109 アドルフと指名手配
「ヒドイ話だね」
アンはゴーレムにされた三人を見て顔を歪めた。
姿をゴーレムにされた事もそうだが。
やはりオリジナルが居てのコピーだ……それを一目見ればわかる形で。
明らかに差別される。
元が同じだから、別れたのは運だとも言えない気がする。
オリジナルにすればただ目の前にコピーが現れた……だけだけど。
コピーの方はイキナリ自分の姿が変わってしまったのだ……しかもオリジナルは目の前に居ての事でだ。
これは、どうかんがえてもヒドイ……とまあ、そんな顔なのだろう。
だけど……同情されたゴーレムの三人は困惑していた。
特にヴィーゼが。
ヒドイ目に有ったのはわかっているし、でも同情されたからってどうにもならない。
オリジナルはソコにいるのだから……コピーとしてこの姿で生きるしかない。
その生きるにしても、老化のしないであろう土の体では寿命が有るのかすらわからないのだから、何時までの期限すらもわからないのだ。
実際に銃の弾を受けたのに、簡単な補修でスグに元どうりだ。
あの感じだと、補修出来る者が居る限りは死ぬ事も無いと思われる。
全身が粉々に粉砕される事が有ればもしかしたらだけど……それでも土の塊のゴーレムの体を粉々は難しいとも思う。
なにかしらが残る気がするからだ。
いや……核に為る部分が破壊されればか?
たしか、水晶の様な小さな珠が体の中心に有ったはずだ。
アマルティアがゴーレム兵を作って居たときにそれを見た。
私達も同じ作りならソレが有ると為る。
確かめる気には為らないけど……流石に自分の体を削って掘るのは嫌だけど。
「不老不死のギフトを手に入れた代償とすれば……丁度良いんじゃ無いのかな?」
それは、ゴーレム三人娘達が無理矢理に心の帳尻を合わせる為に出した答えだ。
オリジナルは年老いて老婆に変わっても、ゴーレムなら何時までも若いままで居られる。
そう割りきらないと……無理。
そして可哀想の押し売りも……無理。
アンは立ち上がり、ゴーレム・バルタを思いっきりハグして。
次にゴーレム・エル……と移ろうした様だが、エルに腕を突っ張られてそれを拒否されている。
最後はゴーレム・ヴィーゼの番だと思ったゴーレム・ヴィーゼ。
これは鬱陶しいとアンを先制攻撃する事にした。
……たぶん答えてはくれない質問。
それを思いっきりに子供らしくだ。
「ねえ……昨日のキャラバンなんだけど、誰を運んで居たの?」
たぶん、昨日に国防警察軍の兵士に私達の事を聞いたはず、だから私達を探して居たのだろう。
午前中の内に宿屋を廻ったか?
だから、昨日到着したキャラバンに私達が関わっている事も知っているはずだ。
案の定……アンの動きがピタリと止まった。
ギギギっと軋む様に首を曲げたアン。
「誰……って」
「物じゃあ無いのは気付いているよ」
畳み掛けたヴィーゼ。
別段誤魔化すのならソレでも良い。
これはあくまでも話をすり替えて……鬱陶しく抱き付かれるのを回避するための話題だし。
ふう……っと、溜め息を吐いたアン。
諦めた様な顔をして。
「まあ、よくわからない人物……少年だ」
話す気に成ったらしいと驚いたヴィーゼ。
「少年って……子供?」
「そうだ」
頷いたアン。
「ソレにしては、厳重だったような」
ゴーレム・バルタは首を傾げる。
「敵も重装備で襲ってきたし」
ゴーレム・エルも怪訝な顔に為る。
「その人物は転生者で……将来、危険に成るらしい」
アンも小さく首を傾げていた。
「ラシイって」
オリジナル・エルの声は呆れて居るようだ。
「未来がわかるの?」
「いや……私にはわからない」
首を左右に振って。
「しかし、転生者が口を揃えて言うのだ……アイツは危険だと」
「誰なのソイツ」
転生者ならソイツもコピーだ。
「アドルフと言う名の少年……年は12才だ」
少し言葉が足らないのかと補足をするアン。
「元の世界では30年後だかに魔王に成るそうだ」
「元の世界……こことは違う世界の事でしょう?」
「そうだな……ドイツ国だと聞いた」
「戦車の国のか」
コチラの世界ではドイツは戦車と兵器の国としては理解が有る。
転生されて来た物が有るからだ。
「後で……元国王にでも聞いてみよう」
「何か知っているかもね」
オリジナル・バルタのそれにオリジナル・エルが答えた。
「ドイツなら……クロエが知っているんじゃ無いのかな?」
黙っていたアマルティアがボソリと呟いた。
「元々がドイツって国の転生者でしょう? たしかヒトラーユーゲントだったって言ってたし」
「ヒトラー少女団……BDMとかじゃなかった?」
ヴィーゼはその響きが少しカッコいいと覚えていたのだ。
その感じだと、私達はファウスト・パトローネ少女団だと思ったのだ。
「そうかも……でもパトは嫌な顔をしていたね」
ユーゲントと言ったのはパトだったかも知れないと、思いだそうとしたアマルティア。
だが、その前に叫んだのはアン。
「そうだ、アドルフ・ヒトラーだ! その少年は」
「なら……ヤッパリ、パトかクロエに聞いた方が確実かもね」
オリジナル・エルは頷く。
しかし、ソレにはアンが微妙な顔をした。
あと一人、酒に酔っているローザもだ。
何か有るのだろうか? と訝しんだゴーレム・エルとオリジナル・エル。
しかし、それを問おうとた……その時に無線が呼んだ。
王城に行ったペトラからだった。
時間を少し前に戻した時の事。
ペトラは退屈していた。
元国王とドラゴンはわけのわからない政治の話や経済の話をしている。
とわいっても、その殆どがドラゴンがやり込められていた。
そんな、なんとも情けない姿のドラゴンを見たペトラは少しだけ怖さが無くなったのだけど、変わりに退屈に襲われていた。
もう一人のマリーも退屈してきた様だ。
「いっそのこと、コイツを補佐か参謀か何かに雇ったら? 元国王なのだからそっちの方が本職だし」
元国王を指差してドラゴンに提案していた。
「そうだな……それも良さそうだ」
ドラゴンは頷いた。
「カワズはセカンドの仕事で忙しいと話相手にもしてくれないし」
「カワズ?」
嫌な顔に成る元国王。
「あんなヤツに国は任せられん」
鼻を鳴らして吐き捨てる。
「まあ、この手の話は苦手の様だしな……まだファウルの方が優秀だ」
頷いたドラゴン。
その言葉に慌てた様子の元国王。
そうか、ドラゴンさんはファウスト・パトローネ……パトの事も知っているのか。
改めてそう思うペトラ。
まあ、そうだろう。
ファウストはこの世界の想像主……造ったのは私らしいけど。
最初の私……まだ体も無かった頃の私が、ファウストの意識を覗いて造った世界がココ。
そう言われても実感はマッタク無い。
それから、何度も死んで記憶をリセットされてじゃあ……実感なんかわくわけもない。
「じゃ……パトに王様に成って貰えば? 元はファウストの心の中の世界なのだし……理屈としてはソレが一番では?」
自分と言われるその前に提案しておく。
最初の私は、このドラゴンの娘で……この世界を造った張本人だと、責任を負わされるのは嫌だ。
ワケわかんないのに。
「それも考えたのだが」
唸るドラゴン。
「しかし、何時もの如くに指名手配されてしまったしな」
大慌ての元国王。
ドラゴンの口を塞ごうと飛び付いたのだが、その口は大き過ぎたようだ。
言葉は止まらない。
「アイツも三回に一回は戦争に巻き込まれるし……五回に一回は指名手配で、十回に一回は処刑される」
笑ったドラゴン。
「今回は指名手配まではいったから、あとは処刑が有るか無いかだな」
「どういう事?」
真面目な顔で睨み付けるマリー。
「指名手配犯?」
上手く処理しきれないペトラ。
アタフタとしている元国王。
それらをお構い無しに続けたドラゴン。
「先の戦争と、今回のテロの責任をエルフに問われたから……まあ、仕方無い」
とても軽く告げていた。
そうか、ファウストも私と同じで何度も転生している……この世界に生き返っている。
だからか、そんなに慌てる事も無いとドラゴンは思っているのだろう。
何度目かのソレを、繰り返しているだけだなのだ……と。
でも、今の私にはわかる。
その転生に記憶が紐付いていないならば……ソレは普通の者と変わらない。
死ねばソレまでの一つの人生だ。
魂の大元だけが何度転生したって、それは別人。
ましてや、残された者には転生したとして完全に別人だ。
ゆっくりと時間を掛けて理解したペトラ。
指名手配に処刑の確率……。
大慌てでその場を離れたペトラ。
廊下を走り、省電力無線を掴む。
「お願い、繋がって」
みんなが電波の届く範囲に居ることを願いつつにコールを掛けた。
「どうしたの?」
聞こえてきたエルの声。
何時もの声だ。
緊迫間はもちろん無い。
「大変! パトが指名手配されてるって!」
とにかく大な声で怒鳴るペトラだった。