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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
140/233

139 坂道の途中


 カエルゴーレムの活躍でロバ車とそれに続いて、クモバモスも通れた。

 そして次は、最後に残ったルノーftの番だ。

 操縦席のオリジナル・ヴィーゼは緊張して、顔が強張っている。

 「カエル君……最初からやってくれてれば良かったのに」

 意識を誰かの攻撃でまぎらわせる様な言葉を発していた。

 不安が不満を呼んで、その両方の区別が難しく成っている様だ。


 「ヴェスペが通って土砂が泥に為ったからね……固い土のままじゃあアレは出来なかったんでしょう? きっと」

 オリジナル・バルタは宥める様に、それに答えた。

 「それに土砂も随分と低く成っているから……もっと楽に通れるんじゃない?」

 楽観論も付け加える。


 「でも……その分フニャフニャじゃん」

 不安の方が愚痴に出た。


 その愚痴は聞き流す事にしたバルタ。

 土砂の向こうを指差して。

 「準備が出来た見たいよ」


 


 手順はヴェスペの時と同じだ。

 ただ違うのはゴーレム・バルタは今回は土砂の向こう側に居て、ゴーレム兵の命綱を握っている。

 理由は単純に、前回はルノーftが支えと為っていたのが今回はそれが動かす対象だからだ。

 だから、今回の支えは先に進んだヴェスペの方だった。


 ユックリと前進して土砂に乗り上げたルノーft。

 履帯が泥を掻く前に沈んだ。

 それでもどうにか自力で前へと車体を推し進める。

 重さはヴェスペ依りも軽い7トン……差は3トンか4トンだけど、それは大きい、はず。

 順調に進む。

 履帯の総てが泥に埋まってはいるが……前でクモゴーレムが引っ張ってくれているので問題は無い。

  

 「あ!」

 誰かが叫んだ!

 「上!」


 ルノーftの操縦席のヴィーゼもつられて上を向く。

 「うそ!」

 壁にヘバリ着いていた岩がグラグラと揺れていた。

 押さえと成っていた土砂が減ったせいで不安定に為っていた様だ。

 そしてそこに戦車の振動。

 「ヤバイヤバイヤバイ……」

 焦ってアクセルを踏んでしまったヴィーゼ。


 一気に土砂を跳ね上げて……前には進まず横に滑った。

 谷の方だ。

 そのまま崖を落ちて糸を支点にぶら下がる。

 同時に岩が土砂を潰した。

 ムチャな動きが崩れる原因に為ったのだ。

 そして、岩はまだ安定はしていない……グラグラと揺れたままだ。


 「ひいてー!」

 谷に宙ぶらりんのルノーft軽戦車。

 だが、支えている糸は中途半端な所に引っ掛かり、岩の落ちてくる方向に居た。

 「いーやー!」

 ヴィーゼの叫びと同時に戦車がもう一段落ちた。

 引っ掛かっていた糸が前にズレのだ。

 同時に大きく揺れる。

 前に後ろに……前に。

 で、運良く落ちてきた岩を避けられた。

 グラグラしていた岩はそのままユックリと床に成っている土砂を掻いて谷の方へと転がったのだ。

 間一髪だった。


 「今のうちに引き上げろ!」

 声を発したのは誰だろう?

 よくわからない……うちに気絶したヴィーゼだった。



 

 引き上げられたルノーft軽戦車。

 操縦席から引っ張り出されたヴィーゼはまだ気を失っている。

 そして、空っぽの戦車の中から人が居た痕跡……ほのかなカホリと濡れた跡。

 

 「ああ……こいつも先にタオルだね」

 車両を軽くする為に下ろしていた装備を大急ぎで戻す作業の指示を出していたローザがルノーftの中を覗いての一言。

 「まあエンジンは止まってないから優秀、優秀」

 一応はヴィーゼを誉めたのだろう。


 



 服を着替えたオリジナル・ヴィーゼはルノーftの操縦席に修まっていた。

 オリジナル・バルタも少し気を使って声を掛けたのだけど……暫く運転変わろうか?

 しかし、それを頑なに拒否したヴィーゼ。

 どうも……臭いを気にしているようだった。

 鼻の効く方でも無いバルタでも……少しは気になるその臭い。

 まあ、仕方が無いのだろうと、任せてそのままだ。


 一方の……ヴェスペのペトラの方は、ローザに簡単に席を譲っていた。

 もちろんペトラも着替えているので……やはりなのだろう。

 

 分かりやすく性格の違いなのだろうな……と思うバルタ。

 

 

 その後は順調に進んで夕方。

 道中、空からの魔物も襲って来るには来るが……散発的で、しかも単純な飛び掛かりだけなのでカエルゴーレムだけでも苦戦はしない。

 しかし、それももう居ない。

 日暮れが近付くとやはり、何処かへと飛び去って行く。

 方向がどれも同じなので……何処かに巣でも有るのだろか?


 「どうする?」

 オリジナル・バルタは無線をオープンにして皆に聞いた。

 

 「暗くなってから……この道を動くのは怖いね」

 返事はローザが一番だった。


 「でも、道の途中での野営は……どうなんだろう?」

 アンが気にしているのは、雨が降る可能性かな?


 「横が谷だし、土砂も含めて鉄砲水は大丈夫なんじゃない?」

 これだけ曲がりくねっていれば、土砂も関係が無いのだろうけど。


 「道に沿っての鉄砲水じゃなくて……壁に染みた水の方が怖いって事でしょう?」

 アマルティアも懸念が有るようだ。

 「崖から染み出る水も泥水だし……もう限界に近いと思うけど」


 「ああ……崖崩れか落石か」

 ふーんと考えて。

 「それはあんまり心配無いと思うけど」


 「どうして?」

 

 「この道は……ほったらかしに近い気がする。整備は数年に一度? 石畳は若干ガタガタするし、小さい岩は普通に転がっているし。でも、崖が崩れていた所はここまで一ヶ所だけだったから、案外もちそうだなと思ってね」


 「なるほど……」


 砂漠の感じも含めて、雨は雨季の間だけだろう……年に一回? 数日?

 なのに整備は適当なら……やはり結構頑丈なのだと思う。

 

 「さっきの最後の岩も大きかったし……ここら辺の壁は硬い岩なのかもね」

 ローザも納得していた。


 「それでも、雨は怖いんだけどね」

 あくまでも予測と勘の話だし、絶対は端から無い。

 「もし野営するなら……少しでも安心出来る場所を探すかだけど」

 うーんと考えて、最初の質問に戻った。

 「どうする?」


 「見えるうちに……泥水が吹き出して居ない壁を見付けたら、その横でいいんじゃないの?」

 エルが結論付けた。


 「じゃあ……それで」

 頷いたバルタ。

 「場所はペトラかエルが決めて」


 「なんで私?」

 ペトラが驚いた声をあげた。


 「今ヴェスペを動かしてるのはペトラでしょう? 先頭を走ってるんだから決めてよ……行き過ぎた場所で戻れって言うのもなんだし、効率的でしょう?」


 「そうね……わかった」

 それに返事をしたのはエルだった。


 こんな感じの会話にはゴーレム私達は混ざっては来ない。

 混ざれる程に自分達に自信が無いのかも知れない。

 それとも、ゴーレムの体では野営も必要ないから……感覚がわからなく為っているのだろうか?

 遠慮していないならその方が良いのだけど。

 ゴーレムだからって誰も差別はしていないのに……自分から避けるのは辞めてほしいと思う。

 取り越し苦労なら……ゴメンだけどね。


 

 そして、また暫く進んで。

 鋭角に右曲がりの角に、少し奥まった場所を見付けて止まった。

 

 「ここなら、壁側が三角に成ってるから強度も有りそうだし良いんじゃない?」

 ローザが比較的に安全だと言った。


 成る程平面の壁一枚依りも、寄り掛かる様に二面の方が依り崩れ難いって事か。

 「じゃあ……そこで」

 先頭のヴェスペに決めてと言ったので、それに乗っているローザが決めても問題無いし。

 それに理屈を聞けば寄り安心できそうだ。


 「テントは張れないけど……火は起こせそうだね」

 ヴェスペの後ろにくっついて停まったクモバモスのアマルティアが、さっそく降りて焚き火の準備を始める。

 薪はマリーに注文を出した様だ。

 ここでは草の一本も這えてないから、それも仕方が無い。


 ヴィーゼもクモバモスに並べる様にルノーftを停める。


 「夕食は……これかな?」

 ゴーレム・ヴィーゼが大量の始祖鳥を投げて寄越した。

 それでもクモゴーレムの後ろにまだ満載だ。

 チョコチョコ倒したヤツ拾い集めて居たようだ。

 ゴーレム・バルタもゴーレム・エルも背中に沢山積んでいた。

 「美味しい様なら……転送魔方陣で送ってあげたら? お礼も含めてだけど」

 ゴーレム・エルがそう言って。

 ゴーレム・バルタも頷いた。

 「私達には味はわかんないけどね」

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