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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
125/233

124 雨宿りの翌日


 「この雨って止むの?」

 夜に成っても降り続く雨。

 それも普通以上の大雨だ。

 裸のオリジナル・ヴィーゼはクシャミをしながらに呟いていた。


 オリジナル・エルもヴェスペの天井に成っている幌を見ながらに不安げだった。

 雨がその幌を叩くので、煩くて寝れもしない。

 そして……夜は酷く冷え込んでいた。


 「お腹……空いたなぁ」

 ネーヴも呟く。

 その側には携行食の空箱が幾つも転がっていた。

 黄色いパッケージのカロリーメイトである……もちろんダンジョン産。


 「それだけ食べてもまだ足りないの?」

 エルはぶつくさと言いながらも、ヴェスペの砲の下……足場にもしている木箱を開けてゴソゴソ。

 「後はコレだけよ」

 放って寄越したのは、第二次世界大戦中のアメリカ軍の軍用チョコバー……Dレーションと言われるもの。

 通称はローガン・バー。

 

 手にとっても……顔を歪めたネーヴ。

 「これ……ムチャクチャ不味いヤツじゃん、固いし」

 

 「それはそうよ……最後の最後に生きる為に食べる為のモノだから、美味しかったら食べ過ぎるしどうでも良い時におやつ感覚で食べてしまわない様にワザとそうしてるのだから」

 

 唸るネーヴはチョコバーを睨み付けていた。


 「戦車チョコレートとは違って、麻薬とかは入っていないわよ……それは」


 考え始めたネーヴ。

 散々唸って……それでもパッケージを剥く。


 「食べるんだ」

 まさかとそんな顔に成るエル。

 

 「背に腹は代えられない」

 呟いて……パクリ。

 「うげー……」

 世にも奇妙な顔に成る。


 「まだまだ有るわよ……それ」

 箱をゴソゴソ。

 「剰りにも不味いから、大量に残ってるってローザが言ってたし……その売れ残りだから」


 「もう……いい」

 流石のネーヴも食欲を砕かれた様だ。

 チョコ自体は固すぎて歯も立たない様だが。


 「まあ……今日はもう寝ない?」

 横で見ていたペトラが提案した。

 

 「七人で寝るには狭くない?」

 クリスティナが各々の顔を見た。

 運転席にはオリジナル・ヴィーゼ。

 通信士席には私……クリスティナ。

 後部砲デッキにはエルとペトラに犬耳三姉妹。

 どう考えてもキャパオーバーだ。

 

 「そうね」

 頷いたペトラ。

 「体の小さい二人が運転席と通信士席に各々、居るのがオカシイ原因だと思う」

 

 「え? 私?」

 確かに体の割に椅子は広いけど……。

 でも、ここは私の席だし。

 

 「藪をツツいたわね」

 エルは笑って。

 「ヴィーゼとクリスティナで通信士席……1つね」

 ヴィーゼを指差し横にチョイチョイと振った。


 「ええ……狭いよー」

 ブー垂れたヴィーゼ。


 「なら、一番に体の大きな私が運転席ね」

 ペトラが強引にソコに潜り込む。


 押されたヴィーゼは横に転がされて通信士席。


 「狭い狭い狭い」

 ジタバタと抵抗していたクリスティナに覆い被さる感じだ。


 「仕方無いでしょう……ペトラは大きいんだから色々と」

 エルはまだ笑っている。


 「少し背が高いだけよ……太ってるみたいに言わないで」

 14才女子の一般的な身長の155cmだった。

 環境も普通に育ったのでそこは普通だ。

 獣人の子達は特殊な環境で育ったので……平均依りもかなり小さいので、年齢差も含めてその差は大きい。

 クリスティナも背は低い方だ……理由は獣人の子達と大差無く、城の地下に捕らえられて育ったせいだ。

 それでも、食事の事情はまだマシだった様で、ヴィーゼとは身長差がほぼ無い……年齢も1才差なのだけど7才と8才では普通は一目でわかる差が出きる筈なのだけけれど……やはり、盗賊の方が依り粗末な食事だったのだろう。

 「体もツンツルテンのマッ平らなんだし大丈夫でしょう?」

 そう私は太ってるんじゃない……普通に成長してデコボコしているだけよ。

 これが……普通なの。

 「エルも三姉妹もね」

 少しムクレ気味に意趣返しだ。

 

 「私はスマートだけど……」

 エルは眉を寄せて下唇を付き出し。

 「三姉妹は最近は……ね」

 

 「エルは痩せ過ぎなのよ」

 アンナが抗議。


 それにはエルはネーヴのお腹を指差して笑う。


 「この子は特別よ……食べ過ぎなのよ!」

 

 「私……太ってないよ」

 いまだにチョコレートを握り締めて居た。

 不味い上に固いので、チョビチョビと舐めるだけだから減らないのだ。


 そして、長女のエレンは思う。

 ダメだこりゃ……今日はたぶん寝れない。とだ。


 


 翌日。

 早朝に起こされたみんな。

 起こしたのは……魔物だった。


 何時の間にか雨が止んで、路上に出て居たミミズを捕食しようと空を飛ぶ魔物達が集まっていたのだ。

 グギャーグギャーと騒ぐのはプテラノドン……それが一番に大きくて大量に居た。

 グワーグワーッと泣いているのはオオムの様な嘴に長い後ろ足に翼の前の途中に鉤爪……たぶん始祖鳥だ。

 それにハゲ鷹も遠巻きに集まっていた……こちらは間違えない、戦場では良く見かけるのだ、死んだ兵士をツツク為にだろう。

 

 「うわ……すごいね」

 幌の端を捲って覗いたエレンが驚いていた。

 

 「でも、良く喧嘩に為らないね」

 これだけの数で種類も多数……喧嘩してても不思議じゃないと思ったペトラ。


 「さっきから観察してたけど」

 エルも幌の端を捲っていた。

 「一番に大きいプテラノドンが一番にドンクサイみたい」


 「ああ……それは飛ぶのが下手くそなの」

 クリスティナがそれに答えた。

 「翼に羽が無くて皮膚の膜だから……滑空が主なんだって」


 「よく知ってるね」

 エレンはクリスティナにも驚いた。


 「コノハちゃんに聞いた」


 「なんだ鳥好きだからじゃあないのか」

 ヴィーゼも暗い戦車の中で視線をキョロキョロとさせていた。

 意識と視点は戦車の外に置いて居るようだ。


 「ハゲ鷹は飛ぶのは上手だけど……腐肉しか食べないから、他のが殺した後の食べ残しを待っているの。だから今は遠巻きで見てるだけだって」

 ヴィーゼは無視したクリスティナ。


 「始祖鳥は?」

 エルが聞く。


 「飛ぶ上手さはその中間……でもプテラノドン依り小回りが効くし普通に逃げられるみたい」

 少し間を空けて。

 「それにもっと簡単に捕れるミミズが大量に居るから、争う必要も無いみたいだし」

 間が空いたのはコノハちゃんに聞いたのだろうか?


 バサバサバサ……バタバタバタ。

 ヴェスペの幌の上にその始祖鳥が降りて走った音。


 「ここに居るのはマズくない?」

 ヴィーゼが首を引っ込めた。


 「確かに移動した方が良さげね」

 エルも頷く。


 「え?」

 「バイクは?」

 「私たちどうするの?」


 「裸でバイクに乗る?」

 エルは笑う。


 「食われるじゃん」

 三姉妹は同時に叫んだ。


 「そうねツツかれるでしょうね」

 頷いたクリスティナ。

 「プテラノドンは動くモノに興味を示しやすいから」

 

 「置いてく?」


 「やだよ」

 「絶対にいや」

 「……」

 最後のネーヴはエルを無言で睨んでいた。


 「じゃあ……」

 無線を取ったエル。

 「ゴーレム・私……聞こえる?」


 「なに?」


 「三姉妹のバイクなんだけど乗れるよね?」

 エルも少し練習した事が有る。

 三姉妹ほど上手くは乗れないと理解した時点で止めたのだけど……動かすだけなら問題ない。

 「ゴーレム・ヴィーゼとゴーレム・バルタで乗ってくれない?」


 「移動するの?」


 「今は大丈夫みたいだけど……そのうちにこっちに向かってくるかもだし今のうちに逃げたいのよ」


 「なるほど……了解」


 「私達のAPトライクは?」

 タヌキ耳姉妹だった。


 「あれも……横が開いてるから危ないのか」

 唸ったエル。


 「私のゴーレム兵に乗らせる?」

 アマルティアだ。

 「APトライクもゴーレムだから……動かすだけならそんなに難しく無いでしょうし、出きると思う」

 

 「そう言えばイナとエノとアマルティアは……今は何処に居るの?」

 ヴィーゼが聞いた。


 「三人ともピンクの車に退避してた」

 答えたのはイナ。


 「じゃあ……そうしよう」

 エルはアマルティアの案に賛成した。


 「いやいや、チョッと待って」

 バルタが異議を唱える。

 「ルノーftは誰が運転するの?」

 ガコン……バタンと音がするのでゴーレム・ヴィーゼが戦車を降りたのだろう。


 「バルタも戦車は運転できるでしょう?」

 エルが言う。


 「出来るけど……イザという時に砲手が居ないのは、危なくない? 空にはウジャウジャ魔物が居るのに」


 「確かに……そうね」

 唸ったエルはヴィーゼを見た。

 「こっちはペトラに運転をさせるわ……運転席に居るから丁度いいわ」


 「えええ……私、移動するの?」

 

 「バルタが来いって言ってるんだし……行かなきゃでしょう?」


 「そうだけど……」

 ブチブチと文句を言いながらに……諦めた様だった。

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