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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
118/233

117 エルフの州兵


 ペトラの指差した方向を見たみんな。


 「ヴィーゼは見える?」

 のバルタの問いに首を横に振ったヴィーゼ。


 クリスティナはコノハちゃんとマガモ兄弟を同時に放った。

 それらが見える範囲に到達するには少しばかり時間が掛かるだろう。

 その報告を待つ為にジッとしてる者とペトラを見た者に別れた。

 本当にエルフ軍がその方向に居るのか? それがペトラにわかるのか? と、首を傾げたく為る者達だ。

 

 しかし、嘘や間違いでも「来る」と言い切ったのだからその確認は必要だ。

 ペトラが、わざと混乱させる様な嘘を着く事は有り得ないとは理解している。

 ドンクサイ所は有るけれど……悪い娘では無いのは知っていたからだ。


 「もしかしたら……ナキウサギの能力かしら」

 エルは首を捻りつつも考察してみる。

 

 「動きがヴィーゼに似ていたからね……そうかも知れない」

 バルタはそう答えた。

 「あと……視力も良いのかもね」

 ヴィーゼの視力は普通並みだ。

 意識を上空まで上げても見える範囲や距離は本来の目に由来している。

 これがタヌキ耳姉妹の視力が有れば……もっと遠い所が見える。

 その二つが合わさって居るのだろうとバルタは考えたのだ。

 

 バルタはペトラの事を決してダメな娘だとは思っては居ない。

 いや……ダメな娘なのだけど……。

 それはスキルや能力での事では無い、彼女自身のヤル気の問題だ。

 漠然とナニか出来るのでは無いか? と、自分で思い込み努力を怠る……自分ではしている積もりかも知れないけれど。すぐに諦めて次のナニかを探し始める。

 自身で決断する事も苦手だ。

 そしてすぐに誰かと比べてしまう。

 縫い物も上手なのに……もっと出来るローラと比較して自分は才能無いのだと一歩引いてしまう。

 料理も出来るのに、他の者に任せてしまう。

 だいたい戦車の運転だって……そこらの普通の娘には出来ない凄い事なのに、それを理解はしない。

 実に勿体無いのだが……その性格がダメな娘に見せて。そして他人にがっかりされて自分はヤッパリと思い込んでいるのだ。

 やれば出来る娘だと……思って居るのは、私だけでは無い筈だ。

 

 「見付けました……車でこちらに走ってきます」

 クリスティナの報告。


 「車だけ?」

 聞き返したバルタ。


 「1台だけです……乗っているのは3人」


 「なかなか勇気が有るねぇ」

 ローザがポツリ。

 「戦車が2両も有るのにね」


 「わかってないんじゃあ無いの?」

 エルも肩を竦める。


 「まあ、それでも……後方には対処の出来るナニかを隠しているのかもね」

 アンはフーンと考え出した。

 「どちらにしても偵察か確認だろうから……クリスティナは隠れた方が良さそうね」


 「え? 私は隠れるの?」

 クリスティナは自分を指差して驚いている。


 「見た目は人間だけど、エルフが見ればエルフだってわかるんでしょう? だったら……ややこしい事に為らない?」

 アンはヴェスペを指差す。

 そこの通信士席……操縦席の横が隠れるには丁度良いと考えたのだろう。


 「そうね……人族に混じるエルフを見れば勘違いしそうね」

 マリーも頷いた。

 「奴隷は禁止だけど……違法だってわかってやれない事も無いのだし」


 「それって、本人が違うって言っても?」

 ヴィーゼは心配そうにクリスティナを見た。


 「エルフって人の話は聞かないから」

 首を竦めたマリー。

 「元々が言語に頼って生きているわけでも無いし……自分達の繋がった意識外に外れたエルフは一度自分達の意識内に入れようとするわよ。強引な手段を使っても」

 

 「そうなれば……エルフ達の意識に飲み込まれて洗脳されるって事よ」

 アンも続けた。

 「意識の……数の暴力でドカンと一撃ね」


 慌てたヴィーゼはルノーftに走り、ヘルメットを取ってくる。

 そして裏側を指差して。

 「だれか魔方陣を描ける?」

 

 「魔方陣?」

 マリーが聞き返した。


 「エルフの能力を抑える魔方陣……以前にクリスティナが使ってたヤツが無いから」

 ジタバタと焦っているヴィーゼだ。


 「ああ……あれね」

 ヘルメットを受け取って魔方陣を描き始めたマリー。

 エルフの繋がる能力が完全に遮断される。

 そうなればエルフでも気付かれる事も無い。

 そんな魔方陣だった。

 

 出来上がったそれをヴィーゼが引ったくって、クリスティナの頭に被せる。

 そして、背中を押してヴェスペの中に押し込んだ。

 後ろから上って砲の下を潜らせて、グイグイと通信士席にだ。

 自身はそのまま、蓋をするように砲の横に仁王立ち。

 表情は随分と心配気だ。


 「いっその事……逃げた方が早くない?」

 犬耳三姉妹は自分のバイクに跨がって。


 「車の種類がわからないけど……たぶん追い付かれるわよ」

 バルタが首を振って止めさせた。


 「そうね、エルフ兵ならジープだろうし」

 ローザも同じく首を横に振った。

 「こちらは牽引車がハンデに成るからね」

 荒れた地面がそうさせると考えている様だ。


 そうこう話をしているうちに、遠くに砂煙が見え始めた。


 「まあ……もう遅いみたいだけど」

 エルがその方向を指差した。


 

 広く見通しの良い荒野。

 エルフ兵の乗る車の巻き上げる砂塵は大きくは成るがいっこうに近付かない。


 「遅いわね……」

 イライラとし始めたマリー。


 「距離は有るからね……」

 笑ったローザ。

 「同じ平な地面に立って、地平線の見える範囲は4キロか5キロだったけか?」

 それは背の低いドワーフの基準でだった。

 背の高さも含めて高い目線から見ればもう少し延びるし、見る為に立つ地面に高さが有ればもっと距離が延びる。

 それは地面が丸いからだが……まあ説明は面倒だとそれは、はしょった。

 「見えてから10分くらいは掛かるでしょうね」

 平均時速25kmで走れたらだ。


 「おっそ……」

 

 「ガレ場だもん」

 笑うローザ。

 「私達の移動も遅かったでしょう?」


 「いっその事……撃っちゃっていい?」

 エルは笑いながら。


 「そこに……お巡りさんが居るよ」

 ローザはアンを指差した。

 「エルフももう同じ自国民だから……逮捕されるよ」

 笑う。

 

 「見逃してはくれないか」

 

 「仕事だ」

 アンも冗談だとはわかっている。

 が、やれば本当に逮捕だ。

 それは揺るぎ無い。

 目の奥の更に奥では笑ってはいなかった。



 


 エルフの車は少し遠い所で停まった。

 車はやはり米軍のジープだ。

 四駆でオープントップ……横のドアすら無い軍用車。

 その後ろの席の一人の男がそのまま立ち上がり怒鳴った。

 

 「銃を捨てろ! その場で膝ま付け……四つん這いだ」

 エルフ兵は銃を構えてこちらを狙っていた。

 

 負けじとマリーが叫ぶ。

 「お巡りさん! 盗賊よ!」

 エルフ兵を指差してアンを手招きだ。


 呼ばれてズイっと前に出たアン。

 「私は国防警察軍だ! それをわかっていて言っているのか?」


 少し間を空けたエルフ兵達。

 構えた銃はそのままで。

 「我々はエルフ兵だ……貴様が警官だと証拠は有るのか?」


 アンは休日の私服のままに、そのまま家を出た。

 だから見た目ではわからない。

 「認識票はここだ」

 懐から金属のカードを取り出したアンはそれを掲げた。

 「貴様等の認識表も示せ」


 向こうも同じ様に片手を上げている。

 だが遠いのでそれが本物かどうかはわからない。


 大きく溜め息を吐いたアン。

 「貴様等の代表を一人前に出せ……こちらは私が出る。お互いの真ん中で確認だ」

 

 それに相手も頷いた。


 お互いが前に向かって歩く。

 その途中でもう一度叫んだアン。

 「相手がおかしな行動に出るなら、遠慮する事なく撃て」

 前にも後ろにも聞こえる様にだ。

 「責任は警察軍が持つ」


 頷いた子供達は銃を構え直した。


 苦虫を噛み潰したエルフ兵。

 「その戦車はどうした?」


 「ルノーftは元は親衛隊の装備だ……今は国防警察軍なのでそのまま使っている。もう1つは解体した貴族軍の払い下げだ」

 適当な嘘を着いたアン。


 「警察軍にしては過剰装備では?」


 「この辺りは危険だからだ……それに大きな戦車は装備していない」


 「ここに何しに来た」


 「それはこちらが聞きたい……エルフ州兵だとここは管轄外だろうに」

 山脈の竜の背からこちら側は同じく州兵に為ったロンバルディア国軍の管轄だ……つまりは人間側だ。

 「まあ……我々はこの辺りの調査だ。この先の廃村の確認だ」

 いい澱んでいたエルフ兵よりも先に答えたアン。

 嘘に矛盾は無い筈だ。

 警察が周辺を確認の為の巡回は普通でも有る。


 「我々は……トンネルの警備隊だ」


 互いが中央で立ち止まり。

 そして互いのカードを目視で確認した。

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