100 マガモ兄弟と一角ウサギの行く末
二人のヴィーゼはそれぞれの手にマガモを一匹づつ掴んで、皆の元に帰ってきた。
もうスッカリ夕方の寛いだキャンプの焚き火の側だ。
そこではペトラとマリーとタヌキ耳姉妹が料理をしていた。
それは、一角ウサギの肉がタップリと入ったスープだった。
「あ! 良いもん持ってるじゃないの」
目敏く見付けたマリーが二人のヴィーゼに声をかけた。
「二羽だと少ないけど……丸焼きにする?」
包丁を片手にキラリと光らせて……ニコリ。
慌ててマガモを隠したヴィーゼ達。
「ダメだよこれはクリスティナにあげるんだから」
そして、そのクリスティナを探した。
焚き火から少し離れた所に見付けたので、そちらに小走りに向かう。
ここに長居は危険だ。
それが、二人のヴィーゼの共通認識と成っていた。
そこは一角ウサギを捌いた場所の様だ。
鼻が特別に良い方でも無いヴィーゼにも、地の臭いと内蔵の臭いの生臭さは感じ取れた。
その棄てたられた内蔵を啄むコノハちゃん。
それをしゃがんで見ているクリスティナ。
「美味しい?」
その問いかけに。
「キュウルキュルギュアー」
と答えるコノハちゃん。
その鳴き声は意外すぎた。
「ミミズクってフクロウだよね?」
「ホーって鳴かないんだ」
素直な感想だ。
「ホーって、泣くときも有るよ」
二人のヴィーゼに気が付いたクリスティナが答えてくれる。
「クリスティナ……これはどう?」
どうも私達が持っていると危険らしい。
主にマガモが……だけど。
なので、さっさと渡してしまおうと差し出した。
「マガモ」
「渡り鳥だから……凄い時間と距離を飛んで居られるよ」
「夜目も効くし……何たって泳げるんだよ」
ゴーレム・ヴィーゼがオリジナル・ヴィーゼの持つマガモの足を指差して。
「ほら、水掻きも付いてる」
「完璧じゃない?」
「見た目も可愛いし」
「鳴き声も可愛い」
ホラ鳴きなさいよとマガモをツツクゴーレム・ヴィーゼ。
「どう?」
立て続けに捲し立てた二人。
グイグイをマガモを前に出す。
「グワーッグワー」
「……どうって」
圧に押されたクリスティナはたじろいだ。
そして、チラリとコノハちゃんに助けを求める様な視線を送る。
「やっぱり食べさせるの?」
不安が隠しきれないヴィーゼ達。
「まあ……いいわ」
クリスティナは小さく頷いて、二人に近付いて……マガモの頭に小さな手をかざす。
その手の平には魔法時が浮かび上がっていた。
「でも……二匹とも?」
もう一匹をチラチラ見ながらに呪文をブツブツ。
と、使役が上手くいったであろうマガモが鳴いた。
「グァー」
方羽を広げて残りの一匹を指差している様だ。
「なるほど……弟か」
クリスティナは頷いた。
「兄弟なら仕方無いか」
残りの一匹も使役する。
「グワー」
「グワー」
たぶん……お礼かな?
まだ握って居たマガモの顔を覗いたヴィーゼ達。
「もう放してもいいよ」
クリスティナに言われて、マガモから手を離した。
バサバサと地面に降りたマガモ兄弟。
クリスティナの足元にスリ寄る。
それを見ていたコノハちゃんは、自分の食べていた肉片を嘴と足で小さく引き千切って……ペイっと投げる。
コノハちゃんにも仲間認定されていた。
先輩だからとパワハラはやらない様だ。
「ほら、やっぱり可愛いじゃん」
コノハちゃんのマガモ兄弟への餌付けを見ていた二人も笑顔に為った。
「で、名前はどうするの?」
「ガモ太とかガモ吉?」
今までならそうなるのだろう……それがクリスティナの法則だからだ。
「そうね……」
ウーンと考え始めたクリスティナ。
「え?」
「考えるんだ」
まさかの行動に目を丸くする。
そして、何かを閃いた顔をしたクリスティナは順に指差して。
「一郎と二郎!」
予想外の事に驚く二人。
法則が崩れた!
「何故にそうなった!」
「え?」
キョトン顔で小首を傾げて。
「だって、この子達ってヴィーゼの戦車に何となく似てない?」
「……?」
「横から見れば似てなくは無いとは思うけど……?」
「ヴィーゼの戦車よりも先に一と二を貰ったの……だからルノーftは三号ね?」
「いや……三号戦車とは全然違うんだけど」
その意味がわからない。
たんぶん1が一番だとでも思っているのだろうか?
「それに一号戦車も二号戦車も……雑魚だよ?」
ハッとした顔を見せた。
「しまった……」
目が泳ぐ。
「でもさ……ルノーft依りも強いよね?」
「二号はエルのヴェスペ自走砲の土台には成ってるけど……機関砲だよ」
「一号もそうだし」
「その機関砲に穴だらけにされるよね?」
それを聞くのか?
「まあああ……されるね」
「ルノーftの装甲はペラペラだから」
「ほら! ヤッパリ一号と二号の方が上でよね」
「でもさ、ルノーftのプトー砲で一発だよ」
「400mまで近付いて高速鉄甲弾を使ってだけど」
二号戦車は前面最大装甲厚は15mm+5mmの20mm。
高速鉄甲弾は400mで21mmを抜ける。
ギリギリだけど抜ける事が大事だ。
因みに……普通の鉄鋼弾は400mで8mmだ。
これは最大13mmの1号戦車でも無理。
だって、ルノーftは1917が最初の生産なのに1号は1933年だ……戦争中の開発競争の中では、その開きはどうしようも無くに大きい。
比べる事に無理が有る。
ルノーftのプトー砲の高速鉄甲弾も随分と後……1935年か1937年かに追加された装備だし。
まあ……それは黙っていよう。
敢えて教える事もない。
目の前の頬を膨らませたクリスティナに、固い笑いを投げ掛けて……その場を去るヴィーゼ達だった。
なんだかマガモ兄弟にツツかれそうな雰囲気まあったから、そそくさとだ。
また焚き火の所に戻ったヴィーゼ達。
もう取られるモノは持ってはいないので安心だ。
煮込まれている鍋の中を覗いて見た。
「美味しそう」
オリジナル・ヴィーゼが呟く。
「たしかに……私は食べられないけど」
ゴーレム・ヴィーゼがポツリと呟く。
「そうなの?」
そう聞いて、失敗したと思ったオリジナル・ヴィーゼ。
それはそうだ……ゴーレムだった。
「後で魔石をあげるわよ」
マリーが鍋を掻き回しながらに声だけで。
「飛空石はやめてね……あれは暫くフワフワするから気持ち悪いのよ」
ゴーレム・ヴィーゼの注文。
「贅沢ね……まあいいけど」
マリーも言葉とは裏腹に優しく笑う。
「魔石でも違うんだね」
オリジナル・ヴィーゼの素朴な疑問。
「味も違うの? 美味しいとか苦いとか」
「苦いは今のところは経験ないけど……私は水の魔石が好きかな」
チラチラとゴーレム・バルタを探したゴーレム・ヴィーゼ。
「バルタは火の魔石が良いって言ってたね」
「人によっても好みが有るんだ」
フーンとオリジナル・ヴィーゼ。
私は鳥とか魚とかサッパリした肉の方が良いけど、バルタは噛みごたえの有る肉が好きだし……そんな感じの好みかな?
今、煮ているウサギもサッパリ系だし、今日のご飯は楽しみだ。
「あ! そうだ」
いつのまにかに居たエレンがヴィーゼの肩を叩く。
「これヴィーゼのだよね?」
差し出したのはピンクのハンカチ。
「一角ウサギが盗んだのか、体に巻き付けて居たから返して貰っといた」
眉が寄る。
「その……一角ウサギは?」
? と、小首を傾げたエレンは鍋を指差した。
「小さかったけど、まあ足しには為るよね」
ニコニコと笑っていた。
「この……中」
グツグツと音を立てている鍋。
スープの間から肉が浮いたり沈んだりとしていた。
その中の……どれか……。
……ええええ。
声に成らない叫び。
口が開いたままで閉じれない程の驚きと悲しさだ。
イロイロやった苦労はなに?
と、その口にマリーが大きな木のスプーンですくったスープを放り込んだ。
「熱っ!」
もっと驚かされたけど……。
「美味しい」
「でしょう? 今日のは完璧ね」
腰に手を当てて胸を張ったマリーだった。




