113 カップ麺
道は南に真っ直ぐ続いていた。
王都を出てから半日、もう日も暮れ出す頃……一行は止まった。
「この辺りでキャンプだって」
ヴィーナスが無線で皆に告げたそれはバルタからの指示だった。
なにも無い草原。
道を横に少し逸れた所。
戦車とバモスと牽引車で回る囲み、そこに火を起こす。
「今日は魔物も狩ってないから……久し振りにカップ麺かな?」
タヌキ耳姉妹がそう言って牽引車の荷物をほじくり出した。
この間のダンジョンでの拾い物だ。
「なら……お湯だけで良いのね」
オリジナル・エルは自分のミスリルゴーレム達に指示を出して、何時もの寸胴鍋と飲料水入りのジェリカンを取って来させる。
そして、残りの者は寝る用のテントの設営を始めた。
小さなテントを4つだ。
前に使っていた大きいテントなら1つですんだに……それは盗られてしまったので仕方がない。
その代わりにとダンジョンで仕入れたテントは小さいモノしか無かったのだ。
ダンジョンも普通のモノは何処のダンジョンでも手にはいるけど、少しでも変わったものやナニか専門の特殊なモノは有る所と無い所が有る。
それはダンジョンの中にその特殊な専門店が有るか無いかで決まってしまうのだ。
今回のペンギンのダンジョンにはアウトドアの専門ショップは無かったので、その点では外れのダンジョンだった。
まあ、ホームセンターでバルタのお気に入りのナバホtepeeテントが有ったのでその同じモノを4つだ。
設営が終わった頃にはお湯も沸いていた。
そして、手前に置いてある買い物カゴ……スーパーのそのままのヤツの中には色々なカップ麺が入っていた。
「好きに取って……早いもの勝ちよ」
タヌキ耳姉妹はもう既に自分のモノは手の中に有る……どん兵衛だった、もちろん緑色。
エルは素早く同じモノの赤色を取る。
ヴィーゼはカップラーメンのカレー味を探してゴソゴソ。
その横からチキンラーメンを取ったのはクリスティナ。
そしてそれを遠目で見ていたバルタには、エルがラ王を差し出していた。
犬耳三姉妹はサッポロ一番……味噌、醤油、塩だ。
「マリーさんも早く選ばないと」
みんなの勢いに押されていたムーズ。
「私はなんでもいいのよ……もう食べ飽きたし」
肩を竦めて。
「そんなムーズもまだでしょう?」
「わたしは……どれが好みかわからないし」
それがわかる程には食べた事がない。
「ローザさんは……」
探して見れば、まだ車の中で寝ていた。
「あれは、今夜は食事抜きね……飲み過ぎよ」
「兄に会ったのがそんなに嬉しかったのかしら」
ムフフンとムーズ。
「ブラコンには見えなかったけど? 酒コンじゃないの?」
目を細めて横に見る。
「それって……アルコール依存症」
表情がウワっに変わった。
「まあ……ドワーフだから種族特有の病気ね」
両手の平を上に向けてヤレヤレの顔で肩を竦めて見せる。
その二人の前に立つアマルティアとペトラはまだ取ってはいない。
ただ出遅れて居ただけだ。
アマルティアはゴーレム兵とその他ゴーレムの食事代わりの魔石を配っていて自分の分を確保に出遅れた。
ペトラの方は皆の取った手元のソレを見ながらにどうしようか? と悩んで出遅れていた。
あれが良かったこれも美味しそうとキョロキョロとだ。
結局、手にしたのは残り物から選んだ焼きそばUFO ……それも先に取ったアマルティアが渡してくれたものだった。
アマルティアも焼きそばを持っていた……一平ちゃんの塩だ。
それを選んだ理由も消去法のようだ……カゴの中に残ったのはスーパーカップの味噌に醤油、どちらもデカイし油がキツイ。
だから一番さっぱりとしているであろう塩を選んだ様だった。
二人は並んでお湯を貰う。
「これって……お湯を捨てるのよね?」
アマルティアはペトラに聞いた。
その質問にあからさまに驚いた表情を見せるペトラ。
「なに言ってるのよ! スープにして飲むのよ!」
持っててと自分の焼きそばをアマルティアに預けたペトラは、ダッと走ってマグカップを2つ取ってきた。
「これに入れて……味付けは……」
ゴソゴソとポケットから取り出して。
「塩とコンソメの粉」
「へええ……」
えらい勢いに押されたアマルティア。
まあ、戦場では臭いの残るモノをその場に残してイケナイ……敵に情報を渡す事に為るからだ。
食べ物の残りカスなら野営地点と、腐り具合でその時間もだ。
後は注意深く辺りを探り何処から来てどちらに向かったかもバレる。
が、ペトラのそれは……明らかにそれとは意味が違った。
美味しく食べる為のコダワリだ。
それも……剰りモノを渡しただけなのに、なぜにそこまで拘れる?
不思議だ……。
だが、実際にやってみると、とても美味しかった。
成る程これは……今まで勿体無い事をしていたと思わせられる。
そして、ペトラの勢いも理解した。
私も次にお湯を棄てようとする者を見れば……同じ事をするかも知れないとまで思えるのだった。
そして、最後の最後に成ったスーパーカップの二人は半分ほどを食べて苦笑い。
「多いわね」
マリーの感想……1.5倍だからか?
「油も味も濃過ぎますね」
ムーズの感想。
お互いが顔を見合わせて苦笑い。
「残り物に福は無かったね」
マリーは半分をどうしようかと悩みだす。
「そうですね……みんな自分の分をシッカリと吟味していましたからね」
成る程、外れも有るから真剣に選んでいたのかと納得したムーズ。
そして、回りを見れば……他の皆は美味しそうにそれぞれを食べている。
焼きそばの二人は特に美味しそうにも見えた。
濃い味だからと……一番に外れだと思っていたけど。
棄てるお湯があっさりスープに成るなんて思いもしなかったのだ。
「もうダメ……要らない」
半分残ったそれを前に付き出したマリー。
「私も……もう」
ハア……と、溜め息を付く。
「でも、どうしましょう……捨てるのは勿体無いですよね」
「そうね……食べ物を粗末にしてはイケナイわね」
考え込みだしたマリー。
ムーズのソレを受けとると……あろう事か、その2つを足してちょうど一杯分にした。
味噌と醤油の混合。
比率は半分半分。
味は……想像も着かない。
確かめる勇気もない。
ジィーっと出来上がったソレを見詰めて居ると。
「そろそろ起こしてあげないとね」
ニヤリと車の方を見たマリー。
スタスタと歩いてバモスのスライドドアをムーズに開けてと頼む。
自分の両手はカップ麺を溢さない様にと塞がれて居たからだ。
ガラガラとドアが開くと。
「ローザ! 起きてご飯よ」
寝ている鼻先にカップ麺を押し付けた。
チラチラとムーズに目配せをするマリー。
私に起こせと言っている? そう判断したムーズはローザを揺すった。
「う、うーん」
ローザが呻き声を漏らして半目を開ける。
「ほら、冷めないうちに食べて」
寝ぼけ眼でソレを受け取ったローザ。
マリーは代わりに空の酒瓶を取る。
ムーズは自分の使っていた箸を差し出した……新品を用意する暇が無かったのだから仕方が無い。
ズズズっと食べ始めたローザ。
突然に目をパッチリと見開いて……側の二人を交互に見る。
ウワっと思い、身構えた二人。
だが、次の言葉は予想外だった。
「これ……おいしいね」
ガツガツとハフハフと箸で手繰って口に放り込むローザ。
それをみて、ムーズの口許がヒク着く。
美味しいわけがない。
不味いモノと不味いモノが合わさっても不味く成るのが道理だ。
信じられないと首を捻ると、横のマリーが一言。
「ヨッパライの理屈よ……きっと」
マリーも首を捻っていた。




