」
ゴーレム・ヴィーゼもフムフムと。
「斜めに為るから……糸は複数かな、例えば前後で二本づつ?」
ゴーレム・エルも考えながら。
「三本づつでもいけるか……向こう側にバルタとヴィーゼとクモゴーレムが一匹でこっち側に私とクモゴーレムが二匹、かな?」
「アマルティアのゴーレム兵は?」
オリジナルの方のバルタが聞いた。
「それでも良いけど、上手くタイミングを合わせられるかな? クモゴーレムなら完全に支配下にしてるから細かい指示も出しやすいし……やっぱりクモゴーレムの方が良いと思う」
ゴーレム・エルの見解だ。
「まあ……やってみるか……てか、やるしか無いんだけど」
バルタもエルのその案に頷いた。
谷を挟んでの吊り下げが開始された。
先ずはルノーft軽戦車からだ。
もちろん誰も乗っては居ない。
オリジナルのヴィーゼとバルタは先に谷の向こう側に移動して、様子を見ていた。
ていうか……出来ることがない。
ゴーレム・バルタとゴーレム・ヴィーゼが横に並んで踏ん張る。
中央がクモゴーレムだ。
三本のクモの糸は真っ直ぐにピンと張られていた。
向こう側は真ん中にゴーレム・エルで左右がクモゴーレム。
戦車はアマルティアのゴーレム兵が担いで、谷の崖下に向かって滑らせる様に押していくと、スタート地点に張り付く様な格好でぶら下げられた。
そこからエル達がユルユルと糸を前にと送っていく。
すると、糸を掴んでいるだけのバルタとヴィーゼの側に振られる様にと動き始めた。
バルタとヴィーゼ側は、戦車がこちら側の崖の壁にぶつからないくらい迄は糸は引かない積もりだ。
だから、戦車は前に下にと移動した。
「大丈夫そうだね……糸も切れそうに無いし、この重さなら引き上げるのも問題無いみたいだし」
ゴーレム・ヴィーゼが待っている間の退屈凌ぎか、ゴーレム・バルタに話しかけた。
「まあ……重さは昨日の大丈夫とはわかってはいたけど。斜めに為っても案外だったね」
ゴーレム・バルタも頷いた。




