其の二…『廃墟に漂うストッキングとナイフの話』
『この世で一番怖いのは『人間』である』などと言う言葉が『私の恋人』は嫌いである。理由は『『怪奇』を楽しむ心に水を差してる』からだそうだ。彼女曰く『心霊現象』は『冒険ファンタジー』であり、『義務に追われて心の休まらない日常』から『気軽に一歩踏み出す』だけで、つまり『ネット小説』を開くくらいの気安さで踏み込める『異世界』なのだそうだ。そんな『異世界』に『現実の嫌な部分』を持ち込むのは『野暮』ということらしい。彼女の考え方に共感するわけではないが、その気持ちはわからないでもない。
だが『サンシさん』は『そんなことが言えるのは『本物の暴力』を見たことがないからだ』そうだ。あなたが言うと確かに説得力があると思います(汗)。
『石川県金沢市』の『黒百合丘学園』は色々な『社会活動』の取り組みに力を入れているそうだ。その関係かはわからないが、『三年三組』には『中学生時代に暴力事件を起こしたせいで二年間少年院にいた先輩』がいる。今回はその『彼』が『昼休み怪談部』の『部長』である『柚葉さん』と『副部長兼会計』である『私』に語ってくれた『怪談』だ。
ちなみにすでに『20歳』なので毎朝『バイク』で登校する彼を『私たち』は『サンシ先輩』と呼んでいる。確か一番最初に彼が『昼休み怪談部』に現れた時は私も『柚葉さん』も『ビビり散らして』いて『怪談』を聞くどころではなかった。
「…………ここは人に『怪談』を話させるくせに『お茶』も出ねーのかよ? 不親切じゃねーか?」とサンシさん。
「す、すみません先輩! どうぞお茶です! 好きなだけ飲んでいただいて構いません!」と柚葉さん。
「足りないのならもっと買ってきますよ先輩! あとお茶菓子もあります! お腹いっぱいになるまで食べていただいても構いません!!」と私。
「いや俺今『体絞ってる』から菓子は要らねーよ(困惑)。あと座れよお前ら、なんで隅っこの方に固まってんだよ。話づれーだろうが」とサンシさん。
「「はいすみませんサンシ先輩!」」と私と柚葉さん。
サンシさんは『身長190センチ越え』かつまるで『西洋甲冑』を着込んでいるのかと思えるほどの見事な『筋肉』、もちろん『体重』は『100キロ』に達し、しかも顔や腕など体のあっちこっちに『傷跡』が残っているため見た目がとんでもなく『ホラー』である。しかも口調が『乱暴』かつ『性格』も『短気』なので本当にいろいろと『怖い噂』が絶えなかった。ふっちゃけ『黒百合丘学園で最も有名な生徒』である。『美形』で有名な先輩だったらどれだけ平和だったことか………(あ、これはオフレコでお願いします)。
そんな『サンシ先輩』が『昼休み怪談部』の噂を聞きつけて『この時初めて怖い話』を持ち込んできたのだ。
「俺はお前らの知る通り、いわゆる『ヤカラ』だから昔は色々と『バカ』をやったもんだ。それでも今は一応『高校卒業』の資格が欲しいから大人しくしてるが、『連れ』は今でも『バカ』やってるやつが多いんだよ悲しいことだがな………俺の『ダチ』の一人に『ユーチューバー』をやってるやつがいたんだが、そいつがちょっと前に『バズる』ために『心霊スポット』に凸ったことがあったんだよ………俺を巻き込んでな(溜息)」とサンシさん。
サンシさんの友人を仮に『小野田』と呼ぶ(本名は全然違うらしいが仮にこう呼ぶ)。『小野田』は『ユーチューバー』として『バズる』ことを目的に『北陸地方』で『最凶』とされる『心霊スポット』に自分の彼女──この女性も仮に『増川』と言う名前で呼ぶ──と『サンシさん』を連れて出かけたらしい。
「『北陸最恐のスポット』ってやっぱ『牛首トンネル』とか『赤い家』とかですか?」と柚葉さん。
「僕は『野田山墓地』とかよくききますけど………」と私。
「全部『石川』のスポットだな。俺らが行ったのは『富山』にある廃墟だ。そこに深夜忍び込んだんだが………」とサンシさん。
先輩が話そうとすると私は『おずおず』とためらいがちに手をあげて、
「あ、あの~、すみません……つかぬことをお伺いしますけど、その『廃墟』に入る前にちゃんと『所有者』に許可取ってます?」と私。
「とってるわけねーに決まってんだろ? 言っただろ『ヤカラ』だって」とサンシさん。
「ああ、やっぱりそうなりますよね………(汗)」
その『廃墟』は『山』の中にあるらしく周囲は『家』も少なく『人・車通り』も『皆無』である。なので隠れる必要もなく堂々と『廃墟の入り口を封鎖しているチェーン』を破壊して簡単に中には入れたそうだ。
『おいおいマジで入んのかよ。一応言っとくけどこれ『犯罪』だからな?』とサンシさん。
『ビビってんのか? これくらいやらねーと『バズ』らねぇってマジで(へらへら)』と『小野田』
『俺『高校卒業』してーから『トラブル』とか御免だっつってんだよ(不機嫌)』
『こんな『山ん中』に誰も見に来ないから大丈夫だって。見つからなきゃヘーキっしょ?(へらへら)』と『増川』
『お前らもこんなところで『動画』とったら『自分は犯罪行為しました』って証拠映像あげることになるだけだぞ。通報されてチャンネル消されたら意味ねーじゃねーか』とサンシさん。
『実際『心霊スポット凸』やってる配信者結構いるけど消されてねーぜ?(ニヤニヤ)』と小野田。
『『偶然炎上してねーだけ』に決まってんだろ。『炎上』しないようにリスク管理しろって忠告してんだよ俺は(イライラ)』
『あーはいはい『喧嘩』はやめようね二人とも~! ほらいくよ!』と『増川』
『だから入んなって………! おい! ったく………(ついて行く)』とサンシさん。
『廃墟』の中は『瓦礫』が散乱していて足場が悪く、『壁や天井』もあっちこっち崩れていて『外の光』が入ってきていたらしいが、そもそも周囲が『山の中』なので『道路沿いにまばらに街頭』があるだけで『光』自体が弱く、かといって『市街地』から遠くもないので『星の光』とかは全然見えなかったそうだ。なので『スマホのライト』がないと全く前が見えなかった。
すると唐突に『増川』が楽しそうにこんな話を始めたという。
『そういえばこの『廃墟』って『怪奇現象』以外でも『有名』でさ、『二年前』にここで『やくざの死体』が出てきたらしいんだよねぇ。どうも『麻薬や銃の取引所』として使ってたそうなんだけど、『交渉』がうまくいかなくて『コロシアイ』になったんだってさ………だからジャジャーン! 『金属バット』持ってきました~! これで『やくざ』や『悪霊』がでても安心で~す!』と増川。
そういって彼女は『金属バット』を取り出して軽くスイングしてみせた。サンシさんが呆れて、
『いや一回『バレた』場所を『やくざ』がまた使うわけねーって。それに『悪霊』に『物理攻撃』きくのかよ?』
『武器持ってるのと無しじゃあ『安心感』が違うっしょ? それに『効かない』って証拠もないじゃん』と『増川』
『実は俺も『ナイフ』もってきてんだよな。昔から『幽霊』は『刃物』と『よだれ』を怖がるって言うらしいじゃん? この前『ネット怪談』で見たぜ(ナイフを舐めながら)』と『小野田』
『お前それ普通に『銃刀法違反』だぞ………マジで『遵法意識』のかけらもねーなお前ら(呆れ)』とサンシさん。
『廃墟』に入ってしばらくの間は『思ったより真っ暗』だったことから乗り気でないサンシさんまで『何か出るんじゃないか』とちょっと期待していたらしい。
だが『20分』も回っているともう大方『探索』できる場所はなくなってしまい、『小野田』が『このままじゃあ帰れねぇよ~!』と悲鳴を上げたところで『増川』が突然叫んだという。
『………おいなんだてめぇ!? 舐めた格好しやがって! そんなもんだしてあたしらがビビるとでもおもってんのか!? あぁ!?』
彼女は『ドスの利いた声』でそう凄みながら『金属バット』を構えていた。その視線の先を『サンシさん』が追うと、少し離れれたところにある小さな部屋の中に『立っている何か』が見える。
だけど歩み寄ってみるとそれは『壁の建材がはがれて露出した鉄筋』だったらしい。
『なんだよただの鉄筋じゃねーか………おい見間違いだぜ、正直マジで『幽霊』が出たのかと思ったが……』とサンシさん。
『ちょっとどけ! オラアアアアアア!! 死ねヤァあああああああ!!』
しかし『増川』もサンシさんと一緒に『鉄筋』を見ていたはずなのだが『威嚇』をやめず、それどころか『全身全霊』の力を込めて『鉄筋』を『金属バット』で殴りつけた。当然そうなると『金属バット』が思いっきり『跳ね返って』しまい、『増川』の顔面を『強打』したのである。
『プギャア!? ………う、うぐぅ………(卒倒)』と『増川』
『おい何やってんだよお前!? バカやってんじゃねぇよしっかりしろ………』とサンシさん。
『ああ!? 誰だてめぇ!? な………なんだそのふざけた格好よぉ!? マジで誰だてめぇは!?』と『小野田』
『つぶれた鼻』で白目をむいている『増川』を介抱しようとした『サンシさん』の横で今度は『小野田』が叫び始め、やっぱりその視線の先を追うと『壁に掛かっている花瓶の絵画』があるだけだった。『小野田』はその絵に向かって『ナイフ』を向けており、最初は『腰が引けていた』がすぐに『意を決した顔』になって『突進』したのである。
『よくも俺の彼女を! ああああああ!! 死ねやああああああ!!』と『小野田』
『何やってんだお前も!? やめ………おい!!』とサンシさん。
『ぎゃあ!?』
『小野田』も『力いっぱい廃墟の壁』に体当たりしたせいで『頭上の天井』が崩れて落ちてしまい、その『下敷き』になって動かなくなってしまった。突然のことに『サンシさん』が呆然としていると『足音』が背後から聞こえ、振り返るとそこに『見慣れない人物』が立っていたのである。
『………あ? 誰だてめぇ?』とサンシさん。
その『人物』は『男性』と言うことだけはわかったが、首から上が『ストッキング』のようなものを被っていて顔がわからず、首から下も長袖長ズボンに手袋までつけていて肌は全く見えなかった。そして右手には『刃渡り30センチのナイフ』──サンシさんの友達にはナイフ使いが多いから見慣れているそうです(汗)──が握られていて、切っ先が自分に向いている。
『サンシさん』も警戒して近くに落ちていた『金属バット』を拾い上げて、
『俺は『誰だ』って聞いてんだよ、おい………しかもなんだその『ふざけたもん』はよぉ………? 俺が『それ』くらいで『芋引く』と思ってんのか? あ? 『誰』に命令されて来てんのか知らねぇが今すぐどっかいかねぇとマジで『ぶっ殺す』ぞ!』とサンシさん。
一体どんな『世界』で生きてる人なんだろうか………? だが『ストッキング男』は反応せず、そのまま『ナイフ』を『腰だめ』に構えると『無言』で『突進』してきた。当然『サンシさん』もすぐに『迎撃』しようと『金属バット』を振り被ったわけであるが………彼はこの時どうしても『違和感』が抜けなかったという。
(なんか変だ………いや全部が全部変だけどよ! 今一体何が起こってんだ!? なんで小野田と増川はいきなり暴れはじめた? 『怪奇現象』か?? 突然現れたこの『変態』は一体何………)
その時脳裏にある『セリフ』が浮かび上がってきたという。
「………すべては『観測可能量』だよ『サンシ』くん。『目に見えたものだけ』を、たとえそれがどれだけ『不気味』で『意味不明』であっても『ありのまま』に『信じる』んだよ………」と魚。
それを『思いおこす』と『サンシさん』は『金属バット』をおもむろに地面に『捨てて』から、一瞬で腹をくくって『目を閉じて全身の力を抜いて』その場に『直立不動』になったのである。
『………』と『サンシさん』
体感で『一分』ほど経過した後、彼も『度胸がある』とは言ってもさすがに『すぐに目を開ける』ことができず、『恐る恐る』目を開ける。
するとそこには相変わらず『動かなく』なっている『小野田』と『増川』が転がっているだけで、例の『ストッキング男』は『影も形も無くなって』いたのである。一応警戒して『周囲の物陰』を改めてみたがやっぱりどこにも潜んでいなかったそうだ。
『………帰るか』とサンシさん。
なので『サンシさん』は『小野田』と『増川』を担ぐとすぐにその場を立ち去り、二人を急いで『病院』まで運んだという。
そこまで彼が語ると『柚葉さん』が手をあげて、
「その『オブザーなんちゃら』って『サカナちゃん』の言葉ですよね? あの子いつもそんな感じのこといってますもん、先輩『サカナちゃん』と知り合いなんですか?」
「『サカナ』のやつ『変なこと』しか言わねーのにマジで『交友関係』広いな………お前らも『友達』かよ。ああ、色々あってあいつとは『腐れ縁』ってやつだよ」とサンシさん。
「こんな『部活動』をやってると『変人』とか『自称霊能者』とかの『友達』がどんどん増えるんですよね………(笑)…………そのなかでも『サカナさん』は『トップクラス』で変な人でしたけど」と私。
『サカナさん』は私と同じ学年でいつも『変なこと』しか言わない『天然な性格の女の子』であるが、『昼休み怪談部』は彼女を『本物の霊能者』か、あるいは『もっと不可思議な何か』だと考えている。彼女以外にも『わけのわからない人』が部室をよく訪ねてくるので、その話もいずれはできるかもしれない。だが今は割愛させていただく。
最後に『柚葉さん』が『サンシさん』に尋ねた。
「…………それで? 『その後』は結局どうなったんですか? サンシ先輩はもしかしてその『ストッキング男の幽霊(?)』にとり憑かれてるとか?」
問われた『サンシさん』は肩をすくめて見せて、
「いんや? 『俺』は特に何事もなく『ピンピン』してるしあれ以来『変なこと』は一回も起こってねーな………(ここでちょっと暗い顔になって)…………だが『小野田』の方は『瓦礫で頭が割れちまって』な、『傷口』から『雑菌』が入って『敗血症』になっちまって死んじまった………『増川』の方は生きてはいるらしいけど『鼻がつぶれる』だけですまなかったらしくてな、よほど『強い衝撃』が入ったのか知らねーが『脳に障害』が残っちまったらしい………連絡とれねーからよくわかんねーけどな。小野田の葬式にも来てなかったし………それだけだよ」とサンシさん。
「うわ………ご冥福と御病気の快癒をお祈りします」と私。
「俺に祈ったところでしょうがねーけどな」とサンシさん。
「やっぱりそれも『呪い』なんですかね? 『氷室さん』って知ってます? 『本物の霊能者』なんですけど紹介しましょうか?」と柚葉さん。
「『氷室麗華』も知ってるしすでに話も聞いてる。だが『怪異に『因果』を問う意味はない』とか言ってたな。ちなその言葉も意味わからんから『サカナ』に聞いたら『全て偶然って意味だよ』だってさ、もう好きにしてくれ(思考放棄)………だが『氷室麗華』が『『怪異』の『時間』は『人間』とは違う。まだ『終わった』とは決まってないから気を付けて』とも言ってたな。まあだからと言って『ド素人』の俺が何を『気を付ける』のかもわからねーがな………」とサンシさん。
「…………それってたぶん『『怪奇現象』に関わりそうなことは極力避けろ』って言われてるんじゃ………?」と私。
「それで時間差で何か起こったらそれこそ『小野不由美』の『残穢』ですね………」と柚葉さん。
サンシさんはその後も『何度』も怪談を『持ち込み』に来るようになり、最終的には『部員』になるのだが、それはまだこの時点では『未来』の話である。




