122 砂漠のカエル
「ねえ……まだなんかいない?」
ペトラはクリスティナに聞いていた。
胸にはナキウサギ……でもガラガラヘビは体に巻き付いては居なかった。
「コノハちゃんに見付けたら適当に捕まえて来てって言って有るから」
ウンザリと答えるクリスティナ。
「サイズもそれくらいの大きさで良いんでしょう?」
生きたまま捕まえられて持ってこれる大きさだ。
「大きいのは……邪魔だしね」
頷いた。
そして、ぎゅう太の背に乗っていたクリスティナを思い出したペトラ。
楽しそうには見えた。
そして可愛かった……背かに乗ったクリスティナが。
だが、それが自分だとしたら? いや……可愛くは無いと思う。
あれはクリスティナだからだ。
そして、そのギュウ太は大き過ぎる。
あれを運ぶのは大事だろう。
まあ……ギュウ太は魔物だったから走るのも速かったけど、リアルな普通の牛だと遅いイメージだ。
ならヤッパリ運ばなくてはいけなくなる……何処に載せる?
ペトラはクルリと周囲を見渡して……溜め息。
そんなスペースが有るなら別の役に立つ物を乗っける。
「ヤッパリ小動物で……」
「この感じだと……」
ゴーレム・ヴィーゼが運転しながら。
「砂漠だし、トカゲとかの爬虫類? か、サソリとかの虫かな?」
「サソリって虫なの?」
ペトラが確認。
「違うの? 見た感じはザリガニっぽいけど……実はカニ?」
ウーンとゴーレム・ヴィーゼ。
「見た目だとザリガニは海老か……ならサソリも海老?」
「違うでしょう……たぶん分類はクモじゃあ無いの? 足の数とかを考えると」
エルの見解。
「ふーん……まあどっちでもいいけど」
ペトラは軽く流した。
「ヤッパリ……使役するの?」
その態度に驚いたエルの目は細く長くに成っていた。
「しないわよ……流石に気持ち悪いから」
「良かった……もうそんなのはヘビだけでじゅうぶんよ」
エルが大きな息を吐き出そうとして……止まる。
「あれ? ヘビは何処?」
慌てて自分の足元を確認する。
肩を竦めたペトラはヴェスペの中の端っコ……砲弾が立て掛けて有る後方を指差した。
そこにチロチロと舌を出すガラガラヘビが隠れる様にトグロを巻いていた。
「ぎゃっ……」
小さな悲鳴を上げたエル。
遠巻きに見ながら。
「そんなとこに居たら……弾が取れないじゃないの」
「大丈夫よ気にしないで……別に噛まないから」
「噛む噛まないじゃないわよ!」
ジタンダを踏む。
「そんなにバタバタしたら……ヘビが興奮するわよ」
フンと鼻を鳴らした。
と、そこにコノハちゃんが帰ってきた。
嘴には子猫サイズの黒い塊がグニャリと垂れ下がっていた。
ヴェスペの床に優しく降りて、端っコに居たヘビの近くにそれを落とす。
ベチャリと転がるそれは、足の短いカエルの様な生き物だった。
「生きて……無いよね?」
ペトラは少し渋い顔。
「魔物ですよ」
クリスティナは苦笑い。
「魔物は使役はしないんですよね?」
「魔物のか……」
悩み始めたペトラ。
そのカエルモドキをガラガラヘビがパクリと丸飲み。
それを見ていたコノハちゃんも満足げにして、また飛び立った。
「ヘビにお土産だったのか」
ペトラは飛び去るコノハちゃんの後ろ姿にお礼を言った。
「まだまだウジャウジャ居るみたいだけど?」
クリスティナはペトラに顔を向けて。
「でも極端に弱いらしいから、コノハちゃんでは生け捕りは無理だって」
「そうみたいね……ほとんど水だったってガラガラヘビも言ってるみたい」
言葉はわからないけど感情が感じられる、渇いた喉が潤った……とだ。
「スライムみたいなカエルなのね」
フムとエル。
「ヤッパリ魔物なのね……そんな水っぽい生き物なんて居るはず無いし」
……実際は居るだけど。
オーストラリアのウォーターホールディングフロッグ……砂漠に適応する為に体重の半分の水を溜め込める。
だから潰せばほぼ水風船だ。
まあ、知識が無ければ魔物にしか見えないのだろうけど。
これは後からパトに聞いた知識……なので今は知らない事。
「どうしても欲しいなら……そこに行って手掴みね」
「いや……いいや」
弱すぎる生き物も飼うのが難しいそうだ。
だいたいが飼う為に使役するわけじゃあ無いし……みんなの役に立ちたいからだし。
もちろんカワイイは優先されるけど……ちなみにガラガラヘビもカワイイと思ってる。キモカワイイもカワイイのうちだ!
ヘビらしからぬポッチャリとした胴体が特に良い。
「まあ……でもさカエルなんでしょう?」
ゴーレム・ヴィーゼ。
「カエルがゾロゾロと出て来るって事は……雨が降るのかな?」
「あああ……どうだろう?」
空を見上げたその場のみんな。
数時間後には……大雨だった。
初めはポツポツとだが、その後は一瞬でバケツをひっくり返した様な水が落ちてきた。
太陽の光さえ遮る程だ。
慌ててヴェスペに幌
を掛けたのだけど……それも間に合わずに床は水浸し。
もちろんみんなもびしょ濡れだ。
だけどヴェスペに乗っている者達はまだマシだった。
バイクの犬耳三姉妹は諦めてカッパも着ていない。
アマルティアのロバ車が引っ張るゴーレム運搬車の隙間に詰めていた、バイクでも着れるレインポンチョを取りに行くその途中でもう諦めた感じだ。
ちなみにアマルティアはそのポンチョを着ている。
後ろのゴーレム兵達に手伝わせて素早く着込んだ様だ……セーフ! ってな顔をしていた。
後の車両は屋根が有る。
それでもAPトライクは横が筒抜けなので、横殴りに煽られれば濡れるけど……この雨はそんな器用な事が出来る隙間すら無い感じだ。
とにかくバシャー……だった。
そして、その雨は地面を沼に変えた。
石畳の舗装路は洗われて綺麗には成った……鉄の履帯は滑り速度が出せない。
しかし、道を少しでも外れれば柔らかく成った泥が履帯を喰い……車体のそこが持ち上げられて進まなく成る。
そのままもがけばスタックだ。
ゴムのタイヤ着きは走れ無い事もない……ただし舗装路限定で速度は出せない。
その理由は視界の悪さも有る……ワイパーが意味を為さなかったかだ。
そして、道に出来た川はゴムタイヤでも浮かせてしまう。
なのでハイドロプレーニング現象の起こらない低速が最高速度だった。
「どうすんの?」
無線からオリジナルとゴーレムのヴィーゼが同時に叫びが響く。
オリジナルはルノーftでゴーレムがヴェスペ……どちらも鉄の履帯だ。
「どうしようも無いよ」
濡れ鼠のエレンが低出力トランシーバーを体を使って保護しながらに叫ぶ。
トランシーバーは防水なのだがマイクに雨が当たると雑音が勝ってしまうからそうしていた。
それもバイクを運転しながらだから……器用と言うか流石に慣れたものだ。
「いったん停まって雨をやり過ごそう!」
アンナはもう既にバイクを停めていた。
「道の真ん中でも仕方無いよ!」
ネーヴは半泣きだ。
「そうね……ここから雨が凌げる所に移動も出来そうにないわね」
オリジナル・エルは決断を即す。
相手はバルタだ。
「出来るだけ密集して停止よ」
オリジナル・バルタが叫ぶと。
「私達は車両の安全確保よ」
ゴーレム・バルタが叫んで飛び出していた。
それに続いたゴーレム達。
雨に打たれても気にも為らない土塊の体が役に立つと戦車2台を担いで横に並べる。
そして間に分厚いシートを掛けた。
両戦車の一番に高い位置に端を留めてその反対を低い位置の道路にゴーレム兵に引っ張らせる。
傾斜を着けて雨水を流す為だが……その流れる水は滝だった。
「バイクはこの中に!」
出来上がった緊急の退避所に招く様に手を振るゴーレム・エル。
三姉妹はバイクを押してそこに逃げ込んだ。
「この雨……クチャクチャだよ」
ネーヴは泣きながらに服を脱ぐ。
脱いだ服はバイクに掛けての素っパになるのだった。




