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ファウストの子供達  作者: 喜右衛門
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108 懐かしいと思うモノ達


 王城の廊下を歩くペトラ。

 廊下とはいっても屋根は無い。

 太くて大きい柱も総てが途中で折れてしまっている。

 それでも足元にはその瓦礫も落ちては居ない……どころか廊下の床はピカピカのツルツルだ。

 

 そして、たまに誰かとスレ違う。

 王城で働く職員なのだろうか?

 それとも其々の種族を代表する者達なのだろうか……は、わからないが。

 とてもジロジロとは見られた。

 

 それはそうだろう。

 小汚い老人に、変に偉そうに歩く子供。

 そして、私は……たぶんビクついて見えるはず。

 実際に自分でもわかる程にオドオドとしてしまっていた。

 これで先頭を歩く警備長官さんが居なければ……絶対に摘まみ出されている事だろう。

 それは確実だ。

 100パーセントだ。


 ほら、今すれ違った人も此方を見ている。

 どんな顔をしていたのかはわからないけど……絶対に怪訝な顔に違いない。

 もう、私はそれを確認する勇気も無い。

 ここで……顔を上げて歩くなんて不可能だ。


 とにかく前に遅れることなく着いて行くのが精一杯。

 こんな所で、独り置いてけぼりは嫌だ。

 迷子なんてとんでもない。

 それだけは回避しなければと必死だったのだ。


 「もうすぐですよ」

 長官が元国王に告げている。


 「もうチョッと普通に歩きなさいよ」


 マリーには注意された。

 今の私はどんな変な歩き方に成っているのだろうか?

 この廊下に鏡とかガラスが無くて本当に良かった。

 たぶん……今の私は自分でも見たくないと思う。

 大人だらけで、偉い人だらけのこんな場所で普通でいられるわけは無いのだ。

 

 と、マリーの背中にぶつかった。

 あるきを止めた事に気付かなかったのだ。

 でも、マリーはその事に文句は言わずに。

 「相変わらずに……大きいわね」

 上を見上げている様だった。


 ペトラもおそるおそると顔を上げた。

 太い足が見えた。

 腹は地面に着けて居る。

 座っているのだろうか?

 もう少し上を見る。

 大な顔がコチラを覗き込んでいた。


 ドラゴンだ……紛れもなくにドラゴンだった。

 全身は硬そうな鱗に被われている。

 大な顎に鋭い牙。

 鼻の穴からは炎でも出しそうな勢いだ。

 

 「ひっ……」

 押さえきれない悲鳴が小さく漏れてしまった。

 ……だって、ドラゴンは絶対に私を見ているのだから。

 目が合ってしまったのだから、それは仕方無いと思う。

 私を見てニヤリと笑ったのだから。


 

 


 子供達は食事をとっていた。

 何時もの席に座って、各々が勝手気ままに喋りながらに口に料理を放り込む。

 その料理はテーブルの真ん中に置かれた大皿に盛られたパスタ。

 具はトマトだけの簡単なヤツだ。

 

 でも、旅での野営ではその新鮮なトマトは手に入りにくいのでそれはそれで美味しい。

 そろそろお昼時だし、お腹的にも丁度良い。

 それに適度に掃除で動いたのでもっといい感じだ。


 ちっとも仕事をしていないのに……いい感じに成っている者も二人程いたけど。

 ローザとその兄は……パスタには手を付けずに酒瓶を抱えていた。

 そして、完全に酔っぱらっていた。

 ウザイくらいに鬱陶しい。


 食堂を追い出したその時から永遠と今もだけど……飲み続けていたらしい。

 兄と妹が久し振りに会ってそれかとは思うけど。

 でもまあ……話す話題が少ないのだろうと想像は付く。

 兄妹でも男女で趣味も違う様だし仕方無いのかも知れない。

 仲が悪ければ喧嘩でもしてしまえばよいが……そうでも無い。

 だから、取り合えず呑もうと為るのだろう。

 

 と、外からバイクの排気音が聞こえてきた。

 聞き覚えのある音。

 アンのドカティ900Mモンスターだ。

 

 以前に乗っていたドイツ軍用車のBMWをパトが壊したから、代わりにあげたヤツだ。

 随分と年代が進んでムチャクチャ速く成ったと喜んでいたっけ。

 それを今も大事に乗っている様だ。

 

 バルタは皆に告げる。

 「アンが帰ってきたみたいだよ」


 「ほんと?」

 三姉妹はフォークをテーブルに投げて外へと飛び出して行った。


 「まだ、遠いのに……」

 ふう……と息を吐いてポツリ。


 「でもさ……待っても2分か3分でしょう?」

 ヴィーゼもソワソワとしている。

 それでも飛び出して行かないのは、まだパスタが気になるからだろう。

 食事の席に着いたのが一番に遅れていたからまだ食べ初めだし。

 それは、風呂から上がるのに踏ん切りを付けるに戸惑ったからだ。

 

 それを見てか笑い。

 ヴィーゼのゴーレムは小屋を出ていった。

 コチラは食事は簡単だ。

 魔石を一個丸飲みにすれば良いだけ。

 そして、バルタとエルのゴーレムもそれに続く。

 

 三人のゴーレムも、自分の成りで驚かせるかもとは思ってもアンには会いたい様だ。

 多少の出遅れは……たぶん少しの迷いの現れだろう。

 怖いと感じてしまうには仕方無い姿だからだ。


 

 そして、程無くアンが小屋に入ってきた。

 「久し振りだね」

 ニコニコと笑顔で、相変わらずにノックも無しに扉を開ける。


 「うん久し振り」

 バルタも返事を返す。

 2年経ってもアンはそのままで変わる事も無いようだ。

 

 「アンも食べる?」

 イナとエノもニコニコとテーブルのパスタを指差して。


 「美味しそうだね……いただこう」

 アンはテーブルに座る。

 遊びに来たときに何時も座る席だ。


 出迎えた三姉妹もまたテーブルに戻る。

 ただ、ゴーレム達三人は戻って来ても所在無げに壁際に立ったまま。

 何時もの席にはオリジナルが居るから仕方無いとそうして居るようだ。


 ただ、それを見ている方はもっと気になる。

 「こっちへ来て座ったら?」

 バルタは空いている椅子を指した。

 ハンナやアリカ達……後から合流した村娘達の席だ。


 頷いたゴーレム三人はソコに座った。

 まだ、声は発して居ない。

 だからか、アンも気付いてはいないようだ。


 「変わったゴーレムだね」

 ゴーレム三人を見て。

 「耳が付いてる……獣人を模している?」

 フーンと頷いて、そしてハッとした顔で。

 「バルタの猫耳?」

 指を差す。

 「こっちはエル? それとヴィーゼみたいだね」


 「見たいじゃ無くて……そのものよ」

 バルタはそう告げた。

 

 「三人を真似て作ったの?」


 「違うわ……全くの私でバルタなの」


 よくわからないとそんな顔に成ったアン。


 「説明して上げて」

 バルタはゴーレム三人に声を掛けた。



 

 

 元国王はドラゴンに文句を垂れていた。


 「だから、スキルの力が弱まっておるのじゃ」

 身振り手振りで説明。

 「何故にそうなったのじゃ?」


 「ふーん……制限を掛けたのはエルフにだけだった筈だが」

 首を捻るドラゴン。

 その頭は大きいので、それだけで風を感じる程だ。

 ペトラはどうしても馴染めそうに無いと直立不動でソコに居た。


 「何かが繋がっているのかしらね」

 マリーも首を捻る。

 「風が吹けば桶屋が儲かる的な感じ?」


 「そうかも知れないが……まあ丁度いい」

 ドラゴンは頷いて。

 「もう少し制限を掛けようと思っていたからな」


 「な! まだ制限が必要か?」

 驚いて聞き返す元国王。


 「どうも……うまくいかない」

 ドラゴンは言い分けを始める。

 「バランスが悪いのだ……だからか貧富の差が広がり過ぎている」


 「いや……関係無いじゃろうそれは」


 「そうでも無いと思うが? 田舎の方では農作か狩猟が主だろう? その農作の方は変わり無いとは思うのだけど、狩猟の方が問題だ。少し魔物が強く成り過ぎている」


 「だったら、逆にスキルの強化じゃろう」


 「強く成り過ぎているのに強化するのか?」


 「魔物じゃあ無くて人のだ」


 「同じだろうに……人のスキルが強く成るなら同じように魔物も強く成る」

 

 「……人の持つスキルと魔物の持つスキルは同じなのか?」


 それには大きく頷いたドラゴン。

 「基本は共通だ」

 

 「では……弱体化の意味は?」

 

 「人は武器を手に入れたろう? それにスキルは関係無い」

 大なゴツい手で銃の形を示したドラゴン。

 「だから、それでバランスを取るわけだ」


 「それで上手くいくの?」

 首を傾げるマリー。


 「わからんが……やってみればいいのでは無いかな? 上手くいけば儲けもの……ダメでも元々だし」


 「そんな適当な」

 大きく息を吐いたマリー。

 「もっと経済でなんとか為らないの?」


 「経済か……」

 唸るドラゴン。

 「政治も合わせてよくわからん」

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