132 クモとバモス
さて巨大クモゴーレム。
壊れたバモスの所にペトラが連れていく。
「この子なんだけど……流石にそのままじゃあ乗れないよね?」
バモスのエンジンを下ろしてバラしていたローザに聞いた。
「デカイの造ったなとは見てたけど……近付くとホントにデカイね」
形がクモなので見上げる風では無いけど、それでもクモと目線が合うのは不思議な感じなのだろう。
グルリと回って確認した。
「それでもこれに何人もがしがみついては……私達の体力が持たないよ」
笑いながらにエンジンのバラシに戻る。
「うわ……コンロッドだけど、ピストンも割れてる」
「引っ張る感じは?」
「ソレならどうだろうね?」
「ためしにやってみて良い?」
「ん? どうぞ」
大きく溜め息を吐いて……バラバラに成ったエンジンをスパナで叩いた。
「だめだこりゃ」
ドンガラガッシャーン!
盛大な音に振り向いたローザは苦笑い。
クモのゴーレムの後ろのバモスがひっくり返っていた。
「あああ……窓が割れちゃった」
慌ててペトラは車を起こす様にクモの頼んでいた。
「いいよ……もう既にボロボロだしね」
クモゴーレムは横倒しのバモスをヒョイと持ち上げて、地面に下ろす。
流石にこの1トン程だと軽々だ。
クモの巨大きさから考えてもタイガー戦車でもヒョヒョイなのだろう。
と、見ていたローザ。
ふと……目に留まる。
クモのゴーレムの尻から糸が出てソレがバモスの前に繋がっている。
「これは?」
まさかと思ったローザが聞いた。
「クモの糸です……簡単だからソレで引っ張ったんですけど、ダメだった見たい」
ペトラは普通に答えている。
糸は見るからに柔らかい。
そんなモノで引けば、引いている方にクモの速度が落ちるとそのお尻にぶつかるのは必然。
勢いひっくり返っても当たり前でも有る。
が……そんな事はどうでもいい。
ゴーレムのクモが糸を出す?
土塊の腹にそんな気管が備わってる?
いや……大体が材料は? ゴーレムに普通のクモと同じ食べ物は無理だろう?
なら……何処からどうやって?
パニックに成りそうなのを我慢して叫んだローザ。
「アマルティア! マリー! 来て!」
アマルティアは魔方陣の前で腕を組んでいた。
新たに造った2体のロバ……ヤギ似のラクダの様な仕草をするヤツ。
以前に造ったそれと、まったく同じだった。
眉を寄せて唸るアマルティアは小さく首を振り。
そのゴーレムを掴んで地面に叩き割りたい衝動に駈られていた。
「納得いかない」
作務衣と頭に手拭いでも巻いていれば、何処ぞの職人……それも巨匠くらすを思わせる姿だ。
自分でもわかっていたのだ……この形はロバとは見えなくもないとそんなレベルだと。
でも、まあ……ゴーレムなんてそんなものだと今までは思っていた。
だが、アマルティアはクモゴーレムを見た。
そして、地面にウロウロしているペトラの眷族の本物のクモを見る。
色は違う、本物は黒が主体で間接部分が発色良いオレンジ。
ゴーレムはもちろん素材の土の色一色。
でも、形は紛れもなくにクモだ。
多少以上の縮尺の違いは有るのだけど。
足もゴーレムらしく太い。
背中は広めでお尻は小さめ。
でも、これはクモ以外だと間違える者は居ないだろう。
「なんなんだ? この差は……」
頭を掻きむしったアマルティア。
そこに金切り声の叫びが聞こえた。
ローザが呼んでいる。
「なんですか?」
少し不貞腐れ気味に側に寄る。
マリーも呼ばれて居たので、横に並ぶ形。
そして唸って首を捻って居た。
「意味がわからん……」
「なんのですか?」
アマルティアはそのマリーに聞いた。
そこには巨大なクモが居て、車が一台有るだけ……なぜかまたボロく成ってはいるけど。まあ普通。
「ゴーレムなのにクモの糸を出している」
お尻の部分を指差して、また唸る。
「クモって糸を出すんでしょう?」
見たまんまで答えたアマルティア……でも、あれ?
「形はクモだけど……糸を出せるかどうかは違うと思う」
たしかに……身体能力がゴーレム成りに強化されるのはわかる。
出せる力が強くなる。
素早さが出るのは……たぶん特殊だ。これはバルタ達の事。
もちろん知能もゴーレム成りにとなる筈。ヤッパリバルタ達は例外。
でも、それらは形的には納得出来る。
手足や体の動かし方や知能なのだから。
それが……物理的な糸?
……。
「えええええ! 有り得ないんですけどおぉ!」
「そうだ、有り得ない」
ローザも大きく頷いた。
「鳥の形のゴーレムを造っても空は飛べない。カエルのゴーレムを造っても舌は伸びない。ヘビやバジリスクもモチロン毒は出せない……」
クモを指差す指先が震えている。
「でも……出てる!」
その場で一人、真顔で首を傾げて居るのはペトラだけ。
クモなんだから……当たり前でしょう? って感じの顔でだ。
「造ったモノの常識と思い込み?」
ローザが出した答え。
「いや……ペトラだからだと思う」
それ以外の誰が造ってもこんなのは無理だ。
だいいち、出来るなら今までの歴史でそれが有ってもおかしくは無い。
そんな話は聞いたこともない。
……。
「あ……ペトラ遺跡のトカゲのゴーレムは少し特殊だった気がする」
以前に調べた古代遺跡。
名前の通りにペトラが太古の昔に造った遺跡だ。
たぶん初代のペトラかそれに近いペトラだと思う。
「想像と創造の……造る方がペトラだった」
「それって……神様の時の話だよね?」
ローザが驚愕の顔に変わる。
「ペトラが神様に戻った?」
「いや……そうじゃあ無いと思う」
マリーはペトラを指差して。
「相変わらずのアホ面だし」
む!
眉を寄せたペトラ。
「もう……どうでも良いじゃない、そんなの」
クモのゴーレムを指して。
「これはクモ!」
地面を這って居た生きている方のクモを呼んで。
「おんなじクモ! その差は、ゴーレムかそうで無いかの違いだけ」
プリプリと怒り出した。
さて三人は頭を整理するのと冷やすので小一時間掛かった。
そして結論は……出ないけど、それを飲み込んだ。
納得などでき筈無いし、理屈はもっとわからない。
答えはペトラだから……にしか辿り着かないのだから仕方がない。
そして、その時間。
ペトラは一人、試行錯誤していた。
三人に付き合うのは、なんか腹が立つ事ばかり言われるしとどうにかバモスとクモを合わせる方法を考える事にしたのだ。
いまの所は背中に背負わせるが、一番に答えに近いと思っては居ても、その姿がイマイチ納得がいかない。
クモの背中にバモスを糸でグルグル巻きに固定。
でもクモが走ればグラングランと背中のバモスが揺れている。
「もっと、良い固定の方法はないのかな?」
唸るペトラ。
と、いつのまにかに横に居たオリジナル・エルが一言。
「いっその事、クモの体にバモスを埋め込めば? ゴーレムなんだし土だから形はどうとでも成らない?」
ふむ……と想像してみたペトラ。
バモスの下半分がクモ……。
「できるかも……」
頷いて。
「やってみよう」
「あ! ちょっと待って」
ローザがそれを止めた。
「なに? まだ文句あるの?」
ムッとしてローザを睨む。
散々悪口を言っていた気がする。
「あ……いや」
ローザは指でマリーをツツク様に指差して。
悪口は主にマリーだと態度で主張しながら。
「不必要な部品をバラそうかと……意味無い部分は重しにしか成らないし」
宥めながらの言い訳か何かで誤魔化す感じだ。
「たぶんペトラなら……出来そうだし。イメージもわかる」
ウンウンと頷く。
「そう? じゃあチャッチャやっちゃって」
腰に両手を当てての仁王立ち。
ほんがらのボディだけに成ったバモスを背中に載せて、ゆっくりと移動を始めたクモのゴーレム。
アマルティアが描いた魔方陣の上で待機。
「よし……始めよう」
ペトラはおもむろに変な躍りを始めた。
光の中で形を変えるクモのゴーレム。
基本の足はそのままで背中の土がバモスに食い込む様に入り込む。
タイヤやエンジンやその他が有ったバモスの下半分のスペースが結構有ったようで、背中の土では足りなかったのか、大きなお尻の土がそこに足される。
結果、クモのお尻は小さく成り。
背中の前後はバモスの長さに合わせての形に成った。
そして……完全に結合。
「出来た!」
満足げなペトラ。
「クモバモスだ!」
「ネコバスって有ったけど……クモバモス……」
マリーがぶつぶつと言っていた。
「ピンクのボディが差し色に為って……可愛い」




