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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
127/233

126 強行軍


 太陽が沈み、上空の鳥達が消えた。

 何処に行ったのかと考えても……側には左手に見える竜の背。山脈に何処かに帰ったのだろう。

 それもたぶん一時的にだ。

 明日の朝には今日と同じ事に為る。


 「今のうちに逃げ切るわよ」

 バルタはヴィーゼと運転を代わってルノーftを操縦していた。

 そして……焦っても居た。

 まさか、鳥達が居なくなるなんて考えて居なかったのだ。

 いや、普通に考えればそうなるのはわかるのだが……完全に失念していた。

 もう、沼地のハイギョの気をそらす為に鳥は使えない。

 「魚も……夜は寝るのよね?」

 希望を言葉にして呟いてみた。

 そうなれば邪魔なのは路上のミミズだけだ。

 だが……バルタの耳にはいまだに活発に動くハイギョの音が聞こえていた。


 「ねえ……これ食べていい?」

 位置を代わったヴィーゼが非常食を漁っていた。


 「いいよ」

 それぞれの車両に積み込んでいた非常食。

 バモスは手に入れてスグに動かしたのでまだ積んでは居なかったが……あちらにはマリーが乗っている。

 食料は転送紋でナンとかしてくれるだろう。

 問題はルノーftとヴェスペの非常食は何日持つかだ。

 ここの状況を抜けるのに何日掛かるか……それがわからない。

 最悪はマリーの食料を移動させるしかないが……それは鳥の居ない夜のうちにやるべきなのだろうか?

 何時までもミミズが気持ち悪いと言っていられない状況なのかも知れない。


 考え事をしていたバルタの口にカロリーメイトが差し出された。

 後ろからヴィーゼが手を伸ばしてくれたのだ。

 それを口に咥える。

 


 ヴェスペの中は静まり返っていた。

 いや……静かに騒いでいた。

 

 「お腹減った……」

 ネーヴが呻く。


 その口をアンナが押さえて。

 「あんたが全部食べちゃうからでしょう?」

 自身も極力小声で


 「そうだよ私もお腹ペコペコだよ」

 エレンも呟く。


 「騒ぐとバルタにばれるよ」

 運転しているのはエル。

 「非常食をオヤツ感覚で食い尽くしたって」


 「絶対に怒られると思う……私は悪くないのに」

 クリスティナが通信士席でグチグチと、やはり小声で。

 

 「ミミズ……食べる?」

 ペトラは砲台で横に成っていた。

 

 「後ろのバルタに付かれずに取って来れるならね」

 エルは鼻を鳴らした……もちろんそれも小さくだ。


 「無理だよね……だいたい音を立てなくても幌から抜け出せば丸見えだよ」

 「真後ろのロバ車を挟んでアン達だけど……気付くだろうね」

 「ぐうーーーー」

 最後のはネーヴだが、口からでは無くてお腹から大きな音。

 

 慌てたエレンとアンナはそのネーヴの腹を押さえた。

 「シー」

 二人して口許に人差し指を立てて、末妹を睨む。


 「ごめん……でもこれは生理現象だから、止められないよ」

 自分でもお腹を押さえている。


 「それにミミズの方がマシってどういう事よ」

 エルは運転席からチョコバーを投げた。

 「まだこれが有るでしょう?」

 

 「ウゲー……」

 三姉妹は声を揃えて、イヤな顔も揃えてだった。


 「それ……本気でマズイよね」

 一応はペトラもチャレンジしていた。

 側にはほんの少しだけ噛られたチョコバーが転がっている。

 「味もだけど……口の中でモソモソする感じ。チョコ感ゼロ」


 「そういう味付けよ」

 エルは以前にした説明を繰り返した。

 「非常食を間食するバカの為の対策」


 「そのマズイの意味を身を持って知る事に為るとは」

 ペトラはネーヴを睨んでいた。


 「だから……ごめんって」

 ネーヴもシュンと縮こまる。

 「まさかこんな事に為るなんて……思わないじゃん」


 「やっぱさ……ここで停まってキャンプしよって、提案しない?」

 アンナが言った。


 「それが良いと思う……空の魔物も居なくなったし、少しくらいなら休憩もアリじゃん」

 エレンも同調。


 今度はハッキリと音を立てて鼻を鳴らしたエル。

 「あんた達……やっぱり理解してないのね、今の状況」


 「ナニがさ」

 「魔物に囲まれてるだけじゃん」

 「弱い魔物だよ」


 「今は弱いわよ……でも、もう一度雨が降ったらどうなる?」

 エルは首を振りつつ。

 「一回の雨で道の横に魚が泳げるだけの量の水が溜まったのよ……それがもう一度なら、この道も水に沈むでしょう?」


 「いや……今は止んでるし」

 

 「雨季なのよ、まだまだ何時でも降るわよ!」


 「道路が沈んだら……」

 考え始めた三姉妹。

 「50cmくらいならユックリと走れるよね?」

 「モンキー50zは無理だよ20cmが限界じゃない?」

 「それでも……走れば波が立つし水飛沫が上がればキャブに吸い込むかも」

 三姉妹は同時にハッとした顔で。

 「動けないじゃん!」


 「しかも……魚は動き放題よ」

 エルは今更? って顔だ。

 「今は陸地が残ってるから、たいした驚異には為ってないけど……水位が上がったら、陸地が無くなったらあの大きさは強いと思うわよ」


 「そうだね……デッカイ始祖鳥も一飲みだったもんね」

 ペトラも頷いた。


 「魚って遅い様でも……水の中なら私達の方がズッと遅いと思うよ」

 クリスティナでさえ理解していた様だ。


 「めっちゃ……マズイじゃん」

 三姉妹は驚いていた。


 「そうよ、だからバルタは止まらずに前進って言ったのよ」

 エルは大きなため息。


 

 

 「空の感じはどうだ?」

 バモスの中でアンがイナ達に聞いた。

 アンも運転しながらも空を見上げては気にしていた。


 「少し曇っては来たけど……まだ大丈夫だと思う」


 「夜に成って空の魔物も消えたし、今のうちに高台に逃げたいわね」

 マリーはパンを噛りながらだった。


 「でも、本当なの? 砂漠で一番の死因が溺死って話」

 アマルティアがマリーに聞いている。


 「砂漠は滅多に雨が降らないからね、だから治水対策なんてしてないんだよ……何年かに一度の大雨に備えても金の無駄って考える者が多いからね」

 それにはアンが答えてくれた。

 「だから簡単に水が溜まるのよ」


 「でも、乾燥した土が水を吸ってスグに無くなるんでしょう?」


 「逆よ……乾燥しすぎると土の密度が高まって、まあ硬く固まるって感じに為るから水を吸い難く為るのよ」

 アマルティアにパンを差し出しながらのマリー。

 「地面の表面は風やその他で細かく削れて居るから、まだ水を吸うけどそれはほんの少しの事よ」


 「なるほど……だからこうなるのか」

 パンを受け取って頷いたアマルティア。


 「でも、この道は一応は水害も考慮して作られて居るからマシよ」

 ローザもパンを受け取った。

 「お祖父ちゃんの世代の時に道路整備の仕事を請け負ったって言ってたけど……たしかその時の王様の以来で道路を少し高くしてくれって言われたらしい。たぶんこの事も含めての事だったのね」


 「へえ……すごい王様も居たんだね」

 感心しているアマルティア。


 「たまたまよ……あの男にそこまでの思慮は無いわ」

 マリーはそれを笑う。


 「そうなの?」

 アマルティアが首を傾げて。

 

 「いや、随分と前の王様かもだけど……あまり悪くは言って欲しくないな」

 アンが抗議した。


 「ほう、その王様ってあんた達もよく知っている男よ……ほら何時も元国王って言ってるじゃないの」

 

 「え!」

 残念な顔を見せたアマルティア。

 「そっか……たまたまね」

 大きく頷いた。


 「まあ元国王は運だけは良さそうだしね」

 ローザも笑っていた。


 そして一人。

 うーん……と唸るアン。

 元国王の事は少しは知っているが、そんなに信用が無いのか? とも思う。

 でも、みんなはリアルに思っているらしいし……何よりもゴーレムの件が有る。

 あれは確かに余計な事をしている。

 もう一度、大きく唸った。

 

 「まあ、道路を高くは維持と掃除が楽に為るからとはわかってたみたいだけどね」

 一応は庇うマリーだった。

 「低いとゴミがや砂が道路に溜まるけど、高いと風や誰かが通っただけでもそれが舞って低い脇に落ちるでしょう? だからよ」


 「なるほどね……たしかにだ」

 頷いたローザ。

 「峠の道とか、崖に面して居る道路にはよく葉っぱや枝や枯れ木とか石とか岩とか落ちているものね」

 

 「それ全部を引っ括めてゴミね」

 笑ったマリー。

 「今回はそれで偶然に助かっただけよ」


 「まあ、偶然でもタマタマでも……それで助かったのは事実だし」

 アンも後ろ手に手を出してパンを受け取った。

 「元国王には感謝しないとね」


 「ええええ」

 複数の声が重なった。

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