000 プロローグ シャーマンの力
俺は空中にうつ伏せで浮いていた。
上から真下をまっすぐに見下ろす視界。
見えるのは……裸の赤ん坊。
大事なモノも小さいけど付いている。
ああ……これが俺に成るのか。
今は不細工だが……成長した顔は想像が着く。
ってか……知っている。
鏡なんて滅多に見ないが、それでも見る事も有ったからだ。
それでも、たいして男前には成らないが。
この猿の様な顔よりはましだ。
俺は死んで……思念体と成った。
そして、見下ろして居るのは赤ん坊の俺。
今からこの赤ん坊として生き直すのだ。
望んだ事では無いが……望まれた事だ。
また面倒臭い人生が始まるのだ。
そう考えると思念体の顔も苦笑いにも成る。
その時。
ふと、感じる別の意識。
バルタが俺に成る赤ん坊を見ている。
「かわいい」
そう心の中で思っているようだ。
そうか? と、突っ込みたいが……どうも意識は一方通行の様だ。
バルタの意識はこちらに伝わるが、此方の意識は届かない。
それは、バルタだけでは無かった。
ヴィーゼも居る。
見ているのは手か?
「ちっちゃい」
触りたくてウズウズしているのがわかる。
エルも居た。
赤ん坊の食事の心配をしていた。
魔物では無い動物の牝のヤギを手に入れたのだが、そのお乳を飲んでくれるかとそればかり考えている。
タヌキ耳姉妹は布を持って待機だ。
風邪を引かない様にと、それで包む準備。
犬耳三姉妹は成長を楽しみにしている。
いっぱい遊ぼうと今からワクワクとしていた。
思念体の体だからだろうか、俺の能力……シャーマンの力が何の触媒も無しに発動しているのだろう。
だから、他人の記憶が覗ける……混ざる?
たぶん、そんなところだ。
それともう一つ……やはり触媒が無いせいか、たまに揺らぎが出る。
思念体の自分が揺らぐのか?
意識だけが揺らぐのかは……わからない。
それでも……突然にグラリと来るのだ。
そんな時は……誰かの過去を見る。
そこには俺は居ないのに旅をした記憶が誰かの視点で見えるのだ。
いや、俺が側に居ても……俺を見ている記憶か?
複数の記憶が混ざり込んでいるので、中々にややこしい。
俺と別れて暫く後。
子供達は旅に出た様だ。
幾つかの経験をして、笑う。
なかなかに楽しそうだ。
俺は……少しその旅を覗いて見ることにした。
バルタの目を通して。
ヴィーゼの目を通して。
エルの目を通して。
タヌキ耳姉妹も犬耳三姉妹もアマルティアもクリスティナもペトラもだ。
混ざる意識と記憶なのだから、誰の目で見るかはわからない。
そんな細かい所まで制御は出来なくは無いが面倒だ。
楽しそうにしている、その姿が見たいだけなのだから。
そう例えば旅の始め。
出発の前日くらいからかな?