其の四…『幽霊の量子化、シュレーディンガーの魚の話:前編』
今現在作者の中の『gritters』熱が高まっているのでこっちを連続で投稿します。でもすぐに落ち着くと思います(笑)。
『私』こと『やっくん』と『私の彼女』である『柚葉さん』が所属する『昼休み怪談部』は『怪談』を蒐集する部活動であり、『部員でない人』であっても『怪談』を語ってくれるのであれば『常時大歓迎』である。ゆえにほぼ毎日のように『怪談持ち込み』をしに来る生徒や、それほどの頻度ではないが教師も、そして『わけのわからない人』も訪ねてくるのだ。『怖い話』をしていると『幽霊』が寄ってくるとは言うが、『幽霊』でないものも色々寄ってくるのである(ちょっと失礼な言い方)。
この『わけのわからない人』の『わけのわからない』は人によって『意味』が違うが、今回尋ねてきた『生野魚』と言う女子の場合は『発言が変+雰囲気がちょっと他の人たちと違う+謎のオーラ』を指している。今回はその『謎少女サカナさん』がある時『昼休み怪談部』の部室を尋ねて来て『私』と『柚葉さん』に語ってくれた話だ。
「『量子論』って滅茶苦茶『面白い』しものすごく『ホラー』だよ、マジでおすすめ。『現実』ってこんなに『不気味で意味不明』だって驚かされるもん」と生野魚。
これは数ある『サカナちゃん語録』の中ではまだ『意味が理解できる』方だと思う。だが『私』も『柚葉さん』も『ある単語』の意味が分からず、
「…………『りょうしろん』ってなんですか??」と私。
「なんかそれ難しい話なの??」と柚葉さん。
「『量子論』は『量子力学』と言った方がわかりやすいかもね、つまりは『物理学』の話だよ。『量子』の意味は『物質の基本単位になっている小さい粒』って意味で、例えば『サカナちゃん』の『肉体』を構成している『原子』は『電子』と『陽子』と『中性子』でできてるけど──厳密には『陽子と中性子』は『素粒子』ではない。『素粒子』は『クオーク』である──それら『素粒子』が『量子』だよ。もちろん『電子』は『電気』を構成する最小単位でもあるし、『光』も『光子(光量子)』が集まってできたものだよ………ほかにもいろいろあるけど、そういう『ものすごく小さい粒』のことを『量子』っていうんだよ」とサカナさん。
「それが『リョウシロン』ってこと?」と柚葉さん。
「ううん、その『量子の性質に関する様々な説』が『量子論』だよ。もうちょっと補足すると『『現実』って『粒状(小さい粒々で出来ている)なんじゃね!?』という考え方のことなんだよ。ああ、その『粒状』が『量子』のことだからつまり『現実って量子なんじゃね!?(現実の量子化)』ってのが『量子論』だね」とサカナちゃん。
早速ここで『サカナさん』の『意味不明ワールド』が展開されるのである。私と『柚葉さん』は『脳みそ』が『フル回転』して『火』を吹きそうになっている気持ちで、
「『現実がものすごく小さい粒出て来ている』ですか………?? その『現実』って例えば『学校の建物』とか『僕の肉体』とか『空に浮かんでる太陽』とかの身の回りの様々な『物質』が全て『量子』でできているってことですよね? それの何が『不気味』なんですか………???」と私。
「『マジレス』すると『空の上の太陽と人間が同じ粒でできている』って『古代人』にいっても多分『あり得ない!』って否定されると思うよ──『デモクリトスの原子論』は『アカデメイア学派』から非難されてたって話もあるくらいだし──もちろん『太陽』や『学校の建物』も『やっくんくん』と同じく『量子』でできているわけだけど、『それだけじゃない』んだよこれが。実は『エネルギー』も『空間』も『時間』も『現実に存在する何もかも』、というか『現実それ自体』が『小さい粒』でできているかもしれない………と考えるのが『量子論』なんだよ」とサカナさん。
「「はい?? 『時間や空間』が『小さい粒』でできている????」」と私&柚葉さん。
とはいいつつ『サカナちゃん』曰く『正直なところ『量子論』を一言で分かりやすく説明することはできないと思うよ』と本人も認める通り、『量子力学』は『科学は不明瞭で不可解で人間の言葉では十分に説明できないものである………かもしれない』というスタンスを持つ分野であるらしい。だから妙に曖昧な言い方だがそれで善いとのことだそうだ。
もうこの時点で『科学なのに不明瞭で説明できない??』と私は『理解不能』の領域に足を踏み入れてしまったわけであるが、そうやって『奇妙に思って興味をそそられる』ことが何よりも『重要』なことだとか………なぜなら『量子』と呼ばれる『極小の小さい粒々』は『奇妙奇天烈で不合理で矛盾した性質』を持っているからであるらしい。
「それって『科学』………なんだよね?(不安)……でもな~私は『科学』全然わかんないよサカナちゃん………だって『生物』選択したし………(この学園は『科学』か『生物』のどちらかを選択して片方だけを勉強する)」と柚葉さん。
「『物理学』………なんか『数式』とかいっぱい出て来て計算するんですか? 僕根っからの『文系』なんで『数学』も苦手でして……(拒否)」と私。
「そ、そうそう! 私も『文系少女』だから全然わかんない! 他のにしてよサカナちゃん!(懇願)」
「別に計算とかしないよ。なんだかよく『誤解』されるけど『科学』は『哲学』から産まれた──これは『アリストテレスの自然学』が『自然科学の始まり』とされるからだそうだけど、これにはちょっと『誤解』があってね。実は『科学』は『誕生』から『現代』にいたるまでずっと『哲学』なんだよね。『古代ギリシャ人』は『実際に宇宙に行ったわけではない』に『地球は丸い』ことを観察と計算だけで導き出し、『中世イスラムの知識人』たちは『プトレマイオスの地図』を眺めただけで『アメリカ大陸』の存在を予想し、『ニュートン』は『頭の中での計算と推測』だけで『万有引力』を発見し、『アインシュタイン』は『純粋な思考実験』だけで『光電効果(光量子仮説)』を予想してそれが『太陽光発電』や『デジタルカメラ』発明のきっかけとなったんだ。全ての『発明や発見』はまず先に『理論』があり、それが正しいか確認するために『実験』が行われるんだよ。だから『科学者』はみんな『哲学者』でもあるんだ………『哲学』は『文系』だから二人もわかるってことでいいんだよね?」
「「すみません………『哲学』も全然わかんないです………」」と私&柚葉さん。
私も『柚葉さん』も『チンプンカンプン』なので『サカナちゃん』の言ってることの意味も分からなければ、『そもそも正しいのか』すらもわからない。そして彼女の話はどう考えても『怪談』ではないと思うのだが………それでも『サカナちゃん』は私たちが用意した席には座らず、立ったまま『ホワイトボード』の前に移動して喋り続ける。
「では改めて『量子論(量子力学)』について語るけど………その前にまずこの『量子力学』が『どれだけ身近なものか』の方を先に語っておくよ。そもそも皆が使っている『スマホ』も『タブレット』ももちろん『パソコン』もすべて『量子力学』で発見された『理論』が『応用』されてるんだ(『半導体』が『量子力学』の理論で作られているため)。それだけじゃなくて例えばそういった『機械』を動かすために必要な『電気』も──『原子力発電』なんかはもろ『量子力学』から誕生した発電方法なんだ──あるいは『光ファイバー』などもね。もちろんこれだけじゃないよ? 『学校』で習う『科学』の内容も『量子力学』から得られた知識を基礎にしてるし、おおよそ『現代社会』で『ハイテク』とされてるものは大体『量子力学』から産まれた発明なんだよ。そして最近注目されてる『量子コンピュータ』なんかの『次世代の発明』もやっぱり『量子力学』がかかわっている………つまり『量子力学』は『最先端科学』であり『すでに誕生から100年以上たっているけど今後ますます発展が期待されるホットな分野』ってことなんだよ。まずそのことはオーケー?」
「『量子コンピュータ』は聞いたことありますね………『1』と『0』が同時に存在するとかなんとかって……(その意味は全く分からないけど)」と私。
「私も『テレビ』でやってたのを見た気が………(うろ覚え)…………まあなんかよくわかんないけど、とりあえず『最先端科学』ってことはわかったわサカナちゃん」と柚葉さん。
「それだけわかってもらえれば十分だね。でも『これだけ身近なもの』でありながらいざ『量子力学』の『理論』を眺めてみるとみんな驚くんだよね。だって『量子力学』が導き出した『法則や理論』はさっきも言ったけど、どれこもこれもが『ものすごく奇妙』だからだよ………といってもここで『有名な実験』の話とかすると『小難しく』なってくるから、『ものすごく雑な説明』で『量子の性質』をあげていこうかな………」とサカナさん。
彼女はそう言って『ホワイトボード』に以下の言葉を書いた。
〇1:『量子』は『粒子の性質』と『波の性質』をもつ(二重性)。
〇2:『エネルギー』は『離散的』、つまり『飛び飛びの値(量子のような振舞い)』にしかなれない(エネルギーの量子化)。
〇3:『量子』は『相反する二つの性質』を『同時に示す』ことができる。しかし『観測される』とどちらかの性質に決定される(重ね合わせ)。
〇4:『量子』は『複数個所』に『同時に存在できる』、というか正確には『存在確率』だけがあり、その確率がある場所すべてに存在している『可能性がある』。だが逆に言えば『確率』だけしかないので『ある時点でどこにその量子が存在するか』を『断言』することができない。『その瞬間にその位置に存在する確率がある』としかいえない(不確定性)。
〇5:『二つ以上の量子』が『もつれ(量子もつれ)』と呼ばれる状態になると、その『複数の量子』がどれだけ離れた地点に存在していたとしても互いにあたかも『テレパシー』で連絡を取り合ってるかのように『影響』を及ぼし合う(量子もつれ)。
「「…………?????????」」と二人。
完全に『ポカン』と口開けて呆けた顔をしている『私』と『柚葉さん』に向かって『サカナさん』が付け加える。
「…………おもに『量子の性質』をあげるとこんな感じになるんだけど、まあこの説明じゃあ『何が何だかわけわからん』だよねぇ(しみじみ)。そして『全部』を説明するととにかく『長く』なりすぎて『昼休み』じゃあ『時間』が足りないからさ………(時計を見てから)…………この中でも一番『イメージしやすい』とサカナちゃんは思っている『量子重ね合わせ』と『量子もつれ』についてだけ説明しよっか。二人は『シュレーディンガーの猫』って知ってるよね?」
言われて私と『柚葉さん』はなんとか『意識』を取り戻して、
「それなら聞いたことあるわね………確か『箱の中に猫を入れるとその猫が『生きてる状態』と『死んでる状態』が同時に存在する』とかなんとかって………」と柚葉さん。
「でもそれって結局『箱の中身が見えないから』ってだけで、『猫』からみれば『生きてる状態』と『死んでる状態』の片方しかないですよね?? ただの『詭弁』なのでは??」と私。
「『やっくんくん』は『良いこと』いってるよ~。確かに『シュレーディンガーの猫』は『人間の認識に関する問いかけ(認識論)』の話でもあるんだけど、不思議なことに『極小の世界』では『量子』はごく当たり前に『シュレーディンガーの猫』みたいな状態になるんだよね。つまり『量子』は『北』に向かって飛んでいくと同時に『南』に向かっても飛んでいき、でも『観察』すると『北か南』のどっちかにしか飛んでいかなくなるんだ。当然これは『叙述トリック』とかじゃないよ? 本当に『正反対の方向に同時に移動することができる』んだよ『電子』とか『光子』とかってやつらはさ、しかも『意思』があるわけでもないのに『人間に観察される』と『北か南のどっちにかしか進まない』状態になるんだよ!」とサカナさん。
「「はぁ???????」」と二人。
すると『サカナさん』は『ナイスリアクション!』と大喜びし始め、『ホワイトボード』に『二重スリット実験』と言う単語を書いた。
「本当にいいねその反応! 最初『量子重ね合わせ』の話を聞いたら皆そういう反応するよね~! でも安心して、『量子論』を提唱した天才科学者たちも『わからなくても焦る必要はない、『量子論』は誰にも理解できない』と言ってるくらいだからさ。そしてこの『量子の奇妙な性質』をもっと知りたいと思ったら『二重スリット実験』ってネットで検索することをお勧めするよ。『Wikipedia』もあるし『わかりやすく解説してくれている個人ブログ』もあるからここで説明するよりそっちを読んだ方がおすすめだねぇ~。これで少しでも『自分たちが今まで信じていた現実』が『とんでもない勘違い』でしかなく、『自然は人間の想像力をはるかに超えていて理解不能である』ことが少しでも分かればサカナちゃんは嬉しいかなぁ………」
彼女は本当に楽しそうだった。そして私と『柚葉さん』は早速言われるまま『スマホ』を取り出して『二重スリット実験』と言う単語を検索し………『量子論』が提示する『奇妙で不可解で不気味すぎる現実』のその一端を垣間見ることになるのであった。
「…………えぇ?? 『一粒の光子』が『二つのスリット』を『同時に通過』する?? なにそれ??? どういうこと????」と柚葉さん。
「『『量子』はあたかも『未来』を予知しているかのように振舞うのではなく、『時間』というものがそもそも『存在しない』と考えた方が自然』………はいい?? 意味が分からないのですが………」と私。
「『時間』に関してはすでに『アインシュタインの相対性理論』で『人間が漠然と思い描いていた『時間と空間』の概念が実は『正しくない』ことがわかってるんだよね~。『量子論』の衝撃をよりよく理解するにはやっぱり『古典物理学』から学ぶべきかもね~じゃあ次はそっちに軽く触れちゃおうかな?」とサカナちゃん。
この話の続きは次回に持ち越させていただきたいわけですが、しかしあれですね………これって本当に『怪談』っていえるんですかね?????
正直作者も『量子力学』のことは独学で勉強中なのでまだまだ分からないことが多いです(汗)。
今回の参考文献:『世界は『関係』でできている(カルロ・ロヴェッリ著 富永星訳 NHK出版)』←すごく面白い本なので作者おすすめです。




