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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
13/233

012 カムス村


 村の中心部で車列を停めたバルタ達。

 みんなして辺りを見渡す。


 

 見た目には、なんの変哲も無い小さな村。

 建物も数える程しかない。

 これでは村民の数も知れているのだろう……が、それはオカシイとも思う。

 村に辿り着く迄に見た麦畑はそれなりの広さだった。

 そんな少人数で管理出来るモノでも無い筈だ。

 それはバルタ達……子供でもわかった。


 「なんだろうね……少し不気味」

 ルノーの横にバイクを停めたエレンがボソリと漏らす。


 「確かに……不思議な村じゃな」

 そこに元国王達も幌車を降りて集まって来た。

 

 「いまだに村人どころか、生きているモノすら見掛けないから……余計に変な感じね」

 マリーも肯定する。


 「人が出てこないのは……」

 エルがそんなマリーと元国王をチラリと見て、その目線を幌車に戻し。

 「アレが怖いんじゃないの?」

 幌車と荷馬車を引いている魔物を指差す。

 

 確かに……凶悪な顔だと皆は賛同するように頷いた。


 そんな皆を確認したマリーは、それでも辺りをもう一度見渡して。

 「でも……それでも確かに変な感じはするはね」

 小首を傾げた。


 「人は居るよ」

 鼻をヒクヒクさせてエレン。

 

 バルタも耳をピク付かせながらに頷く。

 「建物の中に隠れてる?」


 「ふーん」

 マリーは目を細めて。

 「やっぱり怖いのか……」


 少し肩を竦めた元国王。

 ズイッと一歩を前に出て。

 「誰かおらんのか?」

 そして……目線を横に探るように動かす。

 「居るのはわかっておるぞ……出てこんのなら」

 そこで、言葉を止めた。


 中央の建物。

 平屋のこましな小屋から、一人の男が出てきた。

 少し腰が引けている中年だった。

 「あのう……何か御用でしょうか」

 ひきつった笑いに前に出された揉み手。


 眉を寄せた元国王。

 「いや……たまたま通り掛かっただけなのじゃが」

 少し考えたのか、間を開けて。

 「宿は……無さそうじゃの」

 米神を指で掻き。

 「食事とかは……出来んのか?」


 「雑貨屋も在れば良かったんだけど……」

 ローザが後ろで苦笑い。

 それが無いのは一目瞭然だった。


 「それだけで?」

 腰の引けた中年男が探るような声音。

 

 「他に何か有るかの?」

 それだけと聞かれて、逆に驚いた元国王。

 皆に確認するよに振り向いた。


 子供達は皆で首を横に振る。

 その中でネーヴが手を上げた。

 「パンが食べたい」

 

 「そうね……何日か魔物の肉ばかりだったし。有ると嬉しいわね」

 イナが賛同。

 「小麦の収穫が終わったばかりだから……とれたて? 新麦? それで焼いたパンは美味しそう」

 エノもにこりと。

 

 「それは、ワシがさっき言った食事の中に含まれているのでは?」

 笑う元国王。

 「聞きたかったのは、もっと他にはじゃ」


 「簡単な食事は御用意出来ますが……」

 中年の男は戦車や幌車をチラチラと見て。

 「若い女性等の御用命はいかがでしょう……綺麗どころも居りますが」

 少し下卑た笑い。


 「ん? ワシにか?」

 元国王もイヤらしい笑いで答えた。

 

 「いえ……」

 少し言葉を詰まらせて、改めて言い直す中年男。

 「もちろん御用命と有らばですが……戦車の中の御方とか」

 幌車も合わせて見る。


 「あああ……」

 頷いた元国王。

 「ワシ等の中に男はワシだけじゃ」

 高笑い。


 そして、全員が元国王の後ろに並んだ。


 「これで全部よ」

 マリーが告げる。


 「え?」

 驚いた表情の中年男。

 「女子供だけ?」


 「だからと言って変な考えは辞めときなさいよ」

 マリーは眼光鋭く。

 指はスピノサウルス……魔物を指す。

 「コレが私達の誰に使役されているかは……わからないでしょう? 変な事をすれば暴れだすかもしれないわよ」


 「いえいえ……私共は盗賊の類いでは有りませんのでそんな荒事は……」

 両手を前に大袈裟に振り。

 「ただ驚いただけです」


 「子供達だけで戦車を動かす事にか?」


 「ハイ、それと戦車のマークが黒十字でしたので」

 ヴェスペを指差す。

 「その……つい最近も黒十字の」

 男は少し眉を寄せて。

 「カギ十字でしたかの黒い制服の兵士殿達が来られまして」

 

 「成る程……そやつらがたんまりとお金を落として行ったのか」

 肩を竦めて……笑う。

 「当てが外れたのう」

 

 「そうですね……そうそう幸運は続かないものですね」

 腰の引けが元に戻りつつある男は後ろを振り返り。

 「もう出てきても良いぞ」


 それを合図に、ゾロゾロと人が出てきた。

 若い女性ばかりだった。

 これ等が一晩の売り物だったのだろう。

 皆が出来る限りで小綺麗に繕っている様だ。

 そして……顔はあからさまにガッカリとしている。

 小遣い稼ぎは出来ないと理解したようだった。

 

 その中の一人がクリスティナを見咎めた。

 「あら? エルフの子」


 中年の男も目をやる。

 そして、また下卑た笑い。

 今度はしたり顔も付け加える。

 「成る程……」

 そう一言を呟いて。

 後ろの女性をチラリと目配せ。


 された方の女は頷いて、元の小屋に戻って行った。


 暫くして……数人の子供を連れてくる。

 人族。

 獣人族

 そして見た目がエルフ。

 各々の首には頑丈な鉄の首輪。

 

 目を細めた元国王。

 「奴隷は禁止されたのでは?」


 老人にしては圧のある声音に驚いた中年の男は……しまったと顔をしかめる。

 「いえ、これ等は奴隷では有りません」

 しどろもどろに答えながら、近くの子供の胸元をはだけさせた。

 「この通り……奴隷紋もございません。ただの下働きの子供です」


 「しかし……ソレを売り買いさせる積もりなのじゃろう」

 眼光鋭く。


 「雇用契約です」

 咄嗟に出たにしては良い言い訳とでも思ったのだろう。

 続けて。

 「この子供等は誰かの比護が必要です、無ければ餓えて死ぬか……良くても魔物の餌。ですから養ってくれる者を探しているのです」

 自分の胸を掌で叩き。

 「私共はその御手伝い」

 頷いて。

 「ただほんの少しの手数料を頂いているだけ出す……ここに置いておくだけでも食費は只と言うわけにもいきませんし」

 上目遣いにチラリと見て。

 「それにコレ等は……人間ではありませんし」


 「人の子に見えるわよ」

 マリーは一人を指差して。


 「それは転生者ですから……分類は魔物と一緒」

 

 「獣人は?」

 次の子を指差す。


 「獣人は獣人です……古今東西、家畜ですから」


 「エルフは? チャンと国も有ったわよね?」


 「その子は、フェイクエルフと転生者の混じりモノです……エルフの能力は微塵もない」

 そしてチラリとクリスティナを見る。

 同じだとでも言いたいのだろうか?


 「言っとくけど……この子は本物のエルフよ」

 マリーはクリスティナを抱き寄せて。

 「見た目だけじゃなく能力も有る、純血種」

 

 「まさか!」

 中年男はあからさまに狼狽えた。


 「嘘だと思うなら貴様の所のエルフにでもたずねれば良い」

 元国王は地面を指差した。

 「この下に居るのじゃろう?」


 「そうなの?」

 驚いた様子のマリー。


 「エルフの地下住居じゃよ」


 「成程……だからあんな狭い小屋から沢山人が出てくるのね」


 「どうせこの村を仕切っとるのもエルフじゃよ。自分は安全な所からの高みの見物なのじゃろう?」

 後半は中年男に向けてだった。

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