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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
119/233

118 ペトラ


 「国防警察軍……司令官補佐」

 驚いたのはエルフ兵だった。

 苦い顔を作り……後ろを振り向いて。

 「銃を下ろせ」


 それを聞いたアンも子供達に同じ事をさせた。

 相手は所詮は部隊長……階級にしても軍曹だ。

 畑が違うにしても、その差は歴然。

 

 「もう一度聞く……エルフの州兵が何故にここに居る? 場合に依っては逮捕も有り得るぞ」

 アンは凄んで見せた。


 バルタは思う。

 アンでもアンな顔が出来るんだ……と。


 随分と躊躇していたエルフ兵は重い口を開く。

 「通報が有った……こちら側でエルフを感じたと」


 「感じた? 見たでは無くてか?」


 「感じただ……別段、普通のエルフ市民は何処へ行こうと自由な筈だ。その一般人からの通報だ」


 「一般市民なら自由だ、ただし州兵を名乗らなければな」

 頷いたアン。

 「だから、こちらにエルフが居てもおかしくは無いだろうに。それが何故に通報で州兵が動く理由に成る?」


 「ついこの間迄は、こちら側に居るエルフは奴隷かモノとして扱われていた。それが今も続いて居るなら……た……通報しなければいけないからだ」


 た?

 逮捕か?

 対処か?

 言い直したが……それは自分達でどうにかする積もりだったと、そういう事なのだろう言葉だ。


 「まあいい……」

 アンは男を睨み。

 背後の車の兵士二人も睨んだ。

 「銃を放すなら着いて来い……後ろの車もだ」

 踵を返したアンは、エルフに背を向けた。

 それはわざとそうしたに違いない。

 貴様らなどは気にもしていないと……そんな態度を見せた?

 「貴様らの探しているエルフの正体を見せてやる」


 


 エルフ兵の前にはエルが立っていた。

 

 「獣人?」

 露骨に嫌な顔を見せるエルフ兵。

 それは、後から来た車の二人も同じだ。


 「半分はエルフだ」

 アンはエルを指差す。

 「まあ、貴様らエルフには姿は関係無いか……能力でエルフとされるのだろう? ならそのままエルフだな」


 「獣人風情がエルフだと?」

 

 「ちなみにだが……獣人は異種族間の婚姻は望まない。それは種の違う獣人同士でもだ……まあ、娼婦とされた者はその呪縛から解放される様だが」

 フンと鼻を鳴らしたアン。

 「その意味がわかるな? この半分エルフの獣人は……エルフが獣人を犯したか、

娼婦にされた獣人を買ったかのどちらかだ」


 「いや……そんな筈はない」

 大きく首を振ったエルフ兵。

 「それは不可能だ……皆が繋がっているのだから」


 「それを制御出来る方法も有るんだろうな……先の戦争ではそれを使った様だが?」


 エルフが兵が突然に横を向いた。

 アマルティアを睨み付けている。

 その背後では車の男達がアマルティアを指差していた。

 エルフ兵の三人はそれを声を掛け合う事もなくに同時にだった。

 たぶん、先に後ろの誰かが気付いたのだろうそれを共有した?


 「お前もエルフだと言うのか?」

 

 そのエルフ兵の言葉に驚いたのは、そこに居た全員だった。

 子供達もマリーもローザも誰もがアマルティアにエルフの血が流れているとは思いもしていなかったからだ。

 もちろんその、本人も驚いていた。


 「連れて行くのか?」

 アンは静かに尋ねる。


 「連れて行けるわけが無いだろう……獣人なんぞ」

 吐き捨てるエルフ兵。


 だが、もう一度首を巡らして。

 「そっちの娘は連れていく」

 指したのはペトラだった。

 「お前はそのままエルフだろうから……我々と来い」


 「私が?」

 ペトラはブンブンと首を振った。


 「繋がる力を感じるぞ」

 エルフ兵が一歩踏み出して、手を差し出した。

 「人族に混じって居てもツライ思いをするだけだ……いいから来い」


 「勘違いしているようね」

 マリーがペトラの前に立つ。

 「この娘にエルフの血は一滴も入って無いわよ」


 「何を言う……力はハッキリと感じるぞ」

 後ろの二人もそうだと頷いていた。


 「それは、力は有るだろう……なにせドラゴンの娘なのだから」

 マリーが笑う。


 「ドラゴンの娘?」


 「ドラゴンにも繋がる力は有るでしょう? 少しばかり毛色が違うけど」

 肩を竦めたマリー。

 「まあ、繋がる力以前に、この世の総ての能力の素質は有るわね……スキルの大元だし」


 「なにを馬鹿な事を、どう見ても普通の娘だろう」

 もう一歩を出したエルフ兵。


 「なら……少し繋がって見れば?」

 マリーもペトラを前に出した。


 「え? ……ええ」

 ウソーって顔に成るペトラのその額に手を伸ばしたエルフ兵。

 しかし、触れる前にバッチリと魔法の光が弾けた。


 「ああーあ」

 しらーないとそんな顔を作って見せるマリー。


 そして、後ろの二人のエルフが慌て出した。

 「軍曹! 何処です?」


 「目の前に居るじゃない」

 笑ったマリー。

 「元エルフの軍曹さんが」


 「元エルフ?」

 ペトラはマリーのその言葉の意味がわからないと聞き返した。


 「あんたはドラゴンと同じ種類のスキルを持って居るのよ、他者からの干渉されるとその者のスキルを壊してしまうの……だから、絶対にエルフとは繋がれないのよ」

 マリーが説明してくれた。

 「あ! 唯一……パトは例外だけどね」


 「え? でも以前には奴隷紋も有ったよ」

 エルが首を捻るが……すぐにわかったと顔をする。

 「パトがその奴隷紋の支配者だったから?」


 「そう……ドラゴンの上位の存在みたいな者だから……想像主だからね」

 マリーは頷いた。

 そして、もう一度エルフ兵に向き直り……今度は後ろの二人に問う。

 「あんた達も試して見る?」


 「いや……もういい」

 青い顔をした後ろのエルフ兵が、しゃがみ込んでブツブツと言っていた軍曹の肩を掴んで乱暴に車に押し込む。


 「貴様ら上官に向かっての態度か?」

 軍曹は怒鳴った。


 しかし、二人はそれに気にせずに……軍曹の懐から認識票のカードを奪い取り。

 「エルフ軍にエルフ以外は居ない」

 「エルフで無くなった者は……黙っていろ」


 「何を言う……俺はエルフだ!」

 

 「なら……繋がって見せろ」

 そう言うと、挨拶もせずに車を発進させた。

 一人はワメキ散らして。

 二人は黙ったままでだ。



 エルフ兵が立ち去った後。

 ペトラはその場にヘタリ混んだ。


 「ねえ……知っていたの? ペトラの能力」

 エルがマリーに聞いた。


 「ドラゴンに聞いたのよ……総てのスキルを少しだけ弱体化させただけのはずなのに……なんでペトラだけが全くの能無しに成ったのか? ってね」

 マリー肩を竦める。

 「そしたら……造った本人だから自身への影響を避ける為にスキルの無効化を発動させたんだろう? ってさ」

 

 「いつの間に……」

 下からマリーを見上げたペトラ。


 「あんたが走って出ていった後よ」


 「ひとつ聞いていい?」

 エルがマリーの側に来て。

 「エルフの繋がる力とペトラの繋がる力は少し違うって……どういう事?」


 「エルフはエルフ同士でしか繋がれないけど、ドラゴンは総ての意識に強制的に繋がれるのよ。ドラゴンの口と喉では言葉を発せられないけど、話が出来る理由よ」


 「念話みたいなモノなのか……それを耳で聞いていると錯覚している」

 ふーむとエル。


 「あれ? でも私はナキウサギの言葉がわからないよ……その理屈だと言葉がわかる筈なのに」

 ペトラは首を傾げた。


 「それが自己防衛でスキルを壊した証拠」

 

 「本来は言葉としても認識出来るのにそれを壊したのは……なぜ?」

 エルがまた聞いた。


 「エルフの繋がる力が弱体化したから……それに合わせたんじゃあ無いの?」

 アマルティアが考察した。


 「違うわね……ドラゴンの干渉に気付いたから、無意識にそれをさせない様にしたのよ」

 マリーは笑う。

 「年頃の女の子が父親に勝手に人の部屋に入らないでよ! ってなかんじで。まあドラゴンは心の中を覗いた様なもんだし、もっとキツク怒ったんじゃないの?」


 「あああ……スキルを閉じ籠った感じか」

 成る程と頷いたエルとアマルティア。

 「だから……いきなり無能に成ったのね」


 「その無能の能力は、心を覗いた者にも発動させるのよ……ドラゴンが自分で危なかったって言ってたからね」

 

 「心の部屋に勝手に入った者に、辞書かナニか固いモノを投げてノックアウトしたと」

 エルのそれは、よくわからない例えだが……なぜかそれで頷いていたアマルティアだった。

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