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咎人たちの聖戦  作者: 白騎士58
第二章 冥界に手向ける鎮魂歌
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冥界の神ハデス ~忘れるものか~

 解放された亡者たちは忌々しい虫けらに群がっていた。


 生気溢れる魂を食い漁ることは亡者たちにとってこの上ないご馳走であった。


 我を怒らせるからいけないのだ。

 そもそも我とペルセポネとの時間を邪魔しあまつさえその関係を壊そうとする不届きもの。


 考えれば考えるほど怒りが湧いてくる。


 さらに亡者を召喚し不届きものへ突撃させる。


 粉々になれ。

 肉の一片すらこの世に残すな。


 その時亡者の群れが宙を舞う。


 巨大な黒い剣のようなものが飛び出してきた。


 それは群がっていた亡者を引き剥がす。


 引き剥がされた亡者は諦めることなくまた突撃を開始する。


 しかし亡者は辿り着くことなくハエのように巨大な剣に叩き落されていく。


 その中をゆっくりと歩いてくる者がいる。


 あの虫けらだ。


 虫けらは先ほどの姿とは想像できないくらい変貌していた。


 腕はまるで節足動物のように6本あり、背中にはあの巨大で真っ黒な剣と一対の翼が生えている。


 兜はその半分ほどがひび割れボロボロと剥がれ落ちるとそこから無数の赤い瞳を覗かせる。

 その瞳はギョロギョロと一つ一つが蠢いていた。


「随分、しゃれた変身だな。…貴様、人間ではないな?」

「…わかっていた…わかっていた…」

「何を言っている?」

「「お前たちは記憶の片隅にすら置くことはないだろう。俺たち弱者を…弄び、虐め、踏みつぶしても何も思わないだろう…それは当然のようにお前たちはまた自分たちの生活に戻っていく…笑って何事もなく日常に戻るだろう…でも俺は知っている…覚えている…この目で見てきた…この目に…焼き付いている…忘れるものか」」


 亡霊のように虫けらは何かわからないことを呟いている。

 その呟きは虫けらの声と底冷えのする低い声が二重に重なっているように聞こえる。


 これだから虫けらは困ったものだ。

 お前たち虫けらに何をしようと気に留めることなどあろうか。


 お前たち虫けらは存在しているだけで我を不快にさせる。

 この虫けらがまさにそれである。


「…不快だ、非常に不快だ。お前たち虫けらは黙って死ねばいい!」


 我は空中に停滞していた亡者を呼び寄せ一塊に集める。

 それだけでも山のように大きな塊となる。


「死ね…虫けら」


 山崩れのように亡者たちは虫けらへ突撃をする。


 不意に虫けらに変化があった。6本の腕のうち4本はみるみる混じり合いながら虫けらの背丈を優に超えるほど巨大な剣となった。


 三本の巨大な剣を虫けらは巧みに扱い山崩れのように迫る亡者たちを薙ぎ倒していく。

 一部の亡者たちはすり抜け虫けらへと近づくが、残りの二本の腕で叩き潰されていた。


「わかっている…覚えている…あの時…抱きしめてくれた腕は震えていた…大丈夫といってくれたその声は震えていた…泣かないでといったあの人は泣いていた!!」


 虫けらが獣のように吠えるのと同時に三本の巨大な剣のうちの一本が亡者たちを薙ぎ倒しながら我へ向かってくる。


 すぐさま亡者を召喚し前へと集める。


 そのおかげで真っ直ぐ突き進む剣は我の鼻先でその動きを止める。


 間髪入れず大気から数多の氷の槍を出現させ虫けらへと発射させる。


 巨大な剣を虫けらから引き剥がすことに成功した。


 そのまま亡者たちを虫けらに向かわせようとするも、虫けらがいない。


 いつの間にと探していると、ザクりという音とともに下半身の感覚がなくなる。


 斬られている。


 虫けらは螺旋階段を利用して凄まじい速度でかつジグザクに空中を滑空していた。


 斬り飛ばされた下半身は、何事もなかったように生えてくる。


 無駄だ、虫けらめ。

 我の魂は愛するペルセポネに預けている。

 ペルセポネとの愛が途絶えぬ限り我に死は訪れない。

 我の魂と繋がっている彼女との愛の語らいは、言語を絶する快感をもたらす。


 彼女こそが我が運命の相手。

 我のすべてを理解できるもの。


 それを害しようとする不遜で不敬な虫けら。

 その虫けらに鉄槌をと意気込むがしかし今まさに目にも止まらぬ速度となった虫けらに対応できない。


 為されるがまま切り刻まれる。


 それがどうした。


 じき虫けらの動きは鈍くなる。


 そこを狙えば…気のせいか、動きが速くなっているような。


 いや気のせいではない。

 確実に動きが速くなっている。


 そこに計ったように虫けらの咆哮が響き渡る。


 ビリビリと肌をすり減らし、鎖がぐにゃりと撓む。


 まさか気圧されているのか?

 我が?


「この…虫けらが! 調子に乗るなよ!」


 無差別に氷の槍を四方八方にばら撒く。


 さすがにたまらぬと虫けらの動きが鈍る。


 すかさず亡者を無数に召喚し、突撃を仕掛ける。


 通り過ぎた後、虫けらはボロ雑巾のようにズタボロだった。


 いい気味だ。

 我とペルセポネの仲を引き裂こうとしたからだ。


 しかしその虫けらの姿はあっという間に元通りになる。


 何なんだ、貴様は。

 さっさと死ね。

 しつこい、虫けらが。


 憤怒の眼差しを向けていると虫けらの動きはピタリと止まる。


 まるで憑き物が落ちたように虫けらの姿が急速に変化していく。

 そしてそのまま変異が起こる前の姿に戻りながら虫けらは地へと落下していく。

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