111 王都からの出発
行動を起こした子供達。
まずはペトラのピックアップ。
犬耳三姉妹がバイクで飛び出し、その後ろにタヌキ耳姉妹がAPトライクで追う。
場所はたぶん王城付近。
アマルティアはロバ車で一度、マリーの家に戻る。
置いてきたゴーレム兵を積み込む為だ。
その荷箱には二人づつのバルタ、エル、ヴィーゼにローザにアンまでが乗ろうとしている。
起動していない小さなゴーレム兵13体は余裕で乗るのだが、大人を含めた人が乗るには狭すぎた。
「なんでアンまで乗るのよ!」
キレるエル。
「いや、私も行く」
アンはどうにか大きいお尻を捩じ込もうとしていた。
「痛い痛い」
悲鳴を上げたヴィーゼ。
「着いて来るならなんか乗り物を出しなさいよ」
何時ものバイクでいいじゃないと言おうとしたのだが。
「わかった」
頷いたアンは、酒瓶を持ちながらにヘラヘラとつっ立っていたローザの兄に向かって。
「車を貰うぞ」
そう言って倉庫の裏に走っていく。
引っ張り出して来たのはピンクのバモスだった。
以前にパトがダンジョンで拾って来たヤツだ。
「こんな派手な色の車はどうせ売れないんだろう? 家賃代わりに貰ってやる」
慌てたローザの兄に運転席の窓を開けて宣言。
「序でにバイクの整備もしといてくれ」
ドカティ900Mモンスターの鍵を投げた。
「それと伝言もだ……父が来たらパトを探しに行ったと言っといてくれ」
そのバモスにローザも乗り込んできた。
「乗せてよ、荷馬車はサスペンションが無いからシンドイんだ」
完全に酔っぱらっている。
「仕方無いわね」
オリジナル・エルもバモスに乗り込んできた。
「マリーの家の場所は知らないんでしょう? ローザはこんなだし案内してあげるわ」
と、そこで思い出したエル。
「ねえ、軽トラックとかは無いの?」
酔っぱらいのローザの兄に聞く。
兄は首を振って。
「後ろの荷箱だけの牽引車は余ってるけど……軽トラックは無いな」
これ以上はとられまいと思ったのだろう、が……口を滑らせた。
「それ、頂戴……代金はアンに付けといて」
エルはバモスから飛び降りて、ゴーレム・エルとゴーレムヴィーゼを呼んで小屋の裏に走る。
程無く二台の牽引車を引っ張ってきた。
一台はバモスの後ろのハッチを開けてゴーレム・ヴィーゼに持たせて引っ張る。
もう一台はロバ車の後ろでゴーレム・エルが引っ張る様につかんだ。
「もう一台あったけど……これだけで勘弁してあげる」
オリジナル・エルはそう兄に告げて、またバモスに乗り込んだ。
そして、叫ぶ。
「さあ出発よ」
ペトラは王城の城壁の外……門の前で待っていた。
たぶん少しウロウロして、諦めて戻って来たのだろう、少しベソをかいている。
そして、横にはマリーが居た。
こちらはひどく怒った顔だ。
「ペトラ、乗って」
イナは手招きして、後ろの牽引しているリアカーを指す。
そこに乗り込んだペトラとマリー。
「え? マリーも行くの?」
驚いたイナが聞いた。
「行くわよ!」
大な声で返事を投げるマリー。
「元国王は?」
キョロキョロと探したイナとエノ。
「あんなヤツは置いてくわ……私にも黙ってるなんてサイテー」
イライラを隠さないマリー。
「置いてくって……いいの?」
イナは少し心配に為って聞いた。
「いいのよ……このままドラゴンの下働きでもさせとけば」
やはり怒っている様だ。
「さっさと出して」
リヤカーの荷台でジタンダを踏んでいた。
マリーの家に戻ったみんなはそれぞれの準備を始めた。
ルノーftには軽トラの後ろだけの牽引車を引っ張らせる。
それを繋いでいるのは、ルノーの尾橇に何時も乗っかっているゴーレムだ。
そこにはゴーレム・バルタにゴーレム・ヴィーゼが乗り込んだ。
ゴーレム・エルはオリジナル・エルに呼ばれてヴェスペ自走砲に乗る、後ろには何時もの感じで弾薬運搬車を引いている。
そして、ロバ車にはゴーレム兵13体を積み込んだ……体育座りでギッチリと積めて元国王のトラックに引っ張らせていた台車から移した荷物の一部も積んだ。
キャンプ道具だ。
その後ろに連結した二台目の牽引車にも山盛り積み込む。
「こんなに無理しなくても」
オリジナル・ヴィーゼがルノーftの運転席から覗きながらに呆れ顔。
「元国王は置いていくわ」
オリジナル・エルはそれに答えて。
「え? なんで?」
驚いたヴィーゼ。
「パトの事を黙ってたから?」
「まあ、それも有るけど……ここに残ってパトの指名手配を無効にさせるのよ」
少し声のトーンを落として。
「どうしても政治的に解決するしか無さそうだし」
出来るかどうかは怪しいとは思っているのだろう。
そこに帰ってきたタヌキ耳姉妹。
後ろに乗っていたペトラがマリーを見て。
「成る程、だから置いていくって言ったのね」
だがそのマリーは驚いていた。
「その手があったか」
などと呟いても居た。
「考えて無かったのね」
ペトラも呟いた。
「マリーも行くの?」
それを見ていたエルがたずねる。
「残ると思ってた」
「しばらくはあんなヤツの側には居たくないわ」
元国王の事だ。
「私に隠し事なんて赦せない」
「そう……まあいいわ」
そう返事を返した時に、牛車が帰ってきた。
クリスティナは何事? とそんな顔だがムーズの顔は暗かった。
「ダメだったの?」
そのムーズに聞いたエル。
ハッと顔を上げたムーズは作り笑いで。
「何が?」
「知り合いの貴族さんに頼みに行ったんでしょう? パトの指名手配の件で」
途端に苦い顔になるムーズ。
「知っていたの?」
「今さっき聞いた」
ムーズはピンクのバモスにアンが居ることに気付いて大なため息。
それを見たアンが言い訳を始めた。
「私ではないぞ……ドラゴンが不用意に喋ったんだ、ペトラの居る前で」
「そう……」
それはもうどうでもいいと首を振る。
「で、みんなはどうするの?」
エルに聞いた。
「パトを迎えに行く」
答えたのはヴィーゼ。
「わかった、私も連れてって」
ムーズは牛車を降りてピンクのバモスに乗り込んだ。
「アンも行くのね」
それには頷いたアン。
「クリスティナこっちに」
そして、呼んだ。
「え? 牛車はダメなの? ギュウ太は頑張れば速いよ」
「ダメね……元国王とはここでお別れだから、ギュウ太も置いていかなきゃ」
「えええ……」
悲しそうな顔に成るクリスティナ。
「仕方無いでしょう……元国王に従属してるんだし」
ムーズが宥める様にして。
「クリスティナはヴェスペに乗って」
オリジナル・エルが呼んだ。
「コノハちゃんやマガモ兄弟の目が欲しいの……スポッターをやってくれない?」
クリスティナは頷いて牛車から降りる。
ギュウ太やペン太にトン太にハム吉をそれぞれ抱いて別れを惜しんでヴェスペに乗り込んだ。
「バイバイ……また会えたらいいね」
悲しそうに手を振るクリスティナ。
動物達も悲しそうに鳴いた。
「ところで……」
オリジナル・ヴィーゼがキョロキョロ。
「エレン達は?」
犬耳三姉妹が見当たらない。
「あ! ムーズ達を探しに行ったのだった」
答えたのはイナ。
「すれ違ったのね」
エノも肩を竦めて。
「じゃあ、王都の外で合流しましょう」
エルはそう言ってルノーftを即した。
「出発よ」
頷いたヴィーゼは頭を引っ込めてルノーftを動かす。
その砲塔の後ろから顔を覗かせていたバルタがエルに聞いた。
「ところでヴェスペは誰が運転するの?」
指はピンクのバモスを指している。
その、助手席に居たローザは酒瓶を抱えて寝転けていた。
「酔っ払いがー」
叫んだエルはペトラを指差して。
「あんた暇でしょう? 代わりに運転して」
「えええ……」
APトライクの後ろのリヤカーからノソノソと降りた。
運転する者が居ないのは見ればわかる。
「でもさ……なんで私が」
「ほら!」
ビシリと指を差して大な声で。
「さっさとして」
怒鳴るオリジナル・エルだった。




