103 ヤッパリ悪いのは元国王
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ゴーレム・エルが元国王の乗るシルバラード・ピックアップトラックの左の扉をノックした。
その後ろにはゴーレム・バルタにゴーレム・ヴィーゼが着いている。
運転席側のウインドウが下がり、顔を覗かせた元国王がキョロキョロとしていた。
「下よ」
ゴーレム・エルが元国王を呼ぶ。
車高が高くて背の低いゴーレムは視角に隠れてしまうのだろう。
もう一段、首を伸ばした元国王が口を開いた。
「なんじゃ?」
ここでは車から降りる積もりは無い様な素振り。
たぶん自分の事が、国防警察の誰かにバレるのがイヤなのだろう。
もしかすれば騒ぎにでも成ると思っているのかも知れない。
……既に過去の人なのに。
これなんだけど。
ゴーレム・バルタが上に向かって皮袋を差し出した。
「金貨か……」
「キャラバンの護衛の報酬」
バルタが説明して。
「これ私達が貰っても良いよね?」
エルがそう告げる。
「戦車を買いたいの……自分達のヤツ」
ヴィーゼも言葉を被せた。
元国王は少し考える素振りを見せたので。
ゴーレム・エルは。
「私達……突然にゴーレムにされたから、皆と上手く馴染める為の戦車よ」
「ゴーレムだからって、何時までもモノ扱いは嫌だし」
ゴーレム・ヴィーゼは下唇を付き出して。
「歩兵でも貢献は出来るけど、ヤッパリ戦車が有るとイロイロと便利だと思うの……ほら、他人の居る所だと隠れるのにも便利だしね。自我を持ったゴーレムは皆が不思議がるでしょう?」
バルタは少し早口に為ってしまっている。
「そう……私達はナゼかゴーレムだから」
これは三人で声を合わせた。
打ち合わせ通りだ。
「う……うむ」
ギコチナク頷いた元国王。
「まあ、それは君達の仕事による報酬なのだから好きにスルと良いと思うぞ」
「有り難う」
これは打ち合わせには無かったが……三人の声は見事に揃った。
そして、ゴーレム三人は踵を返す。
今度はオリジナル・バルタの所に向かう。
背後のトラックのウインドウが閉まる音が聞こえた。
「上手くいったわね」
オリジナル・エルがほくそ笑む。
「そりゃそうよ」
オリジナル・ヴィーゼも頷いて。
「どう考えたって、元国王が悪いんだもん」
「イキナリゴーレムで転生なんて最悪だもんね」
ゴーレム・ヴィーゼも頷いた。
「でさ」
ゴーレム・バルタがオリジナル・バルタに皮袋を差し出して。
「それで、戦車……買えるかな?」
受け取ったオリジナル・バルタ。
「わかんないけど、後で皆でローザに相談してみよう?」
「出来れば自走砲で」
ゴーレム・エルのリクエスト。
「いや、回転砲塔が無いと」
これは、オリジナル・バルタ。
「強力な砲がいいな……対戦車砲付きの駆逐戦車とかさ」
ゴーレム・ヴィーゼ。
三人供に欲しいモノが違うようだ。
お互いの視線に火花が飛んでいた。
「まあ、それも含めて相談よ」
オリジナル・バルタは戦車から降りて。
「この金貨で買えるモノで考えないとね」
「確かにそうね」
頷いたゴーレムの三人。
「多いようで少ないかも知れないしね」
ここには戦車の相場を知る者が居なかったからだ。
ヴェスペの運転席のローザは降りて来る気配無い様だし。
あまり国防警察とは関わりを持ちたく無いのかも知れない。
なにか有ったのか?
その辺は良くわからないけど……別に相談は後でも構わないのだし。
と、オリジナル・バルタは歩きだした。
「どこ行くの?」
オリジナル・ヴィーゼも戦車から降りて着いてくる。
「さっきの隊員さんに、アンに会えるか聞こうと思って」
オリジナル・バルタは庇ってくれた国防警察軍の兵士を指した。
「あ、私も行く」
オリジナル・エルが手を上げた。
そして、振り返る。
「あんた達は?」
聞いたのはゴーレムの三人。
ゴーレム達は少し下を見ていた。
そして、控えめな声を出したゴーレム・バルタ。
「私達は……こんなだし」
自分の姿を晒すのが怖いらしい。
残りの二人も悲しそうな顔に成っている。
「そんなの気にする事無いわよ」
鼻で笑って、オリジナル・エル。
「そうだよ悪いのは全部……元国王!」
言い切ったオリジナル・ヴィーゼ。
「会えるかどうかもわかんないけどね」
オリジナル・バルタも頷いた。
「約束もないし……突然だしね」
スタスタと進んで行く。
「あのー……私達ってアンに会えるかな?」
オリジナル・バルタが庇ってくれた兵士に聞いた。
少し猫を被った感じの声だ。
「うーん」
困った顔の兵士。
「俺も今は一般兵で階級もズッと下だしな……流石に司令官補佐を呼び出すのは無理だよ」
悪いなとそんな顔に成る。
「勝手に入って行って……会えるかな?」
オリジナル・バルタもが国防警察軍本部の建物を指差して聞いた。
「それも……無理だと思うよ」
兵士は首を横に振って。
「アポが無いと、受け付けで追い返されるだけだ」
「そうよね……」
オリジナル・エルはあからさまに肩を落として見せた。
「うーん」
唸る兵士は、少し考えて。
「アン司令官補佐の耳に入る様に……噂話でも広めて置くよ。君達が会いに来たって」
「有り難う」
皆は声を揃えてのお礼。
「いや……確実じゃあ無いから、ダメな時はゴメンな?」
苦笑いで誤魔化す兵士だけど……。
一応は頑張ってくれるようだと皆は理解して。
もう一度、今度は深目に頭を下げるのだった。
アンの事は期待して待つ事にして。
皆はまた戦車に戻ってきた。
そこに待っていたムーズが。
「もう、移動するって」
元国王の車を指差す。
「取り敢えずの宿探し……らしい」
「空きが無ければ何処かで野宿かな?」
オリジナル・ヴィーゼが笑う。
「野宿っていやね」
オリジナル・エルがこぼす。
「せめて野営って言ってよね」
ゴーレム・エルもポツリと。
「どっちだってやる事は一緒じゃん」
ゴーレム・ヴィーゼが笑った。
「まあ……そうだけどね」
二人のエルは肩を竦める。
そして、皆はそれぞれの移動手段に向かった。
ムーズはクリスティナを連れて元国王の車に乗る様だ。
宿屋に向かう途中。
オリジナル・バルタは無線でムーズに聞いた。
「でさ、気にしてた事はわかった?」
「だめ、1頭引きの馬車だけ警察軍の建物の裏に行っちゃった。結局は誰が乗ってたかもわかんない」
「ヤッパリ人?」
「たぶんね」
「聞けば良かったのに」
横からマリーの声がした。
「只の兵士が作戦行動の目的を知るのは……違うから」
オリジナル・バルタが答える。
「その必要は無いって感じよね」
「なにそれ?」
マリーが吐き捨てる様に。
「意味がわかんない」
「一応は意味が有るのよ」
オリジナル・エルが答える。
「敵に捕虜に為った時に、その情報が仇に成るから」
「目的が漏れるって事?」
「それと、捕虜の扱いが変わるから……目的を知っていると敵が理解していると、拷問が待ってるからね」
エルは続けて。
「だから……知る必要は無いって成るのよ」
「ふーん」
イマイチ納得が出来ていない様子のマリー。
「兵士って……それでいいの?」
「いいよ」
明るく答えるオリジナル・ヴィーゼ。
「だって、それが仕事だもん」
「作戦が上手く行って、運が良ければ目的も知る事が出来るけど……実際に知った所でねえ」
オリジナル・バルタは軽く笑う。
「ほとんどの場合は……だからどうした? で終わるもの」
「結局は兵士は生きて帰って来た事だけに意味があるのだしね」
エルも頷いていた。
「あなた達は……兵士なの?」
ムーズが聞いた。
「パトが居る限りは……パトの兵士だよ」
ヴィーゼが普通の声で答える。
「だから、パトが命令すれば理由は聞かない」
「やれって言われた事をスルだけね」
エルも普通の事の様にだった。
「それは……死ねって言われても?」
「その命令には意味が有る筈だけど……聞いても仕方無いから言われた通りにやるだけよ」
バルタも普通に。
「無茶苦茶ね」
マリーが吐き捨てる様にしてだ。
「戦争中なら……それが当たり前なのよ」
エルの声。
「前にパトも言ってた」
ヴィーゼ。
「戦場での兵士の死はガソリンよりも軽いんだって」
「死体は腐ればガソリンに浮くからね」
バルタも補足する。
「戦争って……イヤなものね」
ボソッと吐いたマリー。
しかし、流石にそれには全員で突っ込んだ。
「いやいや……前の戦争は元国王とマリーが始めたんじゃないの!」
「うっ」
マリーの唸る声でその話は終わった。




