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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
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114 ペースの合わないマリー


 翌朝、マリーは焚き火の爆ぜる音で起こされた。

 神経質なのか、朝は些細な音でも目が覚める。


 目蓋を両手で擦り、テントの外に出ると火の番をしているローザが見えた。

 「珍しく早起きね」

 昨日の事での嫌味の積り……昼間はズッと寝ていたのだし。


 「いや……昨日はゴメン」

 苦笑いで謝るローザ。

 「まさかその日のうちに出発に為るとは思わなかったので……油断した」

 

 成る程、確かに何時もは酒は飲んで居る姿は見ていない。

 「遺伝でしょうから……気を付けた方がいいわよ」

 素っ気なくに言い放ち、ローザの横に座った。


 「マンセルじいちゃんにも言われた……それ」


 「マンセルは見ていたのでしょうね、自分のお母さんとその御祖父さんを」


 「じいちゃんのお母さんなら、私のひいばあちゃんか……会ったこと無いな」


 「この間……会ったでしょうに」


 ?

 驚くローザ。


 「私のラボに居たドワーフがそうよ」

 

 「ええ? 死んだ筈では?」


 「そうね……死んでいるわね、ゾンビだし」

 

 「うそー……」

 

 ソレには眉を寄せるマリー。

 ひいばあちゃんの事?

 それともゾンビの事?

 どっちだ?

 わからないなと首を振ると……側には虫の死骸が有る。

 腹を割かれてバラバラの状態。

 サイズはそんなに大きくは無い、猫ほどのコオロギだ。

 「うわ」

 すぐにソッポを向いたが、目にはシッカリ焼き付いてしまった。

 記憶から消したいと頭をブンブンと振ってみる。


 「ああ、それはクリスティナの鳥達のご飯よ……ヴィーゼ二人が取ってきたの」

 

 「器用だ事」

 話を変えてしまおうと続けた。

 「そういえばマガモ兄弟もヴィーゼが捕まえて来たのよね」


 「鴨は簡単だって言ってたよ……横には視界が広いけど上下はそんなでも無いから、水中から近付いて手を出せばスグだってさ」


 「いや……そうかもだけど、でもヤッパリ器用ね」


 「? 今のはダジャレ? そうかもってのは鴨だから?」


 「違うわよ」

 思わず大きな声が出た。

 

 その声で皆が起きたようだ。

 テントの中からゴソゴソと音が漏れ聞こえてくる。


 「おはよう……」

 最初に出てきたのはクリスティナだった。

 まだ眠り足らないとそんな顔での挨拶だ。


 マリーはタオルを持ち、飲料水入りのジェリカンを持っていたゴーレムにそれを傾かせてタオルに水を含ませると……クリスティナに渡す。

 

 受け取ったクリスティナは顔を拭った。

 

 そうこうしているうちに、皆がテントから這い出してくる。

 大きなアクビをしている者も居た。

 

 「緊張感がないわね」

 ポツリと呟いたマリー。

 「パトが大変なんでしょう? 急ぐんじゃあ無いの?」

 これは、王都を出てから思っていた事だ。

 少し呆れても居た。


 「そうだよ」

 エレンが顔を拭い。

 「急ぐ時こそ休憩が大事」

 エレンから濡れタオルを受け取ったアンナ。

 「リラックスも必要なこと」

 ネーヴも拭う。


 その三姉妹の返答をオリジナル・エルが補足した。

 「緊張感の持続時間は限られているから、適度な休憩は結局は速さに繋がるのよ」

 ガラガラとうがいをして。

 「実際に王都からここまでは、シッカリと距離を稼いでいるはずよ」


 首を傾げたマリーはローザを見て苦笑い。

 どうにも信じられないと思ったのだ。


 「確かに、昨日の半日で300kmは走破しているようだね」

 しかし、ローザもそうだと言う。

 「6時間程でその距離なら……とても早いね」

 二台の戦車を交互に指差していた。


 「元は転生者が持ち込んだ考え方なんでしょう?」

 イナも話に加わってマリーに聞いた。

 「ぶっ続けでは結局は効率が悪いって事」

 エナも頷いている。


 「そんなの知らないわよ」

 マリーはムクレ出した。

 「私の時代は……寝ずに働けで死んでも働けって、そういう時代よ」

 1990年前後の日本の話だ。

 

 「まあ……ゾンビだしそうよね」

 一同は頷いた。

 「転生者達の元の世界って……ゾンビ達に支えられて居たのね」


 

 

 さて、出発した一行。

 ヴェスペの運転は酒の抜けたローザに代わった。

 ペトラはお役御免でピンクのバモスの後席だ。

 

 そのペトラはマリーに尋ねる。

 「ねえ、錬金術だけど……少し教えてくれない?」


 「ああ、それなら私にも」

 ペトラの横のムーズも手を上げる。


 「基礎からジックリだと……相当に時間が掛かるわよ?」

 マリーはダメだとは言わなかった。

 ただ、覚悟が有るかと聞いたのだ。


 「触りだけ……チョッとだけは……だめ?」

 なんだか厳しそうだと怖じ気付いたペトラは後半口ごもる。


 ハアーっと声に出して行きを吐き出したマリーは……助手席から後ろを振り返り、暫く考えた後に。

 「まあ、それでもいいわ」


 やったーとムーズと手を合わせたペトラ。

 その時に無線が鳴った。


 「魔物です」

 クリスティナだった。

 「今度のは……虫では無くてトカゲです」


 「トカゲか……」

 マリーは考え始めた。

 「トカゲなら食べられるよね……恐竜も同じだろうし」


 「たぶん、無視すると思うよ」

 そんなマリーにペトラが声を掛ける。


 「なんで? 食べれるなら捕まえても良いんじゃあ無いの?」


 「だって……まだ出発してスグだし邪魔になるから」

 

 「だったらなんで無線で知らせるのよ」


 「単純に魔物は要警戒だから」

 なんで自分が怒られてる?

 そんな疑問が顔に出ていたペトラだった。


 



 その日の夕食は……インスタントのカレーに成った。

 行軍中に出会った魔物達……食べられる魔物は朝の一匹目のトカゲだけだったのだけど、それはスルーしたので結局はそうなったのだ。


 「だから、トカゲを狩っとけば」

 ブツブツと言いながらスプーンでカレーライスを口に運んだマリー。

 「毎日毎日……レトルトばっかりじゃないの」


 「今日は、お米は炊いたからいいじゃん」

 オリジナル・ヴィーゼが頬をカレーで膨らませて。

 「カレーは美味しいよ」


 「美味しいのは知っているわ……ただ、このジャンク感が罪悪感を感じるのよ」

 

 「栄養的なアレ?」

 

 「ソレ」


 「でもさ、魔物を捕らえてもその肉だてだよね? 野菜が有るわけでも無いし……変わんないじゃん」


 「むしろ……栄養を考えれば、レトルトの方がマシかもね」

 オリジナル・エルもカレーをパクつきながら。


 行軍中の一行は、確かに料理も簡素だ。

 荷物を極力減らす為にも食べ物は現地調達が基本。

 野菜なんて腐りやすい物は持ち物リストにすら入らない。

 ただし、ソレはパトが居れば解決出きるのだけど……ダンジョン産の食べ物の時間凍結の解除をせずに持ち歩けば、何時でも新鮮なままで食べられる。

 もちろん荷物として嵩むのは、それは仕方が無いのだけれど。

 しかし、それは現状は無いものねだりだ。

 ここにパトは居ないのだから。


 「まあ……いいわ」

 口ではそう言っても、顔はシカメたまま。

 「ソレよりも、昨日もだけど……夕食の頃合いに為ると、ゴーレム・バルタ達が居なくなる様だけど? なぜ?」

 ゴーレム・エルもゴーレム・ヴィーゼもだ。


 「だって、ゴーレムだから食事は魔石だし寝なくてもいいから、私達が休んでいる間は回りを警戒してくれてるのよ」

 エルは視線はカレーに落としたままで答えてくれた。

 

 「一応は役割分担?」

 ヴィーゼが小首を傾げて。

 「ゴーレム達に休む必要が有るかどうかはわかんないけど、それでも昼間はなにもしないで運ばれているだけだし、その時に休んでくれればいいから」


 「まあ……生身では無いから大丈夫なのだろうけど」

 マリーも頷いて居た。

 

 「でも、だからってソレを強要はしてないからね」

 ヴィーゼがマリーに続けて言う。

 「これはあの子達が自主的やるって言ってくれたから頼んでるだけだよ」

 ウンウンと頷いて。

 「だから、マリーにも起きてろとは言わないからね」


 「なんで、私が起きてなきゃあいけないのよ」


 「だって、ゾンビだから寝なくても平気なんだよね?」

 それってあの娘達と変わらないじゃん……とまでは口には出さなかったヴィーゼ。


 「平気だけど……私は寝るの!」

 マリーがキレた。

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