ある少年の勿忘草 4 ~あの人は震えていた~
溯っていた振り子は戻る。
そして振り子は過去を振り払うようにひたすらに未来へと進む。
しかし振り子は過去に縛られる、永遠に。
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獣の如く獰猛な咆哮をあげさながら濁流のように迫る亡者たちを手当たり次第に叩き潰す。
藻掻いても藻掻いても逃れることが出来ず結局飲み込まれ流されていく。
「フフ、フフ、フハハハハ! …いい様だなあ。もうそろそろ楽になれ…ああ、早くペルセポネに会いたい…そして愛し合おう…変わらぬ愛を…囁きながら…ああ、早く、早く、早く会いたい…会いたい…」
ハデスの薄気味悪い恍惚な笑い声が聞こえてくる。
薄らいでいく意識の中その笑い声が僕の記憶のドアをノックする。
どこだっけ、ああ、そういえばあれは白い帽子のおじさんが僕に駄賃をくれた時だった。
ふすまの奥から同じような笑い声が聞こえてきた。
下卑た品のない笑い声とすすり泣く声が時々聞こえてくる。
それすらも笑い声の主たちは笑いの種にしているようだった。
おじさんは僕を部屋から早く追い出そうとする。
僕は抵抗するが呆気なく簡単に追い出された。
ガチャンと扉は無情にも締まり、鍵をかけられたのか二度と開くことはなかった。
夕暮れ、太陽が地平線に沈み暗闇が世界を支配する前に自分の部屋に帰ってきた。
扉に手をかける。
鍵は開いていた。
恐る恐る部屋に入るとあの人は電気もつけずに部屋の真ん中に座っていた。
まるで幽霊のように髪は乱れ暗闇でもわかるくらい青白かった。
僕を見つけるとあの人はパッと目に生気を宿し、そのまま僕を強く抱きしめた。
「ごめんね! ごめんね! 怖かったでしょ? …ごめんね! もう大丈夫だから…大丈夫…大丈夫だよ」
僕を抱きしめてくれている腕は震えているのが痛いほどわかった。




