133 夕食の魚
「うわ! なんか変なのが出来てる」
遊びに行っていたゴーレム・ヴィーゼの第一声。
「うわ! 大きな魚!」
それに対しての皆の返答。
1人乗り用のクモゴーレムを乗りこなしていたヴィーゼの後ろには、クモの糸でグルグル巻きのす巻き状態のハイギョが一匹が引き摺られて居た。
ヴィーゼはクモゴーレムから降りて、クモバモスを観察。
バモスの前の部分、フロントグリルとバンパーが取り払われてクモの顔が納まって居た。
ライトのところも含めての目玉が並んでいる。
下の方は顎っぽいのも見えた。
後ろはバンパーが無いだけ、腹が小さく取って付けた尻尾の様にも見える……小さいとは言っても1人乗りのクモゴーレムの腹と同サイズだ。
そして足は、四隅のタイヤの着いて居た所に二本づつ。
横に一本と前か後ろに一本が延びていてそれが四組で合計八本足。
「見た目はバモスの方が多い?」
首を傾げて。
「でも……足は印象的か。フムフム」
「フムフムじゃあ無いわよ」
マリーが叫んでいる。
振り向けば魚に巻いたクモの糸を掴んで必死に引っ張っていた。
片足を魚に掛けて後ろに引っ張る。
両足で踏ん張る用に上に引っ張る。
包丁を取り出して糸の間に挟んで引っ張る。
上から叩いて……最後は包丁を投げつけた。
「きれん!」
そこに遅れて帰ってきたゴーレム・エルがマリーに声をかけた。
「それは無理だよ」
ゴーレム・バルタもエルにピッタリくっついて側に居る。
二人で一匹の魚を両手で上に担いで居るからだ……こちらは糸が巻かれずそのままだった。
そのバルタも付け足す用に。
「細いけど……一本でタイガー戦車を吊るせるくらいの強度が有るわよ」
「50トンか……」
脇で見ていたローザが呆れ顔だ。
「じゃあどうすれば良いのよ!」
ゼイゼイと肩で息をするマリー。
「そのまま焼けば蒸し焼きみたいに成るんじゃない?」
さあ? と肩をほんの少し竦めて見せるエル。
「そうね……焼けば切れるか」
頷いたマリー。
「昔にクモの魔物と戦った時には燃えてた気がする」
思い出したのだろう……そういえばとそんな顔。
さて、夕食はその魚。
糸で巻かれた方は焚き火で直接焼いた。
とは言ってもこの場所では薪を手に入れる事が出来ないので、転送魔方陣で送って
貰ったのだ。
だから……火が小さい。
デカイ魚のサイズと釣り合っていない。
転送魔方陣は便利だけど、注文をする相手側が居る……しかもローザにひいお祖母ちゃん。
あんまり無理は言えない、これは仕方の無いことだ。
相当に時間が掛かると見た子供達。
その間暇なので……逃げる時に向こうに送った物を返して貰ってその整理。
「ロバが増えてるけど……弾薬牽引車も引かせるの?」
オリジナル・ヴィーゼがオリジナル・エルに聞いている。
「そうね……どっちでも良いけど。引いて貰おうかな?」
考えている風のエル。
どのみちその砲弾はヴェスペ自走砲の10.5cm弾が殆どだ、後ろに直接でも……後から
後ろ付けに配置しても余り変わらないと思っている様だ。
ある程度の砲弾はヴェスペにも積んでいるからだろうし……あくまでも予備。
か、本格的な戦場での話だろうし。
今はそれも無いとの判断?
まあ無いけどね。
連続してドッカンドッカンは拠点攻撃か拠点防御だし。
エルの腕なら敵戦車の小さい的だって撃ち抜けるから、数打ちゃ当たる戦法は必要ないしだ。
「ヴィーゼ! 手が止まってるよ」
後ろから怒られた。
「はーい」
踵を返して、もう1つの牽引車に向かう。
両手には荷物を抱えて居た。
ルノーftの後ろに引っ張っていたヤツも独立させるのだ。
主に雑貨を運んでいたヤツ。
適当に荷物を積んだらバルタに怒られた。
「食料は前! キャンプ道具は後ろ!」
何やらメモをチェックしている。
「はーい」
もう一度、荷物を掴んで後ろに下げる。
軽トラの荷箱サイズの小さいヤツだから、そんなに厳密には分けられないとは思うのだけど……それは言わない。
口に出せば怒られるだけだし、それは無駄な時間だ。
さっさと終わらせて、遊びたい。
ゴーレム・ヴィーゼに頼んでクモゴーレムに乗せて貰わなきゃ。
そして問題の魚。
一向に焼ける気配が無い。
クモの糸が巻かれている方だ。
「何時までやってるんだろうね?」
ヴィーゼは焼かれた魚の入った器を持って呟く。
糸に巻かれていない方の魚をバラして、その切り身のムニエル。
フォークでつついて口に運ぶ。
見ていたのは、マリーが頑張って? ムキに為ってる姿だ。
丸焼きの魚の下の焚き火に風を送って騒いでいた。
「でも……あの糸は頑丈だね」
ローザも手には魚を持っている。
「ゴーレムが出すから、ヤッパリ石とか金属なのかな?」
「だとしたら、焼いても切れないね」
アマルティアも魚を口に運んで。
「もう諦めれば良いのにね」
ペトラも魚は持っている。
そして、背後では犬耳三姉妹がガツガツとフォーク等は無しでの犬食いだ。
相当に腹が減って居たのだろう。
タヌキ耳姉妹が焼いた魚を片っ端から奪って行く。
もう、皆の手元には有るのだから誰もそれを取ったりはしないのに、唸るように喉を鳴らして威嚇までしている。
何時も陽気な三人にしては珍しい光景だ。
そんなに腹が減っていたのか?
まあ……好きなだけ食べれば良いよと、肩を竦めたペトラ。
食べられる方、バラした方は一匹でも大量の切り身が出来ている。
流石にそれ全部を食べきれるわけも無いので、食べたいなら幾らでもだ。
「マリーが落ち着いたら……ローザのお祖母さんにおすそわけしないとね」
「ん? ヒイお祖母ちゃん?」
ローザはイマイチピントきていない感じ。
実感が持てないのだろう。
死んだと聞かされたのは本当に小さい時の事だったらしいので、面影がうっすらと記憶の端っコに引っ掛かっているとその程度らしい。
「ジュリアさんね」
アマルティアが言い直す。
「ああ……でも」
ローザは笑っている。
「随分と後に成りそうだけど……明日の朝かな?」
「朝か……放っとくと魔物が来そうだね」
ペトラは上を見上げた。
雲が分厚いのか、夜空の星は1つも見えない。
「雨が降らないなら、アイツ等が鬱陶しいそうね」
アマルティアも空を見上げて。
「空から来られると、迎撃がね」
「銃では不足だろうし……どうしよう」
「どうにもこうにも……近付いたヤツを打ち緒としていくしか無いんじゃあ無いの?」
ローザは適当だった。
「人を持ち上げるだけの力は無さそうだし、つつかれるのを考えるなら……生身の人間は戦車かクモバモスの中に居れば大丈夫だろうしね」
「じゃあ、バイクとトライクは……まだ預けたままにしとくって事ね」
「もう少し攻撃的にいくならあのデッカイ、クモゴーレムをもう一匹かな?」
「造るのは簡単だけど……もうバモスは無いよ」
フムと考えるペトラ
「背中に箱と枠だけでもいいよ」
ローザは地面に指で絵を描いた。
「シンプルで床が平らで……荷物も載せられる感じ」
「トラックの荷箱みたいな感じね」
アマルティアは理解した様だ、頷いていた。
「平らで枠が有れば上にも横にも銃が撃てるだろうし……なんだったら四隅に柱を立てて天井とか横にクモの糸を張らせれば魔物からは身は守れそうだしね」
喋っている内にアイデアが出てきたのだろう、付け足す様に絵を描きたす。
「あの切れない糸か……」
想像を始めたアマルティア。
とても嫌な感じに思い当たった様だ。
「空からのスピードと細くて頑丈な糸……なんだかえげつないトラップに成りそうね」
「ん?」
ローザも少し考えて。
「なるほど……勢い良く近付けば、糸に切られて体はバラバラか」
笑いながら。
「捌く手間が省けていいね」
「食べる事が前提なのね」
合わせて笑うアマルティア。
ペトラはそれを聞いて。
あれ? こう? どうなる?
頑張って考えていた。
イメージが思い浮かばない様だった。