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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
11/233

010 それぞれの夜


 さて……ヴィーゼやエル達と大きな焚き火を挟んで向かい側。

 そこには元国王とマリーが居た。

 幌車から適当な木箱を出してきて、それに座って食事をしている。

 その後ろには2匹の魔物が丸くなり寝ていた……スピノサウルスの子供だ。

 元がデカイ恐竜なのだから、子供でも十分にデカイ。

 そこらの馬程……以上だった。


 その二人に近付いて来たアマルティア。

 手には勿論、スピノサウルス達の母親の肉の入った器を持っている。

 後ろにはクリスティナが同じ様に器を持って立っていた。

 ヴィーゼから遠い焚き火の反対側。

 そして、庇ってくれそうなアマルティアにくっついて居るのだ。

 ……だが、そのクリスティナは後悔していた。

 元国王とマリーの後ろで寝ている……魔物がチョッとばかし怖かったのだ。

 使役されているのは知っている。

 キチンと言う事も聞いているのも見ている。

 無闇に襲って来ないのも知っている。

 何ならそのゴツイ頭や体も撫でさせてくれるかも知れない……。

 だけどその大きな図体と……夜の闇の中で焚き火の炎でユラユラと半身を照らされて艶かしく光る細かな牙の並んだ長く大きな口に……背中に揺れる大きく目立つ背鰭。

 どう贔屓目に見ても……可愛くは無い。

 誰に聞いても凶悪な成りだと返事が帰ってくるだろう……それ。

 まさかアマルティアが平気な顔をして近付くとは思いもしなかった。

 

 ……失敗した……。

 エレン達と一緒に居ればよかった……。

 そう思ったクリスティナは、その犬耳三姉妹を目で探してみる。

 すぐに見付けられた。

 焚き火の周りを、三人で走り回っているのだ……探すまでも無かった。

 

 三姉妹は兎に角動く。

 誰彼構わずその側に行き……一言二言を声を描けては、次の誰かの所に走る。

 それも……決して話はしていない、声は掛けても返事は聞いていないかのようだ。

 だからか相手側の反応がおかしな事に成っている。

 返事を返そうとしたその誰かは、声を発したその時には聞いた本人が目の前に居ないからだ。

 開けた口がモゾモゾと閉じられる。

 そして困惑した表情。

 三姉妹はただ皆の食事の邪魔をしているだけの為に走り回っているのだ。

 しかも妙に楽しそうな素振りで。


 ……ただ興奮しているだけとも見えるのだけど。

 アレに付き合うのは……クリスティナには体力的に無理だとわかった。

 「何がそんなに楽しいんだろうか……?」

 小首を傾げながらに、ボソリと漏れる一言。


 「何か言った?」

 目の前のアマルティアが振り替えって声を掛けてくる。


 「いえ……別に」

 小さく首を降って答える。


 「そう?」

 両眉を上げて……まあいいわとそんな顔でクリスティナに返して、また元国王とマリーに向き直ったアマルティア。

 「で……さっきのは、やっぱり魔法?」


 元国王はニコリと返すだけで、肉を頬張っていた。


 さっきからアマルティアの問いには返事も返さない。

 食事に夢中?

 そう装っているだけ?

 仕方無いので、今度はマリーだけに照準を合わせて。

 「呪いとか?」

 あの時、誰かが言った言葉を並べただけだが……しかしアマルティアもそれは違うんじゃないか? と、疑問に感じていた。

 でも、それ以外に思い付かない。

 あの時の事が不思議すぎて理解が出来ないでいたのだ。

 だから……まあ、ソレを知っている本人か何時も側に居るマリーに直接に尋ねる事にしたのだ。

 後ろでクリスティナが、寝ている魔物を怖がっている事も理解していたが。

 ソレよりも事実が知りたい。

 そんな意味を込めた目でジィッと見詰める。

 

 午前中の1日数時間の錬金術の授業を毎日欠かさずこなしていた……目の前の弟子であるアマルティアの質問。

 マリーは少しだけ肩を竦めて、諦めた顔をした。

 「どれもハズレ」

 横で惚けた顔で肉の入ったスープを啜っていた男……元国王を指出さし。

 「この男はネクロマンサーなのよ」

 そして、暫くその顔をジッと見た。


 別段、気にする風でもない元国王。

 横の男にネクロマンサーとしての戦い方を教えても良いのか? と、探りでも入れていたのだろうか

 そんな感じにも見えると、アマルティアも答えを待つ。

 「ゾンビにするのよね?」

 チラチラと後ろの魔物を見ながらだ。


 「そうよ」

 マリーは小さく肩を竦めて、立ち上がる。

 その手のスープは自身が座っていた木箱の上に置いて。

 「ネクロマンサーはゾンビを使役するのよ」

 と、ボソリ。

 そして、もう一度アマルティアに向き直り、その目の前に指を一本差し出す。

 すると……その指に一匹の蜂がとまった。


 驚いたアマルティアは小さく声を上げた。

 「あ! 刺されない?」

 だが、マリーがゾンビだと思い出してか。

 「そうか……刺されても大丈夫なのよね」

 しかし、生身の生きた自分は大丈夫では無いとは理解も出来ている。

 静かにソッと離れようとした。

 蜂に遭遇しても慌てて動いてはいけない……静かにユックリと動いてその場から距離を取る。

 急な動きは蜂を刺激するからだ。


 そんなアマルティアの動きを見たマリー。

 「大丈夫よ」

 蜂が乗った指を真上に突き上げて、その蜂は翔び放つ。 

 「この子達は、襲ってきたりはしないから……何も悪さをしなければね」

 

 暫く上空で旋回を続けていた蜂が何処かに飛び去っていった。

 夜の闇での焚き火の灯りだけでは、ほんの少し闇夜に紛れればその小さな体の蜂はもう見付けられない。


 「倒したのは、この子達……蜂の魔物のゾンビなのよ」

 マリーも真上に視線を上げて。

 でもその先が定まらない様子。

 やはりか見付けられないのだろう。

 「昼間の明るい時でも……少し距離を取れば見えにくいサイズだけど、でも魔物は魔物……毒を持っているの」

 探すのを諦めたのか、それとも見えない事を教えるためだけだったのか……上にやった視線をアマルティアに戻し。

 「強さも相当に鍛えているから……その毒も強力よ」

 今度は後ろで寝ている魔物にチラリと目線をやり。

 またアマルティアにソレを戻す。


 コレくらいの魔物なら楽勝で終わらせられる……そんな感じの意味なのだと理解できる。

 「なんだ……今の蜂が魔物を倒したのね」

 納得して頷いた。

 

 「指示を出したのはワシだぞ」

 それまで黙っていた元国王が、食べる為ではなくに口を開いた。

 今のアマルティアの発言の仕方……なんだ……って所に反応したらしい。

 「確かに直接に攻撃したのは蜂達だが……ソレを使役して使うのはネクロマンサーであるワシの能力じゃ」

 わかりやすくドヤ顔を向けてきた。


 いったい誰に……なんの為にマウントを取っているのか。

 理解に苦しむアマルティアは苦笑い。

 「別に元国王が何もしていないとは一言も言ってないのに」

 ボソリと愚痴も漏れる。

 



 その頃バルタはルノーft-17(改)の砲塔の中に居た。

 後ろの両開きのハッチからはローザが覗いている。

 

 「でね……コレなの」

 バルタが砲塔の中、横から突き出たバーを指差して。

 「単純に押したり引いたりで、砲塔を回転させてるだけなの……で、砲塔を受けているターレットリングのベアリングの性能が良すぎて、チョッとした振動でも動いちゃう」

 次に砲のお尻を片手で掴んで上下に揺すった。

 「コレもそう軽い力で……何なら履帯が石を踏んだ衝撃とか、車体が傾いた反動とかでも動いちゃうの」

 

 「それは……前にヴィーゼが重いから軽くしてって言われて……」

 ローザは少し考える様に首を傾げて。

 「もしかして……ヴィーゼが外しまくったのもそのせい?」


 頷いたバルタ。

 「たぶんそうだと思う……コレじゃあ完全に停止してないと照準を合わせるのも無理だと思う」


 「そうか……」

 唸ったローザ。

 「性能を上げすぎるのも良し悪しか」

 

 「停まってれば……素早く動かせるから、それは良いのだろうけど」

 バルタも少し考えて。

 「ねえ……38(t)みたいに砲塔をハンドルで回せない? ついでに砲の上下も」


 「動かせる速度は遅くなるよ」

 

 「元の鈍いターレットリングだと重いから動かすのも大変だし……多少の速さの犠牲は仕方無いと思う」

 

 「まあギアを噛ますのは簡単だけど……」

 もう一度……唸る。

 「38(t)の様にアシストモーターをいれる?」


 「別に軽くはしなくても良いと思うよ? 今の状態が軽いんだし」

 バルタはバーを少し揺すって見せた。


 「なら軽さでは無くて……速さのアシストかなぁ。ギア比を小さくしてハンドルの回転を少なく、大きく砲塔を回す……とか。抵抗の増減が出来るブレーキみたいなモノとか。う~ん」

 

 悩み始めたローザにバルタはもう一つの注文を追加した。

 「それとだけどね……砲が下に向かないの」

 上下させつつに。

 「平らな所なら問題無いのだけど……登り坂とかではもう少し下に向いてくれると狙いやすいのだけど」


 「ああ……車体が小さいから余計に傾斜が邪魔するのか」

 溜め息を吐く。

 「そりゃあ当たらないか」


 「なんとかならない?」


 「今は部品が無いから……直ぐには無理だけど」

 頷いたローザ。

 「取り敢えず考えておくよ」

 と、肩を竦める。


 今すぐどうにかはならない様だと顎にシワを寄せたバルタは。

 「お願い」

 そう頼むしかなかった。

 



 そして御嬢様のムーズ。

 食事を終えて……テントの中でお茶を啜っていた。

 側には大の字でお腹を擦りながら眠りこけているペトラ。

 

 「地面に直接……寝れるかしら」

 ベッド以外で寝るのが初めての御嬢様は小首を傾げている。

 「お風呂……とかも無いみたいだし」 

 少し遠い目をして。

 「あの時のキャンピングトレーラー? エアストリームだっけか……は、何で持ってきちゃあ駄目なのかしら。アレならベッドもシャワーもトイレまで付いてたのに」

 少し大袈裟な溜め息を吐いて見せる。


 別に駄目だったわけではない……ただ誰も、特にエルがだが、思い付かなかっただけだ。

 最初の出発の時に、ムーズが一言いえばそうなったはず。

 そして今でも言えば、たぶん取りに戻るだろう。

 けど、御嬢様は駄目なものはダメなんだと勝手に思い込んでいるだけの事なのだった。

 

 そして何故に誰も思い付かなかったのかは、簡単。

 2台在るエアストリーム。

 大きい方はローザの店の事務所。

 大きめのソファーと少し小さいけどテーブルも在る。

 御客との商談にはピッタリ。


 そして小さい方のエアストリーム。

 そちらはローザの住まいとして使われていた。


 もう2年近くも動かす事無く……完全に据え置き状態。

 勿論、壊れているわけでもなく今でもチャンと動かせる……だが、動くと言う事自体を忘れているのだ。

 勿体無い事に……。



 さてそんな感じで夜も更けていく。

 子供達は各々、適当に寝床を探して眠りに付いた。

 

 町の者達は……食事を終えたらバラバラに町に戻る者。

 そのまま酒に変えて宴会に突入する者。

 直接、仕事だと夜の移動を開始する者もいた。



 そして朝。

 バルタは驚いた。

 戦車の中で丸まって寝ていたのだが、起きて頭の所を見ると……ヘルメットに小銭の硬貨がジャラジャラと入っているのだ。

 そして手紙と。

 それには、こう書かれていた。

 「昨日の肉の代金」

 字はアリカの様だ。

 小銭なのは……多分、皆が各々に出していったのだろうと思われる。

 合計してもたいした金額では無さそうだが、それでも今の金欠のバルタ達には有り難かった。

 仕事では在るのだけど、チョッとした旅には違いない。

 それに小遣いが有るのと無いのでは大違いだ。

 道中、御菓子が買える。

 珍しい小物を見付けられるかもしれない……可愛いヤツとか。

 

 少し楽しみに成ってきたバルタだった。

 軽く笑みも溢れる。

 「いい旅に成ると良いな」

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