空腹
話を聴いてきたのか、初めの一人は、金色の長髪の痩せた男だった。
男は
「俺は、いくら食べ物を食べても、満足したことがないんだ。だから、一度空腹な状態で、食べ物を食べてみたいんだ。空腹は、一番のスパイスと言うだろう?」
と言った。
魔女は、なんだそんなことか。と思いつつ、男に言った。
「分かったわ。では、このベルトに魔法をかけて、その願いを叶えましょう。」
身に着けていた水色の宝石のついたベルトを外し、ベルトに手をかざしながら魔法をかけた。
水色の宝石が淡く光ったかと思うと、宝石は一層輝きを増し、ベルトを彩った。
魔法のかかる一部始終を見ていた男は、興味深そうにして、魔女から魔法が付与されたベルトを渡されると、一層感動した様子だった。
「とてもきれいなベルトだな。これを身につければ良いのか?」
「ええ、そうよ。空腹を体験したいときに、このベルトを着けて。しばらくすると、おなかがすいてくると思うわ。」
男にベルトの使用方法を伝えると、男は嬉しそうにして、街へ走り出した。
その後ろ姿を魔女もまた、嬉しい気持ちで見送った。
一つ目の願いがかなえられ、魔女は今まで森で一人で過ごしてきた楽しさとは、また違う嬉しさに気付かされた。
「願いを叶えることは、思い付きだったけど、誰かのためにするのは、気持ちがいいのね。」
森の木々の葉を風が心地よく吹き抜けていた。