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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
117/233

116 ペトラとナキウサギ


 山脈のトンネルは近付かない様に気を付けて迂回して……また、南下する。

 いったん道を外れる事には為るが……左手に見えるドラゴンの背は大き過ぎるので迷う事も無い。

 ただ、ガレ場を走るので履帯の有る戦車は良いのだが……車輪付きの車両は苦労する事と成った。

 タイヤに岩の角がヒットしてパンク等は避けなければいけない。

 時間の無駄だし、何よりも面倒臭い。

 

 だから、2両の戦車を先に列ねて進み。

 その重みで岩を砕いて平らにしながらに進んだ。

 砂漠の岩も乾燥しすぎているのか脆いので簡単に砕ける事が出来た。

 まあ、ルノーftで7とん。

 ヴェスペ自走砲で12トンなので重さもじゅうぶんだ。


 逆に軽すぎるホンダのモンキー50zは、乗っている犬耳達の体重を足しても100キロソコソコなので、岩と岩の間をチョロチョロと縫うようにして走っていた。

 

 あと……もちろんアマルティアのロバ車は問題無い。

 タイヤは木製の剥き出しでロバと言い張るゴーレムが引っ張るのだ、多少のデコボコは気にもしていなかった。

 まあ、乗っているのがアマルティアで荷台の上でピョンコピョンコと跳ねているのは仕方が無い。

 

 「なんなら……ゴーレム達に担がせようか?」

 舌を噛まない様に注意をしながらに言葉を掛けるアマルティア。


 「そのうちに頼むかもね」

 返事を返したのはエルだった。


 タヌキ耳姉妹のAPトライクもピンクのバモスもそれどころでは無い。

 乗っている全員で右だ左だと大騒ぎだった。

 




 そんなこんなで数時間。

 

 「魔物が居た……けど」

 遠慮がちにクリスティナ。

 今のこの状況で狩りに行けるのか? と、不安が見える。


 「どんなヤツ?」

 三姉妹は一応は興味を示した。

 モノに依っては……なのだろうか?


 「ネズミ? ナキウサギかな? 小さいけど数は居るみたい」


 「ナキウサギは無いでしょう?」

 エルが首を捻っていた。

 「あれはもっと寒い地域か高地に住む生き物だし」


 「うん……そうだと思うんだけどコノハちゃんはナキウサギって言ってる」

 クリスティナも首を捻った。

 「とにかく一匹捕まえて来るって」

 

 それなら確認してみようと考えたエル。

 「少し休憩にしましょう」

 無線で全体を止める。


 と、全員が車両を降りて、ヴェスペの後ろに集まってきた。


 「コーヒーを淹れる時間は有るのかしら」

 イナとエナが相談を始めると。

 程なく帰ってきたコノハちゃん。

 空中1メートル程の高さから、足で捕らえた獲物を落とす。

 サイズはコノハちゃんと同じ位だ。

 

 地面に落ちた茶色い毛むくじゃらは……ピギャーっと鳴いた。

 

 「あ! 生きてるんだ」

 犬耳三姉妹は慌てて、逃げられない様に取り囲む。


 「見た目はハムスターのようね」

 毛むくじゃらをシゲシゲと見ていたマリー。

 「耳も体も丸い感じだし」

 

 アマルティアが掴まえようと手を伸ばすと、それはスルリと逃げた。

 

 「下手くそ」

 笑ったヴィーゼがサッと捕らえる。

 「はい」

 首根っこを掴んでアマルティアに差し出した。


 それを受け取るのかと見ていると。

 アマルティアは指で毛むくじゃらの口元を開いて確認。

 「やっぱり、ウサギだね」


 「じゃあ、これがナキウサギか」

 バルタは感心していた。

 ナキウサギというモノの存在は知ってはいたのだが……実物を見るのは初めてだった。

 標高の高い所か寒い所の条件に合致した場所に行った事も有るのだけれど……見掛る事は無かった。

 とても珍しい生き物で、メチャクチャ可愛いとは聞いていたのだが。

 「可愛いは可愛いけど……メチャクチャって程でも無いね」

 

 「えええ! 可愛いじゃん」

 ヴィーゼはそんなバルタに異を唱える。

 そしてクリスティナに突き出した。


 「なに? 使役しろって事?」

 眉を潜めたクリスティナ。


 「ダメなの?」

 悲しげな顔をして見せるヴィーゼ。


 「そういえばさあ……エルとペトラもエルフの能力が有るのよね?」

 アマルティアが聞いた。


 「私は半分はエルフだから、能力は有るけど……それは感じるだけだし」


 「でもさ前は意識の共有が出来ていたじゃん」

 エレンだった。


 「それは奴隷紋の力の補助があったからよ」

 肩を竦めたエル。

 今はそれも無いから出来ないと言う事。


 「クリスティナのやっている動物の使役も魔方陣を使うんでしょ? それが奴隷紋の代わりには成らないの?」


 「どうだろう?」

 首を傾げる。


 「やってみる?」

 マリーがクリスティナの両の手を持って拡げさせた。

 掌には魔方陣が浮き出ていた。


 「右手が使役させる為ので、左手のが意思の疎通の補助……だっけ?」

 マリーは掌を確認して頷いた。

 「同じモノを描いてあげるから、やってみれば?」

 黄色い小さな錬金術師の鞄からチョークの様なモノを出して……エルの手を取る。


 

 「どう?」

 魔方陣を描き終えたマリーがエルに聞いた。


 「どうって……なんにも変化は無さそう」

 ヴィーゼの掴んでいるナキウサギの触れるエルは首を横に振った。


 「ダメか……」

 フムとマリー。


 「あの……私もやってみたい」

 手を上げたのはペトラ。

 「私にはエルフの血は混じって無かった様だけど、同じ能力だと思うし……今は全く機能してないけど」

 

 「それよね……今頃はドラゴンと交渉はしているとは思うけどね」

 どうだろうなと首を捻ったマリー。


 「元国王が能力の制限の緩和を要求しに行ったんだっけか」

 ローザが思い出した様に。

 「結局、一番にその制限の被害者に成ったのはペトラだったしね」


 「そうね、ドラゴンと同じ能力由来らしいからそれも仕方無いとは思うけど」

 シブイ顔に成るマリー。

 「実際に全てのスキルの基礎を造ったのはペトラの最初の人格? 記憶の持ち主なのだし……それはペトラ自身でも有る筈」

 

 「それを考えると出来ない事は無い筈か」

 ローザは唸った。

 「可能性だけで言えば無限大の筈なのにね」


 「ペトラのハズはハズレの筈だから」

 笑ったエル。

 

 「なによ……」

 強く言い返そうとして……失敗したペトラ。

 実際にナニも出来ないのは事実だ。

 

 「どんなにチートな能力を持っていても、それを使いこなせなければ意味は無いか」

 マリーも大きく息を吐く。


 「そうだね、どんなに強い銃を持ってても敵に向かって撃てなければ意味は持たないね」

 エレンのそれの妹達も頷いた。


 「まあ、取り合えずやってみますか」

 ほとんど諦めた様な物言いで、ペトラの手を掴んだマリーは魔方陣を描き始めた。



 「どう?」

 マリーは、ナキウサギに触れているペトラに聞いた。


 首を捻るペトラ。

 

 「やっぱりダメそうか」

 そうだろうねと頷くエル。

 「私でもダメだったのだから……」

 その言葉の続きを遮られた。


 ペトラの手が光ったのだ。

 

 「うそ……出来たの?」


 それでも首を捻るペトラ。

 「わかんない……出来てるのかな?」


 「ナキウサギの言葉はわかる?」

 クリスティナがペトラに聞いた。


 「なにか言ってる様だけど……わかんない」

 眉をしかめたペトラ。

 「あ……でも、見ているモノは見える、今は私の顔を見ている感じ」


 「指示は出せる?」

 クリスティナ。


 「やってみる」

 頷いて。

 「噛め」

 ヴィーゼを指差した。


 「イテっ」

 慌てて手を放したヴィーゼ。

 「ナニすんのさー」


 「言う事は聞いてくれる見たい」

 感動しているペトラ。

 「それと、声も聞こえた……たぶんナキウサギが聞いた声?」


 「成る程……私のゴーレム兵と同じレベルなのかな?」

 アマルティアが冷静に分析。


 「それと感情も感じるかな」

 囲っている犬耳三姉妹を順に見て。

 「怖がってるみたい」

 ペトラはしゃがんで、両手でナキウサギを抱えて立ち上がる。

 

 「それって、震えてるからでしょう? 私達でも見ればわかるよ」

 三姉妹は笑った。

 

 と、ペトラの腕の中のナキウサギが二本足で立ち上がる。

 周囲をキョロキョロ。

 

 「お? ヴィーゼみたいな事を始めたね」

 アンナが指差してまた笑う。


 そのキョロキョロに同調したペトラ。

 指を一方向に指して。

 「あっちからエルフ兵が来る」

 そう皆に告げたのだった。

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