137 土砂崩れ
車列が一時停止した。
クモバモスから紙袋を担いだペトラが前に走っていく。
「やっと解放されたみたい」
ルノーftの左右の操舵レバーを握り、背凭れに体を預けて一息入れているオリジナル・ヴィーゼ。
「あ! もう一人? ローザもか」
「クリスティナもヴェスペに移るみたいよ」
オリジナル・バルタがmp40の銃口を、後ろに向けた砲塔のハッチから突き出して。
「ヒドイ目に会った」
ペトラは後ろの砲デッキに紙袋を投げ込んで、前に回ってよじ登り運転席のハッチから潜り込む。
「結局はナニしてた感じ?」
ネーヴがデッキの後ろに手を差し出して、ローザが持ち上げたクリスティナを抱き抱えて中に。
「マリーがカエルを造れって大変だったよ」
そのローザは自力でよじ登る。
「で……逃げて来たわけね」
エルはチラリと後ろのクモバモスを見る。
「そのカエルは造れたの?」
「材料が無いから小さいのが一匹だけ」
ペトラは戦車を動かす合図を後ろのローザに任せて、アクセルを踏む。
クモバモスに手を振って、ユックリと前進を確認したローザがデッキに座り込んで。
「舌も出してたから実験としては成功かな?」
「ゲコ……」
その元に成ったカエルが後ろに投げられた。
「その子、使役したけど……なんか役に立つかな?」
「せっかく頑張って連れて来たんだし……役に立って貰わないと」
ねえぇ……と、コノハちゃんの頭を撫でるクリスティナ。
「水の中なら得意なんじゃ無いの? カエルだし」
エレンがカエルの背中をツツイた。
……ピョンと跳ねる。
「でも、砂漠のカエルでしょう? 泳げるの?」
アンナもカエルを追い掛けてツツク。
……ピョン。
「しかし……まん丸だね」
ネーヴは口の端にヨダレが見える。
もちろんツツイタ。
……。
ツツこうとした。
その指を舌でペシっと弾いたカエル。
「うわ! 攻撃された」
「食べようなんて考えるからよ」
クリスティナが笑う。
「考えてないよ……そんなの」
ネーヴはいいわけ?
「ヨダレ出てるよ」
ローザも笑って突っ込む。
「これは……パンの匂いでだよ」
紙袋を指差して。
「この子を食べようとは思ってない」
頬を膨らませての抗議
「まあそれはそれとして」
エルは話を変える。
「ゴーレムの方のカエルだけど……どう役に立つの? 小さいんでしょう?」
「ああ、それね」
ローザは進行方向を指して。
「この先の道が崖崩れで埋まっているらしいんだけど……その土を退ける時にそれを利用しようって事に成った」
「その時の運転を変わって貰うテイで逃げ出して来たんだよローザは」
ペトラがクスリと笑う。
「イヤな言い方だね……ちゃんと仕事はするさ」
ローザは逃げ出したの部分を否定はしなかった。
「私は……逃げ出したんだけど」
コノハちゃんの頭を撫でたクリスティナ。
「元々はコッチに乗って筈だったし」
下唇を突き出したアヒル口だ。
「マリーはヒド過ぎ」
肩を竦めた皆。
それを見て思うエル。
クリスティナが怒るのも無理はない。
しかし、マリーはマリーで自分の精神を保つ為にはあの行動が必要なのだろうともわかる。
過度な緊張感の持続はそのまま放っておくと、精神が壊れるのだから有る意味仕方ないとも思う。
「もう少し慣れてくれて……別の方法で回避出来る様に成れば良いのだけれど」
溜め息をひとつ吐く。
「一番に長生き……は、してないか」
エレンが言い掛けた事を自分で否定した。
「それでも、経験は一番の筈だけどね」
エルは苦笑い。
「実は経験した中で、あれが一番の解決方法だったりして」
ローザがポツリ。
「うわ! それ最悪……メッチャ迷惑じゃん」
アンナがウゲッっとそんな顔をした。
「敵がわかりやすく攻めて来てる時なら……丁度良いんじゃないの?」
エレンがそれに答えた。
「敵意が敵にわかりやすく向くから? って事?」
ネーヴはパンを手に取り、もうどうでもいいんじゃあ無い? と、笑う。
「まあ……どっちにしても、早くここから移動した方が良さげね」
エルが前を向いた。
「バルタが気付いてくれて、良かったけど」
「ああそれ」
頷いた三姉妹達。
「ほんと……良く気付けたね」
「小さな変化で普通は気付けないもんね」
「バルタはパトと一番に近い所で何時も一緒だからだろうね」
ペトラはブレーキを踏んだ。
車列が止まる。
前方の道が土砂で埋まって居た。
「あれか」
エルもそれを確認。
「そう、カエルを捕まえて来る時にコノハちゃんが見付けた」
クリスティナが頷く。
エルは無線を掴んで状況を皆に伝えた。
「崩れた土砂をある程度平らにして、上を乗り越えるしか無さそうね」
オリジナル・バルタが戦車から降りてきて、現状を見て言った。
全部の土砂を退けるのは無理そうだ。
その脇では、マリーが仕切ってアマルティアに魔方陣を描かせて、ゴーレム達に土を集めさせている。
カエルのゴーレムは諦めて無いようだ。
ペトラも呼びつけられている。
「あんなに水を含んだ土なのに、それでマトモなゴーレムなんて出来るのかしらね」
オリジナル・エルが愚痴を垂れる。
「カエルだからドロドロでも良いんじゃないの?」
上を警戒しながらの三姉妹のエレン。
車列が止まった事で、空の魔物も浮き足立っていた。
襲ってくる気は満々の様だ。
「土木作業はゴーレム達に任せて……私達は防戦ね」
エルが上を向く。
「頼めるかしら」
オリジナル・バルタがゴーレム・バルタに向かい、土砂の方を指す。
「わかった」
頷いたゴーレム・バルタが各々のゴーレム達に指示を出す。
クモゴーレムも使っての突貫工事だ。
「アマルティア! それが終わったらゴーレム兵でコッチを手伝って」
「もう魔方陣は描き上げたから、今から行く」
アマルティアの動かしたゴーレム兵は五体……動かせる限界の数だ。
「じゃあ……私もミスリルゴーレムで参加してくるわ」
そう、バルタに告げて土砂の方に向かうエル。
人形ゴーレムはスコップで掘り起こしては崖下に投げ捨てる。
クモのゴーレムは犬掻きの要領で崖下に土砂を捨てていた。
上からのチョッカイはガン無視だ。
体が土塊なので噛られても爪で引っ掛かれてもどうとも成らない。
生身の方は一旦クモバモスに避難。
マリーとペトラだけはカエルゴーレム造りだが……それは犬耳三姉妹が守っていた。
ゴーレム達に指示を出す、アマルティアとエルを守るついでだけど。
クモバモスの窓から近付いた魔物を撃ち落としながら。
「迷惑な話よね」
「でも、マリーの転送魔方陣には助けられてるから……仕方無いんじゃない?」
タヌキ耳姉妹のボヤキが聞こえる。
「それでも……バルタの話から少しは当たりが柔らかく成ったから、本人も自覚があると思うけど?」
アンはそう分析したようだ。
「精神を保つのに必要な行動なのかな……やっぱり」
クリスティナも怒っては居たが、それでも飲み込む積もりだ。
「まあ、当分は近付かないけど」
断続的な銃声。
始祖鳥は撃たれて崖下に落ちていくモノが殆ど。
稀に道に落ちてバサバサともがいている。
トドメを刺す必要は無いのはわかる。
地面に落ちればヨタヨタ歩くのが精一杯で、それすらも出来ずにいるモノが多い。
「所詮は鳥よ……飛べなければ怖くないわ」
エルが土砂の手前で叫んでいた。
高笑いだ。
それを見ていたクリスティナ。
「エルってさ……マリーに似てない?」
「あ……思った」
ヴィーゼがmp40を撃ちながら笑う。
「誰が似てるって?」
ドスを効かせた声で乗り込んで来るマリー。
後ろにはペトラと犬耳三姉妹も一緒だ。
「放っといて大丈夫なの?」
驚いたのか?
誤魔化そうとしたのか……ヴィーゼが叫ぶ。
そのオリジナル・エルとアマルティアの方を見れば。
チョッと大きめの……大の大人が踞って四人くらいのサイズのカエルゴーレムが近付いた始祖鳥を舌で次々と叩き落として居た。
「完璧でしょう?」
腰に手を当てて仁王立ちで、勝ち誇るマリーだった。




