130 ゴーレム?
クモを目の前に突き出されたローザの驚く顔を指差して。
ケタケタと笑い会うゴーレム・ヴィーゼとゴーレム・エル。
この手のイタズラは昔は良く二人してやっていた気もする。
すこし幼児退行でもしているのだろうか?
ゴーレム・バルタは眉をしかめた。
ゴーレムに成って……回りとの関係性が希薄に為っているのは確かだ。
人間関係の外に居るような疎外感。
しかも……同じ人間でもあるオリジナルがスグ側に居る。
肉体的な弱さも有ってか、常にそちらが優先されるのも事実だし……。
私自身も微妙な変化は自覚が出きるくらいには有る。
「もう! いい加減にしてよね」
驚いて悲鳴を上げたローザが怒っていた。
でも、それは対処が違うとゴーレム・バルタが口を開く。
「食べちゃダメよ」
「ダメなの?」
ココまではいつものやり取りだけど……と、一瞬の逡巡の後。
「今は食べる必要も無いでしょう?」
それは口にして良いのかどうかと迷った言葉だ。
少し寂しそうな顔に成るゴーレムの三人。
しかし、スグにエルが前に出た。
「違うのよ……」
アマルティアのロバを指差して。
「ゴーレムのロバはとても使えるじゃない……でもさ、このクモが走ってるのを見て思ったのよ」
ヴィーゼの持つクモの足の部分を指差して。
「8本足のゴーレムを作ったらもっと何処でも走れるんじゃないかってさ」
「そうそう……大きく作って背中に箱とか載せればどう?」
ヴィーゼもウンウンと頷いた。
「クモはそのままじゃあ、気持ち悪いけど……足だけのゴーレムなら土の感じだし町に入っても不思議がられても怖がられ無いかもって」
「ああ……成るほど」
頷いたゴーレム・バルタ。
「ロバのゴーレムは優秀だと私も思った」
私を含めた三人は真横でそれを見ていたので余計にそう感じたのだろうけど……でもヤッパリ、水の抵抗にも負けずにしっかりと速度も維持して、簡単な判断だけど前にも着いて行けていた。
「4本足でそうなら8本足なら倍に優秀に為らない?」
ゴーレム・ヴィーゼが鼻息荒く力説した。
「足の本数が関係有るの?」
ゴーレム・バルタは少し首を捻る。
「まあ……場所に依るだろうけど」
ローザも考え出す仕草で。
「でも、確かに足が多いと安定はするね」
「じゃあ試してみようよ」
ゴーレム・ヴィーゼがクモをアマルティアの方に差し出した。
「それって大きいのを作れってことでしょう?」
アマルティアの顔はヒキツリ、そして逃げ腰だ。
「小さいので実験でもいいよ」
グイグイと前に押し出す。
「人が一人が乗れるくらいのヤツ」
空いた方の手でロバを指す。
「わかったから……それ、近付け無いで」
気持ち悪いと顔に出ていた。
それでも了承したのはサッサと作ってしまえばもう終わると諦めたのだろう。
アマルティアはゴーレム兵に近くの岩を担いで持って越させた。
雨に濡れても固そうな土の塊の岩一歩手前とそんな感じのヤツだ。
その間に道路に魔方陣を描く。
が、濡れた道路では描き難くそうだ。
時おり雨水が流れてはその部分を消していく。
「雨が止むまでは無理なんじゃない?」
マリーがそれを見ながら言った。
「少し待ったら?」
「でも、ズッと握ってるのはやだよ」
ゴーレム・ヴィーゼがシブイ顔。
気持ち悪いとかでは無くて、面倒臭いの方でだろう。
「だったら……」
マリーはペトラに目を向けた。
「なに? その目」
ペトラは眉を寄せる。
「あんた……気持ち悪いのは得意でしょう?」
「得意とかじゃあ無いわよ」
「ガラガラヘビも使役してるじゃないの」
「あの子は可愛いじゃない」
「じゃあ、この子も可愛いでしょう?」
マリーはゴーレム・ヴィーゼの持つクモを指差した。
「クモも蛇も変わんないでしょうに」
「変わるわよ……足の数が違う!」
……?
ココにた居た全員が思った。
そこ?
「グダグダ言ってないで手を出して」
マリーはペトラの手を取って引っ張る。
「イヤー」
顔を背けて悲鳴を上げた。
「ヴィーゼ……やっておしまい」
マリーに目配せされたゴーレム・ヴィーゼが、一瞬の躊躇の後にペトラの出された手にクモを近付けた。
「ほら、早くしないとクモが手に触れるわよ」
嫌な笑いで追い込むマリー。
「毒が有るかもよ」
キシシシシ。
「産毛みたいな毛がビッシリ」
その一言一言にビクリと反応を返すペトラを見て、マリーは遊び始めたようだった。
たぶん……マリーはクモなんかどうでもいいと思ってるのだと思う。
でも嫌がるペトラを見て楽しんでいるのだ。
ケタケタと笑いながらペトラを指差して居るのがその証拠。
まあ……イヤーなストレスから解放されたからだとは思う。
この手の感じは戦場帰りに良く見かける光景だ。
大小なりでも死の恐怖の後の他者への攻撃だ。
それに慣れた者はそのコントロール方法を知っているのだが……マリーは……?
あれ?
マリーはゾンビだよね?
死の恐怖って感じるのか?
ゴーレムに成った私は……感じなく為ってたぞ?
ゴーレム・バルタは大きく首を傾げた。
……もしかして……元からの性格?
ウワァっと思うゴーレム・バルタだった。
さて、夕方頃には雨が止んでいた。
ペトラは結局、クモを使役して……今はそのクモと遊んでいた。
「あんがい……可愛い」
らしい。
そして目が良いという事にも驚いていた。
クモの沢山の目……複眼? 流石に良く見えるのだそうだ。
「じゃあ、そろそろ始めてよ」
マリーがアマルティアに言った。
指はペトラのクモを指している。
「わかったわよ」
ブツブツと言いながらにアマルティアは魔方陣を描き始める。
まだ乾いていない道路でも、流れる水が無くなったのでチョークでも描ける様だ。
岩の様な土塊が真ん中に置かれた発光。
みるみると形が変わって……土のクモに成った。
やたらと大きく見える。
サイズは手足を伸ばせば2m近く有るのでは無いだろうか。
「あ! 出来た?」
目敏く見付けたゴーレム・ヴィーゼがそのクモに跨がった。
サイズ感がピッタリだ。
「そのクモ・ゴーレム……ヴィーゼにあげるわ」
アマルティアはそう言ってクモの額の部分を指差して。
「指先で三回……コンコンコンと叩いてみて」
ゴーレム起動方法だった。
幾つかの例外を除いての共通の方法。
例外はアマルティアのゴーレム兵とか私達の様な意思を持ったゴーレムだ。
つまりはこのクモのゴーレムは意思は持っていない……もしくは意思を持っていても希薄な感じ。
良く有る市販品のゴーレムと同じ感じだ。
ロバもそうだし……その辺は作り分けている様だった。
「それ……魔素還元装置は入って無いから、ヴィーゼの魔素を供給してあげて」
アマルティアの注意事項の説明。
「まあ、繋がってれば勝手に消費するんだけどね」
「フム……私の燃費が少し悪くなった感じか」
眉をしかめたゴーレム・ヴィーゼ。
「性能は市販品とかと同じ位だと思うから……そこまで燃費は悪くないと思うけど」
「わかった」
頷いたゴーレム・ヴィーゼ。
「実際に動かして確かめてくる」
そう言って、そのままで走り出した。
岩場をスルスルと走るゴーレム・クモに乗ったゴーレム・ヴィーゼ。
とてもスムーズで安定していた。
「それで全速?」
アマルティアも少し興味が沸いた様だ。
自分の作ったゴーレムの性能を知りたいのだろう。
「まだまだ出せるよ」
ゴーレム・ヴィーゼは前屈みに成り、クモに指示を出す。
一瞬で最高速度にまで加速した。
その速度は100kmを越えている様だ。
そこまでに掛かる時間も殆ど無い。
「ほうぉ……」
少し驚いて感心した様な顔をニコリと笑ったアマルティア。
流石は私とでも思っているのだろう。
「もういっちょう!」
ゴーレム・ヴィーゼがまた叫ぶ。
更に加速するクモ。
今度は一瞬とはいかない様だが、それでもズンズンと速度を上げていく。
「うわ! あれって……200kmを越えてない?」
横で見ていたゴーレム・エルが叫んだ。
「前にパトのバイクに乗せて貰った時の速度くらいは出てるよ……あれ!」
「うそ……」
一番に驚いて居たのはアマルティアだった。




