119 廃村
エルフ兵のゴタゴタが有ったけど、それは逆に好都合でも有った。
もう、この辺りのエルフを気にしなくても良いからだ。
「まあ、少し可哀想な気もするけど」
ムーズは同情した様だ。
「私はちゃんと忠告はしたわよ」
マリーは素っ気なくに言い放った。
「でも……私ってエルフだったんだ」
ロバ車の御者をしているアマルティアは、同じ言葉を繰り返していた。
その表情はどんよりだ。
「他に意識が繋がる時点でそうでしょう?」
エルは同類と笑う。
表情は自虐的に見えた。
「それに大した事でも無いと思うよ」
ゴーレム・エルも笑う。
「私達に比べたら」
ゴーレム・ヴィーゼも続けた。
「エルフの血が混じって居てもアマルティアはアマルティアじゃない」
「ルーツとかアイデンティティーとか……それを気に出来るだけマシよ」
ゴーレム・エル。
「私達は……人、亜人、獣人……擬人ですら無くなったのだし」
「死んだとき……血が流れるだけマシ」
最後はゴーレム・バルタがポツリと呟いた。
ゴーレムは死んでも流れるモノは無い、せいぜい砕かれた石か砂が転がるだけだ。
「辛気臭い話をしていても気が滅入るだけよ」
マリーは大きな声を出す。
「さあ……出発よ」
そして、ヴェスペから覗いて居たクリスティナと側に居たオリジナル・ヴィーゼに視線を送る。
「もうエルフは気にしなくていいのだから……マシな地面の所に誘導して。ガタガタ揺らされるのは、いい加減に勘弁よ」
暫く進むとまっ平らな平原に出た。
ギリギリでステップか? ほぼ砂漠か? と、そんな感じだ。
地面にも探せばイネ科の短い植物が所々で見える……ただし今は雨季だ。それでもこの状態なのだから、普段は草も生えないそのまんまの砂漠だと思われる。
「まあ、走りやすくは為ったね」
ローザがヴェスペの操縦席上のハッチを開けて辺りを見渡していた。
この方向を最初に見付けたのはペトラだった。
正確には使役したナキウサギの能力で見たモノをペトラが見たのだ。
やはり遠くが見通せる様だ。
ただし、横から見るので正確さは無い。
その部分は直接に飛んで行って見れるクリスティナの鳥達の方に分が有る。
それにヴィーゼの様に直接に自分では無いので、コントロールにラグが有るようだ。
しかし、それはそれで利点でも有る。
ナキウサギを走らせて、自分とは違う場所を視点にして見ることも出来る。
まあ……便利だ。
「トンネルにも近付いたし……どうする?」
ヴィーゼがルノーftを運転しながらに確認してきた。
「ここからだと……戻る事になるのよね?」
バルタは無線に声を流しながらに答える。
「入り口のエルフはどうにか為るだろうけど……出口のあっち側はもっと沢山のエルフが居るのよね」
エルが無線の向こうで考えている様だ。
「それは……やっぱり面倒臭くない?」
「じゃあ、このまま道に出て南にいく?」
クリスティナが横で意見を言っている。
「そうすると、廃村に出るのよね?」
エルの問いはアンにだろう。
「なら……今夜はその廃村に泊まるのは?」
答えたのはアマルティアだった。
「廃村って言っても2年かそこらしか経ってないのよね? 建物は残ってないのかな?」
「ああ、それは楽だね……テントを設営する手間が省ける」
ローザだった。
でも、ローザはいつもテントの設営には参加していないのでは?
野営地に着いた途端に車両の整備に入る。
新しい時代の車やバイクはそう頻繁に壊れるモノでも無いのだけど……履帯の戦車は動かしたその後の整備が大事らしい。
まあ、ガタガタ動くのだしその振動も半端じゃないから仕方無いのだろう。
それでも、エンジンとミッションを載せ換えて随分と楽には為ったとは言っていた。
新しい時代のそれは、耐久性も含めて精度がかなり高いらしいが、それでも放って置けば壊れる事も有るだろうから、存分にやっといてくれれば良いと思う。
移動中……特に戦闘中に壊れて動けないって事に為るのだけは勘弁だ。
「じゃあ……廃村に行こう」
バルタはそう決めて、皆にも声を掛けた。
その廃村にはすぐに辿り着けたのだけど、ここまでゴタゴタと有ったので夕方手前には成っていた。
まあ、ガレ場を越えるのとエルフのせいなのだが。
どうせここに一泊ならそれも丁度良いと思うことにする。
その廃村は小さな村だった。
建物は木造が幾つかと、石造りの頑丈そうな家もある。
ただし……木造は崩れていて、石の家の壁には大穴が空いていた。
村の真ん中で広い場所に車両を停めた一行。
全員が車両から降りて、辺りに視線を這わせる。
「戦車で蹂躙されたみたいだね」
犬耳三姉妹が壊された家を一軒一軒と確認して歩き出した。
「砲弾の穴が見える」
アンナが壁の穴を指差して。
「こっちの家は履帯の跡だ」
木造の潰された柱を指差したネーヴ。
そしてバルタがズイっと前に出て叫んだ。
「別にナニもしないから出てきて」
え? っとバルタを見た……犬耳三姉妹以外の全員。
「誰か居るの?」
タヌキ耳姉妹はムーズとクリスティナを庇う様に銃を構えて警戒を始めた。
「大丈夫……敵対しているわけじゃあ無いみたいだよ」
鼻をクンクンと鳴らしたエレン。
「ストレス臭も戦場のそれとは違うみたいだし」
「音にも緊張感は感じられない……ただ隠れて要るだけ?」
バルタもエレンを肯定した。
「そうか……敵意は感じ無いのだな」
アンは頷いて、バルタの前に出る。
「私は国防警察軍の司令官補佐のアンだ……ここは廃村の筈。そこに勝手に住み着くと犯罪者として疑われる事にも成るぞ、何時までも隠れて居ないでその釈明をしろ。話は私が聞いてやる」
小さな村に大きな声が響いた。
そして、視線を注意深く走らせる。
……。
誰も出てこなかった。
不安に成ったのか、首を傾げたアンは後ろのバルタを見た。
「居るんだよね?」
頷くバルタ。
「見付けた……」
小さく呟いたペトラ。
「そこの建物の裏の石の家の地下室に一人居る」
崩れた家を指差していた。
そのペトラはあれからずっと抱いていたナキウサギがいつの間にかに見えなく成っていた。
ナキウサギはペトラに命じられて、小さな体を生かして走り回ったのだろう。
そして、見付けた様だ。
ゴーレム・バルタとゴーレム・ヴィーゼがお互いに目配せをして、その建物の地下を目指して歩き始めた。
手にはmp40を構えている。
それ以外の皆は動かずに周囲の警戒を続けた。
その一人だけでは無いと、オリジナル・バルタと犬耳三姉妹は目配せで皆に示していた。
目的の石の家の前に辿り着いたゴーレムの二人。
ゴーレム・バルタは耳を忙しなく動かして周囲の確認とゴーレム・ヴィーゼへの指示を手だけでおこなった。
頷いたゴーレム・ヴィーゼは意識を壁の中に潜り込ませて……確認。
「中には居ない……地下を覗いて見る」
ペトラのナキウサギがキイキイと鳴きながら示す場所が地下の入り口の様だ。
床板と同じ板で蓋はされていたのだが……少しの隙間が出来ていた、そこをナキウサギは潜って見てきた様だ。
頷いたゴーレム・バルタは自分も中に入る。
ナキウサギは目視した。
それ以外は廃墟の部屋だ。
テーブルは傾いて、壊れた椅子は転げている。
屋根も穴だらけなので、光が筋としてえていた……つまりはホコリが凄いのだろう。
ナキウサギが走り回って舞い上がったホコリ、にしては多い気がする。
もしかすれば、ついさっきまでここに人が居たのだろうと思える量だ。
私達の戦車の音で慌てて隠れたのだろうか?
「居た……」
ゴーレム・ヴィーゼは床の板に手を掛けてゴーレム・バルタを手招きした。
二人は頷いて。
その床板の蓋を捲ると……地下に降りる階段が有った。




