121 友達だから
その日の夜は、廃村の老人を招待しての晩御飯だった。
マリーの転送魔方陣で送られて来たのはミートパイにベーコンのスープ。
少しイタリアンな感じの味に成っていて、とても美味しかった。
「これ……家の味だ」
ローザは頬を押さえて満足げだ。
「て、事は……ジュリアお婆さんが作ったのね」
ローザを見ていたアマルティアが頷いた。
「曾祖母か……実感わかないな」
両頬をパンパンにして唸るローザ。
「でも、性格は別にして見た目はそっくりよ」
マリーはフォークを口に往復させてパクパクと。
「あ、酔っ払った姿はソノモノね」
「マリーはジュリアさんの事……昔から知っているの?」
ムーズだ。
お行儀良く、優雅なフォークの動きだ。
「ジュリアが16才くらいの時から暫くは一緒にいたわ」
「どんな感じだった?」
ローザは興味が隠せない。
「大人し過ぎる感じだけど……自分の趣味に為るとマニアかオタク感、全開だったはね。特に武器とか鉱石とかね」
「こだわる感じか……」
ローザが唸る。
「じゃあ性格もおんなじじゃないの?」
エルが笑った。
「ローザもお金に拘っているし」
「別に拘ってはいないよ……商売だから利益は大事でしょう?」
「じゃあ、戦車には拘ってるよね」
ヴィーゼが入って来た。
「へんな改造してたし」
「へんなって、みんながやってって言うから」
「2号戦車ルクスをレオパルトに改造してたじゃんちっちゃいパンターみたいなヤツ……パトには否定されてたけど」
「あれは……出来るって言うからやってみただけよ」
モゴモゴと口ごもる。
「20トンだっけ? 重すぎて軽戦車じゃないって言われてたね」
イナだった。
「性能も値段も3号戦車と変わらないなら3号の方が良いって……ともね」
エノもだ。
そんな会話を繰り返す子供達に老人はニコリとして行った。
「獣人もドワーフも人族も……仲が良いんだな」
「そんなの区別する意味無いじゃん……友達かそうでないかだけだよね」
エレン達、犬耳三姉妹は笑う。
「なるほど……確かにそうか」
老人もわらった。
何時もの様に、何時ものごとくの夕食風景だ。
子供達の誰もが、ソレが特別だとは思ってはいない。
ただ、楽しければそれで良いのだ。
さて……夜も更けて、夕食も終わり子供達も休むことにする。
場所は、老人から食事代の代わりに村の廃屋を1つ借りる事に成った。
石で出来た比較的壊れていない小さい建物だ。
流石に2年近くも放って置いた建物……の、筈なのにそんなにホコリっぽくも無い。
家具も壊れてはいたが、使え無くも無い感じだ……ただしベッドはダメだった。マットレスが無い。
有ってもダニだらけだろうから、それは仕方無い事なのだろう。
だから、寝袋や毛布は持ち込みだ。
まあ……それも何時もの事だ。
翌朝、お爺さんと別れの挨拶をして村を出る。
また左に山脈を拝みつつの南に向けての出発だ。
「多少、荒れてるけど……ヤッパ道路は楽だね」
砂の浮いた石畳を進むヴェスペを運転していたゴーレム・ヴィーゼが言った。
何時も運転していたローザはピンクのバモスの後ろ……それも荷箱の方で寝ていた。
抱いて居たのは酒瓶。
昨日の夜に気が付いたのだ……ゴーレム・ヴィーゼが居るなら運転出来るんじゃあないの? とだ。
運転しなくても良いなら呑んでも良くない? と、成った。
そして相手も居る……お爺さんだ。
肴も有る……夕食の残りのミートパイ。
完璧だ!
で、今現在……完全に出来上がって居た。
「ホコリっぽいのがキツイけどね」
エレンがボヤク。
「砂でタイヤが滑る」
アンナもボヤク。
「魔物は相変わらずに……食べられそうに無いし」
ネーヴもボヤイタ。
「いっそ……道路から外れたら?」
エルが三人に言い放つ。
「荒野でも、ガレ場じゃあ無いから走れるんでしょう?」
何もない砂漠でも足がめり込む砂では無い、もっと固い地面だ。
「まあ……そうだけど」
「結局は砂だからね」
「おんなじだね」
「バイクで体が剥き出しなんだから……先頭を走れば良いのに」
その先頭を走っているAPトライクを運転していたイナがポツリと呟く。
「魔物の情報を一番に知りたいからでしょう?」
後ろに乗っていたエノが笑った。
ヴェスペにはクリスティナが乗っている。
クリスティナの使役している鳥達は各々が交代で空から進行方向を監視していた。
その上で今はペトラも居る。
ペトラのナキウサギはヴィーゼの上位互換だ……見える範囲も広い。
なので、魔物の情報は今はヴェスペが一番に早いのだ。
さて、そのペトラがヴェスペに乗っている理由は……。
「ねえ、なんか居ない?」
クリスティナに聞いている。
「魔物はダメなのよね」
クリスティナもペトラに答えていた。
「使役はたぶん出来るだろうけど……魔物だとイロイロ面倒そうだし」
欲して居たのは新しいスキルでの使役できる生き物だ。
動物を使役出来るってなんだかワクワクするじゃない。
「出来れば小動物が良いな」
胸に抱いたナキウサギの頭を撫でつつの要望。
「まあそうね」
頷いたクリスティナ。
「魔物は誰かに見られたら、説明が面倒臭いもんね」
自分もカワイイに拘ったからそれはわかる。
コノハちゃんもマガモ兄弟もカワイイし。
と、そのコノハちゃんが帰ってきた。
上空を一周して、狙い澄ましてポトリと落としたそれ……蛇だった。
少しズングリとしていて、尻尾の先が蛇腹で、そこからジャラジャラと細かい音を出していた。
体長は……トグロを巻いていても大きいとわかる、伸ばせばペトラの身長を越えるかもしれない。
「うわ! なに? ガラガラヘビ?」
大騒ぎしたのはエル。
それに素早く手を出したのはゴーレム・ヴィーゼだった。
運転席から後ろに体を伸ばしてパシッ。
「こら! ハンドル放すな!」
それにもまた騒ぐエル。
「大丈夫だよ、忘れたの? ヴェスペも半分ゴーレムだよ」
指示さえしていれば半自動で動くのだ。
掴まえたガラガラヘビがウニウニと動いてヴィーゼの腕を噛む……もちろん土で出来ているのでダメージは無い。
「で、どうするの? コイツ」
ペトラに差し出した。
「え……ヘビでしょう?」
運転席の横の通信士席に座るクリスティナは顔をしかめる。
「ヘビってわかってて、コノハちゃんに捕まえさせたんだよね?」
驚いたのはゴーレム・ヴィーゼだった。
「そうだけど……」
肩を竦めて首を小刻みに振るクリスティナ。
「コノハちゃんの目を通して見た時は……もっとカワイイと思ったのよ、美味しそうとも」
「なるほど……コノハちゃんの意識に引き摺られた感じね」
エルは砲に抱き着いてよじ登っていた。
「カワイイ……うーん」
考え込んでいるペトラ。
「そこって悩むところ?」
エルは呆れていた。
「そうよね、2匹目だもんね」
頷いたペトラはガラガラヘビの頭に触れた。
光る手の平。
「え? 使役するの?」
ウソーっとそんな顔に成るクリスティナ。
「他に居ないし」
ペトラはゴーレム・ヴィーゼからガラガラヘビを受け取った。
腕に絡む様に巻き付いて、長い舌をチョロチョロ出している。
「冷たいし、案外カワイイかも」
その頭を撫でた。
うわ……っとそんな顔がペトラの回りに並ぶ。
「あ! それに凄いかも」
そのペトラが大きな声を出す。
「暗い所も良く見える」
通信士席の薄暗い所に居たクリスティナを指差した。
「赤色に見える……冷たい所は青っぽい感じだ」
「赤外線? ああ……ヘビのピット器官ね」
頷いていたエル。
「もう大丈夫だから……降りてきなよ」
ペトラは砲にしがみ着いていたエルに言った。
「い……いやよ」
「でもさ、狐ってヘビが大好物じゃあ無かったっけ?」
ゴーレム・ヴィーゼがそれを見てニヤリ。
「私は狐の獣人だけど、狐じゃあないわよ!」
「そうなの? ややこしい」
大笑いのゴーレム・ヴィーゼだった。




